2人と仲良くなって、数ヶ月。
再生屋の仕事もひと段落して、わりかし今は暇なのだ。
千冬は相変わらず忙しいみたいだし、束は……どこにいるかわからないが、クロエちゃんからメールでなんとかしてくださいと送られてきた時は何があった!?と思ったが、ただ、掃除しない事への不満だった。
ただ、メールの件名にお父様と書くのはやめてほしい。
それはそうと、本当に暇なのだ。
さて、どうしたものか……
しばらくして……
「というわけで、五反田食堂に来ました〜!」
まるで、動画投稿者みたいなノリだが、ただ単に散歩してお腹が減って、たまたま近くにあった、知り合いの家族が営む、美味しい食堂を発見したからである。
「お、便利屋の兄ちゃんじゃねぇか?今日はどうした?」
この、いかつい体をした、一龍会長とマンサム所長を足して二で割ったような男は五反田厳さん。
もうすぐ、還暦を迎えるはずなのにまだまだ若者に負けず現役で、弾君曰く、数十年前から年を取ってないんだとか。
まさか、この人の体内にはグルメ細胞が!?
なんて、思ったり思わなかったり。
「お腹が空いたんで、食事しに来たんですよ。それと、便利屋じゃありません。再生屋です!」
一応大事なので、言っておく。
「似たようなもんだろ?それより、何頼むんだ?」
「はぁ〜、じゃー、業火野菜炒め定食とカボチャの煮付け定食、特製スタミナ定食、豚キムチ定食、レバニラ炒め定食、唐揚げ定食、鯖味噌煮定食、生姜焼き定食、焼肉定食、ミックスフライ定食、カツ丼、カレーライス、日替わり定食でお願いします。あ、定食のご飯は全部大盛りでお願いします」
「相変わらず、よく食べる奴だな……まぁ、いい。全部作るには時間かかるから出来たもんから好きに食ってくれ。それと……わかっちゃいると思うが………」
厳さんの瞳が強くなる。
「ええ、全部残さず食べますよ」
「なら、問題ねぇ」
厳さんは厨房に戻り、火を起こすと巨大な中華鍋で野菜を炒め始めた。恐らく、最初は業火野菜炒め定食かな。
いつもは、客で賑わってる五反田食堂だけど。今日は割と空いていた。というか、次狼1人しかいない。珍しいこともあるものだ。
それに、今日は看板娘の蓮さんがいないな。それどころか、厳さん以外誰もいないんじゃないか?
気になってる聞いてみたところ……
「あー、あいつは
それなら、納得いく。
厳さんは弾君には厳しいのに、蘭ちゃんや蓮さんにはとことん甘いんだよね。
「それにしても、蘭の奴……随分と厄介なのに惚れたもんだぜ」
因みに、蘭ちゃんが一夏君の事を好きな事は厳さんも知っている。
厳さん曰く、出会ってすぐに、蘭ちゃんが一夏の笑顔を見て一目惚したんだとか。
箒ちゃんといい、鈴ちゃんといい、蘭ちゃんまでも一夏君の毒牙にかかってしまうとは……知ってる?まだ、中学生になったばかりなんだよ?
