※完全に捏造でした……。
シェヘラザードが『マギ』として一番最初に選んだ王は将軍だった。
良家の生まれではあったのだろう。
だが、どこか子供っぽくて危なっかしく、そして人を惹きつけてやまない人間だった。
後に彼は皇帝となり、帝国の領土を最大に広げた。
暗殺者の凶刃に倒れるまでは。
彼は子供を残すことができなかった。だから、次の王はシェヘラザードが選ぶことにした。
シェヘラザードが選んだ2人目の王は、最初の王の血族から探した。
女と見まごう程の美貌を持った少年だった。
彼はシェヘラザードに『先代王の家臣』として自分の助言をしてほしいと頼んだ。
諸外国まで含んだ国内の政敵との争いに十年をかけた。
少年もすっかり青年へと成長したころ、やっと皇帝として認められた。
神経質だった、体の弱い王だった。政治的な能力は初代のそれを上回っていたが、その一方で身近に居る親しい人の気持ちを簡単に無視するきらいがあった。シェヘラザードが注意すると「自分は、あの人にはなれない」と2代目の王は悲しく笑った。
繊細で慎重な政治を行った。
数は少ないが、信用できる腹心の友で忠実な部下が居た。
巨大になった帝国を支え続け、家族にも恵まれていたのに、後年は後継者不足で悩んでいた。
晩年、やっと仲違いしていた養子と仲直りすることができた。
冬にしては温かい日、寝台の上で最愛の家族に看取られながら死んだ。
「良い人生だった」と、笑って逝った。
3人目の王は2代目から指名され、シェヘラザードもそれを認めた男だった。
彼なら十分に王の責務をこなせるだろうと思った。
しかし、民衆や元老院議員にはあまり好感は持たれていなかったのだろう。
初代、2代目の血族。アキレウス家の人間ではなかったからだ。
所詮は仮の王だと、誰もが口にした。
3人目の王はシェヘラザードに『友人』であって欲しいと頼んだ。
堅実な治世を作り上げた。文武両道であり、優れた軍人で詩人でもあったが、どうやら感情を表に出すことがそれまでの王以上に苦手なタイプだったようだ。
感性は繊細であったが意志は鉄の様だった。誰もがあなたを勘違いしている。本当の貴方はもっと優しい人間だ。もっと感情を出してもいいのだとシェヘラザートは忠告したが王は聞き入れなかった。
息子に死なれたその年から、何かが変わった。
容赦のない粛清が始まり、恐怖政治をおこなうようになった。腐敗を正す劇薬だった。
南の島の別荘で、後継を指名した後、二人だけの部屋でシェヘラザードに見守られながら静かに息を引き取った。
「いつも一人になる選択ばかりをしてきたような気がする」
「だが、こうなってみると、やはり独りというのは悲しくて、寂しいな」
それは、どうしようもなく口下手で不器用な王がやっと言えた本音だったのだろう。
「貴方はいつまで生きるのだろう」
「……この孤独の中を、千の夜を、一人で耐えなくとも良いのだと思う」
枯れ木のように細くなった腕でそっと手を握りしめた。
「……きっと、向こうで、待っている」
と、静かに言った。
3代目が指名し、シェヘラザードが認めた4人目の王はまだ、若者だった。
母を知らなかった彼はシェヘラザードに『母』を求めた。
愚かではなかった。
しかし、政治を分かっていなかった。
万人の望む王であろうとすればする程、皮肉なことに帝国は荒廃し、政治はうまく回らなくなった。
国が荒れると人々の心は離れていった。
それを青年王は追いかけ続けた。やがて、追いかけることにも疲れてしまった。
疲れ切った王はシェヘラザードに「殺してくれ」と懇願した。
「次の王は、あなたが選んで」と頼んだ。
「ごめんなさい、母さん」と一筋の涙を流し、シェヘラザードの腕の中で息絶えた。
何かが壊れていく音がした。
5人目の王はシェヘラザードが選んだ。
学問を好んだ王は、彼女の『教師』であってほしいと言った。
地道だが賢く、真面目に国を治めた。
荒れた国は元に戻った。
5代目の王の妃は4代目の妹だった。
彼女は兄を殺したシェヘラザードを憎んでいた。
「お前に次の王は選ばせない」と言った。
やがて5人目も病に倒れた。苦しむ中、妻のことを苦く笑った。
「アレは誇り高く、愛の深い女なのだ」と
「どうか愛してやって欲しい……妻も、あの子も」
「駄目な私が、ココまでできたんだ。この先、自信をなくした人間が皇帝という場所に居たら……私のことを語ってくれ」
「こんな駄目なヤツもいたんだぞ、と、笑ってくれればいい」
そうして眠り、二度と目覚めなかった。
6人目の王はシェヘラザードが認めた王だった。
まだ子供だった。その幼さは4代目の王を思い出させた。
シェヘラザードは彼の教師であろうとした、が。
「好きだ! シェヘラザード! 俺の恋人になってよ!!」
