生まれ変わりならと「虎次郎」と名付けようとしたヒカルだったが、猛烈な反対をあかり始め自分の親にまで受けた。すったもんだの末決まった名前は「秀輝(ひでき)」。
囲碁界のトップを背負う運命にあるだろう虎次郎が父親(ヒカル)の為でなく虎次郎自身の為に生き、今度こそ輝く人生を送れるよう希望を込めてーー
数ヶ月ぶりにアプリを使って佐為に会いに行く。
「あれ? ……塔矢先生」
行洋と神様が対局していた。
「進藤くん。久しぶり」
ヒカルの言葉に行洋が顔を上げて挨拶をする。
「お久しぶりです。塔矢先生も来てたんですね」
ほぼ中国と日本を行き来する行洋とヒカルはほとんど会う事はなかった。
ヒカルは碁盤に近寄りながら挨拶をすると、パチッと神様が次の一手を打ち行洋は腕を組み直し盤面を見つめ直す。
ヒカルはキョロキョロと辺りを見回しながら探していると
「ヒカル君、佐為ならいないよ」
と神様が一言。
「……いない? なんで?」
ーー佐為に限って碁以外やりたい事なんてないだろう?
と首を傾げるヒカル。
ハッとし、あの時と同じように急にいなくなったからか胸が締め付けられる。大きな不安と喪失感が再びヒカルを襲った。
「進藤君? 大丈夫かね?」
「え? ……だ、大丈夫です!」
無意識に涙を流し身体を震わせていたヒカルに行洋は少し面食らい心配する。
ゴシゴシと流れる涙を拭き取り平然を装う。
やれやれと神様は碁盤にあった体の向きをヒカルに変える。
「安心せよ、現世に生まれ変わっただけだから」
「現世に?」
「虎次郎だけでは囲碁界は盛り上がらん。等しく才の長けた者が2人必要なのだよ」
言ってる意味がよく分からない。
「ヒカル君とアキラ君みたいな関係がいつの代でも必要なんだよ」
と分かっていないヒカルをケラケラと笑いながら神様が言う。
「俺と塔矢みたいな関係か……」
アキラが居なければヒカルが囲碁をやることはなかった。アキラが居なければこの世界で生きていこうと思わなかった。アキラが居なければ……神の一手には到底たどり着けない。
ーーなるほど。俺と塔矢みたいな関係か。大事だな。
と妙に納得するヒカル。
「進藤君、私と一局打とうか」
ヒカルの表情が戻り一安心する行洋が対局を申し込む。内心行洋はヒカルとの対局を望んでいたが、引退後にそれが叶う事はなかった。
ならばこのチャンス、逃がすまいと思い、思わず口に出していた。
「え? 塔矢先生が打ってくれるの?」
ヒカルの表情が一段と明るくなる。行洋との対局はヒカルも望んでいた。
願ってもない対局に心が躍る。
「神様、この対局は私の負けです。次は進藤君と打ってもよろしいかな?」
と行洋が神様に念を押す。
「もちろん。3時間の互い先……真剣勝負をしてはいかがか?」
と神様はニヤリとする。
「3時間?! そんな時間ねぇよ! 俺は後2時間ちょっとしかないし、塔矢先生はもっと短いだろう?」
ヒカルが焦る。
「何も今、全部打ち切る必要はないだろう。タイトル戦みたいに何日も掛けて打てば良い。……やりたくないのか?」
と神様はヒカルを薄目で見る。ヒカルが対局を望んでいることは神様も知っている。佐為がいなくなった世界にヒカルが今後も来続けてくれるには行洋との対局はとても良い口実だった。一気に2人を失った神様にとってこの世界はかなり寂しい。行洋が来る頻度は少しずつ増えているものの1人の時間もあり、少しでも楽しい時間が続くようヒカルを引き留めたかったんだろう。
「……それで打ちたい」
2日以上かけて打てばよいと聞いてヒカルの心は一気に傾いた。いつもここに来ると早碁が多かったから3時間の互い先なんて打った事がなかった。
「帰る時間になったら私が教えよう。遠慮なく碁に集中するが良い」
「うん! ありがと、神様」
盤面に向かうと周りが見えなくなるヒカルに神様が配慮する。
「始めようか」
と行洋が最初の一手を打ち始める。