ユーノ・スクライア外伝 PARALLEL STORY   作:重要大事

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前回のあらすじ

カルナージで束の間のバカンスを楽しんでいたなのは達一行は、突如『ギガデス』と名乗る半グレ集団による襲撃を受ける。
バウラとミツオが人質として捕らわれ、なのは達は敵の要求に従わざるを得ない状況に追い込まれる。
一方、機動六課では、はやてがギガデスの脅威を慎重に見極め、人質の安全を最優先に行動を制限。だが、怒りに駆られたメンバー達は動けない焦燥感と戦っていた。
その頃、すでにユーノは現地・カルナージへと向かい、不穏な気配を察知していた――。


第36.5話「カルナージ・ラプソディ Ⅱ」

新暦079年 7月14日

第34無人世界「カルナージ」

アルピーノ家 併設旅館「ホテルアルピーノ」

 

「ほーら飲め野郎ども!! これからはギガデスの時代だ! パーッと飲みやがれー!!!」

「「ウルモフさん、最高ッす!!」」」

ホテルアルピーノを占拠したギガデスは、豪勢な酒宴を開き、悪辣な酒池肉林を満喫していた。彼らはなのは達に露出度の高い格好をさせ、その尊厳を踏みにじりながら楽しんでいる。

「おい、酒が切れたぞ。さっさと次いでくれよ」

「はい・・・・・・ただいま」

酔いの回ったウルモフは、いやいや酒を注ぐフェイトを厭らしい視線でなめ回し、彼女のボディラインを強調する衣装を嘲笑うように見つめていた。

「へぇー、あんたいい体つきしてんな。どうだ、今夜俺と一緒に朝までぶっ飛ばないか?」

「結構です・・・・・・」

「そうツレねーこというなよ」

すると、ウルモフの手がフェイトの腰元へ伸び、無防備な彼女の臀部に触れた。

「きゃ!!」

「おっと、悪りぃな。つい手が滑っちまった」

彼女の尊厳を踏みにじるその行為に、ティアナはついに業を煮やし、怒りを露わにウルモフへ詰め寄った。

「ちょっとあんた! いい加減に・・・・・・っが!」

抗議の声と共に彼に向かおうとした瞬間、ティアナの背中に強烈な電撃が走った。スタンガンの衝撃により、ティアナはその場に倒れ込む。

「ティア!」

「「「ティアナ(さん)!」」」

なのは達は慌てて倒れたティアナの元へ駆け寄り、彼女の無事を確かめようとする。

「おいおい、立場わかってんのか? 今のは『警告』だ。お前らが妙なことすれば、次は確実にガキどもの命の保証はねぇ。俺だって本意じゃねーんだ。幼気なガキが泣き叫ぶ様を見ながら、皮を剝いでじわじわ甚振るのはさ」

ウルモフは下劣な笑みを浮かべ、なのは達の反抗心を削ぎ落とす。

非常に悔しかった。今すぐこの男を叩きのめしたいという思いが全員の心を支配する。だが、ウルモフに逆らえばヴィヴィオ達の安全が保証されない。苦渋の決断を迫られた末、彼らは彼に従うしかなかった。

(みんな、ここは耐えて。チャンスを待とう)

(そうね。チャンスさえくれば、絶対に何とかなる。そしたら、あいつらを好きなだけ殴れるわよ)

「そーら、今日は祝いだぁ!! もっと飲むぜ、テメーら!!」

ギガデスは酒盛りを再開する一方で、なのは達は彼らに料理と酒を提供する。

「おい、ボーイ! ぼさっとしてねーでメシを運べ!」

「はい・・・」

ボーイ役を押し付けられたエリオは、男として、騎士として、不当な扱いを受けているなのは達を助けられない現状に苛立ちと無力感を抱いていた。

(くっ・・・・・・フェイトさんやキャロ達に、あんな格好させて・・・・・・僕は何もできないのか!?)

拳を握りしめるたび、滲んだ血が汗と混じり、冷たい滴となって彼の掌から落ちていく。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室

 

身代金の要求期限まで残り二十時間を切った。

クロノ・ハラオウンとその母である統括官のリンディは、三億という大金を調達すべく管理局上層部と交渉していたが、事態は難航していた。

待機を余儀なくされた恋次は、何もできない状況に苛立ちを募らせ、ついに堪忍袋の緒が切れた。

「もう我慢できねー! いつまでもこんな不毛な時間を過ごさなきゃいけねーんだ!」

「君の気持ちは痛いほどわかる。だが、民間協力者である僕らに決定権はない。部隊長が『NO』と言う限りは動くことはできないんだ」

吉良は険しい顔をしながら、思案に耽るはやてに視線を向ける。

しかし、恋次はその言葉に収まらず、はやてに詰め寄り、彼女の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

「おい!! こうしてる間にも、刻一刻となのは達の身がヤベーんだぞ! それでもテメーはあいつらのダチで部隊長か、八神はやて!!?」

「わかってます、わかってますよそれくらいッ!!」

直後、はやては激昂し、感情的に声を荒らげた。思わず全員がたじろぐ中、彼女は自分のジレンマを素直に口にした。

「・・・・・・私も恋次さんと同じ気持ちなんです。せやけど、下手に相手を刺激して、人質に何かあったら・・・・・・それこそ!」

ヴィヴィオは、はやてにとっても大切な存在だ。かつて、スカリエッティによって人道魔導師素体として、『聖王の器』として生み出され、なのはに救われた彼女の笑顔に勇気づけられたことが、どれほどあっただろう。彼女にもしものことがあれば――その恐怖が、はやての思考を支配していた。

その表情を見れば、若い部隊長としての彼女の重圧は誰の目にも明らかだった。恋次も、それを攻め立てるほど残酷ではなかったが、時間が経過する中で解決の緒(いとぐち)を見出す必要があるのは確かだった。

「シャーリー、ギガデスとやらの素性について、何かわかったことはないのか?」

藁にもすがる思いで、シグナムが情報を求め、シャリオに問いかける。

「それが、新興のギャング集団と言うこと以外、あまり情報が出ないですね。ただ・・・リーダーであるウルモフは、過去に質量兵器保有と使用の前科があります」

その情報に、金太郎は眉間に皺を寄せながら、おもむろに語り出す。

「『質量兵器』は、使い方さえわかれば子供でも容易く使用が可能です。ゆえに、管理局はその使用を厳しく取り締まっています。一度その力に魅入られた虜となった者は、禁断の魔術に溺れ、狂気に染まっていく」

「つーことはだぞ、いつソイツの気が変わって、ヴィヴィオ達をぶち殺すかもしれねーんだ! ここでいつまでも考え倦(あぐ)ねてる時間はねーんじゃねーのか!?」

「けどよ、闇雲に乗り込んだところで、アタシらが来たとバレた途端、それこそ連中が人質をひとり残らず殺すかもしれねーだろうが!」

「せめて、相手に気づかれずに懐に忍び込むことができればいいんですが・・・・・・」

誰もが焦りと苛立ちを抱え、策を練るが妙案は浮かばない。徒(いたずら)に時間が過ぎていく中、はやては不意にユーノの不在を思い出した。

「あれ?  こんなときに、スクライアアドバイザーはどこにいったんや?」

周囲を見渡すも、実質機動六課の司令塔たるユーノの姿が、影も形も見当たらなかった。

「はやてちゃん、店長なら・・・」

その時、はやての疑問に対し、浦太郎が上司からの文面をスマホで確認しながら答える。

「もう現地にいるって」

「な・・・・・・なんやて!!?」

はやての甲高い驚倒の声が総合司令室に響き渡った。

 

           *

 

