凍てつく華は可憐に消える   作:乃依

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過去①

「…くぁ…」

大きな欠伸を終え、油断すると閉じそうになる瞼を無理やりこじ開け、立ち上がる。

「…おかーさん…」

まだたどたどしい足の動きで、私は母を探す。

連続して続く包丁の音と、さえずる小鳥の鳴き声はいつもと変わらない日常の一コマだった。

「おはよう」

「おはよ…ぅ」

包丁の動きを止め、タオルで手を拭きながら母が近づいてくる。

「ほら、しゃんとなさい。顔と手を洗って来るんですよ。」

「はぁい」

間延びした言葉を返しつつ、洗面所に向かう。

 

「おはよう。」

「おはようございます。あなた。」

朝の畑仕事を終えた父が食卓に付くと、ようやく朝食が始まる。

「じゃあ、頂きます。」

「いただきまーす。」

「頂きます。」

2つのきちんとした食前の挨拶と、元気いっぱいの大声を区切りに、それぞれ茶碗や箸に手を伸ばす。

「…うん、今日も美味い。」

「ありがとうございます。」

父のその言葉を聞き、安堵したように母が顔を綻ばせる。

その光景もいつもと変わらず、安心感を私に与える。

「どうだ、美味いか?」

こちら側に投げかけられた声を受け取り、

「うん!!」

私は大きく頷いた。

 

 

 

 

「じゃあ、俺は仕事に戻る。こいつの事、頼んだぞ。」

「はい、行ってらっしゃいませ。」

母のお辞儀と父の笑顔を見届け、私は居間に戻る。

いや━━━戻ろうとした。

「今日は『あの日』じゃないの?」

「う…」

母の若干不機嫌そうな声が投げかけられ、動きを止める。

「…違うの?」

冷たい刃のような視線と共に、2回目の声が投げかけられる。

「…そ、そうです。」

「よろしい。はい、お弁当。」

母から小さな小袋を受け渡され、それを小脇に抱えて外に繋がっているドアを開きかけたところで振り返り

「行ってきます!!!」

今日1番の大声で気合を入れ、ドアを開く。

「はい。行ってらっしゃい。」

母の少し意地悪そうな顔を横目に、私は外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日常が数年続き、氷華と出会い、家族が増えた。

そしてそんな私もようやく大人の女の仲間入り、といった年の春。

私は普段のように外に飛び出そうとしていた。

「こらこら、もう17にもなる女性がはしたない…」

「いいじゃない、別に!行ってきまーす!」

毎朝恒例の母の小言をいつものように振り切り、駆け出した。

師匠である父の元へ、私は毎日鍛錬に出掛けている。

全ては強くなって、母と父を━━そして、氷華を守るために。

目の前には明るい未来への道しかない、そんな毎日を謳歌していたのだ。

 

 

 

