勇者という大役を持って生まれた君へ   作:アドライデ

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セーニャ編

 

 竪琴を奏でるは悲恋の歌。もう二度と会うことのない亡き恋人への弔いの歌。

 

 何故彼女であったのか、何故気づく事ができなかったのか。何度自己を責めても彼女は帰ってこない。

知りたくなかった双子の意味を恐れていたことだから、考えないように考えないようにしていた事が、今に繋がったというのなら、何て理不尽なのでしょう。もっと、早くに悟っていれば、私が代わりに朽ちて行けたのに…。とんだグズです。

 

 ゆっくりと近づいてくる足音に演奏をやめ、セーニャはゆっくりと振り返る。そこには何も言わずにこちらを見ている彼がいた。

 

 ねえ勇者様、あなたは此処まで悲劇を眼にしても、真っ直ぐに前を向いていられるのですか。諦めずにいられるのでしょうか。涙を流さずに済むのですか。

 

 空を見上げれば、世界は闇に落ちたというのに、月はまだ尚、空に輝き、星々は瞬きを繰り返す。何事もないかのように…心だけが暖かく燃える。そう、姉ベロニカのように熱い炎。

 

 あぁ、そうでした。お姉様も諦めの悪い方でした。だから、今があるのですね。今世界は滅びに向かっています。命の源である大樹が堕ち、人々の魂は大樹に戻るすべを失っています。

ここで諦めてしまったら、それこそ世界は終わりを迎えます。何の手がかりがない今、その意地さえなくなってしまうと、本当に今生きている人々すら守れなくなってしまいますね。

 

 流れ落ちる涙は止まることなく湧き出てくる。それでもセーニャは俯くことなく真っ直ぐに前を見る。暖かで力強い彼と目が合う。

 

 賢者セニカ様の生まれ変わりである私達は勇者の側にいる定め、彼女もまた勇者を愛し共に守り戦うことを選んだ。彼が前に進むというのなら、その守護者である私達がその場に止まるわけにはいかない。

そう、不躾な疑問でした。

 

 勇者様は勇者であるからこそ、希望を失わない。勇者と言う名は、今までの歴史の中で根強く残り、希望となる。その力がないのならまだしも、その期待に応えるすべを持っているのなら、皆を裏切ることはできない。それが勇者様なのです。そう、彼は目に見える希望であり、進むべき道を照らしてくださる光なのです。その光を照らし続ける為にお姉様も私も此処にいるのです。

 

「有難うございます。残された私がすべき事が見えて来ました」

 

 勇者の光を増やすのです。一つ一つは小さくとも複数集まる事で増幅しより強い光となりましょう。勇者様が真っ直ぐに進むべき道を照らしてくださるのなら、私はその光で周囲を見渡せる鏡となりましょう。視野が広がれば、可能性もまた増える。

 

 癒すことしかできなかった私の強き思いを思い出しました。勇者様と共に入れることを感謝します。

 

「夢を追い、時を駆ける。勇気と希望があれば、空はまた明るく、大地を照らすだろう」

 

 静かに紡がれる歌は竪琴の音色に合わせ、力強く響く。

 

 

END




乗り物を手に入れるちょい前。
この衝撃は忘れられない。

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