凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第28話

「お頭。次の獲物は何ですか?」

「ジジイの仇だ。『アレ』持ってこい。」

「なっ…!!?」

持ってこいと言われたモノを思い出し、男に旋律が走る。

「忘れたのか?『コトダマ』だ。早く持ってこい。2度も言わせるな。」

「で、ですがあれは…!お命をお捨てになる気ですか」

唾を飛ばしながらまくし立てる男の体が宙に浮く。

「俺の決定に異議を立てんじゃねぇよ…いつからてめぇはそんなに偉くなったんだ?んん?」

「か、も、ぅし…わ、…け………」

張の剛腕に掴まれた首がミシミシと音を立てて奇怪な形に捻じ曲がっていく。

そして張は音を発さなくなったソレを壁に叩きつける。

「…分かったな?持ってこい。」

「畏まりました。お頭。」

張の左側に立っていたもう1人の男は、意外にも同胞の死に動揺することなく行動を開始した。

 

 

 

「いつになったら終わんだよ、これぇっ!!」

悲痛な叫び声と共にまた剣を振る。

4人の人影から生み出される攻撃は一向に弱まる気配が無く、こちらの疲弊は積み重なっていく。

いつか仕掛けなければ負ける、という事は分かっているのだが、如何せん隙がない。

『そろそろ観念したらどうだ。』

『今なら半殺しで許してやろうぞ?』

『さぁ、その剣を振るう事を辞めろ。』

『すぐ楽になれる。』

唐突に攻撃が止まったかと思えばそのような戯れ言を言う。

「う、るせぇよ。」

息を切らしながらそう答える。

1度動きを止めたらもう動けなくなる。

だから動きは止めない。

そして、疲弊し切った頭の中に、1つの考えが浮かぶ。

「ふふふ…俺としたことが、『こっち』を忘れてたぜ……」

『ブラフか?』

『その様な行為に意味は無い。』

『貴様の敗北は既に決定済みだ。』

「さぁて、どうかな?『狂人化』」

焔の髪が赤く染まり、体の筋肉が収縮を開始する。

そしてその筋肉は数秒後には数倍に膨れ上がり、

「『爆炎剣』」

彼の右腕自体が、炎を纏う1つの大剣と化す。

 

 

 

核炎━━殲撃の元来の能力は『人格変化』

数々の人格と自分を入れ替え、あらゆる場面に対応することが出来る。

戦闘特化の『狂人化』。

頭脳特化の『智者化』。

隠密特化の『索敵化』など。

しかし本人が完全に意識の中で操れる能力は1つしかなく、その他能力は完全に「別人格」に支配されるため、本人の素の戦闘能力も相まって、あまり出番は無かった。

だが、それぞれが特化した能力を持っており、結果だけを考えるならば、他人格に任せた方が良いのだ。

…「結果だけを考える」ならば。

 

 

 

身長が2mを超え、右腕は業火に包まれている様は神話に登場する悪魔の様な見た目だった。

そして彼は進行を始める。

走る事も

慌てることも

急ぐことも無く。

ただ1歩、1歩踏みしめ、その剛腕が届く距離まで。

「塵と化せ。」

初めに生贄になったのは、右前の女の形をした影。

彼が右腕を振り下ろしただけで、その闇に包まれた体は更に黒く染まり、瞬く間に炭化した。

その体は、次の標的を探すために振り向いた彼の体に当たっただけで、文字通り塵となって消えていった。

 

 

 

 

「ふんふふーん…お?」

鼻歌を歌いながら機嫌よく森の中を移動する十色。

移動する、と言ってもただ歩くのではなく、木々の枝を伝っての移動だが。

そして彼女はある光景を目にする。

「……あの人1人で何やってんの?」

 

 

 

目の前に脚。

目の前に掌握。

目の前に手刀。

目の前に指。

幾度と無く繰り返した命のやり取りも、既に慣れが回るほどの回数行っていた。

「キミ…本当に戦闘型じゃないの?反射神経良すぎじゃないかい?」

「あ?うるせぇよ…っ!」

再び繰り出される回し蹴りを受け止め、軽い男の体を投げる。

しかし何事も無く着地される。

「おっとと…」

「俺はただの楽師だ。ちょっとばかし体術に自信のある、な。」

「いやいや。誇っていいと思うよ。僕を相手にここまで戦える相手は、滅創と核炎(かわいい孫)以来だ。」

可愛い孫…?

