ユーノ・スクライア外伝 PARALLEL STORY   作:重要大事

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第33.5話「ふぞろいなアルベド」

――私の名は白鳥礼二。誇り高き護廷十三隊一番隊第三席の座に就いている。

――我が「白鳥家」は四大貴族には劣るものの、上流貴族「霞大路家(かすみおおじけ)」とも肩を並べるほどの財を築き、流魂街の貧民層でもぼちぼち名の知れた貴族である。

――ちなみに、我が家では近年鉄鋼生産に力を注いでおり、尸魂界(ソウル・ソサエティ)の近代化の一役を担っている。お主たちも覚えておいて損はないだろう。

そう言い終えた白鳥は、わざとらしく前髪をかきあげ話しを続ける。

――だが、如何に恵まれた境遇の私とて、自由にならないこともある。私にとって今現在の最たる悩みの種は・・・・・・。

 

「じゃあ白鳥さん! 今日からバリバリ魔法を上達させていきましょう!!」

 

――眼前において笑顔で立ち尽くす管理局の白き魔王・・・・・・もとい、高町なのは戦技教導官と言う名の鬼の存在。

(どうしてこうなってしまったのだ~~~!?)

 心中この状況に辟易しながら、白鳥は頭を抱え今の状況に至るまでの過程を振り返ることにした。

 

           ≒

 

新歴079年 7月2日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 アドバイザー室

 

事の発端は、一時間前に遡る。白鳥は機動六課エグゼクティブアドバイザー兼護廷十三隊総隊長代行であるユーノから、直々の呼び出しを受けていた。ついでに、以前ユーノから貸し与えられた魔法の教本を返却するつもりだった。教本を片手に、白鳥はアドバイザー室へ足を踏み入れる。

「ユーノ店長、この前借りた教本を返却しに・・・・・・ん?」

扉を開けた瞬間、ユーノは先客である女性と談笑していた。その女性は、彼の幼馴染であり魔法の弟子、そして恋人でもある、機動六課戦技教官のなのはだった。

「あ、白鳥さん! お待ちしてました♪」

白鳥の存在に気づいたユーノが、なのはとともに彼を見つめる。白鳥は教本を手に、二人の元へ歩み寄った。

「私を呼びつけるとは如何様(いかよう)であるか? まさかとは思うが、高町女史との仲睦まじい姿を見せつけ、独り身である私を陥れ優越感に浸る気か? なんと悪魔的でおぞましいことか・・・・・・主はそれでも人間か!?」

「落ち着いてください、白鳥さん。すべてあなたの妄想です。まずは、僕の話を聞いてください」

 勝手に云われない因縁を吹っ掛けられ、やっかみを抱く白鳥の言動を慣れた様子で諫めると共に、ユーノは真面目な表情で語り掛ける。

「今日あなたを呼び出したのは、他でもありません。今後の魔法スキルの修得と実戦訓練を、ここにいる高町教導官が担当します」

「改めて、よろしくお願いします」

 なのはは一礼し、莞爾(かんじ)として笑みを浮かべた。

「どういうことである? 私は別に高町女史に教わるつもりはないのだが・・・・・・そもそも、私はユーノ店長のもとで学びたいのであって・・・・・・!」

「お気持ちはわかりますが、白鳥さん。これからのことを考えると、やはりちゃんとした専門家の指導を受けるべきなんです。知っての通り彼女は現役の戦技教官であり、エース・オブ・エースの称号を持つ魔導師。六課前線メンバーから絶大な信頼を受ける彼女なら、心配いりません」

「もう、ユーノ君ってば。煽てても何も出ないよ♪」

 なのはは照れたように笑みを浮かべるが、白鳥は納得がいかない様子で声を荒げた。

「私の話を無視するでない! 以前言ったはずだ! “私の為に精度の高い魔法の扱い方を教授してほしい”と!! その約束を反故(ほご)にするつもりか!?」

「確かに言いましたね。でも、僕はその言葉に対して『はい、わかりました』とは一言も言っていません。第一、今の僕はとてもじゃないですが白鳥さんに個別に魔法の扱い方を教える時間もないんです。知ってるでしょう、僕の立場を。二足どころか、三足の草鞋を履いてる身なんですよ」

ユーノはアドバイザーとしての業務に加え、天才魔工技師アニュラス・ジェイドとしての活動、さらには護廷十三隊総隊長代行として、ミッドチルダに滞在する死神達を管理・統括し、その保護を担っていた。どれも徒疎(あだおろそ)かにはできない重要な役割であり、片手間で白鳥の魔法指導を行う余裕などなかった。

「時間がないだと? ならば、その寸暇を惜しんででも、片手間に魔法を教授することぐらいユーノ店長ならばできる筈である!」

「そんな人の上げ足を取るようなことは言わないでください。いいですか、時間は有限なんです。僕だって白鳥さんだけの為に時間を費やせるわけではありません」

「しかし・・・・・・!」

 なおも白鳥が食い下がろうとしたその時、なのはが間に入り、優しく彼を宥める。

「白鳥さん、あなたのお気持ちもわかります。でも、ユーノ君のことも考えてあげてほしいんです。今だってここ一週間、まともに休めてないんです」

「そ、そうなのか?」

「自慢じゃないないですが、今日で七連勤目です」

どこか自慢げに語るユーノに、なのはと白鳥は妙な違和感を覚える。

「なので、どうか幼児のような癇癪(かんしゃく)を起さず、寛大な心で受け入れてください」

「断る! 私はユーノ店長のもとで学ぶと決めたのだ! 今さら指導者交代など認めんぞ!!」

「そこを何とかお願いしますよ。彼女のどこが不満なんですか? 局でも一、二を争うほど有名かつ、美人でスタイル抜群! 男心をくすぐるチャーミングフェイス! あなたの目は腐ってるんですか!?」

「さり気なく自分の恋人自慢をするのはやめろ。見ろ、本人が真っ赤になっているではないか?」

 ユーノが声高に恋人を褒めたことで、なのはは顔を赤らめ、指をもじもじさせながら照れていた。

白鳥は溜息を吐き、ゆっくりと答えた。

「たしかに容姿といい経歴といい、高町女史は魅力的な女性ではある。それは認めよう。しかし、ユーノ店長・・・私はお主の魔法に心酔し、師事を請うておるのだ。デバイスを用いずしてあのような華麗で無駄のない魔法を操る其方(そなた)の技に私は感服した。エースか何か知らぬが、私は自分が認めた相手しか頭を下げる気はない」

「嬉しいこと言うじゃないですか。でもそれを言うなら、なのはだって負けちゃいません。負傷ブランクを持ちながらも、十年以上に渡り、空を飛び続けた彼女の魔法スキルは最早芸術そのもの! アウトレンジからのシューターで彼女の右に出るものはいません。勿論、僕を含めてですけど」

