ユーノ・スクライア外伝 PARALLEL STORY   作:重要大事

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第25.5話「法の復讐者」

新暦079年 6月2日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央8区 高級住宅街

 

 午後11時過ぎ―――。

 夜も更け多くの人が眠りに誘われる丑三つ時。ロールス・ロイス製の車種を思わせる一台の高級車が帰路に向かって走行していた。

 運転しているのは時空管理局地上本部勤務のバッカス・ダルフーン少将―――現地上本部大将フィリップ・レオンハルトやレジアス・ゲイズ元中将と並ぶミッド有数の強硬派の代表であり、地上では希少な魔導師ランクAAA+を保有する現場叩き上げの実力派である。

 いつものように一日の業務を終え、静謐な住宅街を走っていた折―――ヘッドライドが怪しげな影が映し出した。

 疑問に思いおもむろに車を止める。車から降り、前方に見えるものに目を細めると、ブラウンのレザーコートを身に纏った人物が立ち尽くしていた。

 天秤を逆さにしたものに剣を突き刺したデザインの仮面で顔を覆い隠した人物はバッカスを凝視。バッカスはたただならぬ殺気を撒き散らしながらヘビの如く狙いを見据えた目前の敵から一秒たりとも目を離さず牽制する。

『時空管理局地上本部少将・・・・・・バッカス・ダルフーンだな?』

「何者だ?」

『咎を背負いし罪人よ。法の裁きは逃れても、我が裁きの鉄槌からは決して逃れられぬ―――ここで滅ぶべし!!』

「フン・・・。魔導師資格を有する管理局高官ばかりを狙う殺人鬼とは貴様のことか。だが―――」

 明確となった敵の目的。標的とされながらもバッカスは気負うどころか、むしろ好都合だと思った。

「相手が悪かったな!」

 強気な口調で言うと、両腕にガントレットと腕輪型のアームドデバイスを装備。力強く両拳を合わせることで足元に青白く輝くベルカ式魔法陣が出現。

 魔法陣の出現とともに拳を勢いよく大地へと振り下ろす。その瞬間、範囲型の拘束錠が地上から怒涛の如く現れる。

 ザフィーラが得意とする「鋼の軛」と酷似した性質を持つバッカスの拘束魔法は前方数十メートルに達し、対峙した謎の人物の動きを捕捉しようとする。

 だが、相手は奇妙な高速移動術を心得ており、足元に8×8のチェスボードのようなマスが浮かんだと思えば、予備動作が一切無い不規則な動きで迫りくる高速錠を回避する。

(はや)い! だがぁ!」

 敵の力量を冷静に分析しつつ、次なる魔法を即座に発動させる。

 バッカスの足元から伸びる鎖型の拘束魔法・チェーンバインドは接近する敵に絡みつこうとするが、あと少しというところで捕らえ損ねる。

「ならばぁ!!」

 意地でも捕らえたかったバッカスは奥の手を披露する。敵の全方位を強固な魔力防壁で覆った直後に挟み撃ち。回避行為自体を無意味なものへと変えた。

「・・・フン。他愛もない」

 自らの魔法で敵を捕らえた事を誇らしく思いながら、武装を解除し、おもむろに防壁の元へ近づいて行った―――次の瞬間。

 勢いよく防御壁が突き破られ、敵の右腕がバッカスの頭を鷲掴みにした。

「な・・・なんだとぉ?」

『眠れ。永久(とわ)に―――』

 刹那、断末魔の悲鳴が高級住宅街に響き渡った。

 

 数時間後、通報を受けた管理局員がバッカスを発見した時には既に息を引き取っており、夥しい血痕があたりに飛散した凄惨な姿にされていたと言う。

 

           ◇

 

 機人四天王による首都クラナガン制圧及び魔導虚(ホロウロギア)・ジャガンノートによって引き起こされた一連のテロ事件が翡翠の魔導死神ユーノ・スクライアと機動六課の手によって解決された。

 リンカーエクストリーマーの使用後、機動六課メンバーは最先端医療設備が整った本局の医療施設へと搬送された。

 

           ≡

 

6月8日―――

次元空間 時空管理局本局 医療施設

 

 ユーノによる応急措置を受け、高町なのはを始めとする六課前線メンバー及び阿散井恋次以下民間協力者を含む計19名は【iPS再生カプセル】と呼ばれる治療用カプルセルの中で深い眠りに就いていた。このカプセルは戦いで負傷した箇所を修復し、切断された腕や足を10分程度で完治させることができる最先端の医療器具で、数年前に導入されたばかりのものだ。

 しかし、元を正せばその設計と開発を担ったのは他でもない天才魔工エンジニアとして名を馳せるアニュラス・ジェイドこと、ユーノ・スクライアその人だった。

 そんなカプセルに入ったなのは達の事を四六時中不安そうに見守る一人の少女がいた。

 少女の名は高町ヴィヴィオ。なのはの養女であり、幼生虚(ラーバ・ホロウ)プラン化に伴うクラナガン制圧の際に現場に居合わせた当事者の一人だ。

「なのはママ・・・」

 戦いで傷を負った母の痛ましい姿を目に焼き付けるヴィヴィオ。史上最強と謳われる究極兵器【リンカーエクストリーマー】の副作用で急激に肌が荒れ、老化したなのはは彼女の見慣れた美しい母の姿とは程遠い。だが紛れも無く世界でただ一人の母親である事に違いなどなかった。

 いつ意識が戻るともわからない母や他のメンバーの容態をガラス越しに見つめていたときだった。不意に部屋の扉が開く音がした。

「やぁヴィヴィオ。来てたんだね」

 振り返れば―――作務衣に羽織、帽子という独特の服装に身を包んだ優男が歩み寄ってきた。ヴィヴィオにとっては四年振りに再会する人物、ユーノだった。

「ユーノさん・・・おひさしぶりです!」

 外見は変わってもヴィヴィオはユーノである事を即座に理解し、ペコリと丁寧にお辞儀をした。

「うん、ほんとうに久しぶりだね。こうしてきみと面と向かって話すのは」

 ユーノは四年の間にすっかり成長した少女に対し朗らかに笑いかける。

「思えば最初にヴィヴィオと出会ったのはもう4年前なんだよなー。あれはそう・・・・・・僕がまだ無限書庫で働いていたとき、なのはに連れられてきた小さな女の子、それがきみだった」

「はい・・・あのころはずいぶん小っちゃかったですけど」

 やや気恥ずかしそうに頬を掻きながらはにかむヴィヴィオ。その隣でユーノは更に言葉を続ける。

「感慨深いものだよ。いつも不安そうにしてなのはにべったりくっついていた女の子が、今や立派なストライクアーツ格闘家だなんて」

「そ、そんなことないですよ! わたしなんてまだまだ駆け出しの新米ですし、わたしなんかよりすごい人はたくさんいます!」

「ははは。そういう謙虚なところはなのはそっくりだよ。通ってる学校も格式高いからどこに出しても恥ずかしくはないしね」

 他愛もない話もそこそこに―――やがてヴィヴィオは話題を自分の事からなのはへと移し、改まった様子でユーノに尋ねる。

「ユーノさん・・・・・・なのはママや他のみんなは目を覚ますんでしょうか?」

 真剣な表情で問い質すヴィヴィオ。いたいけな少女の問いにユーノは即答せず、やや言葉を詰まらせた様子だった。

 しばらくして、ユーノは難しい表情でヴィヴィオに厳しい現実を理解してもらおうと率直な言葉を吐く。

「・・・リンカーエクストリーマーは諸刃の剣だ。使用者に絶大な力をもたらす代償に急速な細胞分裂の結果、母体の老化促進を促す。現状、僕の造った装置に入れている事でゆっくりとだが回復には向かっている。あとはなのはたちの生命力と意志の強さに任せるしかない」

