「これ、神様の指導碁なの?」
引きつった顔の和谷が盤上を指差しながら震えた声で言う。
「うん」
ヒカルはこくりと顔を縦に振る。
「じ、じゃあ、この問題は? これは俺も解いた問題だぜ?」
と碁盤の上の石をどけて別の棋譜を並べる。
「あぁ、それは俺と緒方先生が早碁した時のだ。和谷すげぇな。何で知ってんだよ」
行洋との対局の続きが打てず、たまたま会った緒方と打った早碁。
ヒカルはあっちの世界の棋譜が和谷からどんどん出てくる事に楽しくなってしまい、表情が明るくなっていく。
対して和谷はどんどん表情が暗くなっていくのだった。
「……」
和谷は完全に沈黙してしまう。
ーーこれが早碁? 俺、答え出すのに何時間もかかったのに
心が挫ける和谷だった。
隣にいる本田と院生2人は完全に置いてけぼりで言葉が飲み込めない。
「お邪魔しまーす」
と言いながら伊角が部屋に入ってきた。
「……どうしたんだ?」
笑顔のヒカルと凍った顔の和谷。そんな2人を見守る本田を見て、一体どんな状況なのか飲み込めず、伊角は本田に話しかけた。
「この棋譜がアプリに出てきたものらしいんだが進藤と緒方先生のものらしいんだ」
「へぇー、すごい! 良く考えられて打たれてるじゃないか」
「……早碁らしいんだ」
少し言うかためらったが本田は伊角にそう言うと
「え? これが早碁?」
と伊角まで凍ってしまった。
色々よく分からない事が多いがヒカルが打ったらしい棋譜の数々。
さっきの問題とやらも一流棋士が打った棋譜には違いない。
伊角が来て少し平静さを取り戻す本田。
「和谷! その棋譜……どのアプリだ? その問題を解いていけばトップ棋士になれるんだろう? 教えてくれ!」
本田が和谷に詰め寄る。
「これは【sai】っていうアプリだよ」
本田からの質問に我に返る和谷。
「アプリか、よし!」
早速スマホを取り出し検索。ダウンロードをした。そんな本田を見て伊角もダウンロードするのだった。
それから1週間も経たないうちにまた【sai】アプリが棋士の間に広まったのは言うまでもない。
アキラの耳にもアプリの話が入ってくるのは直ぐのことだった。
囲碁サロンに来た芦原は真っ先にアキラを見つけて足早に進み、棋譜並べをしていたアキラの席に座った。携帯を胸ポケットから取り出し、
「アキラ、知ってる? このアプリの問題、進藤君が打った棋譜が問題になってるらしいんだよ」
芦原がアキラに問題画面を見せながら得意気に見せてくる。
アキラはその画面を見て少し考え込む。
「……その問題は進藤でなく、僕が打って頂いた神様の指導碁ですよ」
少し恥ずかしそうな顔をしながらアキラは答える。
「えぇ? そうなの? じゃあ、これも?」
と芦原は別の問題を開いて再度アキラに見せる。
「それはこの前お父さんが進藤と打ってた対局だと思います」
アキラはあっちの世界に行った際、対局途中になっていた碁盤を見て神様に誰との対局なのか質問したのを思い出す。
「うひゃー、それは凄い対局だな」
驚く芦原にアキラは苦笑いするしかなかった。
「こんちはー」
ヒカルが囲碁サロンを訪れる。
「あら、いらっしゃい。アキラ君ならいつもの奥の席よ」
と受付の市河がヒカルをアキラの場所に案内する。
「ありがと」
とヒカルは一言お礼を言いアキラのいる方へ歩いていった。