この力、この世界で役立つのか?   作:zaurusu

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第3話

再生屋を始めてから数年が経った。

 

最初は赤字続きだったな。一ヶ月に3〜4人来るか来ないかぐらいで、依頼内容は壊れた時計やテレビ、アクセサリーや指輪などの修理で、修理屋と勘違いした客が多かった。

 

まぁ、せっかくのお客なので直してあげた。再生屋の技術が電化製品や金属も対象なのは驚いたな。値段も少し高めにしたけど、新品同等に直すので知る人ぞ知る、修理屋として有名になっていた。

 

再生屋なのに、修理屋扱いか……複雑だな。

 

とは言いつつも、ちゃんとした再生屋の依頼もある。

 

随分前になるが、ヨーロッパの動物愛護団体から依頼が来て、内容はヨーロッパウナギの繁殖、生態調査だ。

 

ヨーロッパウナギといえば、転移前の世界では、絶滅危惧種の中でかなり上位の位置にいる生物で有名だ。ISの世界でも、それは変わらないようだ。

 

生前より遥かに科学技術が進んでいても、そういった分野ではあまり生かされていないようだ。

 

ドイツが試験管ベイビーを作ってたんだからその技術活かせば、簡単じゃね?と思ったけど、とある条約でそういった装置を使う事や作る事が禁止されてるから、無理か。というか、言えるわけないか。

 

それ以前に、ウナギの生態はまだ詳しく分かっていないから、無理かもしれない。

 

バイオテクノロジーで卵を作る事に成功したみたいだが、半分は孵化する前に死んだり、孵化したとしても数週間で全滅と失敗続きだった。

 

ウナギを卵から成魚まで養殖に成功した例はなかった。それほど、ウナギの養殖は難しいのだ。

 

しかし、それは過去の話。

 

今では、ヨーロッパウナギの養殖が高確率で成功するようになり、それを自然に放流した結果、生態数が増え、回復傾向になった。順調に行けば、数年でレッドリストから外される日が来るかもしれないとか。

 

無論、これらの功績には次狼が深く関わっている。というか、殆どだ。

 

わずか、1日で卵の増量に成功、そして、3日で孵化。一匹も死ぬ事なく成魚にまで成長させ、世界で初、卵からの養殖に成功したのだ。

 

その間、ヨーロッパウナギの様々な生態がわかったのでレポートと一緒にサンプルとして複数のウナギの成魚を団体へと輸送した。

 

翌日には、世界中の新聞で一面を飾り、特にウナギをよく食べる日本では、ニホンウナギにも適応する可能性があるとかで、テレビで連日報道されていた。

 

ノーベル賞の受賞、間違いなしと言われているが、あまり目立ちたくない次狼は団体に匿名を希望した為、誰がこの技術を開発したのかは公には公開されていない。でも、一部の大物政治家や大企業にはその存在が漏れてしまった。

 

その結果、次狼の元には連日、企業や団体からの動物の生態調査と言う名の元の繁殖依頼が後を絶たない。

 

中には、その技術を盗もうと次狼の家にエージェントを送り込んだりする者もいた。

 

無論、ボコボコにして追い返したけど。

 

そんな感じで、濃い数年間を過ごしていた。

 

そんな、俺が何をしているかというと……

 

「ご飯だぞ、ゴン!」

 

「ワン!」

 

ペットに餌をあげていた。ペットといっても犬や猫ではない。

 

猫よりも鋭い鋭い爪、犬よりも鋭利な歯。そして、全身が柔らかな白色の毛で覆われた犬よりも遥かに大きい巨体。凛としたその姿は美しいながらも、王者の素質を見せる。

 

そう、ゴンはオオカミだ。正確には、ニホンオオカミである。

 

以前、鹿の被害が全国的に広がって、自然公園の天然記念物に登録されている植物が食い荒らされ、それを再生する際に抑止力として、オオカミを数匹放つ案を日本政府に話してみた。

 

最初は反対の嵐だったけど、今後鹿による農作物の被害総額の事、鹿が木の芽を食べることによる木の減少に伴う災害について話し合った結果、ここ数年以内に実験を踏まえて数匹放つ事を閣議決定した。

 

実験には、ヨーロッパオオカミを使うとか言っていたけど、それなら、元々日本にいたニホンオオカミの方がいいんじゃないかと思い、ニホンオオカミを再生する許可を貰った。

 

剥製からDNAを入手して、それを元に卵子と精子を作り受精させ、それをヨーロッパオオカミに移植。

 

数ヶ月後に、見事誕生したわけなんだけど……

 

「なんか、どうみてもバトルウルフにしか見えないんだよね……」

 

DNAを入手する際、メスの方はなんとかなったけどオスの方がうまくいかなかった。行き詰まった時に、たまたまギネスグローブを見て「そういえば、こいつもオオカミだったな……」と思い出して、少し牙を削って見たところ、偶然にもオスの遺伝子を発見、しかも、まだ細胞が生きていた。どうりで少しずつだが牙が伸びてるわけだ。

 

流石は八王……古代の王者だけはある。

 

