「塔矢、久しぶり! あ、芦原さんもお久しぶりです」
後ろ姿で気付かなかった芦原に対して、ヒカルはペコッと一礼する。
「進藤君、いらっしゃい。この対局は君と塔矢先生のものなんだって?」
と開いていたアプリの問題をヒカルにも見せる。
「はい。この前塔矢先生と2日掛けて打った碁です」
慣れない敬語にしどろもどろになるヒカル。
緊張を隠せないでいるヒカルを見てアキラはクスリと笑う。
「塔矢、てめぇ! 笑うなよ!」
とアキラを一喝するヒカル。
行洋や緒方とはそれなりに会って対局も会話もそこそこするため本当なら緊張する相手なのだろうがヒカルは何とも思わなかった。対して芦原とは手合い日に数度対局する事はあったが会話する機会は今まで殆どなく、かえってヒカルにとっては緊張する相手だったらしい。
周りの大人に対しても、碁の神様に対してもタメ口のヒカルが、アキラの“友達”である芦原に敬語とは何とも滑稽で、思わず笑ってしまったのだった。
「ごめん、つい」
「つい、じゃねーっての!」
いつものヒカルに戻る。
そんなやり取りを見て芦原は本当に楽しそうな顔をするアキラを微笑ましく思うのだった。
「進藤君、ゆっくりしていきなよ」
と言って芦原は席を立ち、別の客のところへと行ってしまった。
ヒカルは空いた席に腰掛ける。
「で? 今日は何しに?」
アキラは対局しに来た訳ではないと察してヒカルに質問する。
「えっと……佐為がいなくなってて……」
うつむき加減に話すヒカルの声と体は少し震えていた。色々と足らないヒカルの言葉にアキラは直ぐに反応し
「7ヶ月ほど前に現世に生まれ変わったよ」
アキラは答える。
「7ヶ月? そんな前……俺、またサヨナラも言えなくて、あいつの話なんにも聞いてなくて……塔矢……は何か聞いて……る……か?」
涙を浮かべ今にもこぼれそうなのを必死にこらえるヒカル。
人前にも関わらず取り乱すヒカルを見て少し驚いたアキラだったが、プロ1年目にも佐為が居なくなった時に手合をサボるくらいだったからこれだけ取り乱してもおかしくないと思い直し、
「佐為なら今、僕の子供として妻のお腹にいる」
「お……お前の子供?……は? いつ結婚したんだよ」
心が落ち着くどころか混乱していくヒカル。
「すまない。佐為が生まれてから君を驚かそうと思って黙っていたのだが……そんなに取り乱すとは思っていなかった」
アキラはヒカルの取り乱し方を目の当たりにし、佐為についてだけは逐一ヒカルに伝えておくべきだったと少し後悔した。
「生まれて直ぐは難しいだろうが、会えるようになったら僕から連絡しよう。佐為としての記憶があるかは分からないが、進藤がそれで良ければ」
アキラに言われてハッとするヒカル。
ーー記憶がない……そうか、生まれ変わりだもんな。当然か。でも、佐為の……佐為の生まれ変わり、、、
「……あ、会いたい」
ヒカルは少し考えたが、生まれ変わりだとしても佐為という存在を確かめたかった気持ちが大きく、声を震わせながら答えた。