ユーノ・スクライア外伝 PARALLEL STORY   作:重要大事

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第14.5話「数奇の兎」

 戦場とは常に無数の狂気と同じだけの悲しみが渦巻いている。

 そんな無数の感情によって引き起こされる不毛な戦いに何の意味があるというのか。

 

 少なくとも、私は決して英雄でも守護者などでもない。

 私は・・・・・・ただの人殺しに過ぎなかった。この手で壊す事しかできない愚かで救いようのない男でしかなかった。

 

           ≡

 

数年前―――

とある異世界 とある王国・宮殿

 

「いやよ! あなたと一緒じゃないと・・・いや」

 それは、命を賭した叫びにも聞こえた。

「お願いだから一緒に逃げましょう・・・!」

 屈強で肩幅が二倍近くもある護衛役の男に支えられながら、金髪の美女はすすり泣くような声をあげ続ける。

 美女の口から吐き出されるのは、共存を求める叫び。クーデターによって攻撃を受ける宮殿からの脱出を求める純粋な願いだ。

 しかし護衛の男はそれに耳を貸すことなく、胸元で咽び泣く美女に対して口元を緩め、おもむろに答える。

「私はあなたの父上に雇われたボディーガードです。あなたの父上は王として最後までここに残るという。私が逃げる訳にはいかないのです」

「!」

 その美女―――ジェニーは王宮の王女であり、彼女は数週間前に王である父が雇い入れた護衛役の大男・熊谷金太郎に恋をしていた。

 だからこそ失いたくなかった。たとえ全てを投げ打ってでも彼だけは生きていてほしい―――(こいねが)った末の嘆願も徒労だと一瞬にして解らされた。

 ジェニーは強い覚悟を以って王宮に残ることを決めた金太郎から全てを感じ取り、何を言ったところで無駄であることを理解する。

 

 やがて、激しさを増す攻防の最中、王宮の外に一台のジープが着く。

 ジープに搭乗していた傭兵の男―――ライアットは、切羽詰った表情で建物の中に残っている金太郎へと呼びかける。

「急げG! 反乱軍が1キロに迫ってる!」

 呼びかけた直後、二階のベランダから女性物のスーツケースが降って来た。

 慌てて受け止めるライアット。見上げれば、金太郎が真剣な眼差しで呼びかける。

「―――彼女を頼んだぞ」

 最早一刻の猶予も無い。

 後の事はライアットにすべて託し、自分は宮殿に残り、その役目を全うする。

 ジェニーの輝ける未来を信じ、その背中を押す事こそ与えられた己の責務であると信じて―――。

「さぁ、ゆかれよ」

 言った直後、唇にぷるんと柔らかい何かが僅かに触れた。

 目の前には涙腺が崩壊したジェニーがじっと見つめていた。若干だが吃驚する金太郎に、ジェニーは去り際にひと言。

「死なないで・・・・・・」―――そう呟いた。

 

 

 

 戦場で死ぬのは、私達の筈だった。

 戦場ではよくある話だ。死ななくてもいい人間が死んでしまうなどと言う事は。

 もし、あのときジープに爆薬が積んでいなければ・・・。同盟国の支援がもう少し早ければ・・・。

 言い出したらキリが無い。

 

 結局、彼女を守り切れなかった私自身が最も罪深い男なのだ・・・・・・・・・・・・。

 

           ◇

 

新暦079年 5月5日

第97管理外世界「地球」

東京都 松前町 スクライア商店

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・き・・・・・・ん・・・・・・

 ・・・・・・たろ・・・・・・

 ・・・・・・きんたろう・・・・・・

 

―――「金太郎!」

 

「む・・・・・・」

 金太郎は女性とも聞き間違える男の声で目を醒ました。

「ようやく起きたか。ずいぶん寝入ってたみたいだね」

 むっくり体を起こすと、自分よりも二十歳も若い優男―――ユーノ・スクライアの和らいだ表情を見た。

「・・・・・・申し訳ありません店長。勤務中に爆睡してしまうとは。この不始末は割腹にてお詫びを」

「いやいや!! しなくていいよ! 任侠映画じゃないんだから!」

 寝起きに何を言い出すのかと思いきや、実に剣呑(けんのん)とした話である。

 慌てて制止を求めるユーノの声がやけに必死そうだったが、金太郎は依然として不満そうに言及する。

「しかしそれでは私の気がすみません。ならばせめてここは、私のケツを思い切り蹴ってください! この豚野郎と叫びながら!!」

「僕にそんな趣味は無いしする気も無い! とにかく一旦落ち着け!」

 切腹から一転してマゾヒズムに満ち溢れた中年男の性癖を暴露され、ユーノはもう訳がわからなかった。

 何とか金太郎を落ち着かせたユーノの表情は疲労一色だった。

 金太郎は眼鏡の位置を微調整してから、おもむろに先ほどまで見ていた夢について語り出す。

「・・・・・・昔の夢を見ておりました。スクライア商店(ここ)へ来る前、傭兵として世界各地を転々としていた頃の出来事です」

「そっか・・・・・・改めて思うけど、金太郎の経歴は波乱万丈の一言に尽きるよね。元・管理局本局の名誉元帥を務めたほどの男が、フリーの傭兵を経て、今じゃ駄菓子屋の店員やってるんだから」

「あなたに出遭わなければ今の私はありません。私の中での店長への恩義は計り知れません」

「恩義か・・・。金太郎らしいと言えばらしいけど、あんまり堅苦しく考えないで普通に接してくれればそれでいいんだけどね」

「であれば、ここはコミュニケーションの一環として――――――」

 すると、金太郎は再び人一倍固いのが自慢の臀部(でんぶ)を強調するようにユーノの前へと突き出した。

「さぁ店長ぉ、存分にこの私のケツを蹴ってくだされ!! よろしければオプションで鞭やロウソクを付けてもらっても構いません!!」

「だからそれはしないって言っただろう!! ええいめんどくさい!! 居眠りにしてた罰に3丁目の木村さんの家まで配達にでも行ってろ!!」

 柄にもなく大声をあげ怒鳴りつけたユーノの心境は、一重に「めんどくさい」―――この一言に尽きるのであった。

 

 配達を終え、帰路に就く途中、金太郎は何年振りとも言えるタイミングで見た夢の内容に一抹の不安を感じていた。

(今さらあのときの夢を見るなど・・・・・・これは何か災いの予兆なのか)

 決まってこの手の夢を見ると碌な事が起こらない。ある意味で夢は吉凶禍福を占う人間が本能的に備え持つ予言能力である。

 その予言が今、金太郎に天啓を告げようとしていた。考えれば考えるほどに言い知れぬ不安や恐怖、ざわめきが精神を侵そうとする。

「・・・・・・ジェニー・・・・・・私は・・・・・・・・・―――」

 嘗ての任務で守り切れなかった女性の名を口にした瞬間、それは起こった。

「!?」

 刹那、金太郎の瞳に突如―――空から勢いよく降ってくる落下物が飛び込んだ。

「何だ?」

 こんな真昼に隕石でも降って来たのか。いずれにしても穏やかではない状況に金太郎は慌てて落下現場へと向かう。

 

 落下した位置を割り出した金太郎が辿り着いたのは、隣町にあるごく一般的な月極駐車場だった。

「この辺りのはずだが・・・・・・」

 おもむろに辺りを散策しようと駐車場の中へ入った途端―――

「ぬおおおおお!!!」

 何かに躓き、バランスを崩して前に倒れそうになった。

 咄嗟に受け身を取ったので事なきを得た金太郎は、おもむろに後ろを振り返る。

 すると、駐車場の真ん中にポツンとボロキレに(くる)まった何かが放置されていた。

 まさかな・・・・・・。内心ドキドキしながら、恐る恐るボロキレを捲りあげると-――年端もいかない人の姿をしたウサギの顔を持つ少女が倒れていた。

「なんだ・・・・・・これは・・・・・・? 人なのか? 動物なのか?」

 四十数年生きてきた中で、一度たりとも遭遇した事の無い人間とも動物ともつかない珍妙な存在を前に、金太郎はただただ刮目する。

「うぅ・・・・・・」

 そんな折、ボロキレに包まれたウサギ顔の少女の弱り切った声色が耳に飛び込む。

 一大事と判断した金太郎は、矢も盾もたまらず少女を抱きかかえ、ある場所へと向かうのだった

 