「ユーノさん。あの!」

 すると、何を思ったのかヴィヴィオが突然大きな声をあげた。怪訝そうにするユーノにヴィヴィオは訴えかける。

「ママはこの4年間、ずっとユーノさんのことを想っていたんです! わたしの前ではいつも気丈に振るまっていたけど、ほんとうはすごく寂しかったんです! いちばん大好きな人と一緒にいられないのは!!」

「・・・・・・!」

 聞いた瞬間、ユーノは大きく目も見開いた。

 驚愕を露にするユーノを前に、ヴィヴィオは自分が格闘技を始めたきっかけについて話し始める。

「・・・・・・ここだけの話、わたしが格闘技をはじめたのはひとえにママを護りたかったからなんです。JS事件でわたしが『ゆりかごの聖王』となったとき、ママは自分のことを顧みずに助けてくれて、わたしを受け入れてくれた。そのとき思ったんです・・・いつかママを護れるくらい強くなりたいって。でも、今のわたしじゃまだなのはママを護れない」

 拳をぎゅっと握りしめる少女の歯がゆさが如実に伝わってきた。やがて、ヴィヴィオはユーノの目を真剣に見つめながら懇願する。

「ユーノさん、おねがいです! ママを護ってもらえませんか?」

「え。」

「ユーノさんはなのはママの魔法のお師匠さんなんですよね? ユーノさんがそばにいてくれるだけでママは護られるんです! 今回みたいなテロだけじゃない。ただ隣にいてくれるだけでいんです! 今のママにはユーノさんが必要なんです! おねがいです、どうかママを護ってください! これ以上ママのあんな寂しそうな表情を見たくないんです!」

 四年間、娘として誰よりも高町なのはを見続けてきたヴィヴィオだからこそわかる彼女の真意。

 ヴィヴィオにとって「高町なのは」は希望の象徴。世界中の誰よりも幸せになってほしいと心から願う存在。そんな大きな存在を唯一護れる男が目の前にいる。ヴィヴィオは深々と頭を下げ続け一途に嘆願し続ける。

 なのは顔負けの、いやなのは譲りの一途さだった。かつてそんな一途な少女によって命を救われたユーノはヴィヴィオの行動と思いに心を動かされ、やがておもむろに彼女の肩に手を当てた。

 ヴィヴィオが顔を上げると、ユーノは優しい表情を向けながらおもむろに言葉を紡ぐ。

「わかったよ。ヴィヴィオにそこまで言われちゃ無碍にはできない」

「それじゃあ!」

 聞いた瞬間、ヴィヴィオの顔がぱっと明るくなった。嬉々とする少女に穏やかに笑いかけながら、ユーノは心中燻っていたの思いの丈をさらけ出す。

「それにねヴィヴィオ。正直なところ僕もいい加減己の怯懦(きょうだ)を恥じていてところだ。なのはが目を覚ました暁にはすべてを受け入れるよ。僕自身が抱える彼女への気持ちを伝えてね―――」

 言うと、ガラス越しにユーノはiPS再生カプセルの中で眠る幼馴染に目を向け、その回復を心から願った。

 

           *

 

 その頃、機人四天王によるテロ事件解決後も依然続く魔導師資格を持つ管理局高官ばかりを狙った連続殺人事件について、本局総務統括官リンディ・ハラオウンの元へ報告が入った。

 

           ≡

 

同施設内 本局運用部

 

「“非道の徒(イリーガル)”、ですか?」

 それが連続殺人事件の首魁を指す名である事を告げたのは本局統幕議長を務める「伝説の三提督」の一人、ミゼット・クローベルだった。

「素性がわからないから警防部ではその残虐非道な所業からそう呼んでいるわ」

 クローベルの隣にはリンディの親友である本局人事部のレティ・ロウランが付き添っており、話の補足を行う。

「目的も不明にして神出鬼没。逆さ天秤に剣が刺さったデザインの仮面で顔を隠しているということしか情報が無いのが現状よ。魔導師ランクを保有する管理局高官ばかり本局内でも5人。ミッド国内だと10人が被害に遭っているわ」

「5日前にはダルフーン坊や・・・・・・ダルフーン少将も殺害されているわ」

 クローベルの発した言葉を耳にした瞬間、リンディは些か信じ難い表情を浮かべ聞き返す。

「ダルフーン少将が、ですか!? 彼は地上本部でも指折りの実力者で魔法戦格闘の第一人者では!?」

 レティは深く険しい顔で「それだけ危険人物ということよ」と釘を刺してから、改めて注意喚起する。

「悪いことは言わないわ。護衛を増やしてしばらく大人しくしていた方がいいわ。これは親友としての頼みでもあるの。次に狙われるのはあなたかもしれないのだから」

 数年ほど前まで次元航行部隊の艦長を務めていたリンディも魔導師資格を有する高官である事から、レティは強い懸念を示していた。

 重い空気が漂い用意されたコーヒーにすら手を出しづらい中、リンディらは厳しい状況にただただ溜息を吐くばかりだった。

「・・・・・・ユーノ君が魔導虚(ホロウロギア)事件に終止符を打ったと思えば、次は管理局を狙った連続殺人が起こるなんて。ほんとうに、今の世界はかつてないほど不安定で混沌としているわ」

「クロノ君やフェイトちゃんはとても動かせる状態ではないし・・・・・・かといって運用部としても他の武装局員を直ぐに配置できる余裕なんて」

「ほんとうに頭が痛いわね」

 

「なにやらお困りの様ですね」

 困り果てる三人だったが、不意に横から聞き慣れない男の声が聞こえてきた。

 声のする方へ目を向ければ―――理知的な相貌で眼鏡をかけた若々しい男が三人を見て不敵に笑っていた。

 男はおもむろに近づき、いぶかしむ三人に自らの素性を明かす。

「お初にお目にかかります。クローベル統幕議長。ハラオウン統括官。ロウラン提督。私は司法管理部のアストライアー・スカイラインと申します」

「アストライアー・スカイライン?」

 その名前に聞き覚えがあった。暫し沈黙した三人だったが、やがてはっと思い出した様子でリンディとレティの二人が目の前の男―――アストライアー・スカイラインを吃驚した表情で見つめる。

「もしかしてあなたは、局で開かれた魔法刀剣競技会の連続チャンピョンで、執務官になってわずか数年で司法管理部局長に上り詰めた・・・・・・あの!」

「そんな有名人がどうして?」

 その筋では有名な人物がこんな場所で暇を持て余しているとは思えなかった。

 疑問に駆られるリンディ達を見ながら、アストライアーは「偶然通りかかったらお三方の話が聞こえてきまして。失礼ながら立ち聞きしてしまいました」と、端的に答え近くのソファーへ腰を下ろす。