「お父さん!!」

「来たか、核炎。」

父の声今日も聞くことが出来た。

そして私の「名前」も。

この里では本名の他に、能力にちなんだあだ名の様な名前で呼び合うことがある。親しい中であるほどその傾向は高い。

その名を呼ばれることに、幸福感こそないが少しばかりの安心感はある。

昔は名前など呼ばれず、「こいつ」や「この娘」などという呼び名だったのだから。

「来たよ!さぁ、今日もお願いね!!」

「あぁ、早速。」

左手を前に突き出し、体を捻り、構える。

それと鏡写しになるかのように、左利きの父は右手を前に突き出し、構えをとる。

そしてその手に纏う物質も同じ。

「用意…」

「…どんっ!!」

いつも通り。

そう、いつも通り赤と蒼の風が辺りを包む。

父の青い炎で包まれた手は熱く、触るだけで手を跳ね除けてしまいそうになる。

だが私たちは

「少しは温かくなったな、核炎。」

「お父さんにはまだまだ遠いわ…よっ!」

互いの手を掴み合い、投げ合い、殴り合う。

普通の父娘関係とは程遠いそんな一瞬が、私には幸福でしかなかった。

「ハッハ、そうだな、まだ娘には負けてられないなぁ。」

「あぁ…そうっ!!」

もちろん能力も出し惜しみしない。

手から火を出し、足元を爆破し、目くらましに使うなど、勝つための手段は惜しまない。

それは父も同じ。

私の出した火は蒼の壁に阻まれ、隆起しそうになった地面は更に大きな熱で融解し、目くらましなど無意味と言うかのように大きな拳が飛び出してくる。

「あははっ、さすがね、お父さん!」

「まだまだ若いモンには負けないさ、核炎。」

その攻防は太陽が真上に来るまで続き、私に充実感を与えてくれた。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…ふぅ、お父さん、大丈夫?」

「馬鹿にしてるのか?あれごときで息を切らしているようではまだまだだな。」

「あはは、強いなぁ。」

「やはりお前はまだ基礎体力が足りないようだな。いくら爆発で機動力や推進力を得られるとは言え、やはり基本はきっちりと抑えておかなければ」

「はいはい分かってますよーだ。」

舌を突き出し、父の小言を遮る。

腹が立つほど青く晴れ渡った空に少し夏の風が混じっていることを感じ、着物の襟を少し緩める。

「…お母さんの前ではそういう事はするなよ?煩いからな。」

「出来るもんですか。すぐにゲンコツが飛んできてまたお小言よ。」

そこまで言ったところで父が吹き出し、私もそれに釣られて笑い出す。

 

 

ひとしきり笑ったところで私は、お腹がすいているのを思い出し

「弁当は?」

「母さん手製の握り飯があるぞ、食うか?」

「うん!」

付近にあった包みから、大きなおにぎりを差し出した父を少しだけ目の端で見て、

「あ。」

いつものように口を開けた。

「…いい加減お前も自分で」

「あ!」

そうやって急かすと、折れたようにため息をついて

「まだまだ子供だな、お前も。」

そう言って口におにぎりを入れられる感触を感じながら

いつものようにふざけて父の指を噛んだ。

「痛てっ。噛むなっての。」

「んー。」

「本当、子供の頃から変わらないな。お前は。」

小さい頃から、おにぎりを食べさせてもらう時はこうしてふざけていた。

数年経った今でも、ずっと変わらず続けている。

「はー、おいしかった。」

 

 

噛まれた部分を反対の手で擦りながら、

「氷華はまだ来そうにないか?」

ほんの少し残念そうな声音で、私に問いかけてくる。

「あの子は裁縫とかの方が好きみたいよ。お母さんが大喜びして教えてたわ。」

早口になって知識を与えていく母と、目を輝かせながらその知識を吸収していた義妹の姿を思い出す。

「そうか…いや、我が家に来たからには護身術のひとつでも教えてやらないと、と思っているのだが…」

「建前じゃない、そんなの。」

こめかみを指で搔く父を横目で睨む。

 

女らしさなど欠けらも無い自分と違って、氷華は里の男から大人気だ。

綺麗な茶髪と、物静かな立ち振る舞い、それに趣味が裁縫と来た。

女とはああいう子の事を指すのだ。

それに比べて私は「男っぽい女」とか、「生まれてくる性別を間違えた」などと揶揄されている。全くもって納得いかない。

…自信が持てるほど自分磨きをしている自覚もないけれど。

 

化粧や裁縫など細かな事ではなく、体を動かしたりすることの方が私には合っていると思うし、そちらの方が私も好きだ。

それに幾ら物真似をした所で所詮物真似にすぎない。

なら得意な方を突き詰める、というのが私の考えだった。

 

 

 

