天才・涅マユリの秘密道具   作:筆先文十郎

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この小説はBLEACHの二次創作です。
本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。

見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です。


新章番外編 兵間義昭対葛原粕人

「せいっ、はっ。せいっ……!」

 背の高い引き締まった身体をした散切(ざんぎり)り頭の黒髪男が木刀を持って素振りをしていた。

 兵間(ひょうま)少輔次郎(しょうゆうじろう)義昭(よしあき)

 六年制の真央霊術院(しんおうれいじゅついん)を四年で卒業した秀才で、下級貴族兵間家の現当主義道(よしみち)の次男である。

 卒業するに辺り、霊術院は彼を多くの隊長・副隊長を輩出した五番隊に推薦したのだが兵間の研究をしたいという希望から十二番隊に配属されることになった。

 希望通り十二番隊に回された兵間は鵯州(ひよす)などの指導の(もと)で科学者としての道を着実に歩んでいた。

 ある程度技術開発局の仕事に慣れていた頃だった。今まで見たことのなかった一人の男を見かけたのは。

「あの人は誰ですか?」

「あぁ、二十席の葛原(くずはら)粕人(かすと)だよ」

 その時は何も思わなかった兵間だったが、粕人の技術開発局での仕事を見るに従い、全てにおいて自分の方が上だと確信した。

 何にするに置いても自分の方が上だった。義骸など高度な技術を必要とするものはもちろん、簡単な薬品の混合物を作るのも。

 対して粕人が行っている仕事と言えば書類整理や部屋の清掃など誰でも出来る仕事ばかりだった。

 兵間は我慢ならなかった。なぜ技術開発局としての仕事を満足に出来ない男が二十席という地位を与えられているのかが。

 護廷十三隊の席次は年功序列ではなく実力主義によってつけられる。席官に任命されるというのはその者が隊に必要とされた証であり全隊士の憧れである。

 そのような実力主義の席次に簡単な仕事しか与えられていない粕人が就任している。それが兵間には我慢ならなかった。例え二十席という下位であっても。

 

 あんな役立たずの地位など俺が数年で奪ってやる。

 

 そう心の中で誓った。

 そんな最中、兵間をさらにイラつかせる事件が起こった。眠八號(ねむりはちごう)誘拐事件である。

 兵間は直属の上司の鵯州と共に阿近を司令官とする眠八號奪還部隊に参加。粕人が仕掛けた幾数多の罠によって、眠八號がいる思われた頂上にたどり着くことができなかった。

 

 自分のような有能な男が下だと思っていた男が仕掛けた罠に負けた。

 

 その事実が兵間のプライドを傷つけた。

 

 あれはあいつが卑怯だったからだ。真正面から戦えば勝つのは俺だ。あの男より俺の方が強いということを証明してやる!

 

 その怒りを糧に、兵間は東空座町に赴任した粕人の大半の仕事を四苦八苦こなしながら研鑽に勤しんだ。

 そしてついに待ちに待った時が来る。本来東空座町に赴任するはずだった男と入れ替わる形で粕人が戻ってきたのだ。

 帰還するや否や、粕人は引き継ぎや現状把握などで局内を走り回った。おかげで兵間は粕人に仕事以外の話をすることが出来なかった。

 粕人が東空座町から帰還した一週間後。ついに兵間は行動に移した。

 誰もいない隊舎の廊下で粕人を呼び止めたのだ。

「葛原二十席。俺と真剣勝負をしてください」

「断るよ」

 そう言って粕人は再び歩き出す。そんな粕人の背中を見ながら兵間は叫ぶ。

「おい、アンタ。俺が怖いのかよ!」

「あぁ、怖いよ」

 兵間の方へ振り返り、粕人は言った。

「君と言う有能な人材を叩き潰してしまうのが」

 憐れんだ目で言う粕人に、兵間はキレた。

「お前みたいな役立たずが俺を叩き潰すだと!?ふざけんな!!今すぐ勝負しろ!!」

「……わかった。じゃあ今から一時間後に隊舎裏の修業場で勝負しよう」

 

 一時間後。大きく開けた平地に兵間は立っていた。約10メートルほどの距離に兵間が嫌悪する小柄な男、葛原粕人が立っている。

「勝負は……相手が参りましたと言わせたら勝ち、というのでどうですか?」

「あぁ、問題ない!」

 絶対に言わせてやる!