           *

 

空座町 南川瀬 クロサキ医院

 

「って・・・なんだよこれ?」

 黒崎一護はリアクションに困り果てていた。

 午後の診療もひと段落つき、ぼちぼち仕事を終えようとしていた砌―――突如として押しかけた金太郎が持ち込んだ謎の患者。

 人とも動物とも言えぬ奇天烈な生物を見せられる中、金太郎は眼鏡の位置を微調整してから一言

「ウサギです―――」と、呟いた。

「ウサギです、じゃねえよ! 真顔で何言ってんだよおまえ!?」

「怪我をしているようなので近くの病院へ搬送致しました」

「うちは人間の患者専門だ!! 動物病院なら他当たれよ!!」

「でもこの子・・・人間のような動物のような・・・・・・パッと見判断つかないよ」

 居合わせた織姫も困惑しながら、ベッドの上で疲労困憊の様子で眠るウサギ顔の少女を心配そうに見つめる。

「ならばこそ一護殿です」

「何んだよその困ったら俺ん家みたいな理屈は!? うちは面倒事を一手に担う何でも屋じゃねえ! 大体こういうのは真っ先にオメーんのところの店長に診てもらうのが筋だろうが!!」

「おお!! これはこれは・・・盲点でしたな」

「盲点でしたじゃねえよ!」

 わざとらしく手をポンと、叩いて見せた仕草が何とも腹立たしくてならなかった。

 

 数十分後―――。

 金太郎からの呼び出しを受けたユーノは、一護の家に着くなり、早速謎のウサギ顔の少女を診察し始めた。

 店から持ち込んだ特殊な精密機器や魔法を駆使して少女の身体を丹念に調べ上げ、そこから得られたデータを吟味し、眉間に皺を寄せる。

「どうですかユーノさん? 何か分かりましたか?」

 様子を見守っていた織姫がおもむろに問いかけると、ユーノは口を開き語り出す。

「ん~~~・・・実に興味深いですね。特にこの四肢の形はまさしく人間とそっくり。いや、人間そのものです!」

「確かに人間と遜色ねーよな。一応同じ哺乳類だし応急処置はしといたが・・・結局のところ、そいつは人間なのか? それとも?」

 医者である一護でも明確な判断や切り分けが難しかった。

 分析の結果得られたデータより、ユーノはある推測について言及する。

「セリアンスロゥプ、所謂“獣人”と言わざるを得ないですね。人間とも動物とも異なる亜人―――それがこの子の正体です」

「亜人って・・・そんなものが本当にいるか!?」

 フィクションや漫画の世界ならともかく、現実にはあり得ないような話に一護や織姫は終始驚愕する。

「動物は種類によって指の数も(ひづめ)の割れ方も違います。なのに・・・この通り指は五本あって、脚は人間と同じ直立二足歩行ができるように進化している。この手足こそ、人間が動物とかけ離れて進化するための大きな要素となったんです。しかし、目の前で横たわっている少女は人間と同じ進化を辿っている! これは考古学的にも生物学的にも本来あり得ないことで・・・!!」

「あのー、ユーノさんちょっとだけトーン。落としませんか?」

「おまえをここへ呼んだのは学術的見解を聞く為じゃねえぞ」

「あ・・・・・・すみませんでした」

 学者としての知的好奇心から来る血がつい騒いでしまった。雄弁に語っていたところを一護と織姫によって制止させられ、ユーノも我に帰り反省する。

 やがて、コンがおもむろにウサギ顔の少女へ近づき、眠る横顔を一瞥してからユーノに問いかける。

「なぁ。こいつがどこから来たかわらかねえのか?」

「恐らくは、地球(ここ)とは異なる次元世界から何らかの理由で流れ着いた・・・“次元漂流者”の可能性が高いです。実際に転移魔法らしき力が発動した痕跡も確認されました。詳しい事はこの子が目を覚まさない分にはわかりませんが」

 どこから来て、何を目的に地球へ現れたのか。

 全てが曖昧模糊でいると、少女を最初に発見した張本人―――金太郎はベッドで眠るそれを凝視する。

 刹那、不意に蘇った過去の映像。

 夢で見た王宮で死に別れたジェニーの悲哀に満ちた表情。その時の顔が妙に頭にこびりついてしまい、気がつくと目の前の少女と面影を重ね合わせ―――奇妙にも胸が締め付けられる思いに駆られる。

「金太郎?」

「どうした? 何考えてんだよ」

「いえ・・・・・・なんでもありません」

 

「うぅ・・・・・・」

 満を持して、ウサギ顔の少女の意識が回復し目を覚ました。

「あっ。気がついた!」

 目を輝かせ、織姫が眠りから目覚めた少女を見る。

 すぐさまユーノは目覚めたばかりの少女に対し、ゆっくりと問いかける。

「君、僕の言葉がわかるかい?」

「はい・・・・・・あなたは? ・・・・・・ここはどこですか?」

「僕はユーノ・スクライア。ここは病院だよ」

「はじめまして。黒崎織姫です」

「黒崎一護だ。よろしくな」

「コンさまと呼んでくれー!」

 何も知らない少女の目と耳から次々と真新しい情報が入り込む。

 周りをしばし見渡した少女は、恐る恐るユーノ達を見ながら気になる事を尋ねる。

「あの・・・・・・もしかしてあなた達がわたしを・・・助けてくれたんですか?」

「いや。助けたのはここにいる熊谷金太郎だよ」

 ユーノは少女の命を救った相手を紹介する。

 ムッと、顔を近づける金太郎。だがこの顔があまりにも怖かった。

「ひいいいぃいいいィ!!!」

 強面の金太郎の顔に果てしない恐怖を抱いた末、少女はベッドから飛び出すなり壁の方まで後退する。

 傍で様子を見ていたユーノ達は、ショックの余り言葉も無く硬直する金太郎を窺いながら小声で会話をする。

「まぁ初対面、しかも寝起きであの顔はキツイよな」

「気持ちはわからなくもないんだけどねー」

「金太郎もそんなガッカリしないで。顔の怖さは今に始まったことじゃないんだし」

「・・・・・・・・・・・・」

 根は優しくとも、決して万人受けする顔ではない事は自明の理である。

 ただ、それを露骨なまでに面に出されると精神的に受けるダメージは大きい。金太郎の場合も例外ではなかった。

 やがて、見かねた織姫が壁の隅で縮こまった少女から名前を聞き出す。

「なまえ・・・言えるかな?」

「ウルティマ・・・・・・」

 若干恐怖に震えた声で自らの名を告げたウルティマに、一護は確信を突いた問いをする。

「ウルティマ。ここに来るまでに何があったか覚えてるか?」

「ごめんなさい・・・・・・・・・わからない。思い出そうとすると頭に靄みたいなものがかかって、思い出せない」

 肝心な事は何ひとつ情報として持っていない―――否、正確には何らかの要因で記憶が封印されていた。

 困り果てた一護はユーノに対し、「これからどうするよ?」と、率直に投げかける。

「まず第一として、早急にこの子を元いた世界に戻してあげる事ですね。何しろこんな姿をしていますからね。いつ騒ぎになってもおかしくありません」

「でもユーノさん、この子がどこから来たのかわかるんですか?」

「それは僕にもわかりません。でも、この子は自分の()()()()()()()()()()()()()()。頭の中のイメージさえ読み取れれば、あとはどうにでもなります」

