生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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14. バカンスの終わり

 

※※ ※ ※ ※※

 

 それから私は箒乗りの一員として連れ出されることもなく、空調の整った室内でアフタヌーンティーやハイティーでクリームティーを存分に楽しんだ。お供として。エルミーさんのね。

 

 時々ヨランダを連れたアンゲリーナさんとか、サミーを連れたオリヴィアさんとか、クレアさんとかも同行した。嫁~ズだ。

 アンゲリーナさんはエルミーさんの長男の嫁、オリヴィアさんは三男の嫁、クレアさんは次男の嫁だ。長女の婿だけど、父さんは嫁じゃないから除外。

 

 クレアさんはダニーの母親で、赤ん坊の私をきっちりしっかり育ててくれた人。

 オリヴィアさんとクレアさんは学校では先輩後輩として寮も同じで仲良くしてたんだって。結婚はオリヴィアさんの方が早かったらしく、クレアさんがその結婚式に参列して、アルフレッド伯父さんと出会ったとかなんとか。若々しく華やいだ様子で教えてくれた。

 

 サミーも茶菓子を食べてる間は大人しく聞いているけど、耳タコな話題(父母の馴れ初め)のときは、すぐにソワソワしだす。ヨランダもソワソワはしないけど飽きている感じを醸し出す。宿題があるからって断り続けてたヨランダが参加するのは、何やら大きな集まりの時が多い。

 

 アンゲリーナさんは当主夫人だからエルミーさんからの引継ぎに余念がない。

 仕事の引継ぎと違って社交の引継ぎは、やんわりじっくりなじまないとならないからね。自分で新しく開拓した社交関係なら良いけど、引き継いだのなら現状維持は最低限保たなければならないから気を使うだろうし。

 アレだね、長男の嫁が嫌厭される一因だと私は思うよ。そんな面倒はまっぴらごめんってヤツだ。

 

 ちなみにダニーは淑女(レディ)たちだけでどうぞ、と不参加表明をさっさと出してフィルと三つ子たちを連れて逃亡していた。

 女の子のオーリィが誘われないのは、必ず三つ子の兄たちがセットで付いて来るうえ、その兄たちは大人しく座ってお茶会などできない相談だからだって。身内だけならまだしも、お呼ばれでやらかされては堪ったモノじゃないという訳。

 

 ヨランダとサミーはそうしたお茶会にお呼ばれしても、ササっと途中で居なくなる。謎の連係プレーで中座し、帰るころには戻って来るのだ。その謎プレーは私には発揮されなかった。

 まあ、良いけどね。エルミーさんの隣でニコニコ飲み食いしてればOKなのだから。幼児の私が気の利いた会話などに参加できるはずはないって、誰でもわかるからね。私は置物なのです。ちょっとぐらいうたた寝してても、あらあら、で済まされる年頃、私4歳!

 

 

 招待状のあるご招待の時は、瞬間移動できるアイテムが同封されてることが多い。準備ができるとお呼ばれの参加者全員でそのアイテムを掴み、一瞬で移動するのだ。

 たまに別の招待者と同時刻にアイテムを使用する事があって、そんな時は3分ほど待たされる。

 

 一度あった。さあ移動だって身構えたけど――何も起こらず、一瞬の静けさの後に全員で失笑と苦笑を交わし、説明されたのだ。

 ここでアイテムから手を離すとさらに順番を後に回されるから、このまま待機しなくちゃならないのよ、と。この待ち時間の何が嫌って、このマヌケな姿勢よねえって笑い合っているうちに移動と相成るそうだ。その時も説明が終わるころには移動していた。

 

 ころりと転がった私を何事もなかったように立ち上がらせて、エルミーさんは素早くその場から退く。同時刻の使用者がいるほど込み合うパーティーなら、早々に瞬間移動場(専用の場所が設けてある)から捌けるのがマナーで常識なのだ。

 

 そして帰りは自己解散。大人たちだけならば個人の瞬間移動で帰宅。カミッロが良くやるステップを踏むやつね。でもこの瞬間移動ってけっこう難しい技らしく、大人じゃなきゃやっちゃダメで、大人でも不得意な人はいる。そんな人はゲート移動、暖炉での移動を使う。