第34無人世界「カルナージ」

ホテルアルピーノ裏側 倉庫内

 

その頃、ヴィヴィオ達はホテルの裏口にある倉庫内に捕らえられていた。バウラとミツオも共に監禁され、全員が魔法封じ機能を備えた狭い檻にすし詰めにされていた。

「はぁ・・・・・・どうしてこうなっちゃったんだろう」

「ごめんよみんな! オレとミツオのせいでこんな目になっちまって!」

「ボクは悪くないよ! 元はと言えばバウラがあんな場所に入らなかったら!」

「ミツオがあのとき道に迷わなかったら、こんな事にはならなかったんだ!」

互いに罪を擦り付け合う二人の声が大きくなったため、外の見張り番が気付き、銃を持って威嚇してきた。

「おい、うるせーぞガキども! ぶち殺すぞ!」

「ひいいいいい!」

「す、すみませんでした!」

銃口を突きつけられると、二人は一瞬で黙り込んだ。

しばらくして見張りが去るのを確認したヴィヴィオとアインハルトが、小声で二人に話しかける。

「二人とも、お互いに責め合っても何の解決にもならないよ」

「ヴィヴィオさんの言う通りです。今回の件はバウラさんのせいでも、ミツオさんのせいでもありません」

「あたしたち・・・これからどうなるんだろう?」

「ルーちゃん達はあのウルモフって人の言いなりにされちゃったし。わたしたちには何もできない」

得意の魔法も封じられ、大人達は自分達を守るために犯罪者の言いなりになっている。どうすることもできない無力感が彼らを襲う。子供達は自然と希望を失いかけていたが、ヴィヴィオだけは母譲りの前向きさを失わず、全員を励まそうとする。

「だいじょうぶだよ! 私たちは助かる! 必ず何とかなるよ!」

「ヴィヴィオ・・・・・・うん!」

「そうだよね! きっと大丈夫だよね!」

「おうよ! オレ達こういうピンチを何度も乗り越えてきたんだもんな!」

「はい。絶対に諦めない限り、希望はあります。だから、今は待ちましょう。逆転の機会を――」

後ろ向きだった再び皆の心に希望の光が差し込み、彼らの表情が明るさを取り戻したその時、

グウ~~~と大きな空腹の音が響いた。直後、リオが恥ずかしそうに手を挙げる。

「ごめんみんな・・・・・・」

「うんうん。わたしもお腹空いてるし」

「そういえば昼食のバーベキュー食べ損なっちまったなー」

「ボクたち、いつまでこうしてるのかな?」

今頃は皆で楽しく昼食を楽しんでいるはずだったのに、ギガデスによってその楽しみを奪われた。

ヴィヴィオ達は一刻も早く助けが来ることを願い、再び楽しい日常に戻ることを切に祈った。

 

「キュー、キュー」

その時、ヴィヴィオの耳に可愛らしい小動物のような鳴き声が聞こえた。周囲を見回して鳴き声の主を探す。

「どうしたのヴィヴィオ?」

「えっと、さっき鳴き声みたいなのが聞こえたんだけど?」

「鳴き声?」

「あ」

するとリオが、鳴き声の主を見つけた。

檻の前には、金糸の毛色をしたイタチのような小動物がおり、ヴィヴィオ達をじっと見つめていた。

「イタチ、いやフェレットかな・・・?」

「かわいいなー。どこからやって来たのかな」

「フェレットなんでしょうか? 見たことない種です」

皆がその愛らしい姿に目を奪われる中、ヴィヴィオは目の前のフェレットに妙な既視感、もとい親近感を抱いた。

(この感じ・・・・・・どこかで・・・・・・)

その時、見張りが倉庫の扉を開け、ヴィヴィオ達の様子を確かめに来た。

「おいガキども! ちゃんと大人しくしてるだろうな?」

「は、はい!」

「ひいいいい! ボクは何もしていません!」

怯えた声を上げるヴィヴィオ達。その時、フェレットが男の元に向かって走り出した。

「あ、ちょっと!」

ヴィヴィオが咄嗟に呼び止めるが、フェレットは構わず男の足元へと向かう。

「あ? なんだこいつは?」

男は怪訝そうに足元のフェレットを覗き込む。

「キュー」

すると、フェレットがつぶらな瞳で見つめてきた。

「か・・・・・・かわいいな~おまえ~♪」

男はかつて見たことの無い愛らしさに魅了されると共に、たちまち心を奪われる。

「よーしよしよし。こっちこーい」

すっかり表情が緩み、男は愛玩動物を愛でるかのようにフェレットを抱き上げる。

「エサがほしいんでちゅか? いいでちゅよー! えっーと、なんか持ってなかったかなー・・・・・・」

赤ちゃん言葉を使い始めた男が、おもむろに懐を漁り始めた瞬間――

フェレットは瞳を鋭く光らせ、尻尾を突き立てた。

「これがほんとのアイアンテール!」

跳び上がったフェレットが、鋭く硬化させた尻尾で男の鼻を突いた。

「ぐおおおおお」

突如として襲いかかる強烈な痛みに男は倒れ、そのまま気を失った。

「なに!?」

「どうなってるの?」

ヴィヴィオ達は、突如フェレットが攻撃した様子に驚きを隠せなかった。

すると、フェレットは男から鍵を奪い、ヴィヴィオ達の元に戻ってきた。

「もしかして・・・これを取ってくるために?」

フェレットを見ながら、ヴィヴィオが行動の深意を恐る恐る尋ねと――

「当然だよ。元より僕は君たちを助けるつもりだったからね」

そのフェレットが突然人間の言葉を話したことで、子供達は驚きの声を上げた。

「だあああ!!」

「しゃ、しゃべったー!!」

おとぎ話のような出来事に驚きながらも、フェレットは自分の正体を明かすために変身魔法を解いた。

「心配いらないよ。僕はこう見えても人間だからね」

すると、小さかった体が段々と成人男性の姿へと変貌していく。その姿を見て、ヴィヴィオは目を見開いた。

「ユーノさん!!!」

そこに立っていたのは、次元世界の英雄であり、ヴィヴィオにとっては、なのはとも勝るとも劣らない尊敬すべき大人――ユーノ・スクライアその人だった。

「やぁ。助けに来たよ」

ユーノは自信に満ちた笑みを浮かべ、子供達に希望を与えた。

 

ちょうどその頃、ホテルアルピーノに一人の来客があった。

「よう。ずいぶん楽しんでるみてーだな。俺も混ぜろよ」

中に入ってきたのは、左肩から頬にかけてサソリの刺青を入れた人相の悪い男だった。その姿を見た瞬間、フェイトは即座にその男の正体を察した。

「あの男は・・・・・・!」

「フェイトちゃん、知ってるの?」

「広域次元指名手配犯・・・・・・サラザール! 反管理局思想を掲げる異世界へ大量に質量兵器をばら撒いてる死の商人! まさかこんな大物が紛れて込んでいたなんて・・・・・・!」

フェイトは、凶悪犯罪専門の執務官としてその名を知っていたが、彼がこのような半グレ集団に潜んでいるとは予想外だった。

サラザールはウルモフに軽口を叩きながら、転がっていた酒瓶を手に取って豪快に口へ流し込む。

「ぷっはー! なんだなんだ、俺に内緒で抜け駆けたぁ、ずいぶんつれない男だな?」

「ワリーワリー。つい楽しくなっちまってよ。オメーのこと忘れてたわけじゃねーんだ。許してくれって」

「ふん、まぁいいさ。にしても今日は嬢のレベルが高けぇーな」

「だろう? これで子連れって聞いたときには思わず笑っちまったぜ!!」

その時、サラザールはなのは達の顔を見て何かに気づいた様子で、眉間に皺を寄せた。

「おい・・・・・・どこかで見たことある顔だと思ったらよ。こいつら管理局機動六課の魔導師じゃねーか?」

「なんだと?」

話を聞いた瞬間、ウルモフは驚いてなのは達を凝視する。

「間違いねぇ。こいつらメディアに顔が知れてるからな。まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかったが」