 そう言うと、ユーノはウルティマに近づき破顔一笑。

「ちょっとだけごめんね」―――そう言った瞬間、ユーノは自分の額とウルティマの額をおもむろに重ね合わせた。

「ななな・・・なにを・・・///」

 突然の異性からの行為にウルティマは顔を赤らめずにはいられない。

 ユーノは彼女の心情を組みつつも、ぶつぶつと呪文のような物を唱え続け、足下にはミッド式の魔法陣を展開する。

 一護達が訝しげに見守っていると、ユーノは作業を終え、ウルティマと重ねていた額をゆっくりと離した。

「なるほど。わかりました―――」

「何したんだオメー?」

「『リコール』と言う精神干渉系の魔法でこの子の記憶の一部を読み取ったんです。この子が元いた世界の事がおおよそわかりました。早速《幻魔の扉》で向かいましょう」

「恋次達を送り出したあのデッカイ変な扉か?」

「さすがはユーノさん! ウルティマちゃん、もう安心して。私たちが必ずあなたをお家まで送り届けてあげるから」

「みなさん・・・・・・ありがとう・・・・・・ほんとうに、ありがとう」

「よし! そうと決まったら早速出発だ・・・・・・ぐっほ!!」

「おめーが仕切るな!」

 意気揚々と張り切り、リーダーシップを主張するコンだったが、いつもの調子で一護が制裁と称して堂々と踏みつけた。

 

           *

 

某所 某会議室

 

 薄暗い空間に投影される映像。

 映像にはユーノ達によって保護されたウルティマの姿が映し出されており、会議に参加していた者の多くが頭を悩ませる。

「・・・逃亡した例の子どもはまだ見つからんのかね?」

 やがて痺れを切らした様子で、目薬を差して強いリアクションをとった一人の男が言葉を発した。

「申し訳ありませんドクター・プロスペクト。目下全力で捜索中ですが、いまだその行方については・・・」

 幹部達は芳しくない状況にただ申し訳なさそうに顔を下に向けるばかり。

 この嘆かわしい現実に心底悲嘆したドクター・プロ空くとと呼ばれた男は、集めた幹部達に対し警告を発した。

「・・・つい先ほど我々の最大手スポンサーからの連絡があったよ。我がダーク・リユニオンからも1、2名ほど幹部に引き抜きする予定でいるという。だが今回の失態が知られたら、話が白紙に戻るばかりか投資を打ち切られるのは必定」

 

「一刻も早くあの子ウサギを見つけ出し生け捕りにするのだ」

 

           *

 

『惑星アニマトロス』

 

 地球とは別の星系に属するその惑星には【アニマロイド】と呼ばれる獣人がいた。

 アニマロイドは、人間と同等の進化を遂げた様々な種類の動物のことであり、極めて高度なテクノロジーと文明を発展させ、平和な暮らしを送っていた。

 

           ≡

 

惑星アニマトロス

市街地中央部 アーバンシティー

 

 ユーノ達は『幻魔の扉』を使い、ウルティマの生まれ故郷である惑星アニマトロスへとやって来た。

 そこで、彼らが見たのは想像を絶する光景だった。

 見事に街が破壊され焦土と化した大地が寒々と広がり、嘗て楽園と称された街並は当時の見る影も無くなっていった。

「これは・・・・・・!」

「ウソ!!」

「誰がこんな事を!?」

「ひどい!」

 ユーノがリコールで読み取った記憶では、少なくとも眼前の地獄の如く悲惨な光景は垣間見れなかった。

 自然災害―――とは言い難い、侵攻の痕跡を伺わせる破壊の様。

 一行は襲撃され、瓦礫の山が広がる街中を移動しながら、ウルティマの同種族がいないかを捜索する。

 探索魔法を発動させたユーノを固唾を飲んで見守る一護達。

 数分後、探索魔法の継続を中断したユーノは険しい表情を浮かべ、一護達に対し申し訳なさそうに首を横に振る。

 受け入れ難い事ではあるが、少なくとも街には生存者と呼べる者は誰一人残ってはいなかった。

 その事実を知った直後、悲痛に歪むウルティマの表情が一変した。

「ううううぅぅ・・・・・・!!! あああぁあああぁぁぁ・・・・・・!!」

「ウルティマちゃん!!」

「どうした!?」

 唐突に頭を押さえ、苦痛に声をあげるウルティマを憂慮する。

 直後、ウルティマは頭痛に耐えながら脳裏に思い浮かんだビジョン―――記憶の奥底に封じられていた思い出したくない光景が次々と鮮明に蘇った。

「は!! そうだ――――――わたし、思い出した!」

「思い出したって、何をだ?」

「逃げてきたんだ、わたし・・・・・・アイツから!」

「アイツら?」

 訝しむ一護達にウルティマはおもむろに語り始める。

「・・・・・・平和な日々を送っていたわたしたちの前に突然、『ダーク・リユニオン』と名乗る連中が現れて、わたしたちを攻めてきたの。彼らはまるでハンティングゲームをするように、わたしたちを捕えて行った」

「それで?」

「彼らは言っていたわ。自分達の目的は超能力者による世界征服と生物の淘汰だと・・・・・・彼らは人工的に超能力者を作り出すことができて、より素質の高い者を一流の兵士“クオークス”として育てるんだって・・・・・・わたしは素質のある者として組織に気に入られていたけど、他の皆が犠牲になっていく様を見ながら毎日を送るのは生きた心地がしなかった・・・・・・」

「だから組織からの脱走を図って地球まで転移して逃げてきたと」

「そして、強い恐怖のあまり記憶を脳の奥底に封印していたというわけか」

 概ねの事情は理解した。

 ウルティマが置かれた状況はユーノ達が思ったよりも深刻で、かなりきな臭い話だった。

「・・・ユーノ。ウルティマ達を捕えたダーク・リユニオンとやらの事を調べよう。街の連中も奴らに捕えられてる筈だからな」

「ええ。しかし、敵の正体がハッキリしない以上くれぐれも慎重に。連絡は密に取り合いましょう」

 

 ダーク・リユニオンの襲撃を受けた廃墟の街に散らばるユーノ達。

 各々が情報収集に勤しむ中、金太郎は故郷に帰還して早々居場所を失ってしまったウルティマのそばについていた。

「・・・・・・・・・・・・」

 変わり果てた故郷。ダーク・リユニオンによって連れさられ、過酷な実験の犠牲になった仲間の事を思い出すたび、ウルティマの心は閉めつけられる。

 双眸に溜まった雫が一滴、また一滴瓦礫を伝って零れ落ちる。そんな少女の心情を汲み取った金太郎は、おもむろにハンカチをそっと差し出した。

「さぁ。拭きなさい」

「金太郎さん・・・・・・・・・ありがとうございます」

 ハンカチで涙を拭うウルティマに金太郎は更に言葉を紡ぐ。

「君達には同情するよ。ダーク・リユニオンの行為は決して許されぬことだ。我々は君やここの人達の生活を踏み躙った奴らを必ずや見つけ出し殲滅する。もっとも、それが最良の選択であるかは眉唾物だが」

 正義感の強い金太郎からすれば腸が煮えくり返るような話である。

 一刻も早くダーク・リユニオンの拠点を見つけ出し壊滅させてやりたいと強く願う反面、殲滅の先にアニマロイドであるウルティマにとって、より明るい未来が待っている訳でもない。

 復讐の果てに何も得られない虚無。これほど空虚で無意味な話はない。

 苦悶に満ちた表情でいる金太郎だったが、不意にウルティマが声をかけて来た。

「ねぇ、金太郎さん・・・・・・これからどうすればいいのかな? わたし、お父さんもお母さんもアイツらに殺されちゃったから一人なんだよね。街もこんなありさまだし、正直お先真っ暗だよ。何もかも終わりだよ・・・・・・」

 当たり前の幸せを突如として奪われ、理不尽な運命という名の渦に巻き込まれた数奇な少女の瞳は悲嘆と諦観に満ちていた。

 希望という言葉を失いかけているウルティマを見、金太郎は彼女の摩耗し切った心に少しでも活を入れようと激励を送る。

「今は辛い時かもしれない。だが、いつまでも辛くはない。君自身が希望を捨てぬ限りいつか必ず幸せになれる」

「ほんとうに?」

「ああ。もしも君の幸せを踏み躙ろうとする輩が現れたときは、そのときは私が必ず鉄槌を下してやろう。心配はいらん。我々が何とかする。この命に代えてでも、君は私が護る―――必ずだ」