 とても大きいお屋敷だと、ゲート移動用の暖炉が設置された応接間のある家が門扉の側に建てられている。

 

 私がエルミーさんのお呼ばれに同行した時のお屋敷にも、まさにこの暖炉の家が建っていて、凱旋門みたいなマントルピースを備えた巨大な暖炉を(しつら)えた応接室があった。応接室の隣の広い廊下には控えめな暖炉が設置されていて、そちらは内線――敷地内のみ専用の暖炉だって。普通な感じの一軒家だったけど、門番()()と呼ばれていた。お金持ちは規模が違うね。

 

 カミッロは私を抱き上げたまま気軽にステップを踏んで瞬間移動してたから、大人なら誰でも出来るんだと思っていたけど、どうもそうじゃないんだってさ。エルミーさんは私を連れて瞬間移動は決してしないし、よく考えればラシェルもしない。

 〈慣れ〉も重要らしく、瞬間移動に慣れてないと誰かと一緒って云うのは難しいんだって。失敗すると体の一部を置いて来ちゃうらしい。何それ怖い、てか痛い。エルミーさんもラシェルも、私の体の一部を置いて来ちゃいそうで怖いって訳だ。

 

 その点、暖炉のゲート移動は安全だ。行先の指定さえ間違えなければ、多少(すす)が付こうが、怪我無く到着する。行く先指定を間違えるとどこか別の暖炉に飛ばされるが、暖炉に違いはない。治安の悪い犯罪者集団の居間にでも転がり出ない限り、その暖炉からもう一度正しい暖炉に移動すればいいのだ。

 暖炉の近くには大抵例の灰っぽい粉が常備されてるものだし、私もカミッロやラシェルからは予備用の粉を渡されてる。2回分だよと小さいブックタイプのロケットペンダントトップで、パカリと明けると両側に1回分ずつ一つまみずつ粉が詰まっている。間違えて迷子になった時用だ。

 

 私も一緒のお呼ばれの時は暖炉間移動で帰るのが常だ。外線用の暖炉まで出向き――内線用の暖炉で移動したり歩いて向かったり、それは招かれたお屋敷により様ざま――コーンウォールの『楢の丘(オークヒル)』までゲート移動で帰る。出てきたところでシルキーがササっと煤を掃ってくれるところまでが一連の流れだった。

 

 

 そんなこんなで社交に連れまわされて、たっぷりお茶会を楽しんでた私は、いつの間にか顔が売れてたみたい。私宛の招待状が届くようになった。

 

 4歳なのに泣かず騒がずいつも大人しく、お茶とお菓子をニコニコいただいてる幼児は可愛らしいからね。たまにウトウトうたた寝するのはご愛敬で、その前後でもグズらず我が儘を言わない、大人しい私は人気なのだ。ふふん、チョロい。

 

 3週間くらい居たかな? あっという間だったなあ。

 

 夏休みなんだから海とか行きたかったかもって呟いたら、来年行きましょう、となった。今年は私が小さすぎて無理だろうから、初めから計画されなかったんだって。来年は5才だから、もっと外遊びも動けるようになるでしょう、ってね。ちょう楽しみ。

 

 大きくならないとなって頭を撫でてくれる伯父さんたち。首がもげる勢いだったクヮジモド家とは違って陽気な気さくさはないけれど、丁寧な親愛の情は伝わって来る。そしておっちゃんたちは女の子の髪形を気にしなさすぎです。

 

「Revenez l'année prochaine.」(来年もまた来なさい)

 パヤパヤに乱れた髪を、巻き毛に整え直しながら呟くエルミーさん。私は満面の笑みで答えた。

「Oui bien sûr.」(はい、もちろん)

 

※※ ※ ※ ※※

 

 帰りにロンドンの父さんたちの部屋の名前が『カチカチ部屋(tick-tock flat)』というのを知った。とても言いづらいです。噛みそう。フラットじゃなくてフラック(flack)って言っちゃいそう。

 

