生まれ変わって、こんにちは   作:Niwaka

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26. ドラゴン

 本気(マジ)でした。

 

 ウェールズ・グリーン種の普通種ってドラゴンだそうだ。遠近法間違えたイグアナか丸い頭のワニそっくりだが、翼もあるし飛べる。まあ、デカいトカゲで語弊はない。

 亜種が出やすくて、イギリスでは一般的なドラゴンだそうだ。―― 一般的って。普通、一般的にドラゴンは居ません。……居ないよね? 

 

 大人たちが集まって相談している。もちろん見張りも立てている。

 

 倒すの? って聞いてみれば、なぜ? とダニーに聞き返された。

 まあ、うん、私も、むやみやたらと倒す意見には反対だ。オレオマエマルカジリとばかりにガオーしてこなければね。

 

 ダニーはこういう魔法生物系がけっこう好きらしく、ハイホーハイホーな例の連中にも、なんとかコミュニケーション取ろうと頑張っていた。こっそり持参したスコーンを手渡すことに成功したときは、感動に打ち震えていたくらいだ。

 

 ヨランダは蹴散らしちゃえばいいのにって感じ。役に立つなら立てればいいけど、役立たずならいらないでしょ? という感覚だ。邪魔にならないなら居てもよろしくてよ、というところだろう。それなんてお蝶夫人(知ってる?)

 

 サミーもヨランダと似た感じで、フィルはダニーと似た感じだ。つまり、男の子は生物(いきもの)好きで、女の子はリアリストって感じなのかな。もちろん三つ子たちも、兄たち(アーニィ&アーヴィ)とオーリィではっきり分かれてきている。

 たぶん男の子は蛇とかカタツムリとか子犬のしっぽに夢中で、おそらく女の子は甘いモノとかアロマとかステキなことが大好きなのだ、きっと。大きいトカゲ ドラゴンと聞いてソワソワしちゃうのは男の子のほうが顕著ってことさ。

 

 今、三つ子たちはラシェル&オーブリー[ラシェルの彼氏]にガッシリ捉まえられてて、フィルとサミーはハティに押さえられている。私を捉まえてる役はダニー。カミッロとエディも呼び戻されて、ナンパがてら 見張りの任についていた。

 

 けっこうな大事(オオゴト)だ。

 

 時々キレイな歌うような(さえず)り声が聞こえてくる。ドラゴンの声だって。あの種類のドラゴンの特徴だそうだ。

 鳥の声だと思えばそうとしか思えず、砂浜(ビーチ)で寛ぐ他の方々は気にしていない。鳥類学者でも紛れていて、「聞いた事もない鳴き声……新種か!」などと騒ぎだしでもしない限り、声だけじゃドラゴンなどと気づきもしないだろう。

 

 実はもう一組、若夫婦に赤ちゃん一人の一家族が私たちのグループに合流してきていた。不思議なことが出来ちゃう系の人たちだ。家族サービス中にお疲れ様です。

 奥さんが声に気づいて、旦那さんは泳いで目測して来ていたらしい。代わるがわる砂浜(ビーチ)で赤ちゃん抱いて待機して、確認した後に夫婦でどうしようか、ってなったそうだ。相談し始めてすぐ、我々グループに気づいて、近付いてきたんだって。

 

 奥さんの方はハティの同寮の先輩で顔見知り、旦那さんの方はさらに年上で知己はなくても聞いた事のある家名の一人だった。去年の御呼ばれで、暖炉のある家が門番小屋として建っていた、あの豪華な館を持つ一族の一人のようだ。

 ハティはこの場にいる従姉兄たちの中で、イギリスの学校を卒業した一番年上だ。その上ともなれば父さんや伯父さんたちで、ウィンフレッド叔父さんが一番下。その間に入学卒業したならば、顔は知らない。でも「誰それの親戚で」ってなれば「ああ、あの……」と大抵わかるらしい。コミュニティ狭いから。まあ、イギリスの学校は有名で唯一らしいから、そこの卒業生ってことが一つのステイタスっぽいけどね。