「お前が、アイツの事を孫と呼ぶのか。」

「?何か問題でもあるかい?僕にとっては孫であることには変わりないけど?」

「…お前にそう呼ぶ資格など、無い。」

 

 

 

男の姿が掻き消える。

「あれ?もしかしてキミも僕と同じ能りょ、く、、、」

黒華の疑問が混じった声は、段々と遅くなっていく。

「俺は『楽師』だと言ったな。」

動きの鈍った黒華の顔を蹴り飛ばす。

「ただ歌を歌ってるのが音楽家じゃないんだぜ、ガキ。」

 

 

『音楽』は、音の強弱、速度、テンポによって構成される。

…そして『戦闘』も、攻撃の強弱、速度、テンポによって構成される。

音楽と戦闘は告示している、というのが狂歌の考えの1つであった。

勿論、そこに技術や、様々な手段がプラスされる事により、更に複雑なものになっていくのだが、基本はこの3つである。

━━今狂歌が使ったのは、『遅延(ラレンタンド)』。

自身の周囲50m範囲内の全生物、及び全物質の動きを50%遅延させる。

呼吸、声帯の動き、鼓動の速度。

そして他生物…動物だけでなく、植物に至るまで、全ての物質が行動に『2倍のエネルギー』を必要とする。

結果、狂歌以外の地球上の物質は、動きが大幅に鈍る。

狂歌自身のスピードは変化していない。

ただ━━━周りが遅くなっただけ。

 

 

吹っ飛んだ黒華の歪に歪んだ頭を掴み、地面に叩きつける。

そこには亀裂が生じ、粉塵が辺りに巻き起こる。

更に追撃を加え、確実に仕留める━━はずだった。

黒華の目がこちらを睨んでいなければ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

限界突破(ア ン リ ミ テ ッ ド)

自分の首に奴の足が巻き付く。

そして、視界の反転。

先程と真逆。

「…ふーん…」

が、それすら『遅延』で遅らせる。

そして難なく着地する狂歌と、狂歌が手を離した瞬間に体勢を立て直す黒華。

「ただ止めるだけじゃねぇ、ってことか。」

「ご明察。寧ろ、完全に停止することの出来ないキミの方が欠陥品と言っても過言じゃないよ。」

今奴の使った技は、先程の『遅延』と真逆。

身体能力の限界を一時的に破壊し、『加速』する。

その加速度が狂歌の『遅延』を上回った、ということ。

つまり

「同系統の能力…」

「そうだね。まさか同じだとは思わなかったよ。」

黒華は変わらず笑みを浮かべていたが、その微笑には余裕が消えていた。

今までは自分が圧倒的優勢に立っていたからこその余裕。

つまり、「警戒されるだけの力が狂歌に備わっている」ということ。

これでやっと互角。

例え『停止』しても『加速』すれば問題は無いし、『加速』されてもそれを上回る加速度で『加速』すれば同じく問題は無い。

こいつを殲撃に任せなくて正解だった、と狂歌は確信した。

任せていれば、とっくに殺されていただろう。

自分だからこそ━━いや、自分にしかこいつは殺せない。

自分しか、アイツ(核炎)の仇は取れない。

「ただ早いだけのバカと音楽家を一緒にされちゃ、困るな。」

「楽師は黙って琴でも引いていれば?」

視線と挑発を交差させ、

「『限界破壊(リミットブレイク)超加速(ハイ・プレスト)』」

「『限界突破(アンリミテッド)超加速(ハイ・アクセラレーション)』」

狂歌は限界の(くびき)を破壊し、黒華は限界を超越する。

 

首を殺るのは、「早い者勝ち」

 

 

 

 

 

「…ん。べーちゃん……?」

雪鈴の下で眠っていたはずの熊の毛が逆立っている。

これは、野生動物特有の「警戒」本能。

「ど、どうしたの?何か……」

「雪鈴。」

聞き覚えのある声が耳元で聞こえる。

「!!おねぇちゃ」

「ごめんね。」

額に練融の手が触れたかと思えば、意識が遠のいていく。

「…危険すぎるわ。」

 

 

 

 

 

「お頭。」

「ご苦労。」

短い言葉のやりとりだけを済ませ、張は男から帯刀を受け取る。

霊刀『言霊(コトダマ)』。

滅創が大昔に作った、霊刀の片割れが、この刃渡り80cm程の刀である。

もう片方の霊刀━━『首狩』━━━は、ある人物(宵角)が核炎の力を吸収し、もう元の刀としての形を維持していない。

『言霊』と『首狩』。

この二本は元々双剣であり、本来両手に持って扱うもの。

しかし、あまりにも高すぎる魔力と片手剣にしては重すぎる重量により、完全に扱えるのは殲撃と、ある人物のみ。

それが何故ここにあるのか。

「数百年前のジジイのケツを拭く時が今だ。行くぞ。」

核炎や滅創の村を襲ったのが、彼らに他ならないからである。

 

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