 やがて彼はリンディ達を前にして、ある交渉を持ち掛けてきた。

「どうでしょう、ここはひとつビジネスライクで話を進めませんか?」

「ビジネス、ですか?」疑問符を浮かべるクローベルに対し、アストライアーは不敵に笑い、具体的な話を進める。

「管理局全体が慢性的な人手不足であることは周知の事です。ジェイル・スカリエッティとその一味が引き起こした一連のテロ騒動で各部署が四方八方と後始末に追われる中、今回の連続殺人事件に人員を割く余裕などどこにもない。そこで今回、我々司法管理部に捜査の全権を委ねてほしいのです」

「司法管理部が直々に?」

「しかし、あなた方は捜査権をお持ちではないはずでは?」

 管理局において捜査権及び逮捕権を認められているのは、有事では武装隊や機動部隊などの実働部隊を除けば単独では執務官だけであり、それ以外で捜査権と逮捕権を認められている部署は原則として存在しない。

 当然の疑問を抱えるリンディらを見ながら、内心笑いがこみ上げそうだったアストライアーは無知な彼女達に説明する。

「これは意外や意外。あなた方ともあろう方々がご存じありませんでしたか。司法管理部には『特別司法捜査員任命制度』というものがあります。主として国家権力たる管理局員の装備や能力では対処できない事案、ないしは対処が困難な場面を想定し特定の分野や知識、経験則を持つ民間協力者を特別に捜査員として活用するというものです。すなわち、司法管理部局長によって特別に許可された第三者に対し捜査及び逮捕権を委ねることができるのです」

「「「っ!」」」

 驚愕の事実に三人は挙って耳を疑った。

 彼女達のリアクションを見て好感触を得られたアストライアーは、ここから畳みかけるように交渉を進める。

「本来ならこの手の捜査は本局警防部ないしは執務官が処理する案件ですが・・・・・・事情が事情ですからね。捜査の全体指揮と人員の選出は我々司法管理部で進めたいのですが、いかかでしょう?」

「「「・・・・・・・・・」」」

 決して悪くない話ではある。だが、三人の目から見たアストライアーは腹に一物を抱えていそうで信用に欠ける。何より、本局としても正規の捜査権を持たない他部署に借りを作るという面子の立たない話は出来れば避けたいところだった。

 彼女らの反応からこうなる事はあらかじめ想定していた。アストライアーはそれを分かったうえで右脚を組み、慇懃無礼な態度を取り続ける。

「一応、こちらとしては手間賃や捜査代行などあわせて5000万G(ギルト)くらいで手を打とうかと・・・・・・」

「ご、5000万G(ギルト)って!」あまりにも法外な金額に動揺するリンディ。

「ずいぶんと吹っ掛けてきたわね」レティに至ってはそれがさも当然の如くといった風に自分達を見下すアストライアーの高慢さに驚きを通り越して不快感すら覚える。

 対して、アストライアー自身はふてぶてしい面構えを崩さず更に続ける。

「どうか勘違いなさらないでください。私はただ管理局のメンツを守りたいだけです。JS事件で明るみとなった局の腐敗を払拭し、『正義』の建前を護る為なら5000万なんて安いものです。それに、今の状況を考えればあなた方には他に選択肢など無いと思いますが」

「あなたって人は・・・・・・!」

 我慢の限界に達し、レティが身を乗り出そうとした直後―――それを制したのは沈黙を保っていたクローベルだった。

 やがて彼女は重い沈黙を破り、アストライアーの条件を飲むことを承諾した。

「わかりました・・・・・・それで引き受けます」

「ミゼット提督!?」

 聞き違いではないかと思った。驚愕を露にするリンディとレティの反応を横目に、アストライアーは口元を緩める。

「すばらしい。英断に感謝いたします、クローベル幕僚議長殿。これを機に我々とも仲良くやっていきたいものですね」

 思い通りに相手を言いくるめる事ができた。大満足の結果にアストライアーは嬉々として三人の元から立ち去った。

「正気なんですか!? あんな悪魔染みた要求を甘んじて受け入れるなんて?」

 今回のクローベルの判断を疑問視し糾弾するレティ。

「たとえそうだとしても、彼の言う通り私たちには他に選択肢がないことは紛れも無い事実よ」

 厳しい表情でクローベルは受け入れざるを得ない状況だとレティやリンディに説明する。聞いた直後、レティとリンディは互いに顔を見合った。

「・・・・・・噂通りの切れ者のようね。そして、ここぞとばかり相手の弱みにつけこむ・・・・・・まるでハイエナだわ」

「ユーノ君もそうだけど、彼もまたなるべくならば敵に回したくない人物だわ」

 

           ◇

 

6月9日―――

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央 司法管理部局長室

 

『特別司法捜査員制度』のもと、アストライアー・スカイラインは今回の事件解決の為、民間から一人の人間を招聘(しょうへい)した。

『局長。お連れしました』

「そうか。通せ」

 部下から待ちかねていた人物が到着したことを知らされ、趣味の一人チェスを中断する。やがて前方の扉が開かれ、入ってきたのは今を時めく人物―――翡翠の魔導死神ユーノ・スクライアだった。

 アストライアーはユーノの顔を見るや、口元を吊り上げ、ほくそ笑む。

「久しぶりだな・・・ユーノ。おまえもずいぶんと出世したな」

「ご無沙汰しています、アストライアーさん」

「まぁ立ち話もなんだ。座れよ」

 接客用のソファーへ互いに腰を下ろした二人。互いに面と向き合って話すのは数年振りの事だった。

「しかし先日のテレビの記者会見を見て驚いたぞ。おまえが例の魔導虚(ホロウロギア)なる怪物を倒した翡翠の魔導死神で、天才エンジニア“アニュラス・ジェイド”の正体だったなんてな」

 そう呟きながら、アストライアーは淹れたてのコーヒーを味わいつつ、昔の思い出を掘り下げる。

「思えば昔から、おまえは他の連中とは違いあらゆる面で突出していた。同じ大学に通い、7歳にして考古学の博士号を取得したばかりかそのまま1年も立たずして首席で大学を卒業しちまうくらいだ。同じ釜の飯を食った兄貴分としては鼻が高い」

 あまり滅多な事では人を高く評価しないアストライアーもユーノだけは例外だった。

 その一方で、ユーノは数年振りに会ったアストライアーに違和感を覚えながら、高級品が所狭し置かれた部屋の内装を見て率直な所感を呟いた。

「豪華な部屋ですね・・・しばらく見ないうちに羽振りが良くなりましたね」

「悪いか?」

 気分を害したようにアストライアーはコーヒーカップをコースターへ置くと、眉間に皺を寄せながらユーノを鋭い眼光で睨みつける。

「いえ。ただ、昔に比べるとずいぶん変わったと思いましてね」

 失言だった事を理解しつつも、アストライアーから向けられる反応にユーノは若干の戸惑いを抱いた。

「フン、オレがどう生きようがオレの勝手だ。おまえには関係ないだろ」

 そう言ってソファーから立ち上がったアストライアー。すると、ユーノはふと思い出した様子で別な話題について触れた。

「ところで、奥さんはその後お元気ですか?」

 問いかけられたアストライアーはユーノを一瞥し、しばらく間を置いてから背中越しに答える。

「死んだよ。」

「え・・・・・・」

 聞いた瞬間、ユーノは呆気に取られた様子で声を漏らした。

「オレの事はいいだろう。それより、今日ここへおまえを呼んだのは他でもない。特別司法捜査員としてオレたちに協力してほしいんだ」

「僕が、特別司法捜査員・・・ですか!?」

「『非道の徒(イリーガル)』なる管理局高官ばかりを狙った連続殺人鬼の話は既に耳に入っている筈だ。有力な手掛かりはなく、足取りもまるで掴めていない。本局でも相当に頭を悩ませている。おまえには我々とともにこの事件の犯人を突き止めてもらいたい」