機動六課はその特異性ゆえにメディアから度々取材を受けていた。その結果、なのは達の顔は公務員であるにもかかわらず、世間に広く知れ渡っていた。それは犯罪者側にも同様で、彼らにとっても認知されてしまっていた。

すると、サラザールはなのはをじっくりと品定めするように見た後、ウルモフに話しかけた。

「おい、こいつ俺にくれねーか?」

その言葉を聞いた瞬間、なのはを始め全員がサラザールの意図を理解する。彼はなのはを自分のものにしようとしているのだ。

「お前、なのはに手を出すな!」

そんなことは死んでも許すわけにはいかない。フェイトは、なのはを守ろうとサラザールに詰め寄ろうとした。だが――

「ぐああああああ」

ウルモフが持っていた違法に改造されたテーザー銃で、フェイトは高電圧を浴び、意識を失った。

「「フェイトちゃん(さん)!!」」

なのは達は倒れたフェイトの元へ駆け寄ろうとするが、ウルモフは嘲笑を浮かべながら彼らに近づく。

「立場わきまえろよな。安心しろ、俺らは全員真摯なんだよ。悪いようにはしねーさ」

またしてもウルモフは下卑た笑みを浮かべ、サラザールもまたなのはを物欲しげに醜悪な表情で見つめ、蛇の如く睨みつける。

「女、お前は今日から俺のもんだ。何回も何回も犯し続けて、シャブきめて、天国に連れてってやる」

「あ、あぁ・・・・・・」

この時、なのはは生まれて初めて男に対して恐怖を感じた。

魔法という力を封じられ、身体的にはこの男には太刀打ちできない。このまま為す術も無く凌辱されると考えた瞬間、彼女は恐怖に駆られ、全身が震えた。

(ダメだ・・・・・・今の私じゃ抵抗できない・・・・・・このまま犯される!?)

この時、なのはは内心酷く後悔していた。自身の初めてを捧げる相手にもっと早く積極的にアプローチしておくべきだった、と。

激しく動機する心臓。彼女は最愛の人のことを思い出し、心の中で彼の名前を叫んだ。

(ユーノ君・・・・・・! 助けて・・・・・・!)

 

「おい、人の彼女に何しようとしてるの・・・・・・おまえ?」

その時、サラザールの背後に冷たい殺気を纏った何かが立っていた。

「え」

凄んだ声が響き、サラザールが振り返る刹那、目にも止まらぬ速さで鉄拳が彼の顔面を捉えた。

「グゲア!」

顔面が陥没するほどの強烈な右ストレート。それを放ったのは、鬼神の如く形相を浮かべたユーノ・スクライアだった。

「女性の尊厳踏みにじってんじゃねーよ、ゴミムシが」

嘗てない怒りに震えながら、ユーノはなのはを襲おうとした下郎を一撃で吹き飛ばした。サラザールは紙鳶(しえん)のように軽々と外まで吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

「ユーノ君・・・!」

「ユーノ先生、どうしてここに!?」

思いもよらぬタイミングで現れたユーノに、なのは達は驚きを隠せない。ユーノは彼女達に一瞥を向け、冷静に「魔導虚(ホロウロギア)篇、第16話を参照」と、冗談めかした。

「んだテメーは!」

「死にてぇのか!」

ユーノを前に、震える手で銃を構えるギガデスの構成員達。

「撃ってみなよ。好きなだけ」

「何だぁ! 言われなくても撃つに決まってんだろ!!」

次の瞬間、異様な殺気を醸し出すユーノをこの世から逸早く消しさりたいと、構成員の一人が恐怖に駆られ、銃を乱発する。

「があああああ! 死ね! 死ね!」

しかし、銃弾はユーノに当たることなく、彼はまるで風のように身を翻して避け続ける。

「当たらない。当たらない。当たらない」

秒速数百メートルの弾丸を、ユーノはまるで風のように軽やかに躱していく。その姿は、構成員達にとって悪夢そのものだった。焦る敵の動きや薄弱な意志を冷静に見極め、さらに相手が撃つ瞬間の微細な呼吸と視線、向けられた腕と指の動き、そして殺気を読み取ることで、ユーノは精確に弾道を予測していた。

「ウワアアアアア!! バケモノだ!!!」

「バケモノで結構。お前らのような下種を狩る為に、敢えて狂気の怪物になったんだよ」

そう言うと、ユーノは弾が尽きた構成員の背後に瞬時に回り込み、ヘッドロックの体勢を取る。

「この身が抜けられないほど闇に堕ちているなど百も承知。ほら、絶望がお前のゴールだ」

刹那。ユーノは、白打をベースにした独自の技で相手の頸動脈を圧迫し、構成員を締め上げる。その瞬間、鈍い音が響き、構成員は意識を失い崩れ落ちた。

「くそ、何なんだよ一体・・・!」

「いや待てよ。まさか・・・・・・あの金糸の髪に女とも見間違える顔つき・・・・・・間違いねぇ。翡翠の魔導死神だ!!」

「はぁ!? なんだってそんな怪物がこんなところに来てるんだよ!?」

今さらになって、ギガデスの構成員達は、ようやく目の前の男の正体を理解し、恐怖に凍りついた。ユーノは冷徹な目で狼狽する彼らを見据え、静かに言う。

「決まってるだろ・・・・・・お前らみたいな外道を食らう為だよ」

まさに狂気の中で生きることを決めた怪物の目。日頃温和で人徳ある人物としての側面しか見ていないなのは達ですら、背筋に冷たいものを感じるほどだった。

「お、おい!! 一旦逃げるぞ!! こいつと真面にやり合って勝ち目なんてねー!!」

その圧倒的な威圧感に、ウルモフを始め構成員達は一瞬で戦意を失い、臆病風に吹かれると共に、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

ギガデス構成を追い払った直後だった。ユーノが振り返ると、なのはが涙ながらに彼に抱きついた。

「来てくれてありがとう、ユーノ君・・・・・・わたし怖かった・・・・・・!」

「ひどい目に遭ったね。来るのが遅くなってごめん、もう大丈夫だから」

ユーノはなのはの後頭部を優しく撫でながら、彼女を安心させようとした。フェイトも意識を取り戻し、みんながヴィヴィオ達の無事を心配する。

「ユーノ、子供たちは?」

「安心して。ヴィヴィオ達なら先に解放したよ。みんなも、早くここから避難するんだ」

「それで、ユーノ君はどうするの?」

メガーヌの問いに、ユーノは冷たい瞳の奥に煉獄の炎を宿すと、前方を見据えながら答える。

「僕はこのまま害虫駆除に向かいます。久しぶりにこの僕を怒らせたんだ・・・・・・奴らにたっぷりと絶望を味合わせてあげますよ」

 

           *

 

同時刻 ギガデスアジト兼武器秘密工場

 