「だが、同時に私の本能が叫んでいる。この女は危険だと!!」

「そんなことないですよ。白鳥さんの考え過ぎですって」

 腫れもの扱いされるのは心外だった。なのはは危険なモンスターを見るような眼差しで自分を警戒する白鳥に弁明をするが、当人はどこか及び腰だった。

「とにかく私は嫌である! 日頃スバル達の訓練を見ているからわかっておる! どうせニコニコ笑いながら、えげつないハードメニューを押し付けるのが関の山だ!!」

「それはあなたのポテンシャル次第ですね。なのはは、期待値の高くない人にハードメニューを課すほど鬼じゃありません」

 そうユーノが口にすると、なのはは破顔一笑。その後で白鳥をじっと見つめた。

「私の見立てじゃ、白鳥さんなら今身につけているスキルにもっと磨きをかけられるはずです! 今よりずっと強くなれますよ!!」

 そう言いながら、なのはの目は輝き、彼女の使命感と期待が溢れていた。それはまるで太陽のように眩しく、白鳥には毒でしかなかった。

「ぬぬぬ・・・・・・そんな眩暈(めまい)がするようなキラキラした眼差しで私を見るなー!! あぁもうわかったである!! やればいいのだろう!! 大人しく従ってやる!!」

 

           ≒

 

同隊舎内 海上トレーニングスペース

 

鬱屈した気分を抱えながら、白鳥はなのはの個別指導を受けることになった。なのはは彼の前に立ち、意気揚々と説明を始める。

「さて、これからしばらく私が白鳥さんとマンツーマンで魔法の個人スキルを磨いていきます。しっかりついてきてください」

「マウスツーマウスだと? 主は何を言っているのかわかっているのか!? この破廉恥女め!」

「マンツーマンです! なんで口移しになるんですか、誰もそんなこと言ってません! ていうか、それをするならあなたとじゃなくてユーノ君としたいですよ!」

なのはは白鳥の素っ頓狂な聞き間違いに赤面しつつも、つい正直な気持ちを漏らしてしまう。対して白鳥は真顔で溜息を吐く。

「何を真に受けておるのだ。ほんの冗談というのが何故わからぬ」

「わかりませんよ! ふざけないで真面目に聞いてください!!」

白鳥の独特なペースに振り回されそうになりながら、なのはは気を取り直して説明を続けた。

「とりあえず白鳥さんの魔法の精度を把握するために、まずは簡単にテストを行います。こちらで用意したターゲットを如何に早く撃破できるかで、訓練の方向性を決めていきたいと思います」

「よかろう。だが、その前にやらねばならぬことがある」

「え?」

真剣な表情を浮かべる白鳥に、なのはは何をするのか固唾を飲んで見守る。

すると、白鳥はどこからともなくエレガントなテーブルと椅子を取り出し、さらにはコーヒーカップを手にして一服を始めた。

「うむ・・・・・・戦いの前に飲むブルマンは、これまた旨い」

まさか堂々とコーヒーを飲み始めるとは思わず、なのはは困惑した表情を浮かべる。

「あの・・・・・・白鳥さん・・・・・・一応訓練なんで、そういうのは後にしてほしいんですが」

「コーヒーを飲むのと飲まないとでは、私のモチベーションに大きな乖離が生じる。主も人にものを教える立場にあるのなら、寛大な心で見守ることだ」

(うぅ・・・・・・なんか調子狂うな・・・・・・)

普段の教導がいかに楽だったかを実感しつつ、結局、白鳥がコーヒーを飲み終えるまで、なのはは一時間近く待たされることとなった。

 

コーヒーブレイクを終えた白鳥は、準備された街中を想定した仮想戦闘フィールドに立っていた。

『じゃあ、白鳥さん。準備はいいですか? これから実技テストを始めます。今、白鳥さんがいるフィールドにオートスフィアを放ちます。向かってきたターゲットを破壊してください。あ、中には破壊したらダメなものもありますから気をつけてください。あと、わかってると思いますが・・・・・・今回は飽く迄も魔法スキルのみで対応してください。斬魄刀や鬼道を使った攻撃は禁止です』

「なるほど。大体わかった。どのようなターゲットが来ようと、悉く返り討ちにしてみせよう」

『了解です。じゃあ・・・…スタート!』

スタートの合図と共に、フィールドに複数の魔法陣が出現。なのはが設定したダミーも含めたオートスフィアが次々と白鳥に襲いかかる。

「刮目せよ。我が華麗な魔法捌きを」

宣言すると同時に、白鳥はオートスフィアに向かって疾走する。

「お。さっそく始まったか」

ちょうど、フィールドの外では、ユーノがこっそり白鳥の訓練の様子を観察していた。

「さてさて・・・・・・なのはの瞳(め)には白鳥さんはどう映るのかな?」

 

「喰らうがよい!」

テスト開始早々、白鳥はユーノから学んだ基礎的な射撃魔法で、次々とオートスフィアを破壊。さらに、デバイス《ジークフリート》を使って汎用の飛行魔法を発動し、空中に舞い上がると、空からも的確にスフィアを撃ち落としていく。

「鎖よ、我が意に従え!」

勢いづくや否や、ユーノが得意とする捕縛魔法「チェーンバインド」を発動し、複数のスフィアを同時に捕捉。射撃魔法で一気に破壊した。

白鳥の魔法スキルを観察していたなのはとレイジングハートは、多少の粗や癖があるものの、彼の魔法精度の高さに驚かされる。

〈You seem a lot more dexterous than we assumed.(我々が想定していたよりもずいぶんと器用に思えますね)〉

「うん、そうだね」

なのはは頷き、白鳥の潜在能力に大きな期待を抱いた。彼がユーノから魔法の基礎を学び、霊術や鬼道の才能を持っていたことは承知していたが、それ以上に魔力の運用と制御が優れているのだと実感する。

(さすがはユーノ君が魔法の基礎を教えただけはある。元々死神さんの使う霊術・・・鬼道の才を持っていたとしても、魔力運用も制御もそこらの魔導師よりもずっと緻密で優れてる。これは益々鍛え甲斐がありそう!!)

期待の高い生徒ほど、教官としてのやる気も高まる。なのはは、白鳥との今後の訓練メニューを心の中で次々とシミュレートしていく。

 

こうして無事にテストは終了。戻ってきた白鳥に、なのはは労いの言葉をかける。

「お疲れ様です、白鳥さん。すごいですねー、あんなに魔法を上手に操れるなんて思ってもいませんでした!」

「私は誇り高き白鳥家の血脈である。生来凡人とは生まれ持った才幹(さいかん)が違うのだ」

当然だと言わんばかりに自己肯定感を強く持つ白鳥に、なのはは未だ慣れていないため、苦笑するばかりだった。

「ま、まぁ、自信を持つのはとてもいいことだと思いますよ。今回のテストで、白鳥さんの訓練方針がある程度見えてきました。白鳥さんのレベルであれば、魔法の基礎をイチから指導する必要はなさそうです」

「そうであろう、そうであろう。既に私は常人を越えた域にあるのだからな」

「なので、今後は私との模擬戦を中心にした実戦訓練を主軸にしていこうと思います♪」

なのはがにこやかに言うと、白鳥は一瞬固まり、驚愕の表情を浮かべた。直後、引き攣った顔のまま恐る恐る聞き返す。

「あ・・・・・・い、今・・・何と申した・・・・・・!?」

「ですから、模擬戦を中心にした訓練を」

「え、やだ・・・」

思わず本音が口をついて出た。気づけば、白鳥は恐怖から逃げ出そうとしていた。

「ヤダヤダヤダ怖いである!!!」

「ちょ、何で逃げようとするんですか!? 何が怖いんですか!?」

なのはは白鳥の腕をしっかりと掴み、逃走を阻止する。白鳥は足を動かそうとするが、ルームランナーの如く一歩も進めず、震える声で訴える。

「お主と模擬戦だと!? 冗談ではない、そんなもの体がいくらあっても足りぬわ!! 悪いが、この訓練は降ろさせてもらう!!」

「何言ってるんですか!? 今さら逃げるなんて虫が良すぎますよ! それに、私は六課の教導官として、ユーノ君からあなたを預かった責任があるんです!」

「イヤだぁぁぁ!! 私はまだ死にたくなぁぁい!! ママぁぁぁ――!!」

泣き叫ぶ白鳥を無理やり引っ張り、なのはは彼を訓練場へと引きずり込んだ。宛らアリ地獄のように。

 