 確かな根拠があるわけでもないのに、その言葉はとても力強かった。

 当初、強面な金太郎に子供ゆえの恐怖心を抱いていたが、ウルティマは直に彼の肌と触れ合う事でその優しさを理解する。

「・・・・・・うん・・・・・・ありがとう///」

 ポロポロと零れ落ちる涙。今度のそれは悲しみから来るものではなく、金太郎という一縷の希望を見出せた事に対する歓喜だった。

 ピピピ・・・。

「すまない。少し席を外すよ」

 ユーノからの一報を受け、金太郎はウルティマのそばを離れる。ウルティマも少し安心したのか、少し気を休めた直後―――。

『見つけましたよ』

 背後から聞こえた身の毛も凍りつく不気味な声に両の耳がピンと立つ。

 振り返る前に後ろから強い力で押さえつけられ、気がつくと―――黄金の甲冑姿の騎士を彷彿とさせる異形の怪人によって身動きを封じられた。

「!?」

 敵の接近に気付いた金太郎は涙目で救いを求めるウルティマと、口元を力づくで押さえつけている敵の存在に目が行った。

『あまりドクターや我々の世話を焼かせないでもらいたいですねー。さぁ、私と一緒に帰りましょう』

「ん・・・・・・んん・・・・・・!!」

 ウルティマの危機に、金太郎は愛機《アックスオーガ・カタストロフ》を即起動させ、脱兎の如く彼女の元へと疾駆する。

「ウルティマには指一本手は触れさせぬ!」

 力いっぱい(まさかり)を振り上げ、ウルティマを捕えた敵目掛けて強烈な一撃を叩き込む。

 瓦礫が粉々に砕け散り多量の粉塵が巻き上がる。

 しかし、何の手応えも感じなかった。見れば、敵はおろかウルティマの姿も忽然と消失していた。

「・・・消え・・・・・・た・・・!?」

 

           *

 

 秘密結社ダーク・リユニオンにおいて、ドクター・プロスペクトと呼ばれる男の存在は極めて重要かつ際立っていた。

 口調こそ穏やかだが、残忍かつ傲慢な性格。研究の為には一切の手段を選ばない。

 ただ自らの欲望に対し直向きに生き続けた結果、彼は超能力の覚醒に必要な要素として、 “苦痛を強いる事が能力覚醒への糸口の1つ”だという考えを見出した。

 拷問じみた方法で超能力を目覚めさせる「覚醒実験」を行う事で、次元世界で初めて人工的に超能力者を作り出す事に成功した。

 その高い功績ゆえにダーク・リユニオンらの幹部と同等あるいはそれ以上の地位を得るばかりか、スポンサーからも厚遇を受けていた。

 現在、彼はダーク・リユニオンの最大スポンサーである次元世界屈指のある財団から来た使者との対談に臨んでいた。

「過去様々な世界で生物実験を繰り返してきましたが、このような事例は未だかつて報告がありません」

 白い詰襟服に身を包んだ男―――加頭順(かずじゅん)は手元の報告書を見ながら、書かれた内容に終始強い興味を抱いた。

 加頭の言葉を聞き、プロスペクトは「実に興味深い話だ」と同意し、紅茶をひと口啜ってからおもむろに語り出す。

「人間と同程度に進化した動物たちをクオークス素体としたとき、どれほどの力を手に入れるのか。あの子ウサギは言わば私にとって夢の塊なのだ」

「では、ここはあなたの夢の手助けにひとつ私から贈り物を」

 すると加頭は持ち込んだジュラルミンケースの中からある物を取り出し、プロスペクトの前に置いた。

「それは?」

 物珍しくプロスペクトが見つめる先には、透明なクリアケースに胸に孔の空いた白い仮面に覆われた小さな生命体が収められていた。

「私どもの数ある投資先のひとつからスポンサー特権で得たものです。是非有効に使って頂きたい」

 

           *

 

ダーク・リユニオン 秘密のアジト

 

 連れ去られたウルティマが発する超能力の波導を追い、ユーノ達はアーバンシティー郊外にある森林地帯へと向かった。

 しばらくして、森の奥に秘かに建造されたダーク・リユニオンの施設へと通じる入口を発見した。

 茂みに隠れ、入口の前に立った黒いスーツに身を包んだ割腹のいい守衛の二人をじっと観察しながら侵入の方法を模索する。

「入口にごついのが立ってるな」

「どうしますか?」

「ここは僕に任せてください。ちょうど試してみたい新魔法があるんです」

 ユーノは魔法陣を展開―――両手には淡く翡翠に輝く鞭状の魔力エネルギーを形成する。

「ホイップバインド!」

 練られた魔力を鞭として振るい、入口で番を張った二人の男の脚を絡め取る。

 予想外の出来事に守衛は訳も分からぬまま脚に絡まったバインドに引きずられ、ユーノの元まで手繰り寄せられる。

「悪いね」

 一言口にし、ユーノは守衛の首元にトンと、手刀を叩き込み昏倒させた。

「お見事です店長。実に鮮やかでした」

「それにしてもいろんな魔法の使い方があるんですねー」

「一般的なバインドをアレンジしただけですが、攻守ともに使えるという点ではメリットがあります」

「相変わらずおまえは魔法といい鬼道といい、創意工夫の天才だぜ・・・まったく」

 ユーノの鮮やかな手口、もとい手際の良さは既に一護達には見慣れたものだったが、なお自然と称賛の言葉が漏れ出てしまう。

 改めて入口付近を見渡すと、幸いな事に建物の中から人が出てくる様子は無かった。

「よし。誰もいませんね」

「でもこの人数で本当に切り抜けられるのかよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと頭数は揃っていますから」

 そう言ってユーノは何か企んでいる様子でコンの事を笑顔で見つめた。

 

「へ?」

 しばらくして、コンは自分の置かれている状況に大いに戸惑った。

 普段のぬいぐるみ姿から一変。ユーノが事前に用意していた【ケータイ用義骸】を身に纏い、黒いスーツに身を包んだ人間の姿へと変わっていた。

「って!! オレもやるのかよ!?」

「つーかどこに義骸忍ばせてたんだよおまえ・・・」

「以前、浦原さんから頂いたものを亜空間内に隠し持っていたんです。こんな時でもないとコンさんがバトルで輝ける機会なんてありませんからね♪」

「嬉しいような悲しいようなオレとしてはメッチャクチャ複雑な気持ちなんだけど!!」

 正直言ってコンは今回の突入作戦に乗り気ではなかった。

 だが、そんな気持ちひとつ許さないと言わんばかり―――金太郎は強面の顔をコンの目元まで近づけ圧力を加える。

「コン殿・・・・・・ウルティマを助ける為に何卒ご協力を」

「ひいいいぃ!!! わわわわ、わかった、わかった!! やるよ!! やればいいんだろう!!」

「よし! んじゃ突入するぜ!」

 一護の掛け声を合図に、ユーノ達はダーク・リユニオンのアジトへと乗り込んだ。

 

「とりあえずこれでしばらくは大丈夫。先へ進みましょう」

 基地内への突入と同時に、ユーノ達は各所に仕掛けられた監視カメラを破壊し、敵に自分達の動きを掴みにくくした。

 目視で確認できる監視カメラを全て潰しアジトの奥へ邁進する。

 すると、突き当りに差し掛かった折―――ダーク・リユニオンのメンバーと思しき全身黒タイツの男と出くわした。

「ん? 何者だ・・・」

 訝しむ構成員。

 次の瞬間、金太郎は前に飛び出し右の剛腕をもって相手の首を鷲塚み、壁にめり込むだけの力で押さえ込む。

「おいおい殺す気かよ?!」

「金太郎、気持ちはわかるけどもう少し加減して。ウルティマの監禁場所を聞き出せないよ」

 コンやユーノが諌める中、ウルティマ救出に躍起になる金太郎は逸る気持ちから、やや拷問染みた尋問を強要する。

「ウサギの子供を攫ってきただろ? 我々に居場所を教えろ」

「こ・・・子供は・・・地下・・・です・・・!」

 泡が吹くほど恐怖に怯えあがる男から得られた証言を信じ、金太郎は男を解放。

 解放された途端、男はぐったりと倒れ込んだ。

「ここからは時間との勝負になる。別々にウルティマを探そう・・・」

「一護さんは織姫さんと。僕はコンさんと。金太郎は一人になるけど、平気かい?」

「むしろ好都合です。店長達の前で自省の利かなくなった我が身の醜態を見せるのは心が痛みます。今の私はとにかく余裕が無いのです」

「余裕が無いねえ・・・」

「確かに、今のを見せられればな・・・・・・」

 本人たっての希望もあり、ユーノ達は金太郎単独での行動を認め、各々に分かれてウルティマの捜索を開始する事にした。

 