「チキショー! チキショー、チキショー!」

ウルモフは机を叩き散らし、散乱したグラスや灰皿を床に投げつけていた。計画が狂ったことに対する恐怖と焦りで、彼の頭は混乱の極みに達していた。

「どこで計画が狂っちまったんだ!? よりにもよって翡翠の魔導死神が来るなんて・・・・・・俺らは終わりだ!!」

「落ち着け。まだ終わったわけじゃねー」

冷静に宥めたのは、ユーノに殴られた顔を氷嚢(ひょうのう)で冷やすサラザールだった。彼は、まだ自分達に有利な状況が残っていると主張した。

「こっちには千近い数の武器がある。しかもどれもこれも軍用向けだ。対する相手はたったの一人。いくらあの男も単身でどうこうできるわけが――」

言いかけた瞬間、アジト内にドーンという轟音が響き渡った。

驚いた全員が音のする方に駆けつけると、壁を突き破って侵入してきた人物の姿に、血の気が引いた。

「欲に塗れたドブネズミども。魔導死神が成敗しにきたよ♪」

現れたのは、冷ややかな笑みを浮かべるユーノだった。その手には武器一つ持たず、圧倒的な強者の風格を放っていた。全員はその威圧感に戦慄し、身動きを失った。

「うわああああああああああ!! う、動くな!! こっちには殺傷力抜群の質量兵器がこれだけあるんだ!! てめぇなんて一瞬で蜂の巣にしてやる!!」

ウルモフは虚勢を張り、構成員達と共に銃口をユーノに向けた。普通ならば、このような状況で恐怖に竦むはずだ。

しかし、ユーノは微動だにせず、逆に彼らに憐れみの目を向け、冷静に助言した。

「なら、僕も一つ君たちに忠告をしてあげるよ。これはとある死神が残した名言でね。大変正鵠を得ているんだ」

 

「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」

 

その言葉を告げたユーノの表情は、冷静かつ相手を見下すような冷笑だった。

「ぶち殺せぇぇぇ!!!」

ウルモフの号令と共に、構成員が一斉に機関銃のトリガーを引いた。だが、次の瞬間、ユーノの姿は消え、構成員達は返り討ちに遭っていた。

一瞬の出来事だった。先ほどまで遠くにいたはずのユーノが、瞬く間に彼らの制空圏に入り込み、素手でのみで悉く無力化していた。

「うそ・・・だろ・・・・・・」

サラザールが再度状況を確認した時には、既に殆どの構成員が倒れており、ユーノは一人仁王立ちしていた。

「今ので終わりか?」

ユーノは軽く肩を回し、物足りなそうにウルモフとサラザールに目を向け、冷ややかに呟いた。

後退りする二人に対し、ユーノは深い溜息を吐きながら、哀れみの眼差しを向け、一歩前に出る。

「やれやれ・・・・・・わざわざミッドチルダから四時間かけて遊びに来たっていうのに。仕方がない、今度は僕がもてなしてあげるよ」

そう言って、ユーノが指を鳴らした瞬間、ウルモフ達の足元に巨大な魔法陣が展開された。

「な・・・なんだこりゃ!?」

「心配いらない。ただの転移魔法さ。最高のステージへ誘う為のね」

不敵な笑みを浮かべながら、ユーノは魔法陣を発動させ、ギガデスの構成員達をある場所へ転移させた。

 

一方、ユーノによって無事に解放されたヴィヴィオ達はなのは達と合流を果たす。

「ママ―!!」

「ヴィヴィオ!! よかった、無事でいてくれて!!」

なのはとヴィヴィオは互いに無事であることに安堵し、嬉し涙を浮かべながら固く抱き合った。

「ユーノさんがフェレットさんの姿で助けてくれたんだよ!」

「そうだったんだ。何にしてもヴィヴィオが無事で本当に良かった・・・」

「尻尾をこうやって使ってですね・・・ドーンって、悪人の鼻を突き上げたんです!」

「あれマジで痛そうだったよな」

実際にその場に居合わせたコロナや他の子供達も、当時の状況を具(つぶさ)に大人達に伝えた。

「あの、そのユーノさんはどちらに?」

アインハルトが尋ねると、「多分あいつらのアジトに乗り込んだじゃないかな」と、フェイトが答える。

その時だった。キャロのケリュケイオンが強く反応した。

「転移反応! ユーノ先生の魔力です!」

反応が示した座標を即座に展開すると、ルーテシアが意外そうな表情を浮かべた。

「この方角は・・・・・・」

 

同じ頃、ユーノの転移魔法によってギガデス構成員がアジトから強制的に連れ出された。

「ててて・・・・・・なんだよここは!?」

尻もちをついたウルモフが辺りを見回す。そこは自然豊かなカルナージとは異なり、高層ビルが密集した都会的な風景が広がっていた。

「ようこそ、ギガデスの諸君」

するとその時、頭上からユーノの声が響く。全員が顔を上げると、ユーノはビルの屋上から彼らを見下ろしていた。

「ここはホテルアルピーノに建設された、ルーテシアお手製のレイヤー建造物による陸戦型の戦闘フィールドだ。どうだい? 派手にやるならいっそ広い場所の方がいいだろうと思ってね」

説明を終えると、ユーノはビルの屋上から飛び降り、構成員達にゆっくりと近づいた。

「さて、本来ならこういった場所で魔法技術に頼らない重火器等の武器の使用は禁じられているのだが。まぁでも、今回は僕が壊した分を補填するという事でルーテシアに掛け合うから多めに見てあげよう。僕も久しぶりに苛ついてるんだ。愛する女性を凌辱されそうになった挙句、その友人や幼気な子供達の楽しみを奪った人間の五体に刻んでやるんだ。この上ない苦痛と恐怖を」

ユーノが手を鳴らすと、全身からこれまでにないほどの殺気が放たれた。その瞬間、構成員達は身体中の毛が逆立ち、恐怖で全身が震えた。

「やべぇよ! こいつでマジでやべぇ!!」

「銃が効かねぇ奴と真面にやり合うなんてできるわけねぇ! ボス、逃げましょう!!」

「言われるまでもねぇ!!」

ウルモフを先頭に、構成員達は脱兎の如く慌てて逃げ出した。しかし、ユーノは敵前逃亡を許さなかった。

「おいおい、逃げないでくれよ。楽しくやろう」

そう言いながら、ユーノはゆっくりと右脚を大きく振り上げた。

ちょうどその時、ユーノの転移反応を追跡していたなのは達が現場に到着した。

「あ、ユーノさん!」

彼が何かをしようとしているのは明らかだったが、その意図を把握する前に、ユーノの右脚が地面に踵から叩きつけられた。

瞬間、フィールド全体に凄まじい衝撃と震動が広がった。その威力は尋常ではなく、地面は液状化現象のように揺れ、周囲のレイヤー建造物が次々と倒壊していく。

ギガデス構成員達は絶叫する間もなく、次々と建物の下敷きになっていった。

現場に駆けつけたなのは達も、このような事態を全く予想はしておらず、ユーノの怪力に全員の目が点になる。

「う・・・うっしょー・・・・・・」

「どこにそんな力が・・・・・・」

「ユーノ君って・・・・・・意外とワイルドなのねー・・・・・・」

メガーヌでさえ、現実逃避するかのように少しずれた感想を漏らしていた。

そんな周囲の反応を余所に、ユーノは瓦礫の中から姿を現したウルモフ達を凝視し、喝を入れる。

「情けないなー。ビビって逃げないで、男なら最後まで戦ってみせなさい」

「てめぇ・・・何様だよ!!」

満身創痍で激怒するウルモフに対し、ユーノは涼しい顔で「ま。少なくとも君らのお母さんではないかな?」と、言い返す。

「上等だぜ。やってやる、やってやろうじゃねーか!!」

「俺らも男だ。せっかくバケモンと一戦やれるんだ」

「いっちょ腕試しだ!」

その言葉が起爆剤となり、発奮したギガデス構成員達が次々と動き出す。その様子を見て、ユーノは少し感心した表情を浮かべた。

(ほう。意外と半グレの中にも度胸がある奴がいるもんだ・・・)