「それは構いませんが・・・なぜ僕なんですか? あなたは元執務官。捜査能力にかけては僕よりもずっと洗練されているし、何より僕が捜査員として手伝うような事なんですか?」

「確かに、そう考えるのは無理もない。しかしなユーノ・・・・・・よく考えてほしい。非道の徒(イリーガル)は管理局の追跡さえ逃れるほどの手練れだ。オレが現役の執務官だったとして、そいつを100パーセント捕らえられるという保証はない。何より我々には情報が少なすぎる」

 客観的な事実を踏まえた理路整然とした見解を述べつつ、アストライアーはユーノの方へ振り返る。

「おまえの経歴についてはよく知っているつもりだ。だからこそ、捜査には多くの情報が必要だ。情報集めにおいておまえの右に出る者はいないとオレは確信している。引き受けてくれるだろう・・・・・・ユーノ」

 やや脅迫染みた物言いでユーノに迫る。アストライアーは彼が決して自分の頼みを断らない事を熟知しており終始不敵な笑みを浮かべる。

 ユーノは逡巡し、悩んだ末にアストライアーからの依頼を了承する。

「――――――わかりました。他ならぬアストライアーさんの頼みです。僕にできることなら」

「そうこなくっちゃな! おまえには期待しているんだ。あぁ、そうだ・・・・・・捜査員として働いてもらうからには報酬を与えないとな。これはささやかながらオレからの前払いだ。遠慮なく受け取れ」

 言うと、アストライアーは約束手形として額面100万G(ギルト)の小切手をユーノへと渡した。

 気前よく大金を渡されたユーノだったが、貰った直後より終始複雑な心境を抱え、渋い顔を浮かべるばかりだった。

 

           ≒

 

十七年前―――

アルハンブラナスル大学 クラナガンキャンパス

 

「――――――君がアルハンブラ始まって以来の天才児。ユーノ・スクライアかい?」

 

 6歳にしてミッドチルダ有数のエリート大学に合格したユーノ。その非凡な才能ゆえに話し相手も無く、同年代で友人と呼べる者は一人としていなかった。

 講義が始まるまでのあいだ窓際の席で黙々と本を読んでいたとき、唐突に横から声を掛けられた。

「・・・えっと、あなたは?」

 困惑するユーノに声の主―――アストライアー・スカイラインは、朗らかに笑いながら自己紹介をする。

「オレはアストライアー。きみの一期上で、同じ授業を取ってるんだ。わからないことがあったら何でも聞いてくれ」

 

 ―――アストライアーさんは大学時代の僕の先輩だった。

 ―――同年代で話し相手となれる友だちもおらず、慣れない都会で戸惑ってばかりだった僕にいろいろ教えてくれた。

 ―――兄弟のいない僕にとって、アストライアーさんは兄にも等しい存在だった。

 

 大学生活にも慣れ始めたある日、ユーノがアストライアーに誘われ大学の有名なゼミナールが主催するパーティーに出席した時の事だった。

「バカ野郎、オレは金のために執務官になるんじゃない!! 社会的に困ってる人々をだなァ・・・・・・」

 酒が回り酩酊状態となったアストライアーは仲間達に雄弁に自らの夢について語りだした。しかし、彼の酒癖の悪さは仲間内では知れ渡っており、周りは口々に―――「やれやれ、またスカイラインの青臭い独演会が始まったよ」「酔うとすぐこれだ」と言って、内心呆れていた。

「おい誰が青臭いだとォ!? おまえらがそんなんだからな・・・!」

「まァまァ。アストライアーさん、少し落ち着いて。」

「ユーノぉ!! オレは酔ってなんかいないぞぉ!!」

 誰も酔ったアストライアーを止める者がいないので、幼いユーノがいつも仲裁に入っては落ち着かせるのがいつしか名物となった。

 

 ―――アストライアーさんは大学時代から僕でも気負うほど、正義感の強いヒューマニストだった。

 ―――そして、僕が卒業して数年が経過して、無限書庫の司書長兼考古学者としてミッド地上で活動の幅を広げていた頃、執務官になったアストライアーさんと再会した。

 ―――そのとき彼は若い女性を伴っていた。

 

「紹介するよユーノ、女房のエレンだ」

「初めまして」

 軽く会釈するエレンと名乗るアストライアーの妻はとても人当たりの良い人物で、初対面のユーノも好感を持った。

「こいつもオレたちの同業者でね。今は二人で一緒の職場で仕事をしているんだ」

「私たち、ポリシーが同じなんです」

「金にならない事件や裁判ばかりやってるけど、毎日とても充実してるよ。こいつはオレの最高のパートナーさ! 女房がいるから頑張れるんだ」

 

 ―――そう言った時のアストライアーさんと奥さんの幸せそうな顔は、いまだって忘れはしない。

 ―――僕は心から二人の幸せを祝福し、いつまでも末永くその関係が続いてほしいと切に願っていたんだ。

 

           ≒

 

6月10日―――

次元空間 時空管理局本局 医療施設

 

 ユーノは、iPS再生カプセルで眠り続けるなのはや仲間の容態をガラス越しに見つめるかたわら、考えるのは数年のあいだに180度別の人間へと変わってしまったアストライアーの事ばかり。

 再会したときの雰囲気や言動を思い返しては、気にかかるのはアストライアーの妻・エレンが既に他界していたという事実に関する事だった。

 

            ―――『奥さん、お元気ですか?』―――

              ―――『死んだよ。』―――

 

                  死んだよ・・・・・・

 

(何故、奥さんは死んだんだ? 何があの人をあんな風に変えたんだ・・・・・・)

 パートナーの喪失という大きな節目。確かに、人が変わるきっかけとしては十分かもしれない。しかし、それだけが原因であるとは到底思えなかった。

 そんな時だった。ちょうど部屋の扉が開かれ、誰よりも早く戦いの傷を癒やしたスクライア商店副店長・熊谷金太郎がユーノの元を訪れた。

「金太郎。身体の方はだいじょうぶなのかい?」

「はい、おかげさまで。店長にもご迷惑をおかけいたしました」

「迷惑だなんて思っちゃいないよ。こんな僕のわがままにお前や浦太郎、鬼太郎は最後まで付いてきてくれた。感謝してもし切れないくらいだ」

 と、感慨深く謝意を露わにするユーノ。

 ユーノをサングラス越しに見つめる金太郎は、彼が醸し出す雰囲気から逸早くその心労に気が付いた。

「何やらお疲れのご様子ですな」

「え。ああ・・・・・・少しトラブルがあってね」

「話をお伺いしても差し支えはありませんか?」

 本来ならば特別司法捜査員としての守秘義務を護るべきところだが、金太郎になら話してやってもいいと思った。

「実は・・・・・・」と口火を切ったユーノは、今回の事件について包み隠さず説明した。

 

「私が寝ているあいだにそのようなことが・・・・・・」

「しかしわからない。なぜ相手は管理局員、それも魔導師資格を保有する高官ばかりを狙っているんだ? 管理局が標的なら無差別に局員を襲えばいい。魔導師資格を保有する局員はそう簡単には殺せない。将校クラスともなればなおのこと」

