勇者という大役を持って生まれた君へ   作:アドライデ

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ロウ編

 

 今は亡き王国ユグノア。この地に孫を呼び共に旅をして、どれぐらいの年月が経ったのであろうか。キラキラと光り輝く姿に目を細める。

 

 孫に初めて両親を紹介した時、少しキョトンとしていた。まぁ無理もないだろう。

まだ、生まれたてで首がようやく座った頃に、あの事件が起きたのだ。記憶に残っている方が可笑しいと言うものよ。

不幸なことに顔すら知らない両親は既に他界している。そんな残酷なことを告げねばならない。

幸運なことに孫が育った環境は、とても恵まれており、真っ直ぐな意思のまま優しい子に育ってくれていた。ロウ自身のことを唯一の血の繋がりのある者として語ると、今は亡き養祖父のようだと嬉しそうに受け入れてくれた。

 

 良くぞ生きていてくれた、良くぞ生きていてくれた。影で、何度嬉し涙を流したことか。

孫自身の実感はまだ薄いだろうが、今の家族が側に居ない寂しさがある。ロウと言う家族が増えた事は純粋に嬉しいのだろう。何度か辿々しいながらも声を掛けて気遣い、親しみを持ってくれる。

 

 十六年前の惨劇はロウのみが生き残り、原因解明と言う名の復讐以外の思いが描けなくなっていた。この孫の生存は、疲弊していく心を止め、癒してくれた。魔物により滅ぼされたユグノアの城を行く末を語る意味を見出せるようになった。

 

 あの事件は城一つ滅びる悲惨なものであった。魔物の大軍は老若男女、人も家も関係なく破壊尽くした。生き残れたのは逃げ延びたことを期待し後を追いかけたロウと、グレイグが助けに来ただろうデカルタールの王、直属の近衛兵に守られたであろう各種の王ぐらいだろう。

アーウィンはエレノアを助けるために犠牲になり、エレノアは息子とマルティナを助けるために犠牲となった。奴の陰謀か、何故かアーウィンの魂は現世に止まり、踠き苦しむ。

何もしてやれないことに悔いる。

 

 しかし、孫のお陰で娘夫婦エレノア、アーウィンは心穏やかに旅立ってくれた。久し振りに聞いた我が娘夫婦の穏やかな言葉。

孫もロウやマルティナのような当時を知る人物からしか聞けなかった彼の父の勇姿、それを間接的に知る事ができたらしい。

元々正義感が強かった勇者の意思を、親から託された愛情を強く受け継ぎ、真っ直ぐに上を向く様は絶望の中でも一際に輝き、とても勇敢に見えた。

振り返り微笑む姿はまさに勇者、お礼を言うのはこちらの方だ。辛いながらもよくぞ此処まで来てくれた。

 

「お前は、わしの自慢の孫じゃ」

 

 どんな絶望にも屈しない強き心の持ち主。

何度も言おう。

 

生きて居てくれて本当にありがとう。

 

愛しの孫よ。

 

END




ユグノアの城跡にて…。

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