 そう意気込む兵間に粕人は驚きの行動に出た。地面に膝をつけて頭を下げたのだ。

「参りました」

 そう言うと膝についた砂を(はた)きその場を後にしようとする。

「ちょっと待てやッ!!」

「ん?どうかしましたか?」

 兵間の怒鳴り声にも特に気にした様子もなく粕人は振り返る。

「アンタ、俺のこと舐めてるだろう!正々堂々勝負しろよ!俺と正面からやりあって負けるのがそんなに嫌なのかよ!!」

「勝ち負けじゃないよ。兵間義昭というあと数年実績と経験を積めば席次を与えられるような人材を傷つけたくないだけだよ。君と言う人材を潰すくらいならこんな勝負の勝ち負けなんてどうでもいい話なだけさ」

「ふざけんじゃねぇぞッ!!」

 粕人の言葉に兵間は完全にキレた。カス同然の霊圧の男が戦えば自分が勝つと言い、かつプライドをかけた戦いを『こんな勝負』と言い切る姿に。

「戦いもせずに自分が勝つなんてどうして言い切れる?……あぁ、そんなこと言って本当は怖いんだろう?だってアンタはかつて護廷十三隊のお荷物部隊、四番隊に所属していたんだからな。そういう言い逃れして戦いを避ける負け犬根性は四番隊で染み込ませたのか?だったら当時隊長だった卯ノ花(うのはな)(れつ)という女も大したことないな!」

 兵間そう言い放った。兵間義昭の名誉のためにここに記すが、彼は本心で言ったわけではなかった。

 四番隊という補給・医療を行う部隊がいるからこそ前線で戦う部隊は迷いなく戦闘に全力を注ぐことが出来る。そして真央霊術院で卯ノ花烈という女性が100年以上も隊長を務めた偉大な人物であることは元四番隊の講師から教えられている(彼女が現在の十一番隊の原形を作った初代剣八で、護廷十三隊に取り立てられる前は『尸魂界史上空前絶後の大悪人』と呼ばれた大罪人だったことは黒歴史として葬られているため知らない)。

 四番隊及び卯ノ花烈を侮辱する発言をしたのは『葛原粕人という男が涅マユリと同じくらい卯ノ花烈という女性を生涯の師と仰いでいる』ということを古株の技術開発局局員達や粕人と親交がある四番隊平隊士・仏宇野(ふつうの)段士(だんし)から聞いたからだ。

 そしてこの挑発が兵間義昭という男の人生を大きく狂わせた。

「卯ノ花隊長が、大したことない(・・・・・・・)。面白いことを言いますね?」

 目の前の小柄な男が笑う(・・)。その笑みに遥かに背の高い兵間は思わず後ずさった。

 その笑みは。全ての光を呑みこんでしまいそうな暗い笑みだったからだ。偶然なのか、その笑みは無間にて更木剣八と剣を交える前に見せた卯ノ花八千流と同じ笑みだった。

「卯ノ花隊長が大したことがなかったか。あの方の(もと)で仕事の心構えなどを教えて頂いた元四番隊隊士、葛原粕人が見せてあげますよ」

 そう言うと粕人は兵間に背を向けて両手を上げた。

「……なんのつもりだ?」

 不可解な行動をする粕人に兵間は尋ねる。

「僕と貴方ではあまりにも力の差がありすぎる。だからその差を埋めるための枷です」

「枷、だと!?」

 自分よりも遥かに劣る霊圧しか持たない男がハンデと言って自分に背を向ける。さらに両手を上げてすぐに対応できない状況で。

 怒りの炎を燃え上がらせる兵間に、粕人はさらに続ける。

「なんならそこから鬼道を打ち込んでも構いませんよ」

「ふざけんな!お前なんて頭から一刀両断にしてやる!囲め、玄武陣(げんぶじん)!」

 兵間は自らの分身とも言える斬魄刀・玄武陣を抜くと刀の先に現れた光の六面の球を小柄な男に投げつける。粕人の身体に当たるか否かのスレスレのところで光の球はパカッと二つに割れ、粕人の身体を球の中に収めた瞬間、元の黄色く光る六面の球に戻る。

