この場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。
十二番隊では二十席という決して低くはない地位を任され、技術開発局では技術開発局雑用総責任者兼
今回はなぜ端から見れば不幸としか言いようがない人生を歩む羽目になったのか、そのエピソードを紹介したい。
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粕人の人間性を評価しつつも四番隊には向いていないと思った四番隊隊長、
その後、納得できず「四番隊に残して欲しい」と懇願する粕人を卯ノ花が説得したことにより、粕人は異動を受け入れた。そして四番隊から十二番隊に異動してから数日後の夜。
「腹が減ったな、誰か何か作ってくれないか?」
「じゃあ僕が作ってきます」
誰もが仕事で疲れ
給湯室に向かった粕人は手早く握ったおにぎりを各隊員に「ありあわせですが」と手渡した。渡されたおにぎりを隊員達は口へ運ぶ。
「お! 美味いな、このおにぎり」
「よくこんな短時間に作れるものだな」
入って間もない粕人の料理の腕に驚いた隊員は口へと運んでいく。
いつも食べる夜食よりも美味いおにぎりに「もっと作ってくれよ」と要求する隊員達に「はい、わかりました」と嬉しそうに給湯室へと向かう粕人の姿を、遠くから涅マユリが見ていた。
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「クズ。私と一局手合わせしようじゃないかネ」
「あ、はい。わかりました」
突然自室に呼び出された粕人は、マユリの応接用の机に将棋盤を置いて駒を並べる。
十分後。
「完敗です」
粕人は頭を下げた。勝負はマユリの圧倒的な勝利。しかしマユリは少しも喜んでいなかった。
「クズ、私に遠慮せず本気を出したまえヨ」
マユリは気付いていた。粕人が自分に気を回してわざと負けるように手を抜いていたことに。
「ご機嫌を取るためだけにわざと負けるんじゃないヨ。全力でかかってこい」
「……も、申し訳ございませんでした!」
自分が手を抜いていたこと。それを見抜かれたこと。それが新しい上司に対して失礼だったことを粕人は詫びる。
「わかりました。では全力で!」
真央霊術院時代に遊ぶ金がなく、勉強以外に将棋や麻雀(覗きを少々)などお金のかからない娯楽に自分の時間を費やした粕人はその経験で得た全てを目の前の一局にかけた。
(涅隊長は
マユリが駒を動かす次の瞬間に粕人は駒を動かす。それは今まで幾千、幾万と将棋自慢の猛者達と戦った粕人にしか出来ない経験則と危機を避ける本能が融合した一手だった。
「……」
すぐに駒を動かす粕人に負けじとマユリも駒を動かす。その駒の動きに対応するように粕人も一秒にも満たぬ速さで駒を動かす。
「……!」
全く考えていないようでこれ以上ない手を打つ粕人に、マユリの怒りは増す。即座に駒を動かす粕人に対抗心を燃やしたマユリは即座に駒を動かす。だがその動きにも粕人は反射の域に達する速さで駒を動かす。
「……!!」
苛立ったマユリは先程以上の速さで駒を動かし、粕人も先程以上の速さで駒を動かす。
こうして二人の将棋は熱を増した。即座に自分の動きに対応する粕人を引き離そうと熱くなるマユリ。その動きに冷静かつ即座に対応する粕人。
対局を再開させて二分半。マユリの変幻自在の攻撃を防ぎ切った粕人は反撃に出る。反射の域に達する速さで反撃に転ずる粕人にマユリも負けじと防ごうとする。しかし攻撃にほとんどの駒を消費し、マユリの反撃を恐れて一気に王を狙わず一枚一枚着ている服を脱がしていくように慎重に攻める粕人に、マユリは対応することができなかった。
再局から五分後。
「……」
マユリは呆然と盤上を見ていた。
マユリには王以外残っていなかった。残りの駒は全て粕人に取られてしまった。誰が見てもマユリの負けは明らかだった。
「……あ、そろそろ仕事が始まりますので失礼します」
時計を見た粕人はそう言って将棋盤を元に戻し退出した。
「……お、お……おのれっ!!」
マユリは悪鬼のような表情で体を震わせ、部屋を後にした粕人を睨み付けた。
粕人は知らなかった。マユリの言うことを信じずに少し手を抜く程度に留めていればよかったことを。
粕人は気づいていなかった。マユリに勝つために慎重に慎重を重ねて一気に王手に行かずに他の駒を奪っていった結果、駒の全取りという相手からすればこれ以上ない屈辱を味あわせたということに。
このことがマユリの逆鱗に触れ、後に彼の人生を大きく狂わすことを。
そして激しい憎悪を抱いたマユリが、粕人の持つ斬魄刀が『斬魄刀が破壊されるなど異常がない限り何度も生き返ることができる能力』と気付き、生涯に渡って復讐を決意したことを。
『終わりなき終わりの人生』の引き金を自分自身が引いてしまった事を、粕人は知る由もなかった。
ちなみに。この時の対局を葛原粕人はこう振り返る。
「あの時、僕は『試されている』と思いましたね。『
となると勝つ方法は一つ。それは涅隊長の間合いをずらして僕の土俵に持ち込ませること。そして平隊士だと少なからず僕を見くびっているだろう油断をつくこと。だから僕は涅隊長が駒を動かすのと同時に間髪入れずに駒を動かすという戦法に賭けました。そうすれば僕に負けまいと涅隊長が焦ってくるだろうと思って。結果は万が一に賭けた僕の戦法が成功し、何とか勝つことに成功しました。
あの時。もし涅隊長が『僕と格の違いを見せつけてやろう』と焦りや油断をすることなくどっしりと構えて対局していたら……まず勝てなかったでしょう。実際、涅隊長とその後も対局しましたけど、瞬時に対策を立てることのできる隊長にはこの戦法は通用しませんでしたし……。
四番隊に在籍していた頃から涅隊長の凄さは聞いていましたが、あの対局だけで隊長の素晴らしさと恐ろしさを身にしみて感じましたね」