次の瞬間、構成員の一人がユーノに向かって攻撃を仕掛けた。

「おらぁ! 俺は元・格闘家だったんだ!」

武器を使っては勝ち目なしと踏んだのか、素手で勝負を挑んでくる。

まるで閃光のような拳だった。半グレとは言え男気ある攻撃を前に、ユーノもまたそれに応えてやろうと思った。

(いい拳だ。でも、ほんの一瞬肩の筋肉が締まる。その機微を一流は決して見逃さない)

ユーノは内心で呟きながら、眠るかのように心身ともに脱力し、そのまま境界線も無く、左の突きに対し右のカウンターをねじ込んだ。

「フン! 甘い!」

「グガアアア!」

タイミングは完璧だった。予備動作なしのカウンターで、元・格闘家の構成員は頬骨を完全に折られた。

「い、今のは!」

アインハルトが驚き、目を見開く。ユーノが繰り出した拳は、数時間前に自分達が川遊び中に練習していた『水斬り』を応用したものだった。

「次は俺じゃあ!!」

すると、今度は体格のしっかりした構成員が突進してきた。

(ほお。打撃は不利とみて組み付きにきたか)

口角を緩めると、ユーノは相手の動きを見極め、その身体をしっかりと掴んで制止する。

「スピードは及第点だけど、タックルがやや高いな」

「うお!」

赤子の手を捻るようにタックルを止められ、構成員の顔が青ざめる。

「格闘技経験があるようだが・・・実戦ではコレがある」

そう言うと、ユーノは脇を差し込み、カチあげてから自身の頭を躊躇なく相手の額に打ち付ける。

「ウッシャアアア!!」

「ガアアアア!!」

頭突きである。多くの格闘技で禁止されているが、実戦では効果的だ。

他を寄せ付けない圧倒的な強さを見せつけ、ユーノは次々と敵を制圧していった。その様子を見て驚くなのは達。一方、格闘技に熱中するヴィヴィオ達にとって、ユーノは憧憬の存在だった。

「す・・・すごーい! ユーノさんつよーい、つよーい!」

「まるで敵なしだ!!」

「魔法や剣術だけでなく、格闘技にも精通していているなんて・・・・・・」

「でも、頭突きって格闘技だと禁止ですよね?」

コロナの発言に、メガーヌがユーノの戦いを注意深く見ながら私見を述べる。

「実戦ならではの戦術ね。失敗が許されない命のやり取りの中で、彼は極限の強さを身に付けたのよ。あらゆる状況に対応できるよう、心・技・体のすべてを修めた。ゆえに、『翡翠の魔導死神』は次元世界最強ということよ」

メガーヌの言う通り、ユーノは、日々命を賭けた戦いを続け、自身と守るべき者たちの命を守るために死に物狂いで修練を積んできた。困知勉行、艱難辛苦の涯に――ユーノ・スクライアは、名実ともに最強の称号を手に入れたのだ。

 

「ウラアアア! 吹き飛べええ!」

だから、半グレが多少腕に覚えがあろうとも、その攻撃はユーノの目には鈍く見えるほどだ。

「そら、発勁(はっけい)だ」

ユーノは攻撃を回避しながら、中国武術に端を発する掌底を敵の胸部に打ち込んだ。軽く弾いたかのように見えたが、その瞬間、敵は異様な勢いで吹き飛んだ。

「ウゲェェェェェっ!?」

敵の体が宙に舞い、腹の中で何かが爆発するような感覚に襲われると共に、嘔吐物が口から溢れ出した。

「今のって・・・春光拳!?」

リオはユーノが使った技を目にし、自分の目を疑った。奇しくもそれは、彼女の故郷、ルーフェン発祥の武術・春光拳と酷似していたからだ。

「このヤロウ!! 地獄に送ってやるよぉ!!」

破れかぶれになった構成員が、倒壊したビルの残骸を武器にしてユーノに襲いかかる。

「生憎地獄は飽き飽きしてるんだ」

意味深長なことを呟くと同時だった。ユーノは敵の袖を引き、奥襟を変形的に掴んだ。そして、右足で払い上げた。

「グオオオオオオ!!」

敵は何が起きたか理解する間もなく、背負い投げのような技で投げ飛ばされ、激しい背中の痛みに悶えながら気絶した。

「これは幻の柔道技といわれる・・・『山嵐』だ。落とす角度によっては頸椎を破壊できる。あのポケモンの技にも採用されているんだ」

ユーノは瞬く間にギガデス構成員を次々と打ち倒していった。

「くそがぁぁ!! こんなところで終わってたまるか!!」

残るはボスであるウルモフとサラザールだけ。ウルモフは必死に小銃を取り出し、ユーノに向けたが、その手は震えていた。

「やれやれ。部下が捨て身の覚悟で挑んできたと思ったら・・・ボスは結局道具に頼るのか」

倒れていった構成員達を不憫に思いながら、ユーノは眼前のウルモフを冷ややかに見つめた。

「う・・・うるせぇ!! 何を使おうが勝てば一緒だろうが!!」

「わかってないな」

ウルモフが引き金を引いた刹那――銃が「ボン」と音を立てて暴発した。

「う・・・・・・があああああああああ!!!」

ウルモフは何が起きたのか理解できず、苦痛に悶えた。ユーノは近づき、指で弾いた礫(つぶて)を見せる。撃鉄が下りる直前、正確に銃口に撃ち込んで内部で爆発させたのだ。

「指弾(しだん)ですって!?」

メガーヌは思わず驚愕した。かなり珍しい技術であり、それをユーノが使いこなしていることに衝撃を受けたのだ。

「勝つ? 誰が、誰に? お前みたいな卑怯者が僕に勝とうなんて・・・一万年早い」

強者の貫禄を見せつけると、ウルモフは完全に抵抗する力を失った。

「さて、最後はお前だな」

禽獣の如くユーノの視線は、すべての元凶といえる禍根の象徴たる男・サラザールに向けられる。

「く・・・来るなぁ!! 来るなぁ!!」

絶対零度の殺気を纏って一歩、また一歩と近づくユーノに、サラザールは恐怖し後退する。

「機動六課、もとい翡翠の魔導死神に弓引くとは調子に乗ったな・・・・・・なのはに手をかけようとしたお前の罪は重い。今から、強烈なお灸を据えてやる」

「うう、わかった! 俺が悪かった! だから頼む・・・・・・!!」

必死の命乞いも、その醜態が逆にユーノの怒りをさらに煽った。そして、ユーノの沸点は今まさに最高潮に達する。

「謝れば許してもらえるとでも? それが通用するのは、幼稚園児までだ」

直後、ユーノの右腕に高濃度の霊子が集まり、渦を巻く。その勢いで右腕から肩にかけての衣服が吹き飛んだ。

「全力で歯を食いしばれ。この一撃は、楽しい旅行を台無しにされたなのは達全員と、僕個人のお前への怒りだ」

一際低く凄むような声を放ったその瞬間、

 

「――部分瞬閧(ぶぶんしゅんこう)――」

 

ユーノは、瞬神の異名を持つ四楓院夜一との過酷な修行で会得した白打と鬼道の合わせ技にして、その奥義たる技術を炸裂させ、サラザールの顔面を正確に撃ち抜いた。

「ぐおおおおおおおおおお・・・・・」

顔面が陥没する感触と共に、サラザールは軽々と吹き飛び、レイヤービル群に衝突。次々にビルを倒し、十本目に到達したところでようやく止まった。

「い・・・今のは・・・・・・」

「す・・・・・・凄まじい・・・・・・!」

想像を絶する一撃だった。なのは達は、ユーノの理不尽とも思える容赦のない攻撃に圧倒され、全員が声を詰まらせた。

 