           *

 

同施設内 ドクター・プロスペクトの実験室

 

「おかえり。ウルティマ」

 黄金の騎士によって連れ去られたウルティマの眼前で立ち尽くし、薄ら笑いを浮かべる男―――ドクター・プロスペクト。

「あ・・・・・・あなたは・・・・・・」

 プロスペクトに見つめられるや、ウルティマの額や手足から条件反射の如く発汗が噴き出る。全身の力が忽ち抜け落ち、彼女の本能はこの男の危険性を大音声で警告していた。

「どうした。随分と辛そうな顔をしているね」

 一見穏やかな表情と口調で語りかけるも、ウルティマの肝は今この瞬間も押し潰されそうだった。

 プロスペクトは足が竦んで一歩も動けない彼女の元へ一歩ずつ近づく。

「残念ながら、君は私からは逃れられない。私こそ“究極の監視者”なのだからね」

「!」

 気がつくと、ウルティマの意識にいつの間にか潜り込んだプロスペクトによって下顎に手を添えられていた。

「君は特別だ。私の夢だ。そんな君だからこそ、この力は相応しい―――」

 手持ちのジュラルミンケースを開き、プロスペクトが取り出したのは加頭によって持ち込まれた生物型融合機デバイス・幼生虚(ラーバ・ホロウ)だった。

 幼生虚(ラーバ・ホロウ)が醸し出す不気味さ。露骨に顔を引き攣るウルティマを喜々として見つめながら、プロスペクトは幼生虚(ラーバ・ホロウ)を鷲掴む。

「さぁ。私の夢の為に更なる進化を遂げるのだ。超能力兵士クオークスとして、その身を委ねよ」

「いや・・・・・・いや・・・・・・」

 

 ―――金太郎さん・・・・・・助けて・・・・・・!

 

           *

 

同施設内 地下1階

 

 ユーノとコンはペアを組み、ウルティマの監禁場所を捜索しながら真っ白な廊下を真っ直ぐ歩いていた。

 と、そのとき―――ユーノはふと立ち止まり、前方から複数の人の気配を感じ取った。

「コンさん、誰か来ますね」

「え!? やべえじゃねーか!! どっか隠れねーと!!」

 露骨に焦りを露わにするコンとは裏腹に、ユーノには確かな勝算があった。

 しばらくして、前方にある扉の向こうから黒いタイツ姿の男女複数が一斉にぞろぞろと出て来た。

 その際構成員は眼前に佇む黒いスーツ姿の男こと、コンの姿を怪訝に見つめた。

「侵入者・・・かと思ったら守衛係じゃねぇか」

「何をうろついてるんだ?」

「あぁちょっとな。迷っちまったんだ。オレは方向音痴でな」

 言いながら、何事も無かったように構成員の前を横切ろうとする。

「止まれ。お前、偽物だな」

 しかし、現実はそれほど優しくも無ければ甘くも無かった。すぐさま異変に気付いた構成員全員の疑念に満ちた瞳がコンへと向けられる。

 コンはその場に立ち止まり―――おもむろに後ろを振り返るや、彼らの神経を逆撫でしかねない不敵な笑みを浮かべ言って来た。

「このオレと勝負しろや・・・・・・三下ァ!!」

 あからさまに挑発され、憤った構成員は一斉に超能力を発動させた。

 幸い彼ら一人一人の超能力は幹部とは比べ物にならないほど微弱だったが、その力が合わされば大きな力となる。

 コンは自分へと向けられる金縛りの波導に耐えながら、なお余裕に満ちた笑みを崩さなかった。

(一人一人は雑魚でも力を合わせれば中々。並の人間じゃ脱出できねぇ締め付けだ。だがやっぱり・・・)

 目を見開き、コンは自力で波導を打ち破った。

 構成員が挙って驚愕し攻撃の隙が生まれた瞬間、コンは一気に駆け出す。

「雑魚臭きついぜ!」

 敵を正面から叩くべく《下部強化型(アンダーポッド)》の改造魂魄(モッド・ソウル)として与えられた能力を如何なく発揮し、特化された四肢の力で対峙した敵全てを蹴り倒す。

 敵が倒されると、オプティックハイドで姿を隠していたユーノが現れ、コンの活躍を褒め称える。

「いやー、お見事です。コンさん♪」

「へっ。このオレを誰だと思ってやがる! King Of NewYork!! 略してK・O・Nさまだ!!」

「自分に嘘を付くのは止めましょうね。虚しくなるだけですから」

「見つけたぞ侵入者!」

 すると、騒ぎを聞きつけた他の構成員が有象無象と集まり、気がつくとユーノ達を完全に包囲していた。

「おいやべえーぞ! ユーノ、どうにかしろよ!」

「仕方ありませんね」

 臆病風に吹かれたコンに代わって、おもむろにユーノが前に出る。

「なんだ貴様・・・女かぁ!?」

 安い挑発だ。そう思いながらも、ユーノは内心自分の容姿を指して女性と判断した敵の言動に苛立ちを募らせる。

「やれやれ。君たちは揃いも揃って外見に惑わされ過ぎなんだよ。だから見たくもない幻を見る事になる」

 それがユーノからの最後通告だった。

 刹那、居合わせた構成員は予期せぬ光景にたちまち目を疑った。

 何の前触れも無くユーノの顔がドロドロに溶け始め、肉が抉れると皮脂によって隠されていた骨が見え始めたのだ。

 それだけじゃない。ユーノ以外の他の人間、あまつさえ自分の体でさえも同じ現象に見舞われ始めた。

「う・・・うわあああぁぁぁ!!!」

 彼らは現実にはあり得ない恐怖によってたちまち精神を破壊され、やがて恐怖の余り仲間同士で攻撃を開始した。

 ユーノは状況が分からず呆気にとられるコンを連れ、何事も無かったかのように彼らの前から立ち去る事にした。

「お、おい・・・おまえ何やったんだよ?」

「“夢焦(ゆめじ)らせ”―――と言いましてね、晩翠の能力で相手の五感を狂わせる幻を見せたんです。当面彼らは悪夢のような幻に苦しむ羽目になる」

「まるで『鏡花水月(きょうかすいげつ)』みたいな能力だな」

「完全催眠には程遠いですよ。もしも藍染惣右介(あいぜんそうすけ)がこの場にいたら、僕の能力なんて鼻で笑っていたところです」

 

           *

 

同施設内 地下4階

 

 大破壊熊(マッドベアー)―――今からおよそ三十年以上前、次元世界にその名を轟かせた一人の大魔導師を称えた言葉である。

 金色に輝く防護服を纏い、身の丈を超える鉞をもって敵戦力を一切合財圧倒する絶大な力。その力を持って敵は畏怖を抱き、味方は信頼を置いた。

 熊谷金太郎―――彼こそが大破壊熊(マッドベアー)の異名を持つ男である。

 だが、彼はこの二つ名を嫌っている。彼にとってこの名は破壊のみで何者をも守れぬ不名誉極まりない自分の本質を的確に突いて皮肉だと思っている。

 その金太郎は今、当初からあまり好んでいなかった大破壊熊(マッドベアー)の称号を自ら拝命し、その化身と化していた。

 目的の為ならば手段を問わず、立ち塞がる敵は完膚無きまでに制圧する。彼自身が口にしていた通り、今の彼には相手に気を使う余裕など無かったのである。

 手当たり次第に施設を破壊しながら、攫われたウルティマの場所を捜索するかたわら―――金太郎の眼にある光景が映し出された。

 思わず目を見開いた先、薄暗い部屋の奥にこれでもかと敷き詰められた鉄のケージ。中を覗くとウルティマと同種族のアニマロイドが粗末にぎゅうぎゅうに狭いケージに押し込まれていた。