これが高校生……もとい、IS学園に通うようになってからは更に増えるなんて……荷が重くなりそうだ。
笑うしかない
「あははは、でも、恋は障害がある程燃えるとか言うじゃないですか」
「はは、いいこと言うじゃねぇか」
笑いながらも、厳さんは次狼の言うことに感心していた。
「それはそうと、お前さんはどうなんだ?」
「お、俺ですか?」
「お前さんも、その年で浮いた話一つもねぇのは寂しいだろ。どうだ?いっそのことお見合いでもしてみるか?丁度、俺の知り合いがこの辺りで近々、婚活パーティーを行うって言ってたんだが……エントリーして見たらどうだ?俺の紹介って事で。」
厳さんは時々、父親みたいな事を言う。事あるごとに、縁談の話を持って来たり、お見合いさせようとしてくる。
最近なんか、孫がいるのに孫の顔が見たいとかぼやいてたんだ。
蓮さんにいい加減に止めさせてもらおうかと思ったけど、あの人もあの人で案外ノリノリで進めてくるから困っている。
いつもは丁寧に断ってたんだが……厳さんの言うとうりこの歳で恋人がいないのは確かに寂しい。
「そうですね……じゃー、よろしく……」
お願いしますと言おうとした瞬間
「こんにちは、厳さん」
ガラガラと店の扉が開くと、そこには見知った顔がいた。
「む、次狼じゃないか? お前もここで食事しに来たのか?」
何を隠そう、織斑千冬であった。
「ええ、そんなところです。千冬は仕事帰りですか?」
「ああ、今日は思いのほか早く終わってな。一夏は家にいないし、昼飯を作るのも面倒だから、ここに来たわけだ」
作るのめんどくさいって、作れないの間違いじゃないかとツッコミしようとしたら千冬の眼光が光ったので踏み止まった。
「おう、千冬ちゃんか。色々と大変だって聞いてたが、その様子だと大丈夫みたいだな」
「ええ、おかげさまでなんとかなっています。それと、うちの
「いいってことよ。うちの
「業火野菜炒め定食をお願いします」
「はいよ」
厳さんは軽く千冬さんと話をすると厨房へと戻ってしまった。
俺の見合い話は………まぁ、いいか。
「そういえば、次狼、そこの看板で見たんだが、この辺りで近々、婚活パーティーが行われるの知ってるか?」
「あー、さっきそれのことについて厳さんと話してたんですよ。『いい年して恋人1人いないのもどうかと思う』ってね? 丁度、主催者が厳さんの知り合いみたいで、話は通すからエントリーしたらどうだ?て。」
「………そうか」
一瞬、千冬の雰囲気が変わったような気がする。不機嫌というか、なんと言うか……
取り敢えず、気まずい空気なのは間違いない。
「……で、エントリーしたのか?」
「まさか、そう言う千冬はどうなんですか?」
実はエントリーしようとしたなんて言えない。言える雰囲気じゃない。なので、敢えて質問で返した。
「質問を質問で返すな、逆に聞くがエントリーしたと思うか?」
そっちも質問で返してるのだが……敢えて言わないのが約束。
「しなかったんですね」
「その通りだ。私がいては他の皆がやりづらくなるだろうし、何より私は国家代表としての激務があるからな。そんな、暇などない。」
おっしゃるとおりです。
「確かに、千冬は美人ですからね……そう言った意味ではやりづらくなるでしょうね」
千冬は自分のことを怖がって、皆がぎこちなくなることを言ったのだが、次狼はそうとは思ってなかった。
「ーーっ!? お前は何を言ってるんだ!!」
一瞬にして、千冬の顔が赤くなると、不意に脇腹に拳が飛んで来た。
結構、痛かった。
「全く、お前はいつもどうしてそう……」
何やら、ブツブツと言っているがよく聞こえない。
何か悪いことしたかな?
そして、その一部始終を見ていた、厳はというと
「ふむ、相手は意外と身近にいたか……」
と、中華鍋を振りながら、2人の様子を見てそんなことを思ってた。
「あの様子じゃ、まだまだ先だな。千冬ちゃんもこれまた厄介な奴に惚れたもんだぜ」
今度、蓮と相談するとするか。
これを機に五反田家では、次狼と千冬をどうやって結ばせるのか家族会議が開かれたとかなんとか?
五反田食堂での日常編です。こんな感じで更新したいと思います。戦闘シーンなんかもボチボチ描きたいと考えているところです。
あと、厳さんに関しては容姿も口調も分からなかったのでオリジナルです。そのついでに、次狼は大食いキャラにすることにしました。
本当は鈴ちゃんの家の中華屋を描きたかったんですが、両親の名前と店の名前がわからなかったので残念ながら不採用してしまいました。
そして、知らぬ間にお気に入りが2000件を超えたのでしばらくしたらまた番外編を書きたいと思います。今度は、そんなに長くならないよう頑張ります!
それと、ご感想および誤字脱字のご報告ありがとうございます!
これからも、よろしくお願いします!