 

 ちょっと隠れて住んでる不思議なことが出来ちゃう系の人たちは、ドラゴンみたいな魔法生物系も隠している。時々隠しそこなう事態が生じて、UMA(未確認生命体)発見!ってなっちゃうらしいけど。

 これだけ大人が揃っていれば、実は倒しちゃうことも可能だそうだ。でも、襲われたわけでもないし、ケガしちゃったりしてもつまらない。おまけに騒動に発展しちゃったら隠すのも面倒だし、と、追い払うことに決定したらしい。

 

 大人たちが全員棒(杖)を持っている姿は、不思議なことができない人たちから見れば滑稽だろう。一人二人ならば、指揮者だなどと誤魔化せるが、軒並み全員持っている。もちろんヨランダやダニーも。スチャッと構えている。

 大人組は実際の対処に当たってて、学生組は子供たちの万が一の守り。赤ちゃんは子供組の最年長フィルに渡され、サミーと一緒にあやして 守っている。

 

 フェンシングっぽい姿勢と持ち方は、まるでアレだよ。時代先取り!

 May the Force be with you.(フォースと共にあらんことを)

 ―― そのごっこ遊び(コスプレ)だって誤魔化せるのに、惜しいな。……いや、半世紀は〈惜しい〉じゃないか、掠ってもないし影も形もない頃だもの。あの監督だって生まれてないだろう。

 

 認識阻害、非魔法族除け、目くらまし、耳誤魔化し……これから行われる一大不思議事の前準備が行われる。これで、杖を掲げた大人たちの集団が群衆に紛れられるそうだ。ホントかよ。

 とは云え魔法の軌跡上に魔法の使えない人たちがゴロゴロしてると、射線(さえぎ)られて困るから、人除けや人寄せなども駆使している。

 

 杖の先から(ほとばし)る魔法力の光が見えるのは魔法族だけだ。

 前にエルミーさん(祖母)に聞いた事がある。幼い頃から魔法を使う姿を見せて、魔法力の(またた)く光を感じさせて、魔法力の発現を促すのがフランス流なんだって。フランスには魔法学校の初等部(小学校)があって、この魔法力の光を認識できることが入学条件の一つになってるそうだ。

 

 淡い瞬きと透明な光と重厚な輝きが、砂浜から湾内へとゆっくりと流れていく。追い払うのに強い魔法で(おど)かすのは、今回は悪手だ。隠れている崖の繁みから、飛び出されると(まず)い。

 魔法力の光や発現している力の輝きなどは不思議なことが出来ちゃう系の人しか見えないが、ドラゴンは血と肉を備えた生身(なまみ)だ。出て来られれば、あれは何だ! 鳥だ! 飛行機だ! ドラゴンだ! となってしまう。

 

 誰にも気づかれないように、こっそりと自主的に撤退してくれれば、成功というわけ。

 万が一、繁みから飛び出しても、湾内を、ましてや砂浜方面へは来られないような魔法が張られている。その場合、なりふり構わず、全力の捕獲作戦が採られるそうだ。見られるとか以前に、襲撃されると大変だからだって。

 

 ドラゴンって泳げないの? と、固唾を飲んで大人たちの展開する魔法を見ているダニーに聞いてみた。どうだろう? わからない、との答え。

 翼があるから飛んで逃げて行くんじゃないかな? と言うから、〈〉の字な感じで輝いてる光が崖の上に(ひさし)を作っているから、あの下からは飛び上がれないんじゃないの? みたいなことを述べてみた。〈〉の字の下の方は、けっこうすぐそこの海面が迫っていて、その部分から海中に逃げられたら面倒でしょう? と。

 

 いつの間にやら近寄ってきていたエルミーさんが、私がどういう風に見えてるか、根ほり葉ほり聞いてくる。なので、泳げると拙いんじゃない?ってあたりから、詳しく説明。