 皆沈痛な表情を浮かべ酷くやつれている。老若男女問わず関係なく、彼らはウルティマ同様にダーク・リユニオンらによって拉致され、超能力覚醒の実験台とされた者達であると直ぐに分かった。

「何という惨い事を・・・・・・待っていてくだされ。今すぐ私がそこから救い出してみせる」

 ケージの破壊を試みようと一歩前に出た直後、金太郎は背後に刺すような冷たい殺気を感じ取った。

 

 グサッ―――。

 

「が・・・・・・」

 背中越しに腹部を貫く鋭い感覚。見れば斧状の何かが貫通しており、ポタポタと真っ赤な血が滴り落ちていた。

「なん・・・だ・・・・・・これは・・・・・・」

 恐る恐る後ろを振り返ると、兎に似た仮面をつけた胸に孔の空いた怪物・魔導虚(ホロウロギア)が立ち尽くしており、切れ味鋭い斧状の武器に変化させた右腕で金太郎を貫いていた。

 ―――「遅かったな。侵入者」

 ―――「貴様が探していた子ウサギは目の前にいる」

 どこからともなく聞こえてきたプロスペクトの声。

 彼が告げるのはあまりにも残酷な現実。

 金太郎は息を飲み、視界に映る魔導虚(ホロウロギア)こそ、必死に探している相手―――ウルティマである事を否が応でも理解する。

『侵入者発見・・・・・・排除します・・・・・・』

 機械的に唱えた直後、魔導虚(ホロウロギア)・アルミラージュは超能力と混ざり合った独特の霊圧を放出させ、標的の排除の為に行動を開始した。

 

           *

 

同施設内 地下2階

 

「あぁ!? 居るはずの檻にいなかった!? っざけんなよ! ここまで連れて来いっつただろうが!」

 形相を浮かべる一護は撃退した構成員を尻に敷きながら、いつにも増して強い口調で構成員の一人を怒鳴りつける。

「で、ですから自分が見に行ったときには既に脱出したか連れ出された形跡がありまして・・・」

「ホラ吹いてんならブッ飛ばすぞオラー!!」

「ひいぃぃぃ!! す、すみません!! すぐ探して来まーす!!」

 あまりの迫力に怖れを成した構成員は一護の前から足早に立ち去るように失踪したウルティマを探しに行った。

「さっすが一護くん! 現役時代を彷彿とさせるね♪」

「あのな・・・俺はそもそもヤンキーだった覚えは一度たりともねー。心理学的にこの手の格下相手にはこういうのが一番効果的なんだよ」

 性質の悪い冗談を言って来た織姫を諌めた直後、ここへ来るまでに倒した構成員の一人が一瞬の隙を突いて織姫を人質にとった。

「油断したな・・・隙ありだ!」

 首元に超能力で作られたナイフを突き付けられる織姫。

 一護は織姫を人質にとった構成員を睨み付ける、のではなくどこか哀れんだ様子で見つめていた。

「はははは・・・どうだ? 女を人質に取られちゃ手も足もでねーだろ」

「別に俺は手も足も出すつもりはねえ。見誤ったのはおめーだよ」

 諭すように一護が言った直後。

「はっ!」

 構成員の腕を掴みかかると、織姫は中学時代からの親友に教わった空手で以て構成員を返り討ちにした。

「ふぅー。びっくりした」

「先行くぞ」

 何事も無かったように一護と織姫はアジトの奥へと進み、いなくなったウルティマの捜索を続行する。

 

           *

 

同施設内 地下3階

 

 ユーノとコンは蛆虫の如く湧いて出る敵を制圧しながら奥を目指した。

 そして、アジト内を移動し続けること十数分―――前方にとりわけ頑丈そうな扉を発見する。

「おい。あの扉・・・」

「ええ。あの中に何かありそうですね」

 他のどの扉よりも厳重なセキュリティによって守られていた。

 二人はこの扉の向こうにダーク・リユニオンの重要機密があると睨み、早速中へ入ろうと一歩踏み出した、次の瞬間―――。

「! コンさん!」

 殺気を感じ、ユーノは咄嗟にバリアを張ってコンと自分の身を守った直後―――猛烈な勢いで廊下の壁を伝って灼熱の炎が襲い掛かった。

「のおあああぁぁぁあああ!」

 思わず悲鳴をあげるコンはユーノのバリアによって事無きを得たが、その恐怖は確かに彼の心身に刻まれた。

「火傷してないか? へへへ。これが本物のパイロキネシス・・・発火能力だ」

(なんかやべーのきた・・・!)

 額に傷を負った髪を逆立てた、ひょろ長い体躯の男は自らの超能力―――パイロキネシスによってあらゆるものを燃やし尽くす。

 コンは明らかに気の触れた相手に言い知れぬ不安を抱く一方、ユーノは燃え盛る炎の中でも至って平気そうな目の前の敵・スティーヴンを凝視する。

「侵入者は五人って聞いていたが、数が足りねーな。まぁいいさ・・・待ってろ。今すぐ俺が灰にしてやる」

 右手を翳した瞬間、スティーヴンの発火能力によって生み出された大火力放射が正面から飛んできた。

 ユーノはより強固に張ったバリアでスティーヴンの火炎を防ぐが、その表情にいつものような余裕は伺えなかった。

(僕のバリアなら大丈夫だ、とでも思ってんだろ!)

 ユーノの心の声を想定しながら、スティーヴンはバリアを張るのに集中しているユーノの隙を突き、真横へ移動し攻撃を繰り出す。

「ちっ」

 ユーノは咄嗟に体を捻って炎とスティーヴンの物理攻撃から我が身とコンを守る。

 だが、これこそが敵の狙いだった。防御を張っている間、ユーノはスティーヴンへの攻撃が制限され防戦一方と化す。スティーヴンは巧みに地形と自身の能力を駆使してバリアを張ったユーノを狭い炎の中に閉じ込め身動きを封じ込める。

 現在、ユーノとコンはバリアの中で猛烈な熱さに襲われている。その様を見ながらスティーヴンは大いに笑っていた。

「けけけけけけっ。バリア内は超高温サウナ状態になる! 呼吸をすれば肺が焼ける程のな! 素人が陥りやすい凡ミスだ!」

「素人はお前だ・・・」

「威勢がいいな。だが反撃するには一度バリアを解除しなければいけない。その瞬間お前は火達磨! このままでは蒸し焼きだ! つまりもう勝負は着いている。後は焼け死ぬか俺に服従を誓うか・・・」

