「危うく、朝刊の一面を飾るとこでしたね……」
千冬ファン……もとい、千冬信者達から逃げてきたわけだが、中々、振りほどけなかった。
逃げれば逃げるほど、人数がふえるし、ハイヒール履いてる人もいたのに、オリンピック選手並みの速度を出すなんて思いもしないだろう。
なんとか、逃げ切れたけど……一体、何キロ走ったんだろう?それと、ここはどこだ?
気がつけば、見知らぬ海食崖に来ていた。
「それはいいとして、早くおろせ!」
逃げるのに必死で、千冬をお姫様抱っこしたままだったのを忘れていた。
ゆっくり下ろしたのはいいものの……恥ずかしかったのか、どこかぎこちない。
「まったく、お前があの時、名前を呼ぶからだ!」
おっしゃる通りです。
「だいたい、お前は……」
千冬によるお説教がはじまる。何となくだが、長くなりそうだ。
1時間後……
「しゅみません……」
いやー、辛かった。ぐちぐちと痛いところを突かれて、精神がゴリゴリ削られた気がする。
でも、最期にお礼を言われたのは意外だった。
ただ、素直に言うのが恥ずかしいのか、そっぽを向いて、小さな声でありがとうと言っていた。
千冬も千冬で落とし所があったらしいとのこと。
それを聞いて、なんか安心した。
それはいいとして……
「ここはどこなんでしょうか?」
「私も分からん」
がむしゃらに逃げて来たから、わからない。
携帯のGPSで調べようかと思ったけど、運が悪い事に圏外。
結果的に言うと、迷ったわけだが……なんだろう? この場所はどこかで見たことがあるような気がする。
なんだっけな……
必死に記憶を辿ってる中、千冬が展望台を見つけたのであそこに行けば、場所がわかるし、携帯も使えるんじゃないかとの事で移動する事にした。
展望台へはのものの数分でついた。途中で傾斜が激しい道があり、転びそうになった、千冬を抱えたら、今にもキスしそうな体型になり、恥ずかしがった千冬から思いっきりビンタを喰らったが。
「思い出しました!この場所、半分の月がのぼる海で主人公がヒロインに告白した場所ですよ!」
「ほう、ここがそうなのか?」
半分の月がのぼる海は、累計発行部数2000万部を突破した、大人気ライトノベルであり、アニメ化やドラマ化もしている。
内容は、あちらの世界の半分の月がのぼる空に似ている……というかほぼ一緒である。場所や舞台は全然違うがそこは割愛。
アニメでもドラマでも
告白シーンは、アニメの名場面トップ10には確実に入るほど有名である。
でも、それ以上に感動するのが
「確か、ここで結婚式をしたと聞いたことがあるな」
そう、結婚式である。それも、二人きりの静かな展望台でひっそりと行うのだが、これが何度見ても感動する。
聖地と共に、デートスポットとして人気になり、中には結婚式を挙げる人もいたんだとか。
でも、今はすっかり熱も冷め、すっかり穴場と化していた。
まさか、逃げた場所でこんな所があるとは……不思議なこともあるものだ。
「せっかくですし、ここでしばらくは休憩しませんが?」
「ふむ、わたしもそう思ってた所だ」
時間的にそろそろ日が沈む頃。せっかくだから、ヒロインが見て感動した星空を眺めるとしよう。
二時間後……
思いの外、太陽が早く沈むと夜空に星が輝き始めた。辺りには余分な光がなく星が綺麗に見えて、海面にも星の光が映し出され、なんとも幻想的な風景だ。
月も時期的に半月だから、アニメそのものの世界を体感しているようだった。
こう言った場面で言うことは……
「月が綺麗ですね………」
「ほう、なら私は死んでもいいと言えばいいか?」
お約束を言って見た所、千冬も知っていたようだ。
「だが、この場合、月よりも星が綺麗と言った方が私は好きだな。」
「お、いいじゃないですか。これは、一本とられました」
この時、次狼は千冬の事を案外ロマンチストなんじゃないかと思い始めた。
二人は、その後、景色に見とれたのかあまり会話をする事は無かった。
だが、極たまに千冬が小さな声でなにかブツブツとつぶやいていた。その表情は何か切なく寂しい感じがした。
「なぁ、次郎……」
しばらくすると、千冬は立ち上がり、窓に近づき、振り返ると、ある質問をしてきた。
「お前は。今の世界についてどう思う?」
それは、今までの空気を一瞬で別の物に変えるものだった。
side 千冬
目の前の景色は、私の人生の中で一二を争うほどのものであった。
こうも星が広がると、宇宙はこんなに広くて私なんてちっぽけな存在でしかないと思えるほどだ。
そして、今になって、ようやく束がなぜ宇宙を目指すのかが分かった気がする。
それと同時に、いろんな感情が湧き上がってきた。
ISは束が宇宙への活動を目的に作ったのだが、誰にも認められなかった上故に、認めさせる為に束と私は白騎士事件を起こした。結果的にISは認められたが、それは、兵器としてである。
今思えば、あの時、私が止めていれば……もっと他の方法を考えればよかったのではないかと思う。
だが、ISが認められた事に満足してしまった。そして、追い討ちをかけるかなように、私がブリュンヒルデになり世の中は一気に女尊男卑の世界になった。
ISはこんな事の為に作られたのではない。なのに、わたしは何をしてるのだろうか。
1番の理解者だった私が一番わかっていなかったのかもしれない。
よく考えれば、私に束を責める権利なんてないのかもしれない。
以前、束に「ねぇ、ちーちゃん、この世界は楽しい?」と聞かれ、「そこそこだ」と私は答えたが、束は「そっか……」とどこか切なかった。私は答え間違えたのだろうか。
あの時、次狼ならなんて答えるのだろうか。
もしかしたら、答えが見つかるかもしれない。
私はそう思い、聞いて見たのだ。
「今の世界についてどう思う?」
と
すみません、まだ続きます!
今度こそ、原作に行きたいと思います。