「・・・その資格が問題なのではないでしょうか?」

 この発言はやがて、今回の連続殺人事件解決において一石を投じる結果となった。金太郎は怪訝するユーノに主観に基づく一つの見解を述べた。

「管理局は未だ魔法至上主義が罷り通っているのが現状。魔導師資格を持つということはすなわち、高い地位と権力を約束される。莫大な報酬と様々な特権、これを羨む者は多いでしょう。しかも・・・“魔導師よ大衆のためにあれ”。古来より真理の探究者だった魔導師が管理局発足以後、国家資格を得た途端に局の人間兵器に変わる。かの『ヴェーダの内戦』以来、管理局に恨みを持つ者はいくらでもおりますからな」

「・・・・・・・・・」

 かつての武装隊名誉元帥から向けられる言葉の重み。それはユーノの心にズシンと響くものだった。

 ピピピ・・・。

 険しい表情で今後について思案を巡らせていた折、ユーノの元へ司法管理部からの通信が入った。

「はい、ユーノです・・・・・・・・・えッ!?」

 

           *

 

午後19時9分―――

ミッドチルダ中央23区 オフィス街

 

 一報を受け、ユーノは直ちにアストライアーの下へ直行した。

 現場へ到着すると、辺りは物々しい雰囲気に包まれ騒然としていた。地上部隊や救護隊、さらには司法管理部の関係者が一堂に会し現場検証に当たっていた。

 人混みを掻き別け、ユーノがアストライアーのそばへ近寄ったとき、彼は手負いの身で、襲撃時に受けたであろう傷が左腕のあちこちに見受けられ、担架の上であおむけになっていた。

「アストライアーさん、だいじょうぶですか?!」

 焦燥を滲みだすユーノにアストライアーは無理に作った笑みを浮かべ「どうってことないさ」と強がった。

「しかしオレも焼きが回ったな。非道の徒(イリーガル)を捕らえようとしてこのざまとは」

非道の徒(イリーガル)を見たんですか? 誰なんですか!?」

「残念ながらオレも正体まではわからなかった。やつめ闇に紛れてこそこそ動き回るもんだから、姿形をほとんど見れていない・・・・・・その代わり有力な情報を手に入れることができた」

 そう言って懐からアストライアーが取り出したのは黒い手帳。彼はおもむろにユーノへと手渡した。

「中を見てみろ。おまえもぶっ魂消るようなことが書いてある」

 言われてユーノは手帳の中身を改める。

「これは!!」

 手帳には信じ難い事が書き綴られていた。そこには現在の管理局ヒエラルキーの頂点、もしくはそこに近いポジションを獲得している上層部達が犯してきた犯罪歴の数々が事細かく記されていた。いわば、その手帳こそ管理局がひた隠しにしている汚職や不正のすべてが網羅された『パンドラの箱』とも言うべきものだった。

 驚愕のあまり声を失うユーノを凝視しながら、アストライアーは手帳の正体について教えた。

「《カルネ・デファンデュ》―――・・・“禁断の手帳”さ。見ての通りその手帳には管理局のお偉方がしでかしてきた不正や悪事、ありとあらゆる犯罪の記録と名簿が克明に記されている。複製ではあるが本物となんら遜色は無い」

「つまり非道の徒(イリーガル)のこれまでの犯行はすべて、この手帳に記録されているリストに則って襲撃を繰り返してきたものだと?」

「そう考えるのは妥当だろう。だがわからないことがひとつ。カルネ・デファンデュに記されているのは何も管理局員ばかりじゃない。政治家や法律家、他にも今の世界を動かす政財界の重鎮共の名前がびっしりとある。なのに犯人が襲っているのは一貫して魔導師資格を持つ管理局員ばかり・・・・・・これはどういうことだと思う?」

 アストライアーの疑問を受けた途端、ユーノは渋い顔つきのまま沈黙。

 彼の表情を見て、何か気づいているという事を暗に悟ったアストライアーは、「おまえなら何か知っているんじゃないのか?」と、おもむろに問いかけた。

 しばらくして、ユーノは重い口を開き、バツの悪そうな顔で話し出す。

「・・・その襲撃者があくまで魔導師資格を持つ管理局員だけ標的とするならば。たどり着く答えはひとつです」

「管理局の・・・内部の人間の仕業か?」

「僕の推察が正しければ、非道の徒(イリーガル)の行動原理は一貫して管理局の魔導師に強い怨恨を抱いていること。しかもその実力は元執務官のアストライアーさんに手傷を負わせるほどの手練れです」

 言うと、ユーノは拳をぎゅっと握りしめ決意を込めた様子で口にする。

「いずれにしてもこれ以上奴の凶行を見過ごすわけにはいきません。必ず見つけ出して、檻の中にぶち込んでやりますよ」

 それを聞いた後、安堵しつつもどこか複雑な心境でアストライアーは「・・・・・・オレもそうしてほしいよ」と、静かに呟いた。

 

 午後20時過ぎ―――。

 アストライアーと別れ、ユーノは先日の一件があったとは思えぬほど静寂に包まれたミッドチルダの街並みを高台から眺めながら、ひとり思案に暮れていた。

 アストライアーとの再会以来、さまざまな違和感や不審点や疑惑が湯水の如く湧き上がってくる。

 

            ―――『オレもそうしてほしいよ』―――

 

(あなたは変わってしまった、アストライアーさん・・・・・・本当に変わってしまった・・・・・・理想主義者だったあなたが・・・・・・・・・・・・・・・なぜ・・・・・・?)

 疑念が次第に確信へと変わり始める中、ユーノはアストライアーから拝借した黒革の手帳―――カルネ・デファンデュを手に取った。

(こんなものをどこで手に入れたんだろう・・・・・・・・・いや、違うな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうまでしてなぜ復讐に固執するのか・・・・・・・・・)

 このとき既に、ユーノは薄々とだがこの事件の真相にたどり着こうとしていた。襲撃者の目星も九分九厘見当が付いていた。

 問題は“非道の徒(イリーガル)”がどんな経緯で魔導師資格を持つ管理局上層部を標的としているのかという事。その答えを知る為に、ユーノはある人物にコンタクトを取る事にした。

 映像通信で特定の番号を呼び出す。しばらくして、その人物―――本局査察部査察官ヴェロッサ・アコースに繋がった。

『こちらヴェロッサ・アコースです』

「・・・・・・ご無沙汰しています、アコース査察官。ユーノです」

『え!? ほんとうにユーノ先生なんですか!?』

 突然のユーノからの連絡に驚愕し柄にもなく戸惑いを抱くヴェロッサとは対照的に、ユーノは単刀直入に用件を伝える。

「実は折り入って頼みたいことがあるんです。火急の件でして」

『先生が僕に、ですか? わかりました。それで何を調べればいいのでしょうか?』

「司法管理部局長アストライアー・スカイライン氏の亡き妻・エレン氏の死因と彼女が死の間際まで関わっていた裁判の記録を、大至急調べてほしいんです」

 

           ◇

 

6月11日―――

ミッドチルダ南部9区 アルテナ

 

「ひぃぃぃい!!」

 迫りくる死の恐怖に失禁寸前の魔導師資格を有する管理局本局幕僚長を務める中年男性。目の前には殺意剥き出しで仁王立ちをする襲撃者―――非道の徒(イリーガル)が睨みを利かせており、一歩たりとも逃げ出す隙が無かった。