 そしてべルサイユの私たちのアパートの部屋の名前は『戦争の洋梨』と云うそうだ。取り合わせがすごいけど、こっちは言いやすい。ド・ラ・ゲール家の持ちアパート一棟だからそんな名前なのかもね。

 

 〈ド・ラ・ゲール〉ってもともと〈戦争〉って意味で、その昔フランスに攻めて込んできたケルト人一族の末裔と云う謂れから付いた姓名なんだって。

 ズバリ〈戦争〉って苗字なんて……まったく、なんて戦闘民族だろうねえ。

 

 家系に呪いが掛かってるのか、不思議な事が出来ちゃう系だからか、男系一族として知られてる。戦闘民族的には戦う男手が増えるから、良いことなのかもしれないけどさ。たまに女児が生まれるも、何故か遠方に嫁ぐらしく、親戚一同おっさんばかりって状態が普通だそうだ。前にグザヴィエさんがしょっぱい顔で愚痴ってたもの。

 

 もっとも娘を持つと親族中から羨望と嫉妬の嵐を受けて、無駄に結束されちゃうらしい。対娘の父で。エルミーさんの父親も苦労したのかもね。

 

 〈洋梨〉はどこから来たの(由来)かと思ったら、暖炉のマントルピースの装飾されてた。何でも昔はそれで部屋の区別をしていたらしく〈洋梨の間〉とか使われてたみたい、内線用の暖炉間移動で。なるほど、おされ(洒落)

 

 

 8月の残りはラシェルは仕事の準備に余念がなかった。

 

 何でも学校関係者になるらしく、9月1日から新学期で着任だそうだ。確か全寮制の学校だよね?って思っていたら、そういう学校に入るための事前学校の先生になるんだって。

 学校って云うよりも塾って感覚の語学教師で、フランス語の出来ない英語圏の人にフランス語を教えるみたい。事前学習的に子供がメインだけど、大人も受け入れる語学学校らしい。不思議な事が出来ちゃう系のね。

 

 今、少しずつイギリスの魔法学校に人気が集まりつつあって、ヨーロッパの魔法学校は生徒確保に試行錯誤中なんだって。英語圏の入学者を狙った学校政策の一環で、アメリカとかカナダとかオーストラリアからの入学者を狙ってるのかな? 憧れのヨーロッパ!って事で留学希望する人も居るそうだからね。

 

 全くの他言語出身者が、なんとか英語は話せるけどフランスの学校へ入学したいって門戸を叩く場合も受け入れてるみたい。すごく無謀だけど。

 例をあげれば、日本人が片言英語をマスターしてフランスの学校に入学希望して、語学学校にやって来たって感じだ。そんな語学で大丈夫か? って感じ。問題あるよね。

 

 教授の話とか教材とか提出物とか全て仏語だよ? まあ、そこを何とかしましょうってコンセプトなのが事前学校みたいなんだけど。

 

 週休二日で9時~6時(昼休憩は2時間)の、とても余裕のある勤務形態……と思っていたのは私だけで、けっこう厳しいねとカミッロの感想。新任はこんなものよとラシェルも苦笑い。――つまり、先任になればもっと余裕になるらしい。え、もっと? へぇ~、それがヨーロッパ風なの?

 

 

 カミッロは旅行記(写真集?)の見本品を持って出版社に売り込みをかけてた。

 

 最初はただのアルバムっぽかったのを、ちょっとした旅行案内と現地の感想を文章で付けると、ガイドブックみたいで良いんじゃない? と、アドバイス。全体の半分くらいまで写真を抑えて文章を付け、テーマも何種類か作ってみていた。女性メインとか食事メインとか観光地メインとか。

 

 複数テーマが功を奏し、それぞれのテーマごとに出版社が興味を示してくれたみたいで、合計3社と話を進めてるんだって。

 ただし、女性メインの旅行記の会社って、いわゆるエッチ系っぽくて、カミッロはかなりイヤイヤだった。他2社がダメになった時の保険的に話を進めてるけど、あからさまな感じは断固拒否で、官能的だけど芸術的な方向ならばって感じみたい。後は汎用な旅行案内的なモノを希望している出版社と、食物(グルメ)衣服(ファッション)に興味のある出版社の2社だ。

 