……若気の至りだ、と思うことにした。『恋人ごっこ』ならたまにしてやる。
だから普段は先生だと思いなさい……という関係になった、した。
利発な少年だった。
自分がまだ少年にすぎないという事をよくわかっていた。
ゆえに年長者の助言をよく聴き、5代目のように堅実で地道な政治を作っていった。
……と、思いきや突然大がかりなコトをやりだし、奇天烈なコトで民を笑わせるのが得意だった。
そして成功した暁にはシェヘラザードの顔を見て、笑った。
まるで褒めてくれとでもいうかのように。
その笑顔は、一番最初に王に選んだ男と重なった。
いい王だった……いい王の、はず、だった。
いつまでも妃を選ぼうとしなかった。
皆が勧めるのに、一向に。
やがて「王が妃を迎えないのはマギのせい」と言い始めた。
中にはシェヘラザードを追放しようとする臣下までもが現れた。
王はその臣を処刑した。
妃を迎えろというものがいなくなるまで、それは続いた。
「君にひどいことを言う奴なんか、いらない」
有能な人は減ったが、それでも何とかやっていけていたと思う。
ある時、マギを批判する者たちが現れた。
アル・サーメンだと名乗った。
それに同調する民も出てきた。
マギさえ、あのマギさえ消えれば王はまた以前のような賢王に戻ってくれるはず……と。
まだ、みんな王を信じていた。
シェヘラザードは悩んだ。
そんな彼女へ王は優しく声をかけた。
「大丈夫、俺が、守るよ」
魔術師たちは捕まり火刑にされた。
無残な処刑がつづいた。
同調した民衆までもが生き乍ら猛獣に食われていった。
彼らは最期まで叫び続けた。
「王よ、何故です、王よ! 我等は……あなたを信じていたのに!!」
と。
民衆はもう王を信じなかった。
「次は自分たちだろう」と王に向けて剣を抜いた。
もう終わりか、とシェヘラザードは観念した。
6代、6人だ。6人も王を選んだり、認めたり、看取ったりした。
6人の顔が浮かんでは消えた。それも、もうお終いだ。
この子と一緒に死のう……と決めた時だった。
「そっか、簡単なことだったんだ」王は言った。
「簡単だった! 簡単なことだったんだ!」王は笑っている。
「一緒に逃げよう! シェヘラザード!」
「どこか遠くで、静かに暮らそう」
熱に浮かされたように王は言っている。
「何を言っているの?」
「もう頑張らなくていいんだよ。俺はもう王じゃない。君もマギじゃなくなればいい!」
「……できないわ」
「こんな国もう捨てちゃおうよ、自由になろう! シェヘラザード!」
「できないのよ!!」
拒絶した。
「無理よ、私はマギ。この運命はどうにもならない。逆らえない!! 何故? 貴方は良い王だったのに!!」
「そっか」王は放心したように言った。
「じゃあもう……これしか、ないか」手に持っていたのは短剣だった。
あぁ、きっとコレで私を突き殺すのだろうとシェヘラザードは思った。
それでもいい、この国が、これで生き延びられるなら……と。
突き刺された場所は、彼自身の胸だった。
気が付けば王の体を抱きすくめていた。大声で名前を呼んだ。
何度も何度も何度も。
「何故こんな馬鹿なことを!」
泣いていた。
「俺がバカだったんだ」
「やめて、もう話さないで、血が」
「マギの君を、一人の人間にしてあげたかった」
「……え?」
「この国の歴史は……ひどいものだ。一見平和だけど、何人も死んでる。何人も泣いている。君は、それを一人で背負ってきたんだろう?
……そこから……自由に」
「だめよ、だめなのよ。
……もう、戻れないのよ、戻れない! 私は!何を犠牲にしてもこの国を守ってしまうのよ!!
あの子を殺した時から!!」
あぁ、そうだったのか、と言った先ではっと気づいた。
人間性。あの時壊れたものの名だった。
それでも、わずかに残ったそれを、この青年は拾ってくれていたのだ。
彼は、ずっと、それだけを。
『マギ』ではなく『シェヘラザード』を見ていたのだ。
「俺は暴君として死ぬよ」
「だから、どうか、俺まで背負わないで」
「……でも、これだけは覚えておいて」
「……大好きだったよ、シェヘラザード」
「……私もよ」
泣いて笑って、目を閉じた。
これ完全に捏造でした。猛省します。
「レームの王様を選んだのはロリ婆」と思い込んでいました。
が、どうやら違うようですね。
シェヘラザードが選んだ王、ペナルディウス・アキレウスさんは将軍で、帝国最大領土にした王様。
つまり、レームは建国してからもう折り返し地点。
多分史実通り王政→共和制→帝政でしょう。
だからもう5賢帝時代なので、これは完全に大嘘です!
……も、もしかしたらレームには今までマギが何人かいた可能性も。
初代のレーム王(多分レムスだろ)を選んだマギとか、共和制をぶっ殺して帝政をぶっ建てた人を選んだマギとか居ないわけじゃにもあらず。