「やってみろ・・・」

 一際凄んだ声でスティーヴンを煽り立てるユーノ。

 炎の中で聞こえたそれを負け惜しみや妄言と捕えたスティーヴンは、勝利を確信した様子で火力を最大限に発揮―――ユーノとコンをバリアごと蒸し焼きにする。

「バカが! ベソかいても許してやーらねー! つっても涙も枯れるか! この熱気じゃなぁ! けけけけけけ!!」

 このとき、スティーヴンは自分の言動が大いなるフラグである事に気付いていなかった。

 疑いなく自身の勝利を確信した次の瞬間―――目の前の炎に異変が生じ、不意に自分へと向かって襲い掛かって来た。

「ぶああああああああああああああああああ!」

 地獄の業火に体を焼かれるが如く、球状に形成された炎の壁に苦しみ喘ぐ。

 そんなスティーヴンの様子を外から、服に付いた煤を払いながらユーノはコンとともに無傷の姿で眺めていた。

「あ~ぁ、バリア切り替えた時ちょっと服が燃えちゃったか。確かに魔法で攻撃と防御は同時にできない。だったら火元をバリアで包むだけだ・・・って。もう聞いてないか」

「やかましいから解除してやれよ」

 敵ながらスティーヴンに哀れみを抱いたコンに催促され、ユーノはスティーヴンを覆う炎のバリアを解除した。

 バリアが解除されると、全身黒焦げとなったスティーヴンを視認。殆ど意識が飛びかかっていながら、彼は未だ足を動かし歩き出そうとする。

「驚いたなぁ。その火傷でまだ動けるなんて。パイロキネシストは体組織も熱に耐性があるのかな」

 純粋にスティーヴンの体質に興味を抱く一方で、ユーノは黒焦げになりながらも歩み寄って来る敵の額に指を添え、軽くデコピンを叩き込む。

 デコピンで止めを刺されたスティーヴンは前方に倒れ、完全に沈黙。自らの炎の餌食となったパイロキネシストの姿は見る影も無かった。

「ま、応用力のなさは重大な欠陥だね。僕の勝ちだ―――」

 高い応用力によって急場を脱した後、ユーノとコンは重要な秘密が隠されていると思われる例の扉をこじ開け、おもむろに中へと入る。

 暗い部屋の中を捜索すると、二人はある物を発見した。

「おや? おやおやおや? こいつは何かすげーの見つけちまったみてぇだな」

 見つけたのは人が入るくらいのカプセル状の大掛かりな装置。覗き窓から中を見てみると、大量の血痕が付着した実験器具が多数あった。

「なんだこりゃ? 拷問じみた器具も見えるが・・・」

「超能力の発現を促す為に、どの程度まで苦痛に耐えられるかを捕えた獣人達を文字通りモルモットにして実験していたんでしょうね」

「ふーん・・・いい線いってるじゃねぇか。でもまそんな辛い思いしても数人がかりで金縛りしかできないんじゃ、やっぱり才能(ギフト)の世界だってわけだ。だったら地道に筋トレに励んだ方が効率いいわな」

 そんな所感を抱いた折、二人はこの施設に侵入してから初めて感じる巨大な霊圧を捕捉―――挙って目を見開いた。

「なんだ・・・このヤベー霊圧は?!」

「この感覚・・・・・・魔導虚(ホロウロギア)か?」

 誰よりも魔導虚(ホロウロギア)との実戦経験を積んでいるユーノだからこそ瞬時に理解する。肌で感じている禍々しい霊圧の魄動は紛れも無く魔導虚(ホロウロギア)のものだった。

 その魔導虚(ホロウロギア)が今、見知った魔力保有者と激しい衝突を繰り広げている事も判った。

「まさか・・・・・・金太郎が!?」

 

           *

 

同施設内 地下4階

 

『排除します―――』

 魔導虚(ホロウロギア)・アルミラージュへと変貌を遂げたウルティマは、激しく困惑する金太郎に対し容赦ない攻撃を繰り返した。

 両手を切れ味鋭い斧に変化させた「パオフー」の力を使い、金太郎を攻撃するだけに飽き足らず、自身を軸に竜巻のように回転し、両手のパオフーで周囲の物を根こそぎ切断する「アシパトラヴァナ」という技を披露する。

 加えて、元来備え持つ超能力者としての素質を如何なく発揮。超然たるサイキックパワーで金太郎を終始圧倒する。

 金太郎はアルミラージュから向けられる怒涛の如く攻撃に堪え続けた。

 全身至るところを切り刻まれ、血が滴り落ちるも、彼は未だ目の前の敵がウルティマであるという事実を受け入れられずにいた。

「・・・・・・本当にウルティマなのか?」

 相手がウルティマである以上、無暗に力を振るって傷つける訳にはいかなかった。

 その躊躇いが命取りとなる。分かっていながらも、やはり金太郎は手持ちのアックオーガを振るう事ができずにいた。

『排除―――』

 淡々と忠実な命令を実行しようとするマシンの如く、アルミラージュは強力な金縛りで金太郎を封じ込めてから、パオフーを用いて止めを刺そうと一気に接近。

三天結盾(さんてんけっしゅん)! 私は拒絶する!」

 間一髪のところで、金太郎の前方に張られた逆三角形状の防御膜がアルミラージュの攻撃を防いだ。

「ほおおおおお」

 それと同時に織姫とともに駆け付けた一護が斬月を振り下ろし、アルミラージュを攻撃。両手のパオフーを斬り落とした。

「金太郎さん!」

「ったく。一人で暴走してねーか冷や冷やしたぜ。大丈夫か?」

「一護殿・・・織姫殿・・・」

 九死に一生を得た金太郎。

 ちょうどそのとき、ユーノとコンの二人も金太郎の危機へと参上した。

「一護さん!」

「おぉー! マジで魔導虚(ホロウロギア)だったぜ!」

「ったく。一体何がどうなってやがんだ?」

 状況がイマイチ飲み込めない一護がアルミラージュを凝視すると、斬り落とした腕はいつの間にか超速再生能力によって復活していた。

「月牙天衝―――!!」

 より強力な一撃を食らわそうと刃先から巨大な斬月を飛ばす。

 地面を伝って飛来する斬撃。アルミラージュは体を超能力によって破面(アランカル)が持つ外皮「鋼皮(イエロ)」並に硬質化させ、襲い掛かる衝撃を耐え忍ぶ。

「おやめください! あれは・・・あれはウルティマなのです!」

「え!?」

「なんだって?」

 金太郎によって語られた衝撃の事実に一同は耳を疑った。

「だったらなおの事だ。あいつがウルティマなら、魔導虚(ホロウロギア)の成分を斬魄刀で浄化すれば元に戻るはずだ!」

 救うべき相手だからこそ手は抜かず、全身全霊の力で助けるという強い意思を示した一護は、斬月を握りしめ今一度攻撃を加えようとした。

 だが、次の瞬間―――真横から飛んできた衝撃によって攻撃を阻まれた。

「!?」

 攻撃が飛んできた方向に目を転じれば、ステッキを持った黄金の甲冑を纏った怪人が立っていた。

『そんなことをすれば、子ウサギは消えてなくなりますよ』

「なんだおまえ? どういう意味だよ!?」

 意味不明な言葉を口にした怪人に語気強く問いかける一護。

 すると、怪人の口からユーノ達が予想だにしなかった衝撃的な内容が飛び出した。

『体が弱く成長し切っていない子供が幼生虚(ホロウロギア)と融合した場合、幼生虚(ホロウロギア)側の支配権が強くなり、やがて『融合事故』によって周囲を巻き込みながら自滅の道を辿る。魔導虚(ホロウロギア)の成分を浄化すれば、魂と共に肉体も消滅する。助かる道はない』

「そんな・・・・・・」

「マジかよ」

 この事実が本当ならば、ウルティマの死は避けられない。

 惨いとしか言いようがない話に声を詰まらせるユーノ達。そして、金太郎は決して承服しかねる内容に激昂する。

「貴様・・・ウルティマの体に何をしたぁ―――!!!」

 怒りを露わに全身の魔力エネルギーを爆発させ、超高速でこの状況を見て笑っているかのような振る舞いを取る怪人の元へと飛び込んだ。

「止すんだ金太郎!」

「ダイナミックスラッシュ!」

 ユーノの制止を振り切り、渾身の一撃を振るう金太郎。

 直後、金太郎の瞳に映ったのは信じ難い光景だった。アックスオーガの刃は寸でのところで怪人の首元でピタリと静止し、どれだけ力を入れてもそれ以上動こうとはしなかったのだ。

