繋想(けいそう)   作:彩加

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第2話

「佐為はオレと離れてからどうしてたの?」

 

ふと、疑問に思った事を口にするヒカル。

 

「私はずっと碁の神様と打ってましたよ。全然勝てないのですが、神の一手に近付くのを感じています。この上ない幸せ者です、私は」

 

と佐為は本当に幸せそうな笑みを浮かべて答える。

 

──そっか。幸せで良かった…

 

とあの時の離れる直前を思い出しながら、今は幸せそうな佐為を見て安心する。

 

「ヒカル、着きましたよ」

 

と佐為は現れた大きな扉に手をかけて開ける。

とそこは、打って変わって景色の全くない真っ白な世界だった。雲の上を歩いているような感覚で進んでいくと、遠くから碁石を打つ音が聞こえてくる。

 

「誰かが打ってんのか?」

 

とヒカルはワクワクして音のする方へ走っていった。

大人と子供が対局していたので、まじまじと対局内容を覗き込む。

ヒカルは子供はすぐに自分と同じくらいの棋力を持っていると感じた。大人はsaiより強いんじゃ…と少ししりごむ。

少し遅れて佐為もヒカルの横に座る。

 

「子供の姿の方(ほう)は虎次郎、大人の姿の方(かた)は神様ですよ」

 

と佐為が対局に影響を与えないよう小声でヒカルに紹介すると、ビックリしてヒカルは佐為の後ろに隠れてしまった。

 

「虎次郎って、150年前の秀策? ……と、神様?! そんなに偉い人、もっと早く言えよ」

 

とヒカルが文句を言う。

 

「……そう言えばお前に触れるんだな」

 

と呟くと、頬や腕などあちこち触り始める。

ひとしきり触り終えると佐為の胸にヒカルは飛び込んだ。

 

「……最後の……お前が消えた時のあの一局の続きを打ちたい」

 

と涙を浮かべたヒカルが持ちかける。

 

「えぇ、もちろん」

 

と佐為は笑顔で答えた。

するとどこからともなく碁盤と碁笥が出て来たので佐為と対面に向かい合う。

グスリと涙を拭き取り、碁笥から石を取り出しヒカルが打つと、佐為は次の一手を打つ。

 

「お前と打つのに2人分打たないのは何か変だな」

 

なんてヒカルがはにかみながら言うと

 

「そうですね。私もヒカルと打つのに自分が打つのは違和感があります」

 

と佐為も笑って答える。

そんな一言二言の会話をして、ヒカルがあの対局の最後の石を打つ。

 

「ここからだな」

 

とヒカル。

 

「では、いざ!」

 

と佐為が言うと、止まっていた時間が戻ったように、白と黒の石が次々と打たれて碁盤の中の世界が息を吹き返したように華やかになっていく。

待ちきれなかったように早々と打たれたその対局はわずか30分程度で終わってしまった。

 

「はぁ~、半目負けかぁ!!」

 

とヒカルは大きくため息を付く。

 

「でもお前に追いついてたんだな」

 

と笑顔ではにかむと

 

「だいぶ強くなりましたね、ヒカル」

 

と佐為も感心しながら笑顔を返す。

 

「終わったかい?」

 

と虎次郎を連れて神様が自分達の碁盤の前に座る。

 

「はい、神様。ずっと心残りでありました一局を最後まで打つ事が出来ました。ありがとうございました」

 

と佐為が答える。

 

「いやいや、私の力ではない。全部恋愛の神のおかげだ。礼はそっちに言ってくれ」

 

と苦笑いをしながら神様が答える。

 

「そうでしたね」

 

と同じく苦笑いしながら佐為は言うと、ヒカルを見て

 

「ヒカル。あのアプリは恋愛の神様が作って下さったものですよ。あかりちゃんがこの15年間、ずっとあなたが幸せになることを祈っていたのです。」

「あかりが?」

 

ヒカルは思わず出てきた名前にビックリする。もう何年もまともに会話をしていないように思う。

 

「あかりちゃんはいつもヒカルの部屋の明かりが夜中まで付いてるのを見てたのですよ。通勤途中にあるお地蔵様にはあなたの健康と夢が叶う事をお祈りしていたのです。熱心に祈り続けるあかりちゃんに恋愛の神様が心を痛めて叶えてあげたのです。ヒカルが私に会えるように……」

 

少しうつむき加減に佐為は言う。

 

「で? あかりは?」

 

と少し不穏な気持ちになりながらヒカルは質問した。

 

「元気なのですが……」

 

と佐為はけげんそうな顔。

 

「元気ならなんでそんな顔するんだよ!?」

 

とため息混じりにヒカルは答える。

 

「それはですねぇ──」

 

とさらに佐為が濁していると

 

「交換条件を提示されたのでね。」

 

と神様が言った。

 

「交換条件?? ……交換条件デスカ?」

 

と慌てて敬語にしたものの、神様はクスクス笑って

 

「タメ口を言われたのは君が初めてだな。なんて心地良いのだろう。まるで本当の友のような感覚だ。今後もタメ口で話しなさい」

 

隣で佐為は頭を抱えていたが神様のその言葉に胸を撫で下ろした。

 

「……で、交換条件って?」

 

とさっそくタメ語で聞くヒカル。

 

「何しろ恋愛の神様との交換条件だからね。色々あって……」

 

と少し歯切れの悪い物言いにヒカルは、

 

「だからその交換条件ってなに?!」

 

と大声でもう一度聞く。

神様は一つ深呼吸したあと、

 

「あかりちゃんと結婚すること。そして2人の間に子供をもうけることだ」

「なんだ、そんな事か。分かった」

 

とヒカルはあっさり笑顔で承諾した。

あっけらかんとしているヒカルに神様と佐為は本当に分かったのか一抹の不安が過ぎる。

 

「最後、このアプリは週2回まで、現世時間で1回3時間しか使えない。その時間を越えると本当に死んでしまうから注意せよ。また、交換条件が達成出来なかった場合はアプリそのものも使えなくなるから気をつけたまえ。次回以降は下にある隠しボタンを押せばここに来れる。IDとパスワードはこれだ」

「分かった! 約束する」

 

とヒカルはIDとパスワードが書かれた紙を神様から受け取り、真剣な眼差しで答えた。

 

「さて、もう少しヒカル君が現世に戻るのに時間があるな。佐為、一局打とうか」

 

と神様が佐為に対局を持ちかける。

 

「ヒカル君。この一局は現世への土産だ。目が覚めたら棋譜を皆に見せて上げなさい」

「うん!」

 

とヒカルは元気に笑顔で答えた。

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