凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第29話

『人を辞めたか、大罪人。』

『しかし、それはただの逃避に他ならぬ。』

『して、我等は貴様を殺すのではなく連れ戻す。』

『この世と言う名の地獄にな。』

1人欠けたとしても、影達の勢いは止まることを知らない。

幾千年と積み上げられた怨念と執念の結晶。

それが彼等なのだから。

「俺ハ、貴様らトハ違う。」

核炎の面影などほぼ無いに等しい巨体から発せられる、重く、低い声は確かに核炎の声だった。

俺達(・・)は、貴様らとは、違う!!!」

岩のような筋肉が収縮し、その巨体を進撃させる。

今までの余裕のある歩行ではなく、確かに地面を踏み締め、疾走する。

そして影達の手前で急停止し、

「『爆炎巌』」

岩のような拳を炎で真っ赤に迸らせ、叩き潰さんと振り下ろす。

 

『遅い』

超加速(ハイ・アクセラレーション)

人智を超えた速さで回避する影達を目で追いつつ、彼は確信する。

このままでは先に死ぬのは自分だ、と。

「あァ、なら、最終手段ダ。」

 

 

弱者()が、唯一強者(影達)に勝利する方法。

「『限界超越(オーバーリミット)・爆震』」

我が身を賭しての、自爆。

 

赤く染まったその身を更に赤く染め、凝縮されたエネルギーを爆発させようとした━━時

『遅延』が起こった。

1/2の速さの中で、核炎は思考する。

自爆し、自分は生き残れるのか。

滅創が傍に居れば別だが、自分の人格に意識を戻す事が間に合わなければ、「狂人」の人格と共に消滅してしまうだろう。

だが今なら、数秒の猶予がある。

着々と、進んでいく我が身の爆発を冷静に見つめつつ、意識を手放していく。

成功するのは━━━五分と五分。

 

 

 

 

「…変に進化してるわね、この熊。」

下で威嚇していた熊を昏睡させ、雪鈴を担ぎ上げる。

雪鈴の『能力』は、放置するには危険すぎる。

 

1つは、『獣服従』。

文字通り獣を服従させる能力だが、その標的は獣だけに留まらず、あるラインまでなら、という範囲内で人間すら服従させること(・・・・・・・・・・・)が可能だ。

これだけでも十分危険なのだが。

本来は1つしか持たない━━それこそ「同族嫌悪」でも無い限り━━能力を、この子は2つ持っている。

 

その2つ目が、『生命樹(いのちのき)』。

生物の進化が刻まれていると、神話上で語られた『生命の樹』が、この子の中に存在している。

簡単に説明すると、『進化』させることができるのだ。

ヒヨコを巨大な怪鳥に。

稚魚を数十mもある怪魚に。

カブトムシの幼虫を戦車規模の成虫にまで成長させることすら。

そして勿論『退化』も出来る。

手羽元の鶏の骨さえ、数億年前の恐竜にすら退化出来る。

 

彼女が呼び寄せた大量の獣達は、今、既にその種の範疇を脱している。

熊は人類の最高機器を超える察知能力を会得し、

ワニは戦車やレーザーすら跳ね返す程の甲殻を備え、

ゴリラは人の言葉を理解し、思考する頭脳を手に入れた。

そのような獣があと、数千匹。

しかも未だに進化し続けている。

彼女に接触した、全個体が。

それが、『獣服従』を持つ彼女の意志だけで、全て動く。

ビームを吐く怪獣や、空を飛ぶドラゴンが出てくると言われても、冗談だと思えない。

 

 

━━唯一の救いは、『全て彼女が司っている』こと。

つまり雪鈴との繋がりを経てば、すぐにでも変化は収まり、元の野生動物としての姿を彼らは取り戻すだろう。

だが、それは

「…殺すというの?この子を。」

自分の義妹を手に掛けるということに他ならない。

 

 

『一丁前に悩んでるんだ?』

腕の中の寝息以外聞こえなかった室内に、聞き覚えのある声が響く。

今まで、1番苦労を掛けられた

「核炎………!!!」

彼女がそこに居た。

 

 

 

 

 