「た・・・頼む! 金ならやる! 私の財産はすべてくれてやる!! だから命だけは!!」

『命乞いか・・・。人間ってのはどこまでも醜いな。最高だよ。オレはおまえのような人間が大好きだぁ』

 皮肉を込めてそう言うと、右手に抱えた細身の剣を振り上げ、前方の標的の息の根を止めようとする。

『死して己の罪を贖え―――』

「う・・・うあああああああああああああああ!!!」

 艶の無い悲鳴が屋敷中に響き渡り、凶剣が振り下ろされそうになった―――次の瞬間。

 

「チェーンバインド!」

 翡翠に輝く魔法の鎖が非道の徒(イリーガル)の剣へと絡みつく。

 鎖の先を辿ると、現場へ駆けつけたユーノが立ち尽くしており、間一髪のところで局員の命を救う結果となった。

「早く逃げてください!」

 窮地を脱した局員は思うように下半身に力が入らず、悲鳴を発しながら床を這って自室を飛び出した。

『オレの邪魔をするな』

 ユーノの干渉によって標的を仕留め損ねた事に癇癪を抱き、非道の徒(イリーガル)は足元にチェスボードの如く特殊なマスを展開すると、【イリーガル・ムーブ】という特殊な瞬間移動能力を駆使してユーノへと急接近。

 咄嗟に仕込み杖で非道の徒(イリーガル)の剣を受け止めると、ユーノは狭い屋内から広々とした中庭へ飛び出し、戦闘フィールドを確保する。

 中庭に出るや非道の徒(イリーガル)はユーノを襲撃するのに執着。不規則な高速移動術とフェンシングのような独特な剣術を披露する。

 魔導死神化したユーノにとってこの程度の攻撃を受け止めることは造作もない事だった。だがしかし、このときユーノの心は大きくかき乱されていた。その原因は他でもない対峙した敵・非道の徒(イリーガル)そのものにあったからだ。

「もうよしてください! やめてください!」

 いたたまれなくなったユーノは思わず声を荒らげ襲撃をやめるよう敵に懇願する。そんなユーノの願いなど一切無視して、非道の徒(イリーガル)はひたすら攻撃を繰り返す。

 沈痛な表情を浮かべ、ユーノは振り下ろされる敵の剣を手持ちの杖で受け止める。捌いて距離を取った後、切実に目の前の相手に訴える。

「お願いです。こんなことはもう終わりにしましょう! アストライアーさん!」

 名前を言われた瞬間、仮面で顔を覆い隠していた非道の徒(イリーガル)は自らの正体を暴露する。

 仮面を外すと、司法管理部局長―――アストライアー・スカイラインは眉間に皺を寄せながらユーノを凝視する

「やはり気づいてしまったんだな・・・・・・」

「なぜです? 誰よりも正義感が強く、法の下の平等を信じてきたあなたがどうしてこんな事を!?」

 未だに信じられない事実を受け止めることが難しいユーノ。

 そんな彼から向けられる言葉を耳にした途端、アストライアーは口元を歪め皮肉たっぷりに笑みをこぼす。

「フフフフフフ・・・・・・法の下の平等、か。悪いがそんなものはただの幻想だよ。アレ以来、オレはもう法律なんか信じちゃいないんだよ!」

「やはりそうですか。あなたがそんな風に変わってしまったのは・・・・・・4年前の奥さんの死。奥さんは・・・・・・レイプされたそうですね。依頼主の局魔導師に。しかも、告訴したがレイプは認められなかった」

「・・・・・・・・・・・・調べたのか。」鋭い眼光でユーノへ問いかける。

「ええ、知り合いの伝手を辿って当時の裁判記録を読ませてもらいました」

「だったら・・・・・・・・・なぜ強姦罪が成立しなかったかもわかってるだろ?」

「奥さんが事件のあとも、その魔導師の男に依頼された仕事をやめないで続けていたから・・・・・・それを裁判所は相手に対して好意があったと判断したんです」

「その通りさ。仕事を通じて親密になり、相手を受け入れる意思があった、とな・・・・・・」

 小刻みに肩を震わせながら、当時の屈辱的な過去を思い出す。そのたびに湧き上がる途方もない怒りと悲しみ、絶望が・・・・・・アストライアーの精神を大きくかき乱し、ついには声を荒らげる。

「ふざけるなっ!! 女房は・・・・・・・・・・・・エレンはそんな女じゃないぞ!! その男に依頼された仕事というのはささいな金銭トラブルだったんだ! だが、その件に関してはその男が騙されているのは明白だった。そこには明らかに加害者と被害者が存在している・・・・・・だからエレンはその加害者の罪を見過ごせなかったんだ。弱者を救いたい・・・・・・罪を憎んで人を憎まず・・・・・・理想に忠実に生き抜こうとした・・・・・・たとえ自分の感情を裏切ってでも・・・・・・・・・なのに・・・・・・なのに『法』は・・・・・・・・・あいつのそんな思いを打ち砕いたんだ!」

 嗚咽しながら声を発するアストライアーの双眸から零れ落ちる悔し涙。なによりも彼が悔しかったのは、自分と妻が信じた『法』が何の力も発揮されず、正義を踏みにじったという事だった。

「週刊誌やマスコミの連中は連日のようにおもしろおかしく袋叩きにした! エレンは依頼主と寝るあばずれ女執務官とな・・・・・・そんなバッシングを受け続け、遂に耐えきれずに自殺したんだ・・・・・・・・・オレがどんなにあいつを信じても、結局守りきれなかった!! 法は究極の善意を信じた人間を否定し、罪を犯した者に何の罰も与えなかったんだ!!」

 酒の席以外でここまで感情的な態度をとったアストライアーを見たのは初めてだった。何も言えず口籠るユーノにアストライアーは語気強く主張する。

「ユーノ! それが『法』ってやつだよ! オレやエレンが人を救い、正義を執行すると信じていた『法』ってやつの正体さ!」

「だから復讐なんですか? “非道の徒(イリーガル)”となり、カルネ・デファンデュに記された法では裁けない者たちへ・・・―――」

 問いかけるユーノに、アストライアーは口元を歪めると、隠していた胸元を大きく開いて見せた。見れば体の中心部にはぽっかりと空いた孔があった。

 ユーノはハッとした表情を浮かべ確信した。人の姿こそ保っていれども、アストライアーは復讐を果たす為に何らかの方法で“魔導虚(ホロウロギア)”になったのだと。

「おまえの言う通りだよ・・・ユーノ。オレはこの世界を支配する『法』に復讐してやるんだ! 何の役にも立たない法律とそれを都合のいいように利用し、弱者を虐げ、のうのうと生きる愚かな連中にな!!」

 自らの目的を声高に叫びあげたとき、アストライアーは狂気に支配された笑みを浮かべ嬉々として語りかける。

「やつらの最期はそれはそれは惨めだったよ。目も当てられないほどにな。とても魔導師資格を有する者とは思えない弱々しい口ぶりで、仕舞いには大抵こういうんだ・・・・・・金ならある。いくらでも払うから見逃してくれってよ」

「アストライアーさん・・・・・・」

「フン・・・・・・ときにユーノ。おまえはどこでオレが犯人であることを見抜いた?」

 用意周到に事を運んできたつもりでいたアストライアーの正体を、ユーノはたった数日の間に看破してしまった。その理由について、ユーノは彼の目をじっと見ながらおもむろに話した。