翡翠の魔導死神の怒りを買った半グレ集団「ギガデス」は、敢えなく壊滅した。

ユーノからの連絡を受けたはやて達が広域次元指名手配犯サラザールを含む全員を捕縛し、カルナージには再び平和が戻った。

「ユーノさん、ほんとうにありがとうございます!」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」

ヴィヴィオ達は窮地を救ってくれたユーノに心からの感謝を述べ、深々と頭を下げた。

「お礼には及ばないよ。せっかくの楽しい旅行を台無しにされたんだ。あれくらいやっても罰は当たらないよ」

先ほどの冷たい雰囲気は鳴りを潜め、ユーノは温和な顔で微笑んだ。

「でも、ユーノ君が来てくれて本当に良かった。ありがとう、いつも助けてくれて」

なのはは頬を桃色に染め、感謝の気持ちを伝えた。ユーノもその笑顔に見とれ、照れくさそうに頬を掻いて誤魔化した。

「あの!」

すると突然、ヴィヴィオがなのはとユーノの間に割り込んできた。

「まだ時間ありますか? せっかくですから、ユーノさんもこのあと一緒にご飯食べていきませんか?」

「え、でも僕は・・・」

せっかくの休暇を邪魔しちゃ悪いと思い、ユーノはやんわりと断ろうとした。しかし、メガーヌが彼の考えを察し、先回りして話を進めた。

「つれないこと言わないでちょうだいね。子供たちは元より、みんなあなたにお礼をしたいと言う思いは一緒なんだから」

「ささ、ユーノさん! こっちです!」

メガーヌの助け舟もあり、ヴィヴィオは屈託のない笑みでユーノの手を半ば強引に引っ張った。

「うおおお!?」

ヴィヴィオに連れられるユーノの後を追って、コロナ達も楽しそうに駆け寄ってきた。

「ユーノさん、あのすごい技どうやったんですか!?」

「ストライクアーツやってたんですか? 動きに無駄が無くてびっくりです!」

「まさか春光拳使えるなんてビックリですー!」

戸惑いながらも、子供達から絶大な評価を受けるユーノの姿は、誰が見ても微笑ましかった。

「ユーノ。すっかり子供たちのヒーローだね」

「うん。ユーノ君も、満更でもなさそう」

遠目から見ていたなのはは、子供達との触れ合いの中で、ここ最近張り詰めていたユーノの表情が和らいでいるのを感じた。何より、ヴィヴィオ達の笑顔を守れたという事実が、今の彼にとって最高の褒美だった。

(ま。たまにはいいか――こういうのも)

 

 

 

 

 

 

短編:覇王VS翡翠の魔導死神

 

新歴079年 7月下旬

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎

 

昼下がり、学校を終えたヴィヴィオ達が機動六課を訪れた。

「こんにちはー」

「「「「お邪魔しまーす!」」」」

「お邪魔します・・・」

元気な初等科の子供達に混じり、中等部のアインハルトはやや緊張しながら静かに挨拶する。

「いらっしゃい、みんな。ようこそ機動六課へ」

なのはを始め、前線メンバーは温かく迎え入れた。

「ママ、今日はわがまま聞いてくれてありがとう」

「これくらいどうってことないよ。それよりアインハルトちゃん、今日はユーノ君にどんな用事なの?」

「はい・・・・・・実は・・・・・・」

アインハルトは決意の籠った瞳で、胸に秘めた願いを語り始めた。

 

「えっと。ごめん、もう一度いいかな?」

ユーノはアインハルトから告げられた言葉に耳を疑った。

冗談かと思い恐る恐る聞き返すと、アインハルトは真剣な眼差しで再び伝えた。

「ユーノさん、どうか私と手合わせしていただけないでしょうか?」

端的に言えば、アインハルトはユーノと試合がしたいと言ってきたのだ。困惑したユーノはなのはを呼び寄せ、事情を聞くことにした。

「なのは、ちょっとこっちに」

アインハルトから少し距離を置き、ユーノはなのはに小声で尋ねる。

「一体どういうことか、きちんと説明してくれるかい?」

「えっと・・・・・・この前のカルナージでの一件で、ユーノ君の活躍を見たアインハルトちゃんがね、どうしてもユーノ君と戦う機会がほしいってヴィヴィオに言ったみたいなの。ヴィヴィオはそれを聞いてものすごく嬉しくなって、それで・・・・・・」

「で、娘の願いを聞き入れてしまった、と」

「ごめんね、ユーノ君の事情も考えずに・・・軽率だったよね」

なのはは猛省し、謝罪する。ユーノは期待と不安の表情でこちらを見つめるアインハルトを一瞥し、やがて溜息を吐いて口を開いた。

「ま、今さら無下に断れる雰囲気でもないし。何よりあんな純粋な瞳で訴えて来られると、ね・・・・・・」

ユーノもまたなのはに対して甘い節があり、結局のところ今回は折れる事にした。

 

そして、急遽組まれた模擬試合。戦闘装束に身を包んだアインハルトは、ユーノと向き合い感謝を述べた。

「この度は胸を借りる機会を下さり、ありがとうございます。ご迷惑をおかけしていることは重々承知しております。ですが、私は知りたい。次元世界最強の翡翠の魔導死神の強さに、今の私の・・・覇王流がどこまで通用するのか」

そう言うと、彼女は闘気を纏い、覇王流の後継者としての風格を漂わせた。

(いい顔つきだ。さすがは『覇王』イングヴァルドの子孫――しかし、以前とはまるで違うな。強さだけに固執し孤独に戦っていた頃とは比べ物にならない。ただ、負けん気の強さだけは相も変わらず滲み出ている)

一度は、強さを渇望した果てに魔導虚(ホロウロギア)となったアインハルトだが、今ではすっかりヴィヴィオ達とも打ち解け、共に切磋琢磨する様は、嘗ての彼女からは考えられない。

ユーノは、一皮剝けたアインハルトを観察しながら自然と口元を緩める。

(誰に影響されたか、以前よりも澄んだ瞳になってるじゃないか)

ユーノは微笑みながら、アインハルトとそんな彼女を遠くから心配そうに見守るヴィヴィオの方を一瞥する。

「――君の覚悟は痛いほど伝わった。いいだろう、望みを叶えてあげよう」

アインハルトの覚悟が伝わった瞬間、周囲には緊張が走った。

(若手の鼻っ柱をへし折るのも先達の役目か。正直、僕には荷が重いよ)

ふとユーノの脳裏に蘇る光景。四年前、一護の元で修行していた頃の自分を思い出しながら、ユーノは覚悟を決めた。

「かかってきなよ。少しばかり稽古をつけてあげよう」

ユーノの空気がひりつくほどの殺気が放たれた瞬間、アインハルトは全身に冷や汗をかいた。

(すごい威圧感・・・体中の細胞が震えあがっている!)

先日の合宿で行ったなのはとの模擬試合とは比べ物にならない緊張感が全身を包み込む。

(本能で分かる。この人には勝てない。今すぐ逃げ出したい。でも・・・・・・ここまできて後ずさるわけにはいかない!)

