本編とは違うところが多々あります。
本編と矛盾するところがあるかと思います。
他にもおかしいところはあると思います。
以上のことを了解した上で読んで下さると助かります。
見えざる帝国との戦いが終わった10年後のif要素のある物語です
12月31日
「ぷはぁ! 美味い!」
技術開発局の面々が食事や会話を楽しむ中、
「クジラフグのヒレ酒。今まで色々なお酒を飲んだけど……これほどのものは今まで飲んだことがないです!!」
あまりの美味さに粕人は涙を流す。
クジラフグ。
しかし美味さと同時に体内に蓄積された毒袋も凝縮され、ほんの少しの刺激で毒袋が裂けて食べられなくなる。そのため存在を確認されるだけでなく、捕獲&無毒化も難しいためどんなに金を持った食通がいくら金を出しても食べることの出来ない、幻の中の幻といえる食材となっていた。
「まさかクジラフグのヒレ酒を死ぬまでに飲めるなんて……夢のようです!! もう明日死んでもいいぐらいに!!」
いや……もうお前、何度も死んでるけど。
感激する粕人に周囲にいた者達が心の中でツッコミを入れる。
「
「おっ」
粕人は壇上に目を移す。そこでは局員達による余興が始まっていた。
次々と余興を披露する局員に見ている局員は声を出して笑い、また楽しげにヤジを飛ばしていく。
余興が行われる度に演目台の紙がめくられていき、もうそろそろお開きになる。その時だった。
「え?」
めくられた次の演目を見て粕人は言葉を失った。そこには『
く、葛原が女装?
いや。確かに中性的な容姿はしているけど……
余興とはいえわざわざハードルを上げてくるなんて。葛原も大胆なことをするなぁ……
壇上の余興そっちのけで局員達はざわつく。
(……ど、どういうことだ!?)
頬を引きつらせ混乱する粕人の耳元でいつの間にか背後に立った上司、
「
コトンッ
その言葉を聞いた瞬間。酒で赤くなった顔は一気に青ざめ、粕人は持っていたコップを落とした。
(……さ、3ヶ月前のことバレてる!!)
粕人は3ヶ月前に起こったこと思い出した。
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3か月前 とある通学路
「眠ちゃんって片親なのでしょう?」
「ち、違いますよ!」
尸魂界で上流階級にも人気のある老舗のお菓子屋の娘、
「へぇ、片親じゃないんだぁ~」
黒髪ショートボブヘアの少女はニヤリと笑った。
「じゃあ証拠見せてよ。今から眠さんの家に行きましょう」
「い、いいですよ! じゃあ、私はお母さんに『お友達が来るから』って伝えてくるから!!」
そう言って眠八號は瞬歩で家路を駆け抜けた。
「ふふっ」
すぐに点になった同級生の後姿を椎菜はニヤニヤと見つめた。
(眠ちゃん。私、色々調べたんだから。眠ちゃんに母親なんていないこと。その代わりに葛原粕人という男が涅家のお弁当を作るなど専業主婦みたいなことをしていることも)
「さて。どうするのかしら、眠ちゃん?」
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「クズさんどうしましょう!?」
「……なんでそんな嘘つくんですか」
家に帰るや否や、涙目に事の詳細を伝える眠八號に家事をしていた粕人は困惑した顔で答える。
「もうこうなったらさっきのは嘘だったと正直、に……」
その時粕人の脳裏に眠八號の父親、涅マユリの姿が浮かんだ。眠八號に協力しなかったと怒りを露わにする姿を。そして死すら生ぬるい
(……やるしかない)
粕人は某国民アニメの狸に似た猫型ロボットが持っていそうなポケット、
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「眠ちゃん、来たよ」
「待ってました!」
「いらっしゃい」
戸の前に立った椎菜の前に、眠八號の隣に立つ人物が上品に戸を開けた。
「え?」
その人物を見て椎菜は目を大きく見開いた。
淡い緑の和服に袖を通した、大きくクリっとした目が特徴的な可愛らしい、背中まで届く艶やかな黒髪を首の後ろで
「初めまして。眠の母の涅夢夜です。岡椎菜さんですね? 娘から伺っています」
母親というよりも姉のように見える夢夜に一瞬見とれた椎菜はハッと我に返る。
「は、初めまして。岡椎菜です。突然の訪問、申し訳ございません!」
椎菜は慌ててペコリとおじきをする。
「ふふっ、礼儀正しいのね。眠も見習ってほしいわ」
一枚の絵になりそうな慈愛のこもった笑みを見せる夢夜に椎菜は再び心を奪われる。清楚でいて濃厚な色香が華やかに匂い立っていた。
「さぁ、どうぞ」
「お、お邪魔します」
夢夜に促され椎菜は家に上がる。
「あ──」
椎菜は玄関の段差につまずく。
「危ない」
夢夜がとっさに椎菜を支える。
着物に書き込まれた香の香りと甘い体臭が渾然一体となり椎菜の鼻腔をふんわりとくすぐった。服の上から感じられる 確かな膨らみ。自分には持ち合わせていない女性としての魅力に、同性にも関わらず椎菜の脳髄はとろけてしまった。
「それじゃあ少し待ってて下さいね」
居間に案内されると夢夜は台所へと姿を消した。椎菜は眠八號と
(おかしい。私が事前に調べた情報では眠ちゃんには母親代わりの葛原粕人という男はいるけど、母親はいなかったはず。なのに何故?)