 3社ともとりあえず1冊ずつ発行してみて評判を見て今後を決めましょうってスタンスになったみたい。学術書とかと違って、ある意味、人気商売なモノだからねえ。

 

 著者近影は、顔がアップとか胸から上の顔がはっきりわかるピンナップタイプじゃなくて、愛用のカメラのクローズアップにカミッロの手がフレームイン、カメラを手に取って立ち去るっていう雰囲気重視の写真に変えたもよう。

 顔バレするとナンパに影響するって云うのが最大の理由だけど、せっかく動く写真なら、動画的な演出した方が良いんじゃない?って言ってみたのさ。

 

 数秒CMのノリで出来上がった写真は、映画の宣伝みたいと大変好評だったらしい。

 男らしい手と(たくま)しい背中とセクシーな腰つきが堪らないんだって。――うん、その評価を何故4歳児の私に聞かせたし。

 

 カミッロは確かに細マッチョで、お腹にはくっきり縦筋があるしうっすら腹筋もある。板チョコみたいにぼこぼこの腹筋にすると胸も鍛えられてバストアップしちゃうから、そこまでいかないように、絶妙なラインの鍛錬を欠かさない。ただ、毎日のエクササイズに私を使うのはやめて欲しい。

 〈うっすら〉をキープするために数回ずつしかしないんだけど、決まった回数高い高いされたり、おんぶに抱っこで筋トレされるのは、ちょっと……スキンシップの一環だと云われれば、まあ良いかな、と思うくらいに慣れちゃってるけどさ。ちなみに一緒にお風呂に入りま入れてもらっています。

 

 

 私はお子ちゃまなので日がな一日遊び倒してる。とはいえ、一人で玄関の先に出ることは許されてないので、遊ぶ範囲は家の中だけ、だけどね。これってヒッキー?

 

 多言語(マルチリンガル)教育は読み書きに突入して、各国の絵本や幼児書などを読み解く日々、読書が遊びの毎日だ。私は前世の日本で読書好きだったので全く苦にならない。娯楽が少ない昭和の頃は、文庫とか新書とかを二日で1冊くらいは読んでいたからね。パソコンが普及してからはパソコンでばかり読書してたけど。

 

 そして読み書きをしてて気づいた私の特殊能力(チート)――映像記憶らしきものがあるみたい。()()()なのは書籍や文章にしか発揮されないから。風景とか人の顔とかは普通な感じの記憶力だけど、書籍とか文章はくっきりしっかりクリアに記憶される。書籍になっていれば、挿絵や写真、余白の書き込みや、印刷の()()まで覚えているのだ。ちょう便利。頭の中に図書室所蔵って感じ? いかんせん入出力機関(目とか手とか口)は普通の幼児なので、速度を求められるとイマイチだけどね。

 一度読めば完璧に暗記できるってわけ。我ながらすげ~……あ、私SUGEEE!

 

 私が端から書籍を暗記しまくっていながら、ずっと家に居るのには深い事情がある。……ちょうど私の行ける幼稚園とか学校がないんだよね。フランスには不思議な事が出来ちゃう系の小学校があるらしいんだけど、5年制なんだって。6歳まで待たなきゃいけないのよねえ。

 イタリアには事前学校なんてなくて、10歳か11歳からいきなり全寮制の中高一貫校に入学してたのに、フランスは教育熱心。不思議な事が出来ない人たちは3歳の幼稚園から完備らしい。アレだね、革命の国だからかな。(1)(7)(8)(9)すぶるフランス革命!

 

 6歳から5年間の小学校の後、全寮制の中高一貫校に行くのが私の教育計画のようだ。

 

 イギリスにも小学校はあるみたいだけど、三つ子たちは通っていない。魔法が出来ない人たちの小学校しかないんだって。

 

 三つ子たちは、ホラ、塾みたいな事前学級に通ってるから。学校での勉強の仕方を学びましょうって感じの、家庭に来ない家庭教師っぽい学級ね。ノリとしては寺子屋とかかな。7歳前後で魔法力が発現してから、中高一貫校の入学許可書が届くまで。大体4年間くらい通うんだってさ。

 

※※ ※ ※ ※※

 

 

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