凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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第31話

メキメキと音を立てて地面が崩れていく。

それが狂歌の足による地団駄と気づくのに数瞬は必要無かった。

「答えろ。あの華はなんだ…?」

怒気を無理やり抑え込んでいるのが分かる低い声音でそう問いかけられる。

「…何か特別なものなのか?核炎が作り出したタダの熱の華では」

「核炎…?あぁ…クリアか。」

そう言って顔を伏せると

「誰がやった?」

「は?」

突拍子も主語もない問い掛け。

「誰がやらせた、の方が正しいか?」

静まっていた破壊音が再び奏でられる。

「ほんと、自分勝手な奴らしか居ないな。」

 

 

 

「…!」

『…なんだ、何が起こっておる。』

1分と20秒が経ち、そろそろ終幕に向かおうとしていた戦いは熱風により中断される。

周囲に吹き荒んだ熱風が木々を燃し、火花を立てていた。

「…あのバカ者が…!!」

そう小さく呟くと滅創は走り出した。

熱風の根源へと。

 

 

 

 

「ん〜?んだ、もうおっぱじめてんのカ?」

都市部を悠然と歩く張は背負った「言霊」を揺らしながらそう呟いた。

「前は1匹だけだったからなァ?まだまだ足りねェ。」

その目は敵対者を殺す敵視の目ではなく、狩りをする狩猟者の目に酷似していた。

その張を熱風が覆い尽くす。

「…あァ…!!これだヨ…ちゃんと受け継いでんじゃねぇカ!!!」

張はそう叫ぶと一気に走り出した。

言霊に更なる力を付与するために。

 

 

 

「…流石に…生きてないわよね?」

「油断しても利点は無いわ。とっとと撤退するわよ。」

ガーンデヴァですら殺せないとなると、とうとう自分たちの手に負えなくなってくる。

「はいはい、っと。」

風弓はコアを弓の形から球状に戻すと、黒い翼をはためかせ木々の上に飛び出す。

「…なっ…な、に…あれ…」

そこで彼女が見たものは巨大な向日葵と、立ち込める陽炎。

花びらが落ちていく度に都市部が破壊されていく。

破壊音を立てずに静かに朽ちていく様は本能的に恐怖を覚えた。

「…練融…!!」

天癒は残してきた友人の事を脳裏に浮かべ、羽に力を込める。

「間に合え…間に合えッ!!」

2つの光の弾丸が新宿区を目指して飛び出した。

 

 

 

 

「…!?」

緊迫感に支配された紛い物の管制室に衝撃が走る。

モニターに新たな動きが起こった。

 

バキン、という巨大な音と共に

業火の向日葵に向かい咲く氷結の蓮花。

 

周囲には氷霧が巻き起こり、熱風を相殺させる。

1枚1枚と落ちていく向日葵の花弁に対し

蓮花の花弁は微動だにしない。

刺々しく凍てつき、その先端を向日葵に向けている。

まるで敵対するかのように。

 

 

 

「氷の、蓮花!!」

核炎が愛したあの少女。

氷を作り出す能力。

決して溶けることの無い『氷の華』。

「氷華…っ!!!」

狂歌の姿が掻き消えた。

悲痛な叫びと共に。

 

 

 

 

「バカ師匠。」

バキバキと音を立てて木々が倒れていく。

その幹に貯めた水分全てを凍てつかされ、その巨体を維持することが不可能になり、崩れていく。

茶色の髪を頭頂部で一括りにし、右手に水色の氷塊を持つ。

季節外れの黒のマフラーと、白のワンピースを身に付ける可憐な少女。

「…会いたかったのに。」

 

 

 

 

「暁角!!!何故『氷華』があちらに居る!!?答えろ!!」

黒華は叫ぶ。

『アレ』は生かしておいていい存在では無い。

核炎と同様に、存在していていい存在では

「…僕は知らないよ。あれは宵角の管轄だ。」

気だるげにそう答える暁角に憤りが爆発する。

「なら今すぐ宵角を呼び戻せ!!そしてお前はアレの討伐に向かえ!」

「…冷静になってよ。彼女は完全に覚醒した。もう僕の手に負えるような存在じゃない。」

「クソっ…!!」

黒華の歯軋りが小さな部屋中に響く。

「それに、もうアイツだって無事かどうか…」

おもむろに暁角は立ち上がり、部屋を出ていった。

 

 

 

「とりあえず対抗したけど、ちっちゃいかな…」

自分の背後に構える大きな茎を見上げる。

「…師匠の華、でかすぎ…」

どこを見ても必ず視界に入ってくる巨大な向日葵は、正に彼女と言った感じの華だった。

「とりあえずでかけりゃ、強けりゃいいって感じの人だったからなぁ。」

頭を掻き、ため息を吐きながらそう呟く。

「…んまぁ、嫌いではないけど。」

そして首を横に振る。

 

首があった辺りを一筋の風が吹き抜ける。

「…んで、あなたは誰なの?」

「覚えてねぇカ?」

大刀を持った厳つい男。

面識は無く、顔を見たことすらない。

「知らないなぁ。誰?」

「…お前、ヤツじゃねぇのカ。」

男は肩にかけていた刀を下ろし、そう呟く。

「やつ?」

「ジジィの孫。なんだっけか、クリア…とかなんとか、言ってたナ。」

「…師匠の知り合い?」

目を細め、そう問いかける。

師匠を名前で呼ぶ男。声を掛けずに斬り掛かった。

つまりこいつは師匠を殺そうとした、ということになる。

「ししょ…ウ?なんだ、あのガキ弟子なんか取ってやがったのカ。」

「質問に答えて。」

細い腕を振るう。

その動きに呼応するように草花が凍り、鋭利な先端を男に向ける。

「『真逆』カ。何を教えてたのやラ。」

男はその攻撃を難無く回避し、巨大な大刀を振る。

「『霊喰らい』」

ぐにゃりと刀の先端が歪み、獲物に噛み付く蛇のように氷華に襲いかかる。

「…なに。これ。」

凍った左手(・・・・・)でその刀を掴む。

その刀━━言霊は掴んだところからパキパキと音を立てて凍っていく。

「なんだ、お前。言霊を素手で掴んだだト?」

「…言霊とか、何とか、知らないけど、私は今、急いでるの。」

刀を掴んだまま、右手を男に翳す。

「『爆牙凍奏』」

男の体を氷が包んだ━━直後にその氷の中で爆発が巻き起こる。

瞬時に凍てつかせ、爆発させる。

張の体を無数の傷が覆っていく。

「邪魔しないで。」

最後に右手を握りしめるとひときわ大きな爆発が起こり、肉片が辺りに撒き散らされた。

 

 

 

「あれは私が受け継ぐんだから。」

 

 

 

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