           ◇

 

そして、特訓の日々が続いた。

逃げようとする白鳥を、なのはは捕らえ続け、いつしか白鳥に反抗する気力は失われた。

 

           ≡

 

7月7日――

機動六課隊舎 エントランスロビー

 

「あ・・・あ・・・・・・」

 訓練も五日目に突入していた。白鳥は精魂尽き果て、燃え尽きたかのように座り込んでいた。そんな白鳥に、居合わせた鬼太郎と浦太郎が面白がって声をかける。

「おぉ、鳥! だいぶやつれてやがるな」

「なのはちゃんとの訓練が相当きつかったみたいだよ」

「あ、あの女は悪魔だ・・・・・・バインドでこちらが動けないのをいいことに、あんな高火力の魔力砲撃を叩きこむなど・・・・・・!」

白鳥の脳裏に鮮明に蘇るのは、絶望的な圧力と迫りくる終焉の予感。死神を名乗る白鳥ですら、底知れぬ暗闇に引きずり込まれるような錯覚を抱かせるほどだった。話を聞いていた恋次と吉良は、彼を不憫(ふびん)に思いながらも、これもいい薬だと思っていた。

「なのはも容赦ねーからな。普段、碌に訓練もしねーでコーヒーばっか飲んでる白鳥には、ちと荷が重かったか?」

「とはいえ、戦術の基本は相手の弱点や隙を突くことだ。彼女はそれを愚直なまでに忠実に実践しているだけだよ」

「吉良副隊長はあの悪魔の肩を持つつもりであるか!? お陰で、私は幾度となく死に欠けたのだぞ!」

「魔法には非殺傷設定がついてるだろうが。直撃しても怪我はしねーよ」

思わず感情が高ぶり白鳥は声を荒らげるが、鬼太郎は鼻をほじりながら冷たく返す。

「それでも痛みは伴う!! 私の体は、頑丈さだけが取り柄のピーチと違ってデリケートなのだぞ!!」

「人がせっかく心配してやってるのに、その言い草は何だ!? おまえなんざ、なのはに焼き鳥にされちまえば良かったんだ!」

「まぁまぁ、先輩もそれくらいにして。でも白鳥さん、何も悪いことばかりじゃないと思いますよ。むしろこう考えるべきです。美人のピチピチした体のなのはちゃんに付きっ切りで見てもらえるんですよ、それって男からしたら最早ご褒美だと思いますよ♪」

浦太郎は、厭らしい笑みを浮かべながら茶化すが、白鳥は不機嫌そうに返す。

「ふん! 何がご褒美であるか。褒美どころか、こんなものまで渡しおって!」

そう言って、白鳥は目の前に置かれた大量の書類を一瞥する。自然と他の者達の視線も、その書類に向けられた。

「そういやさっきから気になってたが、こりゃ何の書類だ?」

恋次の問いに、白鳥は重い口を開く。

「今日までの模擬戦で私が敗北した理由と、その改善点をレポートにまとめて提出するようにとのお達しである。全くどこまで理不尽か、これならばゴールデンベアに扱かれている方がいくらかマシである!」

「ほぉ・・・それは大変興味深い話ですな」

その瞬間、白鳥は背後に凄まじい圧を感じ、恐る恐る振り返る。そこには、二メートル近い大男、熊谷金太郎が立っていた。彼は眼鏡越しに白鳥を凝視しながら低い声で言う。

「であれば、一分一秒でも時間を無駄にせぬよう、是非私にも白鳥殿に協力させていただきたく存じます。さぁ、白鳥殿――私と朝まで語り合いましょうぞ」

「いえ・・・・・・えんりょします・・・・・・」

白鳥は震えながら、決して語り合いたくはない相手にそう断った。

 

           ◇

 

翌日――

同隊舎内 海上トレーニングスペース

 

「おっし! んじゃ、今日の訓練始めるぞー!」

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

訓練場に集まったスバルらを始めとするフォワードメンバー。白鳥の特訓に時間を割いているなのはの代わりに、ヴィータが彼らの指導を一手に引き受けていた。

「お前らも知ってると思うが、なのは隊長はしばらく白鳥の教導で忙しいから、あたし一人だ。つっても、あたしも教官の端くれだ。手を抜くつもりはねーからそのつもりでいろよな?」

「あはは・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

ヴィータの含みを帯びた笑いに、スバルは苦笑いを浮かべる。ティアナ、ギンガ、エリオ、キャロも同じ反応を示していた。

その時だった。遠くから甲高い人の叫び声が聞こえてきた。

「なんか・・・・・・悲鳴みたいなものが聞こえたんですが?」

「みたいなじゃなくて、紛れもなく悲鳴だよ」

キャロの疑問に、エリオが真顔で答える。一方、恋次はその悲鳴が白鳥のものだと確信しているかのように、軽い調子で言う。

「白鳥には酷だが、これも通過儀礼ってやつだな」

「それは何に対してのかな?」と、吉良がツッコミを入れた。

 

その頃、なのは主導の白鳥特訓は六日目に突入していた。

模擬戦を中心とした実戦形式の訓練、その内容はまさにスパルタそのもの。なのはの多方向からの同時攻撃に、白鳥は悪戦苦闘していた。

「ええぃ、手が足りん! ・・・ぐはぁ!」

追尾機能のある攻撃には対応できず、

「この程度もの避けてしまえば、造作もなっ・・・・・・この卑怯な!」

正面からの攻撃も回避できず、

「そんな見え見えの攻撃、叩き落としてくれるわ!  ・・・・・・って抜けん!  ・・・・・・ぶぉあ!?」

白鳥の魔法スキルは一向に上達せず、むしろ悪化しているようだった。

(訓練を始めて六日目だけど・・・・・・当初のポテンシャルの高さはどこへ行ったの? まるで成長の兆しが見えない・・・・・・)

なのはは、白鳥の状況に面を食らい、当初の期待が裏切られていることに戸惑っていた。

 

模擬戦が終了し、なのはは満身創痍の白鳥に苦い顔をしながらフィードバックを行う。

「白鳥さん、ダメじゃないですか。ちゃんと教えた通りにやらないと。だから余計に疲れるんですよ」

「う、うるさい! 私だって一生懸命やっておる!」

「私には到底そんな風には思えないんですけど・・・・・・」

思わずなのはの本音がぽろっと漏れる。すると、レイジングハートが客観的な見解を述べる。

〈It seems to me that Mr.Shiratori has too much tension in his shoulders when he uses magic. He should try to relax more, like on the first day of testing.(白鳥殿は魔法を使う際、肩に力が入りすぎているようです。初日のテストのように、もう少しリラックスしてみてはどうでしょうか)〉