それでも、肚を括るしかない。たとえ相手がどれほどの力を持っていようとも、覇王の血がアインハルトに語りかける。

“最後までその地に足を付けて戦え”と――・・・・・・。

 

「参ります・・・」

深呼吸し、静かにそう呟いた瞬間、アインハルトは猛獣のようにユーノへ突進する。怯むことなく覇王流の型で攻め込む。

(なるほど。吉良さんの報告通り、肝が据わっている・・・そしてその速度も並々ではない)

「覇王流空破断!!」

アインハルトの拳が強烈な衝撃波と共に飛び出す。女子中学生とは思えないパワーに、ユーノは感心した笑みを浮かべた。

「いい踏み込みだ。勇気もある。並みの戦闘者なら体が硬直するだろうが」

そう言いながら当たる直前、ユーノは目を閉じ、ヘッドスリップで攻撃を避ける。

「うそっー!」

「目を瞑ったままアインハルトさんの攻撃を避けるなんて!?」

「あいつの得意技だ。俺も一度弄ばれたからな」

驚くヴィヴィオ達の横で、恋次が自分の経験を語る。

その後もユーノは、最小限の動きでアインハルトの攻撃を躱し続ける。

(一発も当たらない・・・どころか、掠りもしない! 自ら視界を封じていながら、まるで見えているかのようにすべて的確に躱してくる・・・! 私の覇王流が届かない・・・!)

徐々に体力を奪われ、焦りが募るアインハルト。だが、後退はしない。覇王流を名乗る者として、自分の力を証明しようと鼓舞し続けた。

(このまま攻撃を続ければ――)

徹底して回避に徹しているユーノと、対照的に攻勢に傾倒するアインハルト。

「ハアア!」

うつ、打つ、撃つ。

何度躱されても、攻撃の手を緩めない。その愚直さに、ユーノは口角を緩める。

(決して怯むことなく向かってくるその心意気は見事。だが己を鼓舞しないと動けぬようではまだまだ甘い――それは己が冷静でないと言っているも同然だ)

刹那、ユーノは不意に右手を突き出し、強烈な光魔法を放った。

「なあっ?!」

突然の閃光は、完全にアインハルトの虚を突いた。

(だからこそ視野も狭くなり、こんな単純な手に引っかかる)

強烈な光で目が眩んだアインハルトは対応が遅れる。

「アインハルトちゃん。最初のアドバイスだ」

言うと、ユーノは左足を大きく振り上げ、アインハルトの顎を突き上げる。

「振りが大きい。フィストはもっとコンパクトにしないと、カウンターが取り放題だ」

「ぐごおおお!」

凄まじいハイキックにアインハルトはまともに攻撃を受ける。

「そら。後ろも足元もガラ空きだ」

「ぐおおおおおっ?!」

格上を相手にするならば勢いに任せるだけではいけない。そう言わんばかりに、ユーノの蹴手繰りがアインハルトを襲い、立て直す暇も与えない。

「僕はね、自分に挑む相手には基本的に敬意を表する事にしているんだ。だから、相手や理由で手を抜くような真似はしない」

次の瞬間、まるで暴風雨のような連撃がアインハルトを襲った。

「そらそらそらそら!」

「ぐがああああああっ?!」

一発一発が意識を刈り取るような重さ。アインハルトは、これまで経験したことのない痛みに襲われた。

(がああ! 牙山(がざん)を取ることさえ許されないなんて!)

防御の暇すらなく、ユーノの攻撃がアインハルトを捉え続ける。それでも、彼女の心は折れなかった。

(でも、せめて一発くらいは入れる!!)

しかし、痛みをこらえ、ユーノに左頬を殴られた瞬間――そのまま拳を返した。

(大した精神力と根性、そして打たれ強さだ・・・これが覇王流の真骨頂か)

「デヤアアアア」

これまで以上のパワーで放たれた拳。しかし、ユーノは冷静にその動きを見極め、横へと身を躱した。

「素晴らしい破壊力だ。速力も申し分ない・・・だが、予備動作がある。惜しいが僕には当たらないよ」

アインハルトの拳は掠りもしない。ユーノは左手を前に差し出し、彼女に語りかける。

(打たれ強さの鍛錬で一発もらってもいいけど勘違いは成長を阻害する)

心中独白しながら、ユーノはおもむろに左手をアインハルトの前に差し出した。

「第二のアドバイスだ。戦闘とは力だけではない。君には合気を見せてやろう」

ユーノはアインハルトの力を利用し、彼女の攻撃をそのまま跳ね返す。

「そら。自分のパワーがそのまま返ってくる・・・大きい力ほど利用されると危険だ」

「なあああああ!」

アインハルトは自分の力が逆流し、地面に打ち付けられた。咄嗟に後頭部に手を入れ、辛うじて衝撃を和らげる。

 

「す・・・すげぇ! まじで強すぎるぜユーノさん!」

「あのアインハルトさんが弄ばれてる!?」

「前から思ったんだけど、ユーノって格闘技経験あったんだ」

ヴィヴィオ達は驚愕の声を漏らし、フェイトもその実力に感嘆していた。すると、金太郎が彼の過去の訓練について語り出す。

「ボクシング、空手、柔道、サンボ、エスクリマ、クラブマガなど・・・・・・この数年、店長は様々な国に伝わる武術の書籍を読み漁り、知識を蓄えると共に、道場やジムで徹底的に訓練をしています。いかなる状況・・・魔法や死神の力が及ばない相手だろうと対処できるように」

その言葉を聞いた瞬間、なのは達は挙って耳を疑った。ユーノが積み重ねてきた努力と訓練は、最早狂気の沙汰にも等しい苛烈極まりないものだったからだ。

 

一方、ユーノは冷静な眼差しでアインハルトを見つめ、厳しい言葉を投げかける。

「打つタイミングが丸わかりではあらゆるカウンターをもらってしまう。フェイント・細かいパンチなどを加えないと達人には当たらない」

「うぅぅ・・・・・・」

「君を心から慕っているヴィヴィオ、彼女がカウンターヒッターとして成長すれば、今ぐらいのことは容易くやってのける。彼女の成長が先か、それとも君の成長が先か、見ものだね」

ユーノはヴィヴィオが持つカウンターヒッターとしての才能に気づいていた。

彼女の類稀な観察力と動体視力が、のちに「神眼(しんがん)」と呼ばれる才能に繋がることを察していたのだ。

(さて・・・今ので大体のことは分かったが、彼女の潜在能力を引き出すにはどうするか。せっかくの機会だ。ここは一つイベント的にやってみるか・・・)

ユーノは思案を巡らせ、アインハルトに強いプレッシャーをかける。

「アインハルト。次元世界は広い。君は自身の力を少々過信している。そんな力で覇王流を名乗れるとでも思っているのか?」

「う・・・」

「もう覇道など諦めろ。無謀な人間は早死にする」

その瞬間、アインハルトは古代ベルカの戦場にいるような錯覚に陥った。目の前に立つ男――ユーノは、自分と同じ「王」に値する存在だ。だが、その実力と威圧感は桁外れだった。彼女は冷や汗を流し、体が硬直してしまう。

「覇王の強さはそんなものじゃないだろう? 弱い者を守りたくば・・・そして自らも死にたくなかったら・・・本当のフルパワーで来い、アインハルト」

ユーノの言葉が彼女の中に眠る力を引き出す。

次の瞬間、アインハルトの体から凄まじい魔力が溢れ出した。

「――わかりました。ならば、私の全身全霊の一撃をあなたに打ち込みます!」

(なるほど。覇王流への矜持と死への危機感がやはり彼女のトリガーか)

狙い通り、彼女の本気を引き出すことに成功したユーノは、内心ほくそ笑む。

(せっかくの機会だ。このパンチ、一発体感してみようか。今回は僕の稽古も兼ねてもいいだろう)

次の瞬間、アインハルトが倍速に見えるほどの速さで踏み込んできた。

「今度は捕らえました!」

(ほう。最早別人に近いな)