 光の球に包まれた粕人を見て兵間はニヤリと笑う。

「今アンタを包み込んだのは強固な結界。本来は自分を囲んで敵の攻撃を防ぐものだがこうして敵を拘束することも可能だ。その結界は玄武陣を持つ者、つまり俺以外の者は脱出不可能。中から攻撃しようとも弾かれるだけ!つまり、お前はその光の球の中で俺に斬り殺されるのを待つしかないんだよ!!」

 そう言って刀を振り上げながら間合いを詰めた。

 その時だった。

「え?」

 刀を振り下ろせば斬り殺せるという距離で地面が突然崩れたのだ。

「うわあああぁぁぁっ!?」

 底に大きく身体を打つ。それに追い討ちをかけるかのように大量の水が穴の中に注がれる。

「ウグッ、ゲホッ!……ガハッ!?」

 頭上から降り注ぐ大量の水が鼻や口に入り込み咳き込む。しかし大量の水によって兵間の身体は地面まで浮き上がる。

「ウッ……、ゲホゲホッ!!」

 胸を抑えて飲んだ水を吐く兵間の首に、鞘をつけた粕人の斬魄刀、幽世閉門が当てられる。

(意識が途切れたことで玄武陣の結界が消失したか)

 そんなことを考えている兵間に粕人は告げる。

「これで貴方は三回死にました」

「何だと?どういうことだ!?」

 激昂する兵間に粕人は淡々と告げる。

「一つ目は落とし穴。僕が底に槍などの突起物を仕掛けていれば串刺しになっていた。二つ目は頭上に降り注いだのは水ではなく土だったら、生き埋めになっていた。そして最後に僕が刀を抜いていたら、貴方の首はそこら辺に転がっていた」

「ひ、卑怯だぞ!正々堂々戦え!!」

 兵間の怒鳴り声に。粕人は笑った(・・・)。その笑みを兵間は知っていた。

 

 涅マユリ。

 

 己の優位が揺るがない時に見せる、敵を敵と見ていない残忍な笑みだった。

「卑怯?僕らはいつどこが戦場になるかわからない護廷十三隊に身を置いている。敵が背後から攻撃したからその者が卑怯と言うのですか?それは油断、もしくは気づいていなかった者の失態です」

「……」

「10年前。見えない帝国との戦いでは前線で戦っていた隊はもちろん技術開発局にも大きな被害が出ました。当時、更木隊長の監視という比較的安全な所にいた僕ですら長い間特別病棟に寝ていた(・・・・・・・・・・・・)くらいに」

 バンビエッタ・バスターバインを除くバンビーズと戦った記憶がない粕人はマユリ達に教えられた嘘を真実だと思い込み、そのまま続ける。

「護廷十三隊は常在戦場。いつ、どこで、誰が襲ってきてもおかしくない状況。敵が突然攻めてきても今みたいに『正々堂々戦え!!』と言うつもりですか?」

「……………………ッ!」

 兵間に反論する言葉は見つからなかった。悔しさに唇を噛み、うなだれたまま呟いた。

 

「ま、参りました」

 

 言いたくなかった。しかしどちらが勝者かわかった今この時点で負けを認めなければ本当の負けだと思ったからだ。

 その姿に粕人は微笑む。

「やはり僕の思った通り。兵間さん、貴方は凄い方だ。こうして完璧に負けたとしても自らの負けを認める事が出来る。その認めたくない所を認めることが出来る限り、貴方はもっと強くなりますよ」

 そう言ってうなだれたままの兵間に背を向けて粕人は歩き出す。

 しかし粕人は忘れていた。

 背を向けた自分の前に回りこんだ時の罠が今歩いている場所に設置していたことに。

 

 ピンッ!

 

「ん?」

 粕人がか細い糸を足で切った瞬間。

 

 ドゴオオオオオオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッッッ!!

 

 粕人が立っていたところを中心に推定5メートルの火柱が上がった。

 

 

 

「……」

 真っ黒焦げになってバタッ!と地面に倒れこむ粕人を、兵間はポカーンと見るしかなかった。

 




作中では書けませんでしたが、もし兵間が斬りかからず鬼道を放っていたら背中に入れていた反霊鏡というドラクエでいうマホカンタみたいなアイテムで跳ね返してました。

粕人が散々挑発じみたことを言っていたのはそう言えば兵間の性格上直接斬りかかってくると踏んだからです。

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