凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第27話

人類がここまで発展出来たのは、「あること」を人間が備え持っていたこと、そしてまた、「あるひとつ」を会得したからだろう。

 

不測の事態を「恐怖」し、それに「備える」頭脳。

そして、「火」という武器を手に入れたこと。

この2つが、数々の強大な動物達を押し退け、人類を食物連鎖の頂点に君臨させた。

 

 

そしてヒトを越えた『彼ら』は、もうひとつ、特別なものを会得した。

 

それが『彼ら』にとって幸であったか、不幸であったかは

また別の話。

 

 

 

 

 

「幾ら斬っても出てきやがる……キリがねぇ。」

七二柱ノ魔神(レメゲトン)』とやらを発動させた4人の影は、こちらに休憩の隙を与えることなく、ただただ攻撃を繰り返す。

ある時は炎。ある時は風。ある時は毒霧。

という様に、多種多様な技を使って。

「あいつの特性が引き継がれたんなら、水だけは、」

戦闘において、水に弱かった彼女の特性をもし引き継いでいるとしたら、時々放たれる高圧の水光線には気をつけねばならない。

「爆発も届かねぇし…クソッ」

最大の武器である爆発も、距離が開きすぎて当たらない。

彼女なら炎を撃ち出したり出来たのだろうが、即席の一時的な能力継承をしただけの自分では、これ以上の精密な能力の行使は不可能だ。

だから戦いは膠着し、一向に結末を迎える気配がない。

ただただ、核炎の体力がすり減っていくのみで。

 

 

狂歌は肩で息をしながら、倒れ伏している人物を見下ろしていた。

黒華と名乗った謎の男。

滅創となにか関係があるのだろうが、自分にとってはただ大切な人を殺した仇でしか無い。

…こいつのことを考える事は、無意味で、無駄だ。

「とっととくたばれ。」

蹴りを放つため、右足を振り上げ

 

「おっとぉ。危ないなぁ」

そのまま足は木の幹を貫通する。

 

「…んだよ。生きてやがったのか。」

「勝手に殺さないでくれる?あんな攻撃如きじゃ、キミすら死なないでしょ?」

からからと笑い、軽い口調で話し掛けてくる男には余裕を感じさせた。

「あぁ、そうだな。」

あんな攻撃では自分ですら息の根を止めるに至らないだろう。

「じゃあ、殺してやるよ。」

 

「━━━遅い」

いつの間にか目前まで来ていた足をすんでの所で躱し、その勢いのまま地面を転がる。

「…あ?」

頬に付いた土を払いながら、立ち上がる。

「あぁ、無理な話だね。」

奴の姿が掻き消える。

そしてまた、目の前には尋常ではないスピードで振り下ろされる足が

「っ…ち…ぃ!!」

なんとか頭と足の間に手を滑り込ませ、防御する。

ミシッ、という耳障りな音が聞こえたが、痛みはそれほど感じない。

「おぉ、すごい反射神経だね。キミ、戦闘型じゃないんでしょ?」

「…うるせぇ、よっ!!」

足を掴んだまま、足を奴の顔に蹴り込む。

「だから無理だって。」

今まで掴んでいた手の感触が消え、背後から声が聞こえる。

直感的に「避けろ」と脳が語り掛けてくる。

 

「あはは。よく避けられたね。超能力か何かかい?」

男がいつの間にか握っていた刃物は、空を裂いただけで狂歌には当たらなかった。

「…何だ、お前。」

明らかに瞬間移動というレベルではない。

先程は自分が足を掴んでいたし、ただの力技で抜け出すのも不可能なはずだ。

「何のことかな?」

とぼけるような口調で返答する奴に苛立ちが募る。

「お前の能力は、なんだ。」

 

 

「あははっ。戦いの最中にそんなことを聞くなんて。答えるとでも思ってるのかい?」

確かにその通りだが、今は冷静に判断出来るような脳も余裕も無かった。

「まぁいいや。次がキミの最後になるんだし、教えてあげよう。」

男の周りが瘴気で覆われていく。

黒霧が奴を包み込み、その中に赤い光が宿る。

「時の流れは、誰にも止められない。『終結する時間(タイム・エンド)』」

ガチン、という音と共に、濃霧が狂歌を包み込んだ。

 

 

 

 

「私のご飯美味しいでしょ!べーちゃん!」

少女━━━雪鈴の顔は満面の笑みで満たされ、その口の中もふっくらと炊き上がった白米で満たされていた。

これだけ見れば、ただ小さな子供が食卓を誰かと囲んでいるだけで、何の変哲もない、ただの日常に過ぎない。

その食卓を囲んでいる相手が「熊」だということ以外は。

 

 

その熊は器用に箸を持ち、

『おいしい。この、たまごやき。』

などと流暢にヒトの言葉を話していた。

その茶色の毛皮で包まれた大きな手や、足は食卓の下にすっぽりと収まっており、単に中にヒトが入っているようにしか見えなかった。

だが、時折呻くような声が聞こえる。ケモノじみた、重く低い声が。

それが彼の本性が獣であることを裏付けていた。

 

そしてその様子に怯えることも、怖がることもなく、

「ふふーん。私が作ったのよ!」

と、巨大な獣を前に胸を貼る少女。

彼女も超越者の1人。『獣愛者』の能力を持つ立派な能力者の1人である。

彼女は毎日、違う動物と絆を深める。

一昨日はゴリラと積み木で遊び、

昨日はワニと水浴びをし、

そして今日は巨大なヒグマと食卓を囲んでいる。

それぞれには彼女が付けた「名前」があり、それによって彼女にのみ、獣たちは心を開いている。

 

 

すっかり馴れ合った1人と1匹は、毎日恒例の昼寝の時間に入る。

体制は毎日変わらない。獣の上に、雪鈴。

これが彼女の日課であり、絆を深める大切な行為なのだ。

 

 

 

 

 

その頃、内閣府では山河がモニター部分を食い入るように見つめていた。

それはとある人物とのビデオ通話

你好(ニイハォ)。山河…サン?ボクは(チョウ)。中国人の『人刈(ヒトカリ)』の1人。』

少し訛った日本語で、挨拶をする黒髪の男。

細身な体格ながらも、筋肉は付いており、肉体労働には向いていそうだ。

『爺様から聞いたヨ。100数年振りに連絡を寄越したそうじゃないカ。』

「…あぁ。そうだ。」

『それデ?今度は『どこ』を潰すんだイ?』

あたかも任務は既に分かっているような口調で、男━━張は語り掛ける。

「以前、取り逃した10数名の輩が、再び日本国内で騒ぎを起こした。その後始末を付けて貰いたい。」

その言葉を聞いた瞬間、張の顔から表情が消える。

『へェ。爺様達の尻拭いをしロ、ってわけネ。』

「その通りだ。報酬は前回と同じ額出そう。だが、1人でも取り逃した場合、無しとさせて貰う。そしてこれから連絡することも無しとする。構わないか?」

男は口元を歪に歪め、

『いいじゃないカ。やってやるヨ。』

手に持っていた大剣をカメラに向かって振り下ろした。

 

数分ほど、広い、広い山河の部屋に、砂嵐の音だけが響き渡っていた。




そういえば、某不死者の王の小説の最新刊を読ませて頂いたのですが、『神炎(ウリエル)』の技名が同じでした……
これ、変更した方がいいんでしょうか。
よくある技だといいのですが…

では。
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