「あなたの左腕の防御創(ぼうぎょそう)を見て不自然だと思いましてね。以前、医療事務に関する書物を読んだとき、本物と偽装した防御創の違いについて書かれていたのを思い出しました。あなたは自分が犯人であることを周囲に気づかれまいと自らを傷つけ、わざと容疑者から外れようとした。しかしそれが却って僕の中のあなたへの疑惑を確信へと導いてしまったんです」

「なるほど。防御創か・・・・・・本当に怖いくらいよく見ているよ」

 畏怖と尊敬の念が籠った言葉を口にし、アストライアーはユーノの洞察力に脱帽する。

「これ以上あなたの凶行は見過ごすわけにはいきません。自首してください。あなたの復讐はここで終わりだ」

「終わってなどいないさ。なにも」

 手持ちの剣をユーノへと突きつけ、紅玉色をした禍々しい魔力と霊圧が入り混じった力をあからさまに放出しながら口にする。

「法は人を救わない。法律がある限り、人は幸福を得る機会を失う。そのために悪魔に魂を売った。オレこそが法の復讐者“非道の徒(イリーガル)”だ!」

「アストライアーさんッ!」

 ユーノの説得も空しくアストライアーの攻撃は再開された。

 イリーガル・ムーブと組み合わせた魔法による斬撃。さらには執務官時代に培った様々な魔法スキル駆使した多彩な攻撃は戦いを躊躇うユーノを少しずつ追い詰めていく。

「やめてください! もうやめるんだ!」

 訴えかけるユーノの左頬に鋭い痛みが走る。アストライアーの刃によって切られた箇所から血が滴り落ちる。

「腐った果実はさっさと取り除くべきなんだ。ユーノ、この世界にとっての腐った果実は他ならぬ管理局とそれを支える法なんだ!」

 攻撃を躊躇しがちなユーノに剣を突き立てアストライアーは宣言する。

「これ以上オレの邪魔をするならおまえから始末する」

「あなたの言う通り・・・『法は人を救えない』・・・・・・・・・・・・僕もそう思いますよ。だからこそ・・・人を救えるのは人だけなんです」

 きっぱりと口にした直後、ユーノは斬魄刀を始解―――覚悟の籠った瞳で眼前の敵・非道の徒(イリーガル)を見据え言う。

「僕は・・・自らが正しいと思う信念の為に、この命を捧げる! たとえどれほど恨まれようと、どれほど傷つこうと、僕は僕のやり方であなたを救ってみせる!」

「お前の正しさは他人を追い詰める。いつかきっとその報いを受けるぞ」

 

 カキン―――!

 刹那に勃発する激しい攻防。

 片や復讐を果たそうとする者。片や復讐を止めようとする者。

 翡翠の魔導死神ユーノ・スクライアにとって、非道の徒(イリーガル)―――アストライアー・スカイラインは過去例にない強敵として立ち塞がった。

 人の姿を保っているとはいえ、今のアストライアーは紛れも無く魔導虚(ホロウロギア)と化している人外の存在。元々備わっている魔導師としてのスペックに上乗せされた(ホロウ)の力は彼に大きな力を与える事となった。それは魔導死神化したユーノでさえ手を焼くほど厄介な力だった。

 イリーガル・ムーブを用いて背後からユーノに奇襲を仕掛ける事など造作もなく、さらには【昇格(プロモーション)】と呼ばれる能力でユーノの強さをコピーし、並行して彼の戦闘力を数値化し不正に操作する【細分数値(レイティング)】を発揮。この力を用いる事で非道の徒(イリーガル)は一見不利に思えるユーノとの戦いを有利に推し進めることが出来た。

「はああああああああ」

 だが、非道の徒(イリーガル)の卑劣な戦法にもユーノは決して屈しなかった。

 どれほど自分が傷つき、痛みを覚えようと大地に膝を突くことはしない。心に誓った己の信念を貫くために、我武者羅なまで一途に剣を振るい続ける。

 その思いの強さが大きくなるにつれ、非道の徒(イリーガル)との戦いの流れも次第にユーノ側へと傾き始めた。驚異的ともいえるその力に驚きを通り越して恐怖すら感じつつ、アストライアーは率直にユーノへ問いかける。

「人を救うのは人だけと言ったな? オレをよく見ろよ! 人の姿をしたバケモノだぞ! それでもおまえはオレを救うのか、ユーノぉ!!」

 声高に問うアストライアーに対しユーノは・・・・・・

「救いますよ。あなたが何と言おうと僕は・・・・・・・・・必ず。罪を憎んで人を憎まず・・・・・・かつてのあなたがポリシーとした事を今この場で僕が実現してみせる!」

「やれるものならやってみろぉぉおおお!!」

 どこまでも自分とは正反対で、清廉潔白なその生き方が羨ましくもあり同時にとても憎らしく思った。

 崇高な理想を掲げて戦うユーノをこれ以上見たくたかった。苦しい現実から逃避し人ならざる者に身をやつした自分自身とその行為を正当化する為には、ユーノ・スクライアという存在は邪魔だった。

「おおおおおおおお!!!」

 これ以上の問答も争闘も必要ない。決着をつける為に、アストライアーは止めの一撃を仕掛ける。

 

 バシュン―――。

 

 鋭い斬撃が双方ほぼ同時に繰り出された。

 数秒の沈黙の末、アストライアーの手持ちの剣先が二つに折れ―――彼自身もユーノの放った一撃によって斬り伏せられた。

「・・・・・・やっぱりおまえは天才だよ・・・・・・・・・そして・・・・・・オレの見込みに間違いは・・・なか・・・った・・・」

 満足げな表情を浮かべながら、最後まで言葉を発することもままならず気を失った。

 ユーノは静かに剣を納めてからアストライアーへと近づき、胸の孔が塞がっているのを確認。魔導虚(ホロウロギア)化が解かれた彼の腕を静かに持ち上げ、手錠を嵌めた。

 

「5時2分―――アストライアー・スカイライン、現行犯逮捕(現逮)!」

 

           ◇

 

 特別司法捜査員ユーノ・スクライアの手によって、ミッドチルダを震撼させた局員魔導師連続殺人事件の犯人・非道の徒(イリーガル)こと、元・管理局司法管理部局長アストライアー・スカイラインは逮捕された。

 

 アストライアーの逮捕から数日後、高町なのはとの和解を経たユーノはアストライアーが収監されているレゾナ中央拘置所へ赴いた。

 

           ≡

 

6月17日―――

ミッドチルダ東端部 レゾナ東中央拘置所

 

 レゾナ東中央拘置所は、重大事件の容疑者を収監する目的で設置された。取材攻勢を避けつつ、万が一の逃走や襲撃が遭った際の被害を想定した結果、都心から離れた辺鄙(へんぴ)な土地に建設されたのは無理からぬ事だった。

「こちらです」

 刑務官に案内され、ユーノが分厚い壁で囲まれた円形の檻の前に立ったとき、部屋の中央には魔法が使えない様に特殊な鎮静衣(ちんせいい)に身体を包まれ両手両足を固定されたアストライアーがいた。