「二人とも、お待たせ」
そうこう考えている内に奥から夢夜が姿を現した。持っていたお盆から二人の前にガラスの器を差し出す。
(なんだ、アイスか)
内心馬鹿にしながら椎菜は渡された木のスプーンで真っ白なアイスクリームを口に運んだ。
「え?」
椎菜は言葉を失った。気づいた時にはアイスクリームを全て喉に通していたのだ。それを知ったのはアイスクリームの冷たさが喉を通過する感触と空になった器を見た時だった。「あ~不味い」などの用意した侮蔑の言葉を言う思考を奪うほど、夢夜のアイスクリームは美味しかった。
心の底から美味しいと思うものを食べた時、人は言葉を失うという。それを椎菜は身をもって知った。
「なんで……」
椎菜は悔しさで歯を食いしばった。片親だと思ってバカにしていた女の子が自分が見とれるほど美しく、お菓子屋の娘として多くの甘味を食してきた自分が今まで食べたことのなかった料理を日常的に作れる母親を持っていたという事実に。
「ハッ!」
悔しさで頭が沸騰しそうになる椎菜の脳裏にある男が思い浮かぶ。
(確か眠ちゃんには葛原粕人という母親代わりの男がいた。そして眠ちゃんのお父さんの涅マユリは技術開発局。何らかの方法で女体化したんだ!)
「眠ちゃん、卑怯だよ!」
ドキッと体を震わせる眠八號に、心配そうに夢夜は椎菜を見る。
「母親がいない嘘をごまかすために替え玉を用意するなんて! この夢夜さんは
オロオロとする眠八號を「大丈夫、眠?」と優しくさすると、夢夜は椎菜の方を向く。
「えっと、椎菜さんは私が葛原さんとおっしゃるの?」
「そうです! 貴女が葛原粕人ではないのなら証拠を見せてください!!」
「う~ん、困りましたねぇ」
そう言って夢夜は右手を頬に当てて首を傾ける。その時だった。
すみませ~ん、葛原です! 夢夜さん、いますか?
玄関の方から声がした。
「あ、葛原さん!」
夢夜は立ち上がると玄関の方へと向かった。
(ば、馬鹿な!?)