そんでもって、ニホンオオカミとバトルウルフのハイブリッドの誕生な訳である。

 

生まれた時は、少し大きめの仔犬くらいの大きさだったのに6ヶ月足らずで、体長4メートル、体高2.5メートル体重1200キロになり、完全にバトルウルフの血を受け継いでいる。ニホンオオカミの面影があるとしたら、うっすらと灰色の毛が混じっている所だろう。

 

これでも、まだ子供。大人になったら、どんだけ大きくなるのだろうかと、若干不安要素はあるが割と性格は大人しくて、温厚。頭も良くて、今では家族同然に暮らしている。

 

「また、大きくなったんじゃないか?」

 

「ワン!」

 

頭から首元を優しく撫でると、満足そうな表情になり、もっと撫でろと言わんばかりに甘えてくる。こういうところは、犬に似てるなと改めて思った。

 

「こんにちは、次狼さん!」

「お邪魔しまーす!」

「こんちは〜」

 

ゴンと戯れていると玄関から声が聞こえた。

 

この声は一夏君、弾君、鈴ちゃんかな?

 

「おー、三人ともよく来たね」

 

一夏君は中学生になってから新しく出来た友達の弾君、数馬君、セカンド幼馴染の鈴ちゃんとよく絡んで遊ぶ事が多い。数馬くんはどうしたのか聞いたら、何やら今日は聖戦に出るとかでいないとか。なんだろう、聖戦って……

 

それはともかく、ここ数年で一夏君はどんどん成長して、凄くイケメンになった。もう少しで千冬さんを抜くんじゃないかな?

 

でも、鈴ちゃん曰く、唐変木な所は変わってないみたい。昨日、告白して来た女子をまた泣かしたそうだ。

 

尻拭いをしたらしい、鈴ちゃんと弾君には、後でなんかあげるか。丁度、ホワイトアップルのシャーベットがあったからそれでいいか。

 

ちなみに、3人が俺の家に来て遊ぶ事といえば……

 

「次狼さん!ゴンと散歩しにいって良いですか?」

 

「ああ、いいよ。あまり、遠くにはいかないようにね?」

 

「やった!」

 

ゴンと遊ぶ事である。

 

因みに、ゴンと言う名は鈴ちゃんがつけた。なんでも、生まれた時の姿がごん狐のゴンに似ていたからだそうだ。今では、そんな面影全くないけど……

 

ゴンが生まれてからは一夏と鈴ちゃんはよく家に遊びにくるようになった。特に、鈴ちゃんはほぼ毎日遊びに来ている。でも、中学生になってからはテストとかの関係で回数は減ったけどゴンに対する溺愛ぶりは健在。

 

ゴンも、鈴ちゃんの事が大好きで、来ないと切なくなるみたいだし。

 

「じゃ、いくわよ!」

 

前から順に、鈴、一夏、弾の順番でゴンの背中に乗る。この場合の散歩というのは、リードで繋いで歩く事でなく、ゴンの背中に乗って、町中を駆け巡る事である。屋根を伝ったり飛び越えたりとスリル満点で一夏達曰く、下手な遊園地のジェットコースターより楽しいらしい。

 

「ゴン、あんまりスピードは出すなよ」

 

「ワン!」

 

ゴンの身体能力は恐らく、生物界一。子供ながらも時速300キロは普通に出せる。当然、一夏君達は耐えられないだろうから、いつもは100キロ前後で走らせている。

 

落ちないように、車のシートカーバーを改造して取り付けた鞍に3人を乗せている。

 

出発寸前に、一夏君が……

 

「あ、ゴン、帰りにスーパー寄ってくれるか?今日は豚肉が安くてな」

 

「ワン!」

 

なんて、いったりする事もしばしば。

 

「「一夏……」」

 

ほら、鈴ちゃん達も呆れてるよ。

 

まぁ、そんな感じで散歩が始まる。

 

「相変わらず、はえーな」

 

3人を乗せた、ゴンはその場から一瞬でいなくなる。そして、誰もいなくなったことを確認し……

 

「とっとと出てきな、ここんとこずっと俺の事を監視してるみたいだけど?」

 

「「!?」」

 

そういうと、家の陰から二人の人影が出て来た。

 

「どうやら、最初からわかっていたようだな」

 

「ちーちゃん……こいつ、本当に人間?」

 

そこには、スーツ姿の目つきが鋭い女性と不思議の国のアリス風のエプロンドレスを着て、頭にうさ耳のカチューシャをつけた女性がいた。

 

次狼はこの二人のことをよく知っている。

 

一人は、モンドグロッソで他を寄せ付けないぶっちぎりの強さで優勝し、ブリュンヒルデの称号を得ている織斑一夏の姉である織斑千冬。

 

もう一人は、ISを作り、天災と呼ばれ、絶賛国際指名手配中であるはずの篠ノ之箒の姉である篠ノ之束。

 

この出会いが、後に3人の運命を大きく変えることになるのはまだ、誰も知らない。




次回、暴獣vs天災と世界最強

お楽しみに。



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