「てなわけで、まだあの子が来るのは当分先よ。襲われるような年頃になったら泣いて頼みに来るわよ、きっと。」

まだ体の起伏が少ないからか、性的な目では見られていないようだけど。

「そうなっては遅いだろう?だから俺が事前にだな…」

「やかましいわ、エロ親父。」

適当にその辺に落ちていた木片に火をつけて父に投げつける。

「痛てっ。」

「幾ら血が繋がってないからって、そういう目で見るのはどうかと思いますー。」

「そ、そうか。すまん。」

ついでに冷ややかな目を差し向けておいた。

冷や汗を垂らし出した父を置いて、

「たまには本気出してみようかなぁ。対人戦には向いてないのよ、私の能力。」

と独り言を呟く。

「あぁ、『爆発』だものな。お前の能力は。」

「そうそう、似てるようでお父さんとは違うのよね。」

父の能力は、触れた物質の一点から熱を発生させ、火を起こす。

しかし私の能力は、触れた物質自体を爆発させ、一瞬だけ莫大な熱を発生させる。

「モノの核に炎を付けて爆発させる。だから私の2つ目の名前は『核炎』」

瞬間的な温度は私の方が上だが、持続的な温度は父の方が上だ。

なんせ炎の色が赤と青なのだ。見ただけで一般人でも分かる。

「何かいい感じの岩とか…」

「お前が全部吹っ飛ばしたせいでこの辺りには無いぞ。」

見渡す限り草原しか無く、岩や大木などは1つも無い。

「…なら、今日は組手の2本目をしよう!」

「体は大丈夫なのか?俺は構わないが。」

「大丈夫大丈夫!なんとかなる!」

この頃は本当になんとかなると思っていた。

大丈夫だと。私なら大丈夫だと。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁ。」

「ただいま。」

「おかえりなさい。核炎、あなた。」

家のドアを間延びした挨拶と共に開き、土間から居間に転がり上がる。

それを母の穏やかな声が迎え入れてくれた。

「…ちょっと、汚れた服で寝転ばないでよ。」

「はぃ?あ、あー。ごめんね。」

しかし、か細い、しかしハッキリと聞こえる声で叱られた。

抑揚も小さく、聞き取りにくいはずなのだが、何故か耳にはきちんと聞こえる。

不思議でならない。

「あ、そうだ。明日から氷華も鍛錬来ない?」

一応誘ってはみる。

「…私は…遠慮しておく。お姉様の方が得意でしょう。そういうことは。」

「そう言うと思ったー。」

そこまで聞いた辺りで、氷華は小さな透明の針を針刺しに突き刺し、途中だったであろう縫い物を隣に置いて立ち上がった。

「お夕飯、ご用意しますね、お義父様。」

「あぁ、頼むよ。」

義妹の申し出に、父は人のいい笑顔を返しながら頷いた。

 

 

「邪魔するぞ」

 

 

普段と変わらない夕暮れに、1つの不日常が舞い降りる。

「…お爺様?」

「どうしたんだ。爺サマ。」

黒い着物をきっちりと着込んだ祖父が、軒先に立っていた。

「少しお前に話がある。核炎。お前も共に来なさい。」

祖父の硬く冷たい表情はいつになっても慣れないし、刃物のような目線もあまり好きではない。

「?はぁい。」

「こら、お爺様に失礼でしょう。しゃんとなさい。」

母の普段通りの小言を受け流し、立ち上がる。

「ご飯、温めといてね。」

氷華に笑顔でそう言い置き、先に家を出た2人を追った。

 

 

 

 

 

父と祖父に追いつくと、何か言い争いをしていた。

その会話の意味は所々にしかわからない。

しかし、時折聞こえる「氷華」という単語が私の心に不安を与えた。

 

 

「…あぁ、来たか。核炎。」

祖父が冷たい目でこちらを見る。

ただ見つめられているだけなのに、睨まれているような感覚に陥る。

「お前にも必要な事だ。言っておく。」

嫌な予感がする。

その後に続く言葉を聞きたくないと、本能的に感じ取った。

「お前の義理の妹。アレはいつか我らの里に災いをもたらす。近々処分しなくてはならないと、長老会で決定された。」

突拍子も無く残酷で、意味を理解出来ない宣告だった。

 

 

 