「ふん! AI風情がこの私に意見するなど、百年早いわ!」

「白鳥さん、レイジングハートはあなたのためを思ってアドバイスをしているんです。少しは素直に聞いた方がいいですよ」

なのはは穏やかに指摘するが、白鳥はその厚意すら無視し、苛立った態度を見せる。

「ええい、黙らっしゃい!! コツさえわかれば、あの程度の魔法の一つや二つ、どうってことはないわ! そもそも教官ならば、それを生徒に教えるのが仕事であろうに!!」

「ですから、何度も言ってるようにそのコツを掴むためにも、まずは自分で考える癖をつけないとあなたのためにならないんですよ。白鳥さんは少しばかり、デバイスや他人をアテにし過ぎなんです。いざという時にその考えは非常に危険なんです。今のうちに直しておくべきでして・・・・・・」

この六日間の訓練を通じて、なのはは白鳥の戦闘における思考パターンや癖をデータ化していた。白鳥は他人を召使いの如く、自分の手足のように扱おうとする考え方を持っており、なのははその点を改めるよう助言するが、白鳥は聞く耳を持たない。

「私がいつ他人をアテにしたというのだ? 私に言わせれば、無意味な模擬戦を繰り返す暇があれば、先ずはきちんとした魔法の理論を教えるべきである。少なくとも、ユーノ店長は私の考えを尊重してくれた!」

「確かに、白鳥さんの言う事ももっともかと思いますが、どれだけ魔法の理論を教えてそれを理解したとして、実戦では必ずしも役立つとは限りません。戦局は一分一秒ごとに変化します。『技術は作戦を決する』という言葉通り、即座に自分の頭で考えて行動する力が必要です。模擬戦はそれを養うために、とても大事な訓練なんです」

「お主にとってはそうかもしれぬが、私は違う! お主にあれこれ指図されずとも、私は私のやり方で上達してみせる!」

「白鳥さん・・・・・・」

絵に描いたような水掛け論。二人の言い争いは平行線を辿り、なのはは自分の教えを全く受け入れない白鳥に悪戦苦闘する。これまで多くの生徒を教えてきた彼女にとって、教えることがこれほどまで苦痛に感じたのは初めてのことだった。

 

           *

 

ミッド住宅街 高町家

 

「はぁ・・・・・・」

夕方、仕事を終えて帰宅したなのはは、白鳥との教導が芳しいものではないことに溜息を吐いた。そんな母の姿を見て、ヴィヴィオが心配そうに近寄る。

「ママ、どうしたの? なんか元気なさそうだけど」

「ん・・・…ちょっとね。ユーノ君から頼まれた教導が、あんまりうまくいってなくて・・・…なんか自信なくなってきちゃった」

「そうなんだ」

いつも楽しそうに教導している母しか見たことがないヴィヴィオにとって、今のなのはの様子は新鮮で、同時に心配にもなる。

「でも、ママがそんな弱音を吐くなんて、珍しいね」

ヴィヴィオはソファーに座り、キャラメルミルクを飲みながら話を聞くことにした。なのはは、聞く体勢を整えたヴィヴィオに、おもむろに語り出す。

「戦技教導ってね、強くなりたいっていう強い意志と熱意を持ってる人に技術を教えるからこそ、、意味があるんだよ。だから、スバル達には全身全霊自分の持ちうる技術と経験の全てを伝えたいって思うの。でも、白鳥さんは違う。あの人からはまるで強くなりたいっていう意志や熱意がちっとも伝わってこない。せっかく素晴らしい才能があるのに、こっちがいくら熱心に説明しても上の空だし、目を離すとすぐにコーヒー飲んでるし、アドバイスすればムキになって怒るし・・・・・・正直、こんなに教えるのが辛いと感じたのは初めてだなぁ・・・・・・」

「ママも大変だね。でも、きっとママの熱意はいつか白鳥さんにも伝わるよ!」

「ふふ、ありがとう。ヴィヴィオにそう言われたら、少し元気出てきたかも」

娘に励まされ、なのはも少し元気を取り戻し、笑みを浮かべる。ヴィヴィオも同じように笑顔を返した。

「ママは一人でがんばり過ぎなんだよ。どうせなら、ユーノさんに相談してみたら?」

「それはできないよ。これは他ならぬユーノ君から頼まれたことだから。白鳥さんの魔法スキルを上げるって約束した以上、私が解決しなきゃ」

〈You forgot me, Master.(マスター、私のことを忘れてませんか?)〉

「そうだったね。レイジングハートも一緒だよね」

なのはの顔の近くで浮かんでいる独立飛行形態のレイジングハートが声をかけ、なのはもその言葉に同意する。

すると、ヴィヴィオがふと疑問を口にする。

「でも、わたし思ったんだけど・・・・・・ユーノさんって、ほんとに白鳥さんに魔法スキルを上達してほしいと思ってるのかな?」

「え?」

「だって、白鳥さんって元々死神さんなんだよね? そりゃ魔法スキルがあるに越したことはないけど、アンゴルモア回収の任務があるなら、無理に魔法を覚えるより、元々得意な技を磨いた方が絶対いいと思うんだけど?」

ヴィヴィオの言葉は正鵠を得ていた。アンゴルモア回収や日常的に戦闘が多い状況では、使い慣れない魔法より、すでに熟練している能力を強化する方が効果的だ。これは、なのはが旧六課時代にスバル達に行ってきた指導の方針でもあった。もしユーノが魔法スキル向上を目的としていないとすれば、彼の本当の意図は何なのか。なのはは神妙な顔つきで考え込んだ。

 

           ◇

 

翌日――

機動六課隊舎 隊員オフィス

 

六課前線メンバーの大半は、本日デスクワークに従事していた。鬼太郎は、嫌いな事務仕事をこなしながら、この場にいない白鳥となのはのことが気になっていた。

「今日も鳥はなのはと一緒に訓練か?」

近くで涼しい顔で仕事を片付けている浦太郎に問いかける。

「意外と長続きするよね。てっきり白鳥さんのことだから、途中で投げ出すかと思ってたけど」

「俺もだよ。ま、時間の問題だろうけどな」

浦太郎の言葉に恋次も同調する。しかし、それを聞いていたスバルが反論する。

「そんなことありませんよ! なのはさんは教え方も丁寧ですから、きっと白鳥さんだって心を開きます。ティアがそうだったんですから」

「ちょ、そこで昔の話を蒸し返さないでよ! あの時はまだ若かったの!」

一時期、訓練で強くなれないと反発したティアナは、過去を掘り起こされて赤面しながらスバルを制止する。

「つーかよ。前から気になってるんだが・・・・・・ユーノは白鳥とどこで知り合ったんだ? やっぱり尸魂界(ソウル・ソサエティ)か?」

「金太郎さん、ご存知ありませんか?」

ふと恋次がユーノと白鳥の馴れ初めについて疑問を口にする。吉良が、長年ユーノと付き合いのある金太郎に問いかけると、

「私が知る限りでは・・・・・・四年前、白鳥殿は帝王学の一環として、社会勉強で現世へ赴いた際、当時一護殿の元で修行をしていた店長と出会ったそうです。あれでもまだ大分ましになった方でして、店長曰く、何かにつけて札束を巻いては金持ちぶりをひけらかしていたそうです」