アインハルトの拳の軌道が見えるが、ユーノは敢えてその剛拳を受け止める決断をした。

「これが私の全力です! 覇王断空拳!!」

左腕で受け止めた瞬間、衝撃がユーノの全身を駆け巡った。

「おぉおおおおおおおお!」

ガードしているにもかかわらず、彼の体は宙を舞う。

(これはすごい。茶渡さんにも教えてあげたいくらいだ)

久々の高揚感を覚えつつ、ユーノはアインハルトの潜在能力に感服する。

(残念ながら、これはまともに受けていられない)

瞬時に判断し、ユーノは完全に脱力しながら回転して衝撃を受け流した。

「ハッ!」

踏ん張っていたら腕の一本は持っていかれたかもしれない。内心そう思いながら、驚くアインハルトに向けて声をかける。

「素晴らしいパンチだ。規格外とはこのことだね」

(どういうこと・・・まるで綿を殴ったみたいに手応えがない)

手加減など一切しなかった。全力で放ったはずの一撃が、ユーノにはまるで効いていない。アインハルトはショックで言葉を失った。

「どうしたんだい? もう打つ手なしかい?」

(一体どうすればいいの。攻略の糸口すらない)

ユーノの実力は間違いなく次元世界最強レベル。そんな相手に一泡吹かせる手を必死に思案し、彼女が辿り着いた答えは――

「仕方ありません。あまり好きなスタイルではないのですが、もうこれしかありません」

そう言うと、アインハルトはボクシングのようにコンパクトに構えた。

「はああああああああ」

刹那、最短距離を突く閃光のようなジャブがユーノに向かう。

(ほう・・・なるほど。たしかに彼女のパワーならジャブでも大砲並みだな。できるじゃないか)

咄嗟に考え付いた攻撃としては上出来だと思った。

(だが構えた時点でジャブは想定内だ)

直後、ジャブの動きを見切ったユーノは、アインハルトの左頬に正確なカウンターを放つ。

「読まれてしまえば、スピードの意味もない」

「ぐおおおおっ?!」

(なんという絶妙なタイミング!)

「防御が疎かだ」

(荒療治だが一度厳しい攻めを体感してもらおう。実力者相手に攻撃をもらいすぎてはいけないからな)

アインハルトの成長を期待しつつ、ユーノは一連の連撃を繰り出す。

「タフさなどに頼るな! 格上と戦えば死ぬだけだ!」

「ぐがああああああっ?!」

手厳しい言葉と共に急所を狙う拳が、次々とアインハルトを襲う。人中、喉、眼球と、耐久力では防ぎきれない場所ばかりだ。

「まだ!」

辛うじて足掻くアインハルトの拳を、ユーノはバインディングシールドで捕縛する。

(この捕獲術は、なのはさんとの模擬戦で・・・・・・だけどこの技の攻略法なら!)

すると、アインハルトは脱力した静止状態となる。さらに足先から下半身へ、下半身から上半身へ全身を使った威力を炸裂させる力の運用を行う。

この加速と炸裂拳を調整する打ち方を極めた時、シールドもバインドも意味を為さなくなる。技名を『繋がれぬ拳(アンチェインナックル)』と言う。

「?!?」

だが、アインハルトは違和感を覚える。力を炸裂させようとしても、拳が回転しない。よく見ると、ユーノのバインドは微動だにしていない。

「残念だけど、君ではそれは解けない」

ユーノはアインハルトの動揺を見透かし、彼女に冷静に説明する。

「自慢じゃないが、なのはにバインド系魔法を教えたのは僕だ――師弟の魔法では練度も精度も全く違う。『繋がれぬ拳(アンチェインナックル)』は強力な武器だ。だからこそ、それを発動させない策を講じていないはずはないだろ?」

「な・・・・・・っ」

その言葉に、アインハルトの表情が凍りつく。ユーノは戦う前から、彼女の攻撃手段をすべて知り尽くしていたのだ。

(戦ってみてわかったよ・・・)

ユーノは確信し、彼女の懐に飛び込む。

「バインドで拘束されているとはいえ、顎が跳ね上がれば懐をとられるよ」

(ぐうううう! この私がほぼ何もできない!)

「腹を固めるんだ」

言うと、ユーノは右手の指先で彼女の腹にトンと触れる。そして――

「破ァアアアアアア!!」

「ぐうううううううう!」

アインハルトの腹の中で何かが爆発したような衝撃が襲い、そのまま全身を吹き飛ばした。そのままレイヤービルの壁にぶち当たったアインハルトは困惑する。

(なに・・・いまの・・・・・・!?)

驚き、狼狽するアインハルトに対し、なのはが試合終了の合図を出す。

「はーい! そこまでー!」

ユーノはゆっくりと彼女に歩み寄り、手を差し伸べた。

「大丈夫かい?」

「はい・・・・・・」

満身創痍の体に鞭を打ち、アインハルトは手を借りて立ち上がり、先ほどの技について尋ねた。

「あの・・・・・・今のは?」

「ワンインチパンチだよ。截拳道 (ジークンドー)と呼ばれる地球由来の武術で長く使われる技法だ。わずか指一本の空間さえあれば人を打倒し、吹き飛ばせるほどのパワーを出せるんだ」

「っ・・・ありがとうございました」

(なにもできなかった・・・)

アインハルトは、ユーノに手も足も出なかった。彼女は覇王の血筋として、生まれて初めて無力感を味わった。

「全体的な所感だけど・・・パワーにスピード、技のテクニックは申し分なし。反面視野が狭い。常に冷静に周囲を観察するんだ。加えて拳の振りはコンパクトに」

「はい・・・痛感しました」

ユーノは少し手荒になったことを悔やみつつも、アインハルトなら乗り越えられると信じていた。

「そして、君の覇王流に足りないのは圧倒的な『力』だ」

「え」

聞いた瞬間、彼女は目を丸くした。

当然と言えば当然だ。覇王流の真髄は他を圧倒する「力」であり、それを極める為にアインハルトはずっと修行をしていたのだから。だからこそ、「力」が足りないというユーノの指摘には心底驚いた。

「さっき見せたワンインチパンチ・・・これには無限の可能性を秘めている。極めれば、間違いなく僕など遥かに凌ぐ威力となる」

そう言うと、ユーノは微笑み、彼女に励ましの言葉を送った。

「覇王流の真髄はこの程度じゃない。志を高く持つ仲間とともに、練磨に励むんだ。そうすれば道は開かれる」

「はい――・・・・・・」

アインハルト・ストラトスは、深々とユーノに首を垂れる。

そして、彼の教えを胸に秘めると目指すべき覇王流の深淵に辿り着くべく、決意を新たに歩みだすことを誓った。

 

 

 

 

 

 

おわり




登場人物
サラザール
声:黒田崇矢
反管理局思想を掲げ、異世界に大量の質量兵器を流していた広域次元指名手配犯の武器商人。新興半グレ集団「ギガデス」と結託し、逃亡生活を送りながらも組織を通じて勢力を拡大していた
最終的には現場に駆け付けたユーノの怒りを買い、「部分瞬閧」による制裁を受けて敗北。その後、機動六課メンバーに引き渡され、身柄を拘束された。
ウルモフ
声:中井和哉
サラザールを匿う半グレ集団「ギガデス」のボス。
ヴィヴィオやなのは達一行を人質に取って管理局への交渉材料にしようとした。しかし、ユーノが助けに現れると、部下達と共に大量生産した銃で対抗を試みるも、その圧倒的な力の前に敗北。組織は壊滅し、サラザールと共に制裁を受ける結果となった
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