「ま、待って。氷華が災い?何言ってるの?ただの女の子よ?」

ここで何か言わないと、必ず氷華は『処分』されるだろう。

祖父はそういうヒトだ。

「アレの能力はどこか不自然だ。」

そう言いながら近づいてくる祖父を、思わず見つめてしまう。

「なぜ右腕に霜が降りている?能力の制御が出来ていないからだ。

なぜあの歳で能力の制御が出来ていない?その能力が強大だからだ。

制御も出来ない強大な能力がどうなるか、言われなくても分かるな?」

『利用する輩』が出てくる。

氷華を利用して、悪事を働こうとする人間が、この里に現れる。

「そしてそれはいつ襲い掛かってくるか分からない。今かもしれない。数年後かもしれない。お前達が眠っている間かもしれない。起こらないかもしれない。」

そこで一旦言葉を区切り、

「だが、『起こらない』というのは楽観的な希望的観測だ。不安的要素があるのなら、その芽は刈り取っておかなければならない。」

目前まで迫った祖父の鋭い目が、まだ軟弱な私の精神を締め上げていく。

「何、お前に殺させようなどとは思っていない。お前の目前でも、な。

しかし、近い間に別れが訪れるだろう。」

里の者には、厳しくも少なからず愛情をもって接している祖父がなんの躊躇も無く「殺す」と言った。

つまりもう祖父の心に迷いはない。

氷華が、殺されてしまう。

「まって…待って、っ」

「待たん。これは必要な事だ。お前たち里の者が外来者によって殺されるのは儂とて納得いかん。故に変更は無い。良いな。」

そう吐き捨てると、祖父は去っていった。

いつものように、一瞬の内に姿を眩ませて。

 

 

 

 

「核炎。戻ろう。」

静かな父の声が、鼓膜を震わせる。

「すぐにお別れをする訳じゃない。まだ時間はあるだろう。」

嗚咽を噛み殺す私の隣で、淡々と慰めてくれる。

「だから最後まで、一緒に居てやれ。お前はあの子の姉だろう。」

その声を引鉄に、真っ暗な夜道の中で、ひとつの炎が起こった。

 

 

最初は父が帰る為に、炎を付けたのかと思っていた。

しかしそれにしては距離が遠すぎる。

それにその炎は目が覚めるような赤で、父の青い炎とは違っていた。

 

「…は?」

父の声をはるか遠くに置き去りにし、私は走り出した。

その間にも炎は増え続けている。

道端の木々に火が移り、煌々と夜空を照らし、人影を発生させた。

石に引っかかり、転びそうになってもなんとか立て直した。

家までの道のりは遠くて、不安が心を掻きむしった。

義妹の名を呼びながら、ただひたすら走った。

 

 

 

 