皆がその話に思わずうわーと声を漏らしながら、白鳥のイメージを頭の中で描く。

「そんな人とよく仲良くなれましたよね、ユーノ先生・・・」

「いや、別に仲良くはなってねーだろ。鳥は単なる店の客だぜ」

「ま、変な腐れ縁みたいなものはあるんだろうけど」

キンコンカンコン・・・。その時、昼休憩を知らせる鐘の音が響いた。

「あ~、やっと昼かー」

「飯食いに行こうぜ!」

皆が仕事を切り上げ、昼食を取るために食堂へ向かって廊下を歩いていた。すると、その時――

「私のどこが不満なんですか! ちゃんと言ってください!」

「だからさっきから言っているではないか!」

遠くから男女の言い争う声が聞こえてきた。その声に一同は立ち止まり、顔を見合わせる。

「今の、なのはさんと白鳥さんの声だよね!?」

「ロビーからだったわ!」

「喧嘩してるみたいだが、何があったんだ・・・」

一行は急いでロビーに向かった。到着すると、なのはと白鳥が周囲の視線も気にせず、大声で対立していた。

「ですから、白鳥さんの言い方じゃ伝わらないんです! どうしてほしいのか、具体的に教えてくれないと、私だって何をどう修正すればいいのか・・・・・・」

「修正も何も、私はもうお主から教わるものは無いと申していると何故わからぬのだ!?」

「教わるものは無いって・・・・・・じゃあ言わせてもらいますけど、白鳥さんは、魔法の基礎しかできていないんですよ! それ以外は全部無茶苦茶だし、いくらこっちが説明しても真剣に取り合おうとしない! これじゃ、私の仕事の意味がないんですよ! 一体何のためにユーノ君からあなたを任せられたかわかりません!!」

怒鳴りながらも悲しみの籠った瞳で白鳥を見つめるなのはと、そんな彼女の気持ちなど知る由もない白鳥は、不敵な笑みを浮かべる。

「ふふ、ようやく本性を表しよったか。お主は、所詮自己満足のためにやっているのだろう? そもそも、高町女史、お主は少々驕りが過ぎるぞ。人にあれこれ指図するばかりで、こちらの意見を取り入れたことがあったか? その高慢な態度を改めない限り、私は主を教官とは認めぬ!」

聞いた瞬間、なのはの中で何かが切れた音がした。彼女は拳を強く握りしめ、感情を爆発させた。

「高慢なのは白鳥さんの方じゃないですか!! なんでいつもそんなに偉そうなんですか!? それこそ何様のつもりなんですか!? あなたに私の気持ちがわかるわけが――・・・」

「はいはい、ストップストップ!」

「なのはさん、白鳥さんもその辺にしましょう!」

これ以上の争いを見かねた恋次達が間に割って入り、喧嘩を止めた。

「全く、不愉快極まりない」

白鳥は不機嫌な顔を浮かべながら、その場を後にした。

「おい白鳥! どこ行くんだ!?」

咄嗟に恋次が呼びかけるが、白鳥は無視して去っていった。

「ったくあいつは・・・・・・」

恋次は頭を掻きながら、白鳥の態度に呆れた様子でぼやく。

一方、なのはは感情に任せて大声を出したことに羞恥を覚え、皆に謝罪する。

「ごめんね、みんな。大声出して迷惑かけちゃって・・・・・・」

「いや。お陰でいい余興になったぜ!」

「あのね先輩、それフォローになってないから」

「でもどうしよう・・・・・・これじゃ、ユーノ君に顔向けできないよ」

ユーノから白鳥を任された手前、成果が出ていない現状に、なのはは焦っていた。

「ユーノは今日と明日、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に出張中だ。まだ時間はあるさ」

「とりあえず、お昼いただきましょう。私、おごります!」

恋次とスバルの気遣いに、なのはの曇っていた表情が少しだけ和らいだ。

 

           *

 

同隊舎内 部隊長室

 

夕方、なのはと白鳥とのひと悶着は、はやてやフェイトにも伝わっていた。なのはは溜息を吐きながら、二人に話を聞いてもらっていた。

「だいじょうぶ? なのは」

「んー・・・あんまり大丈夫じゃないかな・・・」

「フォワードのみんなから聞いたよ。なんや白鳥さんと喧嘩したそうやな」

「だって・・・・・・白鳥さんってば、ちっとも強くなろうとしないんだもん。戦技教導は、強くなりたいっていう本人のモチベーションがあるからこそ成り立つのに、これじゃ暖簾に腕押しだよ」

「確かに、白鳥さんってスバル達と違って、表立って強くなりたいとか、強くあろうって言う気持ち自体薄い気がする」

「こりゃユーノくんも、どえらい爆弾を押し付けたもんや」

はやてが冗談混じりに口にした瞬間、なのはは「それは違うよ」ときっぱり否定した。

「ユーノ君は、責任を途中で放棄する人じゃない。だけど今の忙しい状況じゃ、どうしても手が回らない。だから私を頼ったんだよ。私はそれが嬉しいの。普段、人に頼るのが苦手なユーノ君が・・・・・・だから私は、それに全力で応えたい!」

なのはは長年ユーノを見てきたからこそ、彼の性格を熟知していた。何でも自分でこなせるユーノは、人に頼るのが苦手で、頼ること自体が少ない。そんな彼が白鳥の教導をなのはに任せたということは、彼にとっても大きな意味を持っているはずだった。

「せやけど、なのはちゃん。今のままでほんまに結果を出せるんか?」

「ユーノの期待に応えたいって言う気持ちは分かるけど、今のなのはは、見えないプレッシャーに押し潰されそうな気がしてならないよ」

はやてとフェイトは、まっすぐで自分を顧みないなのはの性格を憂慮していた。

「大丈夫だよ、二人とも。一度引き受けたからには絶対に諦めない。私が白鳥さんを強くする。それが私の仕事だから」

親友である二人を前に、なのはは笑みを浮かべ、胸元のレイジングハートを握りしめて決意を固めた。

 

           ◇

 

翌日――

機動六課隊舎 隊員オフィス

 

「白鳥のヤツ、なのはとうまくやってるのか?」

お茶を汲みながら、恋次が吉良に問いかける。

「昨日の今日だからね。まだぎくしゃくしてるとは思うけど・・・」

「そもそも白鳥さんも贅沢というか、わがままなんです。なのはさんが一生懸命白鳥さんのために時間を費やしてるのに、その努力も分かろうとしないで、あんなひどいこと言うなんて!」

スバルはなのはを擁護し、白鳥の態度を非難する。一方、ティアナは冷静に意見を述べる。

「ま、貴族の御曹司には人の気持ちを理解すること自体が難しいのかもね」

 