加速し、ぶつかり合い、殴る。

どちらが先手を取れるかだけが重要視される戦い。

「息が切れてきたんじゃないかなぁ!!」

「こっちのセリフ、だっ!!!」

黒華を殴り飛ばし、直ぐに後ろに回避する。

足が地面に掠った瞬間、そこを起点に、再び加速を始める。

だが奴も、また着地し、その拳が近づいてきている。

反射神経と勘に物を言わせた回避をしながら、再び眉間に拳を叩き込む。

が、顎を掠った拳に、脳が揺さぶられる。

結果として、反転する視界の中、彼も倒れ伏した。

 

 

 

 

 

「超高速戦闘?へぇー。おもしろそー!」

「あら、じゃあ私ともっと面白いことしない?」

十色の独り言は、虚空に消えること無く返される。

「…誰?」

「通りすがりの天使様よ。見ればわかるでしょう?」

女の背中には白鳥のような白無地の翼が生えており、正に天使、という感じだった。

「ふーん。ほんとに天使みたいね、お姉ちゃん。」

「みたいじゃなくて天使なんだけどなぁ。」

十色の幼い、しかしどこか陰りが見える笑顔と、白羽を持つ女性の笑顔が交差する。

「でも、天使様なら私は貴女に恨みがあるわ。」

笑みを収め、見た目にそぐわないスピードで腰に下げていたナイフを投げる。

そのナイフは彼女に当たること無く、後ろの巨木に突き刺さった。

「あら、どうしてかしら?」

動揺することなく問いかける彼女には、まだ余裕の表情が見えた。

「神サマは、幾ら祈っても助けてくれないもの。そんな神なんて、私は信じないわ。」

子供の癇癪に似た理論を並べ、その信念に基づいて行動する十色。

「あら、貴女は救いを求めていたのかしら?でも、それを私に向けるのは筋違いってものよ。」

その願いを打ち払い、即座に否定する彼女━━天癒。

「それに━━━残念だけど、もう私たち(・・・)は天使じゃないのよ。」

「だから救済する事も出来ないわ。」

十色の背後からもう1人、黒い翼を持つ少女━━風弓が現れる。

「故に私たちは害を取り除く。」

「それだけが私たちの意志よ。最後の、ね。」

輝く光の弓に意志という名の(やじり)を当てがい、放つ。

「『月神矢(アルテミス)』」

 

 

 

 

『私の子には迷わず刃を向けた癖に。』

微笑みを浮かべる彼女の思考は読めない。

しかし、その声に憎悪が混じっている事は明らかだった。

「…私にだって事情があるもの。私情も、ね。」

迷いながらも反論する。

彼女が1度暴れ出せば、瞬く間に殺されることは火を見るより明らか。

『あら、そう。なんだっていいけれど。』

何か言われると思っていたが、そんな事は無かった。

寧ろ慈悲を掛けるような、優しい声で

『貴女に1度だけ、挽回のチャンスをあげる。』

「チャンス…?」

死者が生者に関わるなど…いや、そもそも可能なのか?

「話だけなら聞くわ。それは何かしら?」

『相変わらず用心深いね。まぁ、いいわ。』

くすり、と彼女はひと笑いし、

『私が貴女に「頼みたい」のは、氷華を探すこと。3日、いや、1週間以内に奪還出来れば、この子の司っているとかなんとかの獣達全てを滅ぼしてあげてもいいわ。』

とんでもない事を言い出した。

 

「ま、待って。それはどういうこと?何故?」

『あら、何か不味かったかしら?貴女はその子を生き永らえさせる事が出来て、私も氷華を取り戻せる。』

私とはもう会えないだろうけどね、と付け加える彼女の声には、少しながら憂いも見えた。

しかし、それにしても

「話が美味すぎる…!」

震えた声でそう伝えると、

『美味い、不味いの話じゃないよ。貴女はちょっと臆病すぎる。』

「臆病…ですって?」

『そう。そんなにビビってばかりじゃ、いつかチャンスを逃すよ?今みたいに(・・・・・)。』

彼女が言い終わると同時に、爆音が辺りに響き渡る。

 

『ほぉら、始まった。』

 

 







少々補足しておきます。
「限界突破」や、「限界破壊」「限界超越」等は特に特別な技ではありません。
ただ能力にバフを付ける時の決まり文句のようなものです。
本当なら本編で話すべきなのでしょうが、説明する場面をすっかり逃してしまいました。申し訳ありません。
修正の際は本編内で説明致しますので、どうかお待ち下さい。
あと、「裏」とも関連性はございません。

重ね重ね、申し訳ありません。把握の方宜しくお願い致します。
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