慌てて椎菜も玄関に向かう。そこには死覇装を身にまとった、中性的な容姿の小柄な男が立っていた。顔を合わせるのは初めてだったが、マユリの家を何度も見に行った際に見かけていたため、椎菜はその男の名前を知っていた。
葛原粕人。
自分が涅夢夜に化けていると思った男の名前だ。
「な、な、な……なんでお前がここにいるんだよ、葛原粕人!?」
「……え? 僕は涅隊長の使いで来たんですけど。……っていうか貴女は誰ですか?」
幼女の怒鳴るような問いかけに、事情を知らない粕人は目を白黒とさせるしかなかった。
「葛原さん、実はですね」
戸惑う粕人に夢夜は
「あ~。なるほどなるほど」
夢夜の説明に納得した粕人はハハハと愉快に笑う。
「そういうことでしたか。まあそう思われるのも仕方ないですよね。夢夜さんは体が病弱で、普段は僕が料理などの家事をしてますからね」
そう説明する粕人の言葉は椎菜の耳には入っていなかった。
涅夢夜は葛原粕人ではなかったこと、眠八號の実の母親で片親では無かったこと。
そして。女の自分が見惚れるほど美人で、料理の上手な優しい女性だったということ。そのショックにうちひしがれていたからだ。
そんな椎菜に夢夜が優しく語りかける。
「椎菜さん。よろしければまた来てくださいね」
無礼を働いた自分に笑顔で言う夢夜に、椎菜は非礼を許された嬉しさ半分、自分が羨む女性を母親に持つ眠八號への悔しさ半分に「はい」と答えるしかなかった。
「椎菜さん」
背を向けて帰ろうとした椎菜を夢夜が呼び止める。
「これからも眠と仲良くしてくださいね」
「また来てね!」
二心ない涅親子の笑顔に椎菜は力強く「はい」と答えた。
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「いや、名演技でしたよ。
「そちらこそ、
マユリが作った性転換薬で涅夢夜という架空の人物に成りすました粕人は、自分を特定の人物だと誤認させる斬魄刀を持つ親友、
粕人は自分の正体が露見する保険として無線電話で仏宇野と連絡を取っていた。無線電話からの情報から事情を察した仏宇野は斬魄刀『
「では葛原。お前にはある物を作ってもらおう」
邪悪な笑みを浮かべながら要求する親友に、粕人は渋々従った。
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「やるしかない」
着替え室で急いで着替えると舞台の袖に立つ。
『それでは最後の大取り、葛原粕人です!』
アナウンスの声に、背中まで届く艶やかな黒髪のカツラを被り、赤と白の市松模様の振り袖に黒の袴を身に付けた粕人が舞台に向かって歩きだす。
「……」
背筋を伸ばして顎を少し引く。身体の重心が頭の天頂部と足の真ん中を通るように流れるような歩行で幕の裏から歩くその仕草は、徹底的に教育を施された令嬢か茶道の娘と見誤るほど優雅で静かな美を感じさせるものだった。
あれが葛原なのか?
そんな疑問をすぐに思い付かないほど、その場にいた者は目を奪われていた。
「……」
ブレることなく腰から頭を下げた粕人が頭を上げると、いつの間にか持っていった扇を広げる。それが合図だった。
尺八や琴などの和楽器の音楽に合わせて粕人は踊り出す。
派手な動きはない。されどしっかりとした技術の裏付けの上に見ている者の感情を揺さぶる計算された動き。多くの苦労や体験をしたものだからできる、見る者の心を掴む親しみや懐かしさを感じさせる表情や仕草。
たとえ苦しくても自分を磨き前を向いて戦い続ける、粕人の決意がそこには込められていた。
雑音は消え、宴会に参加した隊員だけではなく配膳などで動かなければならない店の人までも舞台の粕人に心を奪われる。
和楽器の演奏と粕人の動きから生じる小さな音以外の音が存在しない空間。演奏が終わると同時に動きを止めた粕人が一礼した。
パチパチパチッ!!
ブラボーッ!!
アンコール!! アンコール!!
全員の力強い拍手とともに巻き起こる称賛の嵐。その声に応えて「そ、それでは……」舞だけではなく様々な芸を披露する。それは粕人の舞を見ていなかった従業員が忘年会が終了する時間が迫ったことを知らせる間際まで続いた。
サプライズで本当の大取として巨大涅マユリと共に現れるはずだったマユリの出番を台無しにするほどに。
「おのれッ! クズの分際で!!」
壇上の下で、マユリは今すぐにでも暴れたい怒りの衝動を抑えていた。
その日の夜。
「──」
何者かによって惨殺された葛原粕人の死体が道端に転がっていた。
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「ふふっ」
仏宇野は手に持った眼鏡を見ながら、いやらしい笑みを浮かべていた。
仏宇野が粕人に化けた代わりに要求したもの、それは透視することが出来る眼鏡だった。
「これで女の裸体を見放題!」
グフフと鼻の下を伸ばしながら眼鏡をかける。
「どうしたの、貴方?」
仏宇野が振り返る。
「あぁ、
仏宇野が見たもの。それは服はおろか皮と筋肉を通り越し、内臓を包んだ骸骨が立つ光景だった。
本当にマジ疲れた。本当は1月中に投稿する予定でした。
しかしお菓子やダンスなど様々な分野の本を読み漁るうちに「自分の小説は何て薄っぺらいんだ」と痛感。一か月以上の時間を費やす結果となりました。
編集回数も40回越え。
今まで作ったどの話よりも、時間もお金もエネルギーも使う話になってしまいました。
でもネットで調べてささっと書くよりも充実。そしてこの苦労は後の作品に活きていくと考えてます。
小説は辛く、そして楽しいものですね。