「みんなー!!」

その時だった。訓練場にいるはずのなのはが慌てた様子でオフィスに飛び込んできた。

「なのはさん?」

「血相を変えてどうなさいましたか?」

その異常な様子に誰もがただならぬ事態を察し、金太郎がおもむろに問いかけると、息を切らしながら、なのはが驚くべきことを伝えた。

「白鳥さん、こっちに来てない!? もう三十分も経つのに、訓練場に来ないの!!」

「なんだって?」

「どういうことでしょう?」

「そんなの私が聞きたいよ!! 何がどうなってるの!?」

完全に取り乱しているなのは。これまで、どんなに嫌々でも訓練には参加していた白鳥が、姿を見せないなんてことはなかった。

その時、話を聞いていた鬼太郎が、この状況の理由を即座に見抜いた。

「あー、なるほど。俺、なんかわかった気がする」

「わかったって・・・・・・鬼太郎さん、心当たりがあるんですか?」

「要はフケたんだよ。俺も高校のときよくやって、あとで婆ちゃんにバレてしこたま怒られたもんだ」

「あの、フケたって・・・・・・どういう意味ですか?」

不良界隈特有の独特な言葉に馴染みのないキャロが聞き返すと、鬼太郎は呆れたように皆に説明する。

「だーかーら! エスケイプ! バックレたんだよ!!」

「「「「「「「「え(なに)(なんだって)――!?」」」」」」」」

その言葉で全員がようやく理解した。白鳥礼二は、教導から逃げたのだ。

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

東京都 海鳴市 バニングス邸

 

初夏の日差しが一層眩しく感じられる今日この頃、なのはの教導から逃げた白鳥は、居候先であるアリサ・バニングスの邸宅の庭先でコーヒーを堪能していた。

「うむ。なんと心穏やかなことか。やはりブラックコーヒーこそ至高。何ものにも代え難い」

上等なコーヒーを味わいながら、手にした文学小説に目をやる。

「優雅なひと時を過ごす旅のお供に、アーネスト・ミラー・ヘミングウェイの短編集を読み耽る。これこそ、セレブリティたる白鳥礼二に相応しい閑適(かんてき)の時間」

「何カッコつけてるのよ、居候の分際で」

その時、一緒にいたアリサ・バニングスは呆れたようにツッコミを入れた。

「だいたいアンタ、今日訓練はいいの? まさかバックレたんじゃないでしょうね?」

「あ、アリサ嬢・・・・・・人聞きの悪いことは言わないでほしい。戦士にも休息は必要なのだ。特にあの魔王陛下との戦いは一筋縄ではいかん」

「ははーん・・・・・・アンタ、なのはと喧嘩したんでしょ?」

図星を突かれた白鳥は、思わず口に含んでいたコーヒーを零しそうになる。動揺を隠しつつ、なんとか平静を取り繕おうとする。

「な・・・・・・何を言っているのだ!? 私は別に高町女史と喧嘩などした覚えはない。まぁ強いて言えば、戦士としての意見の食い違いはあったかもしれぬが」

「聞くに堪えない言い訳ね。全部アンタに都合のいい解釈じゃない。男が戦いから逃げるなんて情けない。あんたそれでも死神なわけ? なのはも可哀想に、まさかこんなヘタレ男にバックレられたなんて、たまったもんじゃないわよ」

歯に衣着せぬ言葉で、アリサは白鳥を容赦なく責め立てる。白鳥は反論したい気持ちを抱えつつも、家主であり、なのはの親友でもあるアリサにこれ以上強く抗議することはできなかった。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課隊舎 ミッドチルダ地上隊舎

 

一方、失踪した白鳥の行方を探して、なのは達は隊舎内を隈なく調べていたが、彼がアリサの家にいるとは知る由もなく、いくら探しても見つからない。

「どうだ? 居たか?」

「ダメです。どこにも居ません」

「ったく。ほんと困った野郎だ、これだから成り上がりの中流貴族は始末が悪い」

すると、白鳥が逃げた原因が自分にあるのではと考えたなのはが、責任を感じて暗い表情を浮かべ、猛省する。

「私のせいだ・・・・・・私がもっと白鳥さんのことを気にしていたら、こんなことにはならなかった。生徒に逃げられるなんて、教官失格だよ・・・・・・だけど、こうなった理由が分からない!!」

これまで、どれだけ厳しく指導しても教導から逃げ出す生徒はいなかった。今回の事態に、なのはは大きなショックを受け、白鳥が逃げた理由を必死に考えるが、答えは見つからない。なのはは頭を抱え、屈みこむ。

「なのはさん・・・まずは落ち着きましょう」

「一旦深呼吸しよう。気持ちを整理すれば、きっと落ち着くよ」

ティアナとフェイトが、優しくなのはを励ます。

「それにしても、白鳥さんも小学生じゃあるまいし、拗ねて訓練を逃げ出すなんて。いい大人が恥ずかしいです」

「逆だよ、エリオ。大人は拗ねるとね、とことんめんどくさいんだ。当て付けのような行動を平気でとるんだよ」

エリオは白鳥の行動を非難するが、それを聞いていた浦太郎が冷静に指摘すると共に、私見を述べる。

「もし本当に白鳥さんが小学生だったら、おそらくは・・・・・・おやつを上げればすぐに機嫌を直して仲直り、それでおしまい。だけど大人になると逆に、自分が振り上げた拳をどのタイミングで下ろせばいいか分からなくなるんだ」

「そういうものなんですかねー」と、ギンガは浦太郎の言葉にやや懐疑的な態度を示す。

「ですが、なのはさんのやり方が間違っていたとも思えません」

キャロも、これまでのなのはの指導に大きな問題があったとは思えず、首を傾げる。

 

「なのはは真っすぐ過ぎるんだよ。良くも悪くもね。だから知らず知らずに視野が狭まっていたことに気づかなかったんだ」

するとそこへ、出張から帰ってきたユーノが、動揺するなのは達に声をかけた。

「ユーノ!」

「帰ってたのか」

「ええ。ついさっき。何やら穏やかな様子ではないようですがね」

ユーノが現れた途端、なのははバツの悪そうな様子で彼に視線を逸らし、白鳥が逃げ出したことを説明しようとする。

「ユーノ君・・・あの、えっとその・・・・・・」

「皆まで言わなくていいよ。事の顛末は全部把握してる」

「え?」

「どういうことや? ユーノくん、今日まで尸魂界(ソウル・ソサエティ)にいたんじゃ・・・」

「いたよ。だから向こうで六課(ココ)での出来事を確認してたんだ」

「じゃあ、最初から知ってたの!?」

皆が驚く中、ユーノは冷静に、出張中も六課の内部事情を把握していたことを明かした。なのはと白鳥の教導がうまくいっていないこと、二人の口論の経緯に到るまで。

「こうなることはなんとなく予見していたよ。ホントはね、白鳥さんの魔法スキルを上げるって言うのは副次的な目的であって、僕の狙いは別にあったんだ」

すると、ユーノは真剣な眼差しでなのはを見つめながら言う。

「なのは。僕はアドバイザーとして、この七日間、君の教導官としての能力を査定させてもらってたんだ」

「査定・・・・・・? ユーノ君、私をテストしてたってこと!?」

ユーノの真意は、なのはの教官としての能力査定だった。白鳥礼二を預けたのも、その一環だった。アドバイザーとして、ユーノは六課の業務を効率的に進めるために、なのはの教官適正を抜き打ちでチェックしていた。

