勇者という大役を持って生まれた君へ   作:アドライデ

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最後の仲間編

 

 あぁ、勇者というものはこれほどまでに強いものなのだろうか。

グレイグがゆっくりと跪き、到底許されぬことをした非礼を詫びる。どんな仕打ちを受けても文句は言えない、それこそ死して償わなければならないことだ。

しかし、彼のとった行動は手を差し伸べることだった。こちらへの許し、尚且つ協力要請だった。仲間として、共に行くことを願ってくれたのである。

 

 グレイグにとって許されるならばと言う償いの機会を最も好条件で与えてくれたのである。何ということであろう。

言葉に言い尽くせず、感激を通り越し戸惑いすら覚えるぐらいである。

 

 何故だと問うと『人を恨んでも意味がない』と言う意味合いに言葉が返ってきた。深く咀嚼すると見えてくるペルラとの旅立ち時の会話だ。成る程、全てはウルノーガの術中にはまったグレイグを責めても、元を断たねば確かに意味はない。いいように利用されていた我が身が憎い。何と盲目であったのだろう。

後戻りできぬ今、全力を持って盾となる事を改めて誓おう。

 

 皆が勇者であるが故に、最後の希望として命を推して守る。それが彼にどれだけの重圧をかけているか言葉にせずとも、苦しいのが実情である。

年端も行かぬ子どもに運命を任さなければならないとは、グレイグが同じような年の頃、部隊に所属して王のために強くなることだけに懸命になっていたように思う。

 

「またその話? 真面目過ぎて逆に頭が痛いわ」

 使えている王の娘マルティナは、長らくの間城を離れていた。ロクに詮索もせずにここまで放置していたグレイグに取って、その辺りは弁解もできない耳の痛い話ではある。しかし、マルティナ本人は、主に忠実であった故に盲目であることを知っているからか、グレイグの謝罪に『今は気にしていないわ』と軽く流されてしまった。

「堅いわ。だから面白くないと言うのよ」

 すっかりじゃじゃ馬に育ったマルティナは、高貴な者が行かないであろう場所も平気で行く。慎みをと注意すれば、呆れたようにそう返された。

 確かに冗談の一つも言えぬグレイグは面白い存在ではないだろう。その様子は勇者の態度でも分かりだした。盾になると決めて長らく旅を続けていたが、仲間が増えるごとに硬かった表情が徐々に柔らかくなって行くのが見て取れる。グレイグは哀愁すら出すことを許していなかったと言うことだろう。物理的な盾のみに執着していたと言うことだ。

 

「だから、貴方もちゃんと自覚しちゃいなさい」

 ゴリアテが額を指で弾き、考え込んでいたグレイグに発破をかける。

 

そうだな。

皆が言う希望は確かに勇者である。だが、彼一人が背負う業でもあるまい。英雄という大それた名誉を頂いたグレイグもまた、希望の一人になり得たという自負の元、最後まで力になろう。

 

END




こっちも終盤

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