見慣れた我が家は燃えていた。

その付近を囲む人影が振り向くまで、呆然と立ち尽くし

「あんたら、何なの」

1歩踏み込んだ。

黒い装束で体を包み、愉悦の篭った目でこちらを見つめている。

「…なんだぁ、この女。」

「一般人か?ならいい。殺れ。」

「待て待て兄貴、とっ捕まえて楽しもうぜ。」

「それには賛成だな、割と上玉じゃねえの?」

「野蛮な奴ばかりだな、何はともあれ逃がすと面倒だろう。」

「そうさな、まずは俺が、っ…?」

最後に声を発した男に近づき、鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。

「とっとと質問答えたらどうなの?死ぬよ?」

体をくの字に折った男の足を払って転ばせると、頭を踏みながらそう呟いた。

「…一般人じゃねえ、とっとと━━━」

「答えろ」

近づいてきた人影の頭を掴み、チカラ(能力)を込める。

頭の内面から爆発し、中側から崩れ落ちた。

「何しに来たの。あんたら」

脳漿をその辺の地面に叩き捨て、近くの男に歩み寄る。

「数人で一斉に掛かれ、普通の奴じゃ」

「聞いてるんだけど?」

男の体に触れ、チカラ(能力)を発動させる。

バゴン、と鈍い音を立てて男の体が爆発し、崩れ落ちた。

「…で、教えてくれないの?」

「うるせ…ぇ!」

明らかに男に馴染んでいない大太刀を振り回す男の背後に回り、

「うるさいのはあんたよ。」

首元に手を回し、またチカラ(能力)を入れた。

そしてその男が持っていた刀を拾い上げ1人残った男に突きつける。

「とっとと答えないと首飛ぶけど、どうなの?」

「ちょ、調子に乗るなよ、このガキが、ぁっ!!」

「あっそ。」

少し力を入れて刀を振るだけで、男は体ごと木に叩きつけられた。

 

 

 

 

「おい!無事…か……」

父は辺りを見渡し、絶句した。

「殺したのか」

「殺さないと私は死んでた。仕方ない。」

袖に付いた血糊を払いながら、父の方に近づく。

「どこへ?」

「母さんと氷華が見つかってない。今から探す。」

それだけを短く返答し、里の方に向かって歩き出す。

私たちの家と里は少し距離がある。

向こうに避難しているかもしれない。

「とりあえず里に行く。お父さんも来るでしょ?」

「あ、あぁ。」

何故かたじろぐ父に不信感を抱きながらも、その場では受け流し、また走り出した。

 

 

 

 

 

「…お父さん?」

走りながら、何故か後ろにずっと居る父に疑問を抱く。

父が私よりも遅いわけが無い。

何らかの理由で速度を落としているか、またどこかを怪我しているのか。

「お父さん?大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だよ。」

息が切れている。

昼間あれだけ激しい組手をしたのに息切れひとつ起こさなかった父にしてはやはりどこかおかしい。

「怪我でもしてるの?」

膝に手を付き、肩で息をしている父の顔を覗き込もうとかがみ込む。

 

その男の顔は父の顔ではなかった。

「っ、あんた」

「まさか気づかないとは思わなかったぜ、女。」

すぐに飛び退いたが、男の動きはそれよりも早かった。

先程の行為も、息切れも、全て演技。

私よりも俊敏で、戦いに慣れている。

父と見間違う程度の体躯なのだから、それも当たり前ではあるだろうが。

襟首を掴まれ、そのまま引き倒される。

「っ、ぐぁ…!」

肺の中の空気が無理やり吐き出される。

「手間かけさせやがって、これでやっと1人か。」

上手く息が吸えない。

体を動かそうとしても、叩きつけられた衝撃で痺れて動かない。

男の手の中には鈍色の鈍器が握られていた。

 

 

選択は2択。

一か八かに賭けるか、このまま殺されるか。

相手はきっと私の弱点を心臓だと思っているだろうから、胸に刃を突き立ててくるだろう。痛いが、死なない。

だが問題は、その後の事だ。

出血が酷い状態で動けるのか。無理だ。

ならどうするのか。賭けに出るしかない。

刃の切っ先がこちらを向き、振り下ろされるまでの数瞬に、そう判断した。

「『爆、え…かく』ッ!!!」

詠唱は完璧には出来なかった。

が、手のひらから発せられた爆発は男を包み、男を吹き飛ばした。

土壇場での成功。運が良かったとしか言えない。

「ゲホッ、ごほっ」

乾いた咳をしながら何とか立ち上がり、息をしながらまた歩き出した。

吹き飛んだ男の生死はもう決まっている。

ただの人間は炎に耐えられない。

だから振り向かずに私は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

走っている途中で、腕に鈍い痛みが発生していることが自覚出来た。

叩きつけられた右腕。

恐らく折れているだろう。それほど強い力だった。

けれど、それでも止まろうとは思わなかった。

左手で折れた部分を抑え、走った。

段々と木々が分かれ、里へと下りる道が見えてきた時、光も見えた。

里には街灯が備え付けられている。

まだそう遅い時間では無い。普段通りだ。

だから、少し安心してその道を下りようとしたのだ。

 

まさか、まさか里が燃えているとは思わずに。

 


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