「騙す形になってしまってごめん。でもアドバイザーとして、僕ができることは全部やるつもりだった。何より、なのはのこれからのために、この査定をすることに決めたんだ」

やがて、皆が息を飲む中、ユーノは高町なのはの査定結果を告げた。

「結論から言わせてもらおう。今回の査定において、高町なのは一等空尉・・・・・・君の教導官としての言動・振る舞いは、残念ながら及第点には達していない」

「・・・!!」

聞いた瞬間、なのはは耳を疑い、驚愕して目を見開いた。

ユーノから告げられたのは、非情な落第通知。彼女の教導官としての能力が否定された瞬間だった。思考が停止し、表情が凍りつく。

「そ、そんな・・・! なのはさんが不合格!?」

「なんでだよ! いくらなんでも厳しすぎねーか!?」

スバルやヴィータが抗議する。二人とも、なのはの教導を高く評価しており、ユーノの厳しい判断に納得がいかなかった。

「では、僕がそう結論付けた理由を今から説明していくね。そもそも、なのはは教師と生徒・・・教える側と教えられる側の関係において、教師が最も大切にしないといけないことって何だと思う?」

「えっと・・・・・・生徒が求めている答えを分かりやすく伝えること・・・・・・?」

「確かに、それも間違いではない。だが、それは本質ではない。答えはもっと単純だよ。それは――教師と生徒の信頼関係さ」

「信頼関係・・・・・・」

目をパチパチと瞬(しばた)かせ、なのはや六課メンバーは、ユーノの話に耳を傾ける。

「教える側の人間と言うのは、どうしてもその立場上、どれだけ気をつけていても無意識のうちに上から目線になりがちだ。実績や資格があると、もっと目線が上がってしまう。そうなると会話は一方的となり、生徒は受け身の構図が出来上がる。コミュニケーションは対話と対話によるキャッチボールが基本だ。一方的なコミュニケーションを続けていると、信頼関係が築けない、議論が発展しないなどの弊害が生じる」

極力誰にでも分かりやすい言葉を選出しながら、ユーノは話を続けた。

「管理局は軍事組織としての側面が強く、どうしても縦社会ゆえの一方的なコミュニケーションが罷り通っている。これまではそのやり方でも通用したかもしれない。でも時代は急速に移り変わり、縦社会は崩壊し始めている。時代が変われば、当然今までのやり方は通用しない。そうなったとき必ず息詰まる。現に、白鳥さんにはなのはのやり方は通用しなかった。彼のようにプライドの高い人は、元来自分が一番偉い人間だと思っている。それを自分よりも何百歳も年下の人間から、偉そうに口出しされるのは苦痛だろう。なのははきっと白鳥さんのポテンシャルが高いことを見越して期待を込めて厳しく接していたようだけど、それゆえについ彼のやり方や考えを否定する言葉を使っていなかったかい?」

「あ」

なのはは、ユーノの言葉にハッとし、思わず声を漏らす。

ユーノの指摘を受け、なのはは白鳥の意見を聞かずに自分のやり方を押し付けていたことに気づく。

「心当たりがあるようだね。それだと生徒は教師に対し不信感を抱き、心を開こうとは思わない。信頼関係は構築されず、素直に応じようとはしなくなる。そんな状態で人にモノを教えるなんてできると思う?」

なのはは、暗い表情で「うんうん・・・・・・」と首を横に振る。自分が技術や成果に囚われ、本質を見失っていたことを痛感した。

「教職に就く者は、相手の立場になって考えることを忘れてはならない。白鳥さんだけじゃない。以前に、ティアナとぎくしゃくしてしまった時もそうだった。厳しい言い方にはなるけど、なのはは少し相手の立場や気持ちを蔑ろにしているきらいがある。況して自分の思い通りにならないからと、一方的に相手を制圧したり、感情のままに声を荒らげ癇癪を起すなど筋違いも甚だしい。それは教師の立ち振る舞いじゃない。子供の我儘(わがまま)だよ」

「はい・・・・・・すみませんでした・・・・・・・・・」

普段温厚なユーノから厳しい指摘を受け、なのはは涙を浮かべながらそれを受け入れる。他のメンバーはそんな彼女の姿を心配しながらも、少し珍しい光景に見入っていた。

それでもユーノは、表情を少し和らげ、さらに続ける。

「では、どうすればよかったのか? 白鳥さんが求めていたのは、否定ではなく『共感』と『同調』なんだ」

ユーノは「共感」と「同調」という二つのキーワードを強調し、六課メンバーに向かって説明を始めた。

「もしもなのはが、白鳥さんの話を受け止める姿勢を僅かでも見せていたのなら、心を開くまではいかなくても、とりあえず話ぐらいは聞いてやるかと思わせることはできた筈だ。人は心理的に、自分と共通点が多い人に心を開くと言われている。より良い信頼関係を築くために、相手に『理解している』という姿勢を示し、呼吸を合わせて対応することこそがラポール形成のカギなんだ」

フランス語で「橋をかける」という意味で使われるこの言葉は「信頼」と訳されることがある。ユーノは一方からの信頼だけではなく「お互いに心と心が通い合い、和やかに打ち解け合える」相互の関係性の構築の大切さを訴える。

「相手にモノを教える際、指導者は常にアサーティブ・・・相手の立場を思いやると共に、自分の意見に責任を持ち、しっかりと伝えるためのコミュニケーションの姿勢が大事なんだ。そして、相手の反感を買わず最も効果的に相手に信頼と好印象を持ってもらう方法は――・・・積極的な傾聴を心掛けること。つまり、相手に気持ちよく話してもらいながらこちらの考えもさりげなく伝え、信頼関係を作りつつ、自分の目標を実現するんだ。これをマネジメント用語で『アクティブリスニング』と言う。僕が白鳥さんに魔法を指導していた際は、少なくとも傾聴の姿勢を取ることを心掛けていたよ」

「そうだったんだ・・・・・・私がもっと白鳥さんの気持ちに寄り添っていればこんなことにはならなかったんだ・・・・・・ダメだな、わたし・・・・・・慢心してるつもりはなかったんだけど、その考えが既に慢心だった・・・・・・」

話を聞き終えた後、なのはは納得の表情を浮かべた。白鳥に指摘された通り教官と言う立場に胡坐をかき、自分自身の驕りがあった事を認める。

「人を指導する者は、同時に指導を受ける側から常に学ばされるんだ。僕も含めてね。だからこそ教職と言うのは遣り甲斐がある素晴らしい仕事だと思ってる。なのははこの失敗をバネに、今よりもっと、今日よりずっと高みを目指していけると信じてる」

「うん・・・・・・ありがとう・・・・・・やっぱりユーノ君は私の先生だよ・・・・・・」

この時誰もが理解する。ユーノ・スクライアは、紛れもなく高町なのはにとっての「先生」なのだと。峻厳な態度で叱責されているにもかかわらず、彼女はユーノを恨むどころか、嬉し涙を浮かべ厚い感謝の意を述べている。同時に自然と彼を「先生」と呼ぶ所以はここにあると理解する。決して偉ぶらず、他人に何かを教授する能力は、この場にいる誰よりも優れていることを。

だが、感心していたのも束の間。不意に恋次が、今回の問題がまだ解決していないことを思い出す。

「けどよ、肝心の白鳥の居場所がまだ掴めてねーんだぜ?」

「それなら大丈夫ですよ。白鳥さんの行き先は割れていますから」

ユーノは、白鳥の居場所を掴んでいると微笑みながら告げた。

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

東京都 海鳴市 バニングス邸

 