さらに彼の口を覆っている戒具を見た途端、ユーノは驚きのあまり目を疑った。

防声具(ぼうせいぐ)・・・!! 禁止されたはずじゃあ・・・・・・」

「特定留置人指定の申し出が来ています。医師承諾の下、自殺を防ぐ為の措置です」

 命を絶つ事も辞さないアストライアーの心境に胸が締め付けられる。

 刑務官の許可を経て、二人きりとなったユーノはアストライアーの正面に座り込み、おもむろに語り掛ける。

「・・・・・・・・・アストライアーさん。やはり何度考えてもおかしいんです。普通の人なら、まず愛する人を死に追いやった原因・・・・・・つまり犯人を憎んで、その犯人に復讐しようとする。でもあなたはそうじゃなかった。犯人ではなく『法』そのものに刃を向けたのは理解していたからなんですよ。“殺人によって得られる苦痛からの解放など存在しない”と。あなたは己の良心の呵責に苦しんでいた。だからこそあなたは僕を特別司法捜査員として選んだんだ。自分では抑えきれない狂気と凶行を僕に止めてほしかった。違いますか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 口を塞がれ、念話さえできないアストライアーから返ってくる言葉はない。

 それを承知のうえで、ユーノは彼に消えない心の傷を負わせた例のレイプ事件について言及する。

「・・・・・・・・・アストライアーさん。レイプ事件の加害者がその後どうなったか知ってますか?」

 ぴくっと、アストライアーの眉が僅かに吊り上がった。

「あなたの言いたいことを当ててみましょうか。『知るか、そんなこと!! どうせどこかでのうのうと暮らしてるんだろうよ!』・・・・・・って」

 彼の心の内を見透かしたユーノは、おもむろに口にする。

「自首・・・・・・・・・したんですよ」

(!・・・・・・・・・何だと?)

 聞いた瞬間、思わず目を見開くアストライアー。ユーノはさらに続ける。

「上申書にこう書いてあったんです。女執務官さんの筋の通った行動に、自分のしたことの愚かさを思い知らされ自責の念に耐えきれず、と・・・・・・・・・アストライアーさん・・・・・・あなたや奥さんの理想主義も満更ではなかったのかもしれませんよ」

(そんな・・・・・・・・・)

 思ってもいなかった結末にアストライアーはショックを隠し切れなかった。

「『人を救うのは人だけ』・・・・・・アストライアーさん。まさしく奥さんの生き方そのものだったんですよ」

 ゆっくりと腰を上げたユーノは、茫然自失と化すアストライアーの方を一瞥し、彼がこれからの人生でしっかりと罪を償っていけるよう無言のエールを送り―――静かに牢の前から立ち去った。

 ポタ、ポタ・・・・・・。

 ようやく自分の愚かさに気づかされたアストライアーは、ただただ悔しくて、悲しくて、声を押し殺し止め処ない涙を流した。体中の水分が一滴も残らぬくらい。

 

 拘置所を後にしたユーノは、アストライアー経由で手に入れたカルネ・デファンデュを手にしながらある決意を固める。

(「法は人を救えない」・・・・・・確かにその通りだ。だからこそ、法が人を救うんじゃない。「人が人を救う」んです)

 心中そう呟いた後、カルネ・デファンデュを懐へとしまい、再び歩き出す。

(あなたの意志と無念は―――僕が引き継ぎます)

 

 

 

 アストライアーが志した理想を実現すべく、カルネ・デファンデュに記された情報を盾に奔走の末、ユーノはのちにある資格を得る。

 

       ―――【特別検察官(とくべつけんさつかん)】―――

 

 それはユーノ・スクライアだけが持つ唯一の司法捜査権。

 表向きは縦割り組織としての管理局が抱える慢性的な人手不足を補うために設けられた執務官制度の延長。

 しかしその実、ユーノ・スクライアが掲げる崇高なるひとつの『正義』を果たす為の確固たる力である。

 

       ―――『法は人を救えない、人を救うのは人だけ』―――

 

 二度とアストライアー・スカイラインの様な悲劇を繰り返さない為、ユーノ・スクライアは果てなき茨の道を進むこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:三塚蘭 国友やすゆき著『OUT LOW 1巻』 (小学館・1999)

原作:小森陽一 作画:藤堂裕『S -最後の警官- 9巻』 (小学館・2013)

 

用語解説

※1 鎮静衣=身体を包んで動けないようにするもの。暴行または自殺のおそれのある在監者に対して、その防止のために用いることができる。

※2 防声具=監獄、留置場で用いられる戒具の一種で、口をおおって声を出せないようにするもの。




登場人物
アストライアー・スカイライン
声:津田健次郎
37歳。時空管理局司法管理部局長。魔法術式・ミッド及び近代ベルカ式/魔導師ランク・陸戦AA+、魔力光は紅玉色。
ユーノの大学時代の先輩で、年の離れたユーノにとっては兄の様に慕っていた人物。司法管理部局長に就任する以前は優秀な執務官であり、大学卒業後にユーノと再会した時にはエレン(声:大橋彩香)という伴侶を伴っていた。ミッドチルダで起こった魔導師ランク保有の管理局員襲撃事件の解決を求めて6年ぶりにユーノと再会する。かつては正義感が強く実直な性格で、「法の下を平等」を強く信じていたが、ある時点より法律を一切信用せず、それを利用して金だけを無心する拝金主義者になった。ユーノの事は弟同然のようにかわいがっていた事から、ユーノの行動や素行などをよく熟知している。
実は彼こそが謎の襲撃事件の犯人「非道の徒(イリーガル)」であり、妻を自殺へと追いやった法律に強い恨みを抱き、その法律の網を掻い潜って私腹を肥やす管理局への復讐のため暗躍していた張本人。どこからか手に入れたカルネ・デファンデュに記録されたリストに記載された魔導師資格を有する管理局上層部を次々と襲撃する。真実を知ったユーノに対しては、愛憎入り混じった複雑な感情を抱きながら戦うが、敗北。逮捕後にユーノから妻をレイプした犯人がその後自首したことを知り、牢の中でこれまでの自分の行いを後悔しながら涙を流した。
名前の由来は、ギリシア神話に登場する女神で正義の神格化であるディケー女神と同一視された「アストライアー」から。



登場魔導虚
「非道の徒(イリーガル)」
声:津田健次郎
人間に極めて近い姿を持ちながら、虚の特徴である胸に空いた孔を持つ魔導虚。その正体は時空管理局司法管理部長官のアストライアー・スカイライン。
魔導師資格を保有する管理局上層部を殺して回る連続殺人犯で、「非道の徒(イリーガル)」の名は管理局がその残虐非道な所業より通称としてつけたもの。逆さ天秤に剣が刺さったデザインの仮面で素顔を覆っているが、自由に取り外すことが出来る。正義を執行する力と信じてきた現行の法律制度の限界と、それを食い物にする者達への恨みから、法律を憎み、管理局上層部を殺して回る。
戦闘能力は作中でも高いレベルにある。元は、管理局で開かれた魔法刀剣競技会で連続チャンピョンになる実力を持つ屈指の執務官であったため、多彩で並外れた魔法スキルを持つ。加えて、魔導虚化後に会得したチェスボードのような8×8マスの座標を足元に出現させ、座標を指定し自在に移動できる「イリーガル・ムーブ」という能力を駆使し、相手の後ろを取り奇襲する「詰駒(スキュア)」を得意とする。さらに相手の強さをコピーする「昇格(プロモーション)」と相手の戦闘力を数値化して不正に操作する「細分数値(レイティング)」によるコンボ技が存在する。
名前の由来は、英語で違法の、不法のという意味の「illegal」から。

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