「なんだと?」

『その程度の力では私に傷を負わせることはできませんよ』

 上から見下ろすような物言いをした怪人は金太郎の体に軽く手を添えてから、ポンと前に押し出した。

「ぐああああああ」

 金太郎の肉体に尋常ならざる衝撃が伝わった。今迄経験した事のない力で前に押し出されて壁に激突。ユーノ達はあり得ない光景に目を疑った。

『後は任せますよ。アルミラージュ』

 言うと、怪人は雲の様にその場から消失する。

『敵・・・排除します』

 殲滅の任を負ったアルミラージュは機械的な口調で淡々とした言葉を紡ぐとともに、鋭く光るパオフーで眼前の敵を全て排除しようと動き出す。

 最早ウルティマの自我は完全に(ホロウ)によって食われたものと判断したユーノと一護は、苦い顔を浮かべながら互いに斬魄刀を構え、自己防衛の為に剣を振るおうとする。

「お待ちくだされ!!」

 しかし、頑なにこれを良しとしない男が二人を制止させる。

 金太郎は織姫とコンに気遣われながら、ボロボロになった体を引きずり、アルミラージュに刃を向ける二人の前に立ち塞がる。そればかりか武器を向けるアルミラージュをまるで庇うかの様に背を向けた。

 思わず困惑するユーノと一護。

 金太郎の瞳を見れば、その本気と覚悟が嫌というほど伝わってくる。彼はどんなことがあってもアルミラージュを・・・・・・ウルティマを救おうとしていた。

 

『! アァアアア・・・・・・』

 彼の熱意が伝わったのか、アルミラージュの様子が急変した。

 突如として頭を抱えて苦しみ出すとその場に倒れ、自身を傷つける事も厭わず金太郎達へ攻撃しようとする行為そのものを自制しようとする。

「どうなってるんだ?」

魔導虚(ホロウロギア)にされたら自我は無くなる筈だ・・・なのに、金太郎を傷つけまいとして自分を傷つけてる」

 精神を食われながらも、最後まで金太郎を護る為に(ホロウ)の力に抗おうとするウルティマの姿に胸が強く絞めつけられる。

 このまま黙っていられるはずも無かった。何も出来ぬままウルティマを死なせるのは自分の矜持に反する事だと思い、一縷の望みを抱いてユーノに聞いてみた。

「店長・・・彼女は、ウルティマは本当に助からないんですか?」

「・・・・・・・・・」

 問いかける金太郎。ユーノは顔を伏せ、終始だんまりを決め込んだ。

「わかりました・・・・・・ならばせめて、この手で彼女を元の姿に戻してやりたいのです。どうかお力添えを願います。お願いいたします!!」

 本当の願いが叶えられぬのなら、怪物なったウルティマを本来の姿で見送りたい―――それが金太郎のせめてもの贖罪だった。

「・・・・・・・・・・・・わかった」

 長い沈黙の末、金太郎の気持ちを汲んだユーノは懐に手を入れ、一本の魔力カートリッジを取り出した。

「これは斬魄刀の成分を抽出して作った特殊なカートリッジだ。これを使って攻撃すれば、魔導虚(ホロウロギア)の成分を浄化できる」

 いつかこんな時が来るかもしれない―――そう思って早くに備えていた物がこんな形で使う羽目になるとはユーノ自身も思っていなかった。

「感謝痛み入ります・・・・・・――――――」

 気持ちを汲んでくれた事への感謝の意を述べ、金太郎はユーノから渡されたカートリッジをアックスオーガへと装填。斬魄刀の成分を抽出した魔力エネルギーを全身に隈なく行き渡らせる。

『アァアアア・・・・・・アァァアァアアア・・・・・・』

 苦しみ喘ぐその声は金太郎に助けを求めているかのようだった。

 アルミラージュに狙いを定めると、金太郎は脱兎の如く駆け出し―――金色に輝く刃でアルミラージュの体を切り裂いた。

 

「―――ダイナミックチョップ―――」

 

 固唾を飲んで見守るユーノ達。金太郎も暫くの間は静止を保つ。

 直後、アルミラージュの顔を覆っていた仮面が剥がれ落ち、元の姿に戻ったウルティマが目の前に倒れ込んだ。

「ウルティマ!!」

 金太郎は直ちにウルティマを抱きかかえ、霊子分解に伴い全身から淡い光を放つ彼女へと呼びかける。

「ウルティマ・・・・・・しっかりするんだ」

 すると、呼びかけに答えようと間もなく命の灯が尽きようとしているウルティマが申し訳なさそうに弱々しい声を発した。

「金太郎さん・・・ごめんなさい・・・・・・あなたにせっかく助けてもらったのに・・・」

「何も言うな。今は喋らなくていい」

「わたしと出会わなければ・・・・・・こんな辛い思いをしなくて済んだのに・・・・・・ごめんなさい・・・・・・」

「馬鹿な事を言うな。私は・・・・・・君に出遭えて、最高に幸せだった」

「! ・・・・・・ありがとう・・・・・・///」

 故郷を襲われ、人生を狂わされ、挙句に魔導虚(ホロウロギア)とされた人生を内心これ以上ない数奇と悲嘆していたウルティマだったが、最後の最後でその考えが変わった。

 自分の最期を看取ってくる心優しい男の腕に抱かれながら、消滅を迎えられるのならば決して自分は不幸ではない。

 むしろ、自分は恵まれていたのだと実感―――歓喜の涙を流し、霊子となった肉体は天に向かってゆっくりと昇って行った。

 腕の中にあった温もりが消失したのに伴い、金太郎は途方もない空虚感に襲われ、言葉を発する事さえできなくなった。

 ユーノが気にかけて顔を覗くと、眼鏡をかけたままこれまで見た中でも特に悲しそうに咽び泣く金太郎の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 その後、ユーノ達の活躍により秘密結社『ダーク・リユニオン』は壊滅となった。

 しかしこの事件で彼らが得たものは無いに等しく、それ以上に幼くして奪われた尊い命の重さを否が応でも痛感させられた。

 

 また、ドクター・プロスペクトは加頭の手回しによって組織からの脱走を図ると、今回の一件で得られたデータを元に超常現象能力の発現を増幅させる画期的な細胞を造り出す事に成功。

 念願だった超能力兵士【クオークス】を完成させた事など―――このとき、ユーノ達は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 3巻』 (集英社・2002)

原作:久保帯人 著者:成田良悟『BLEACH Can't Fear Your Own World 1』 (集英社・2017)




登場人物
ウルティマ
声:鈴木真仁
アニマトロス出身のウサギの少女。高い超能力の素養を持つ事からドクター・プロスペクトに狙われていた。
記憶を一時失った状態で地球に現れ金太郎に保護されるが、ユートピア・ドーパントによって連れ去られ、魔導虚「アルミラージュ」の姿へと変貌する。自我を失い金太郎へと襲い掛かるが、金太郎によって幼生虚と分離する。元々体が未成熟だった事から魂魄の消滅は避けられず、最期は金太郎の腕に抱かれ別れを告げて消滅した。
スティーヴン
声:勝杏里
ダーク・リユニオンの幹部。パイロキネシスの使い手。髪を逆立てた、ひょろ長い体躯の男。一護、金太郎と別れ単独行動していたユーノを凄まじい火力で襲うも、火元である自分自身をバリアで包まれ、大火傷を負い敗れる。
名前の由来は、パイロキネシスという言葉を最初に用いたとされる作家のスティーヴン・キングから。



登場魔導虚
アルミラージュ
声:鈴木真仁
アニマロイドの子供であるウルティマがドクター・プロスペクトの手によって、幼生虚と融合して誕生した魔導虚。
兎に似た姿をしており、アルミラージュの出現が確認された事より人間だけでなく動物(獣人)も魔導虚化する事が明白になった。
両手を切れ味鋭い斧に変化させる「パオフー」の力を使い、体を超能力によって破面が持つ外皮「鋼皮(イエロ)」並に硬質化させたり、超速再生能力に優れ瞬時にダメージを回復する事が出来る。さらに自身を軸に竜巻のように回転し、両手の宝斧で周囲の物をすべて切断する「アシパトラヴァナ」という技を使用する。
ユートピア・ドーパントによって連れ去られた後に無理矢理幼生虚と融合させられ、自我を失った状態で金太郎と戦った。戦いの最中、必死で我に返ろうと虚の力に抵抗し、最期は金太郎のダイナミックチョップを受けた末に元の姿に戻った。
名前の由来は、インド洋に浮かぶとされる島、ジャジラト・アル=ティニン島に棲息すると言われる角の生えたウサギに似た動物から。
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