コーヒーを飲み干した後、白鳥はふと気になったことをアリサに尋ねた。

「アリサ嬢は高町女史とは竹馬の友だと聞いているが・・・・・・何がそこまで主らを強く結びつける?」

小学校以来の親友であり続けるなのはとアリサの関係は、白鳥にとって稀有なものであり、目に見えない絆について思考を巡らせる対象でもあった。

「何故って言われても・・・・・・そうね」

前触れも無く尋ねられたアリサも準備不足が否めず、少し考え込みながら答え始めた。

「今でこそ親友同士って胸を張って言えるけど、出会いの形はサイアクだったわ。どっかの誰かさんみたく、あたしは自信家でわがままの強がりで・・・自分と同じ年のクラスメイトをいつも見下してた。それはあたしの心が弱かったからね・・・誰かをからかってやめてよって言われても聞かなかった・・・他人の言うことを聞いたら・・・何かに負けちゃう気がしてたから」

アリサの話に、白鳥は黙って耳を傾ける。どこか自分自身と重なるものを感じていた。

「でも、そんなサイテーな女の子に、あの子はこう言ったの」

 

 

『痛い? でも、大事なものを取られちゃったひとの心は・・・・・・きっともっとずっと痛いんだよ』

 

 

当時の出来事を思い出し、懐古の情に浸りながら、アリサはどこか嬉しそうに語り続ける。

「とても小学校低学年の子が言うセリフとは思えないでしょ? でも、それが事実。あんたを見てるとね、どこかむかしの自分を思い出すようで・・・・・・恥ずかしくなるというか、ムカつくし、放っておけないのよ」

「・・・・・・・・・」

すると、アリサのスマホが鳴り響いた。着信画面には「ユーノ・スクライア」と表示されていた。

「あ、ちょっとごめん」

予想通り連絡が来たことを確認したアリサは席を立ち、ユーノとの会話を始めた。

「もしもし? うん、こっちは大丈夫よ。なのはの方は? ・・・・・・そう、わかったわ。じゃあ、待ってるから」

電話を切ると、アリサは白鳥に向き直り、笑みを浮かべながら告げる。

「白鳥、良かったわねー。あんたにお迎えよ」

「迎え? ま、まさか・・・・・・」

すると、庭の転送ポートが反応し、緑色のミッド式魔法陣が現れた。

白鳥は驚き、立ち上がってその中央を凝視する。やがて、そこに現れたのはユーノとなのはだった。

「白鳥さーん♪ こんな所にいてもバレバレですよー♪」

「ゆ、ユーノ店長! それに・・・・・・高町女史も」

動揺する白鳥とは対照的に、アリサはユーノ達を歓迎する。

「いらっしゃい、二人とも」

「ごめんね、アリサ。こっちの仕事で迷惑かけて」

「全然気にしてないわよ。それより、なのは、あんたも久しぶりなんだからそんな暗い顔なんかしないで元気出しなさいよ」

「うん・・・・・・ごめんね。でも驚いたよ。まさか白鳥さんがアリサちゃんの家で下宿してたなんて知らなかった」

「下宿なんて大層な身分じゃないわ。単なる居候。その割には、居候らしい謙虚な態度を取った覚えは一度も無いんだけどね」

嬉々として話しながら、アリサは後ろで控えた白鳥を一瞥。やがてユーノは前に出ると白鳥に向き直って声をかける。

「白鳥さん、いい加減へそ曲げてないで戻ってきてくれませんか?」

「わ、私はへそなど曲げてはおらぬ! ただ・・・・・・ただ・・・・・・もう少し私の話を聞いてほしかったというか・・・・・・その・・・・・・」

「なるほど。しかし僕も監督不行き届きと言いますか、あなたの気持ちをもう少し配慮すべきだった点はあります。僕の日頃の態度や驕り、それも相まって知らず知らずの内にあなたを苦しめていたんでしょうね。本当に申し訳ありませんでした」

言うと、ユーノは、深々と頭を下げて謝罪の意を示した。

「いや・・・・・・えっと・・・・・・」

白鳥はユーノの態度に戸惑いながら口籠る。

この様子を見たアリサは、ユーノの対応が白鳥の怒りを和らげるための巧妙な手段だと見抜いていた。ユーノと白鳥の関係はこの場にいる中では最も長く、同時に彼の性格を知り尽くしている。今回の白鳥の不機嫌の理由も当然知っている。

だが、明確に言葉にしてしまうと白鳥の立つ瀬がなくなってしまう。白鳥の拳を振り下ろさせるために、ユーノはあえて自身に非を認めたのだ。

「うぅ・・・・・・」

この行動により、白鳥の振り上げた拳が徐々に下がる中、なのはも歩み寄り、深々と頭を下げた。

「白鳥さん、今回の件に関して私からも謝らせてください。本当に申し訳ありませんでした」

「高町女史・・・・・・私こそ、つまらぬ意地を張ってしまって・・・・・・その・・・・・・悪かった」

「あら! あんたでもちゃんと謝罪って言うのができるのね!! いやー、感心しちゃったわー」

「あ、当たり前である! 私をそこまで見縊(みくび)ってもらっては困るぞ!」

アリサが喜んでいる様子を見て、白鳥は若干腹を立てたが、なのはは頭を上げて改めて白鳥に語りかけた。

「私は今回の一件で、いかに今までの自分が独り善がりだったことを思い知りました。ユーノ君に言われるまで、自分のやり方に疑問すら抱いていなかった。私はまだまだ力不足の半人前の教師です。でももしも白鳥さんでよければ・・・・・・もう一度、私の生徒になってほしいんです。今度はちゃんと、あなたの話も聞いた上で教えたいんです。私の持ちうるすべての技術と力を。なので――お願いします!!!」

なのはは真剣な態度で、白鳥に再び生徒になってほしいと頭を下げた。なのはの言葉を聞き、白鳥は振り上げていた拳をゆっくりと下ろす決心をした。

「・・・・・・やれやれ。お主はほんとうに面倒な性格であるな。ま、私が言えたことではないのだがな」

心境を述懐すると共に、白鳥は「面を上げよ」と言い、右手を差し出した。

「仕方がない。もう少しだけ、お主のもとで学ばせてもらおう――高町教導官」

ついに、白鳥はなのはを高町女史から高町教導官と言った。この言葉に、なのはは目を見開き、満面の笑みを浮かべた。

「はい!! こちらこそ、改めてよろしくお願いします!!」

なのはは白鳥の手を両手で握り返し、二人の蟠りはようやく解消された。その様子を見守っていたユーノとアリサも、ほっと安堵の表情を浮かべる。

「無事に仲直りできたようね」

「うん」

「それにしてもユーノ、なんでまた、なのはに白鳥を預けたわけ?」

アリサの問いに、ユーノは穏やかに答えた。

「価値観の異なる人を教える難しさを知ってほしかったんだよ。同じ価値観の人間ばかりを教えていると、どうしても思考が凝り固まってしまう。僕らが直面している問題を解決するには、異なる考えや経験を持つメンバー同士のチームダイナミクスが必要なんだ」

そして、なのはと白鳥のやり取りを見守りながら、ユーノは微笑んだ。

「教え上手は、学ばせ上手――僕はなのはに、そんな先生になってほしいんだ」

ユーノの言葉を聞いたアリサは、彼がいかに組織にとって貴重な存在であるかを再確認し、感心した。

「なるほどね。あんたみたいな人間が近くにいる職場は羨ましいわ。できれば、うちの会社でも顧問として雇いたいくらいだわ」

「機会があれば是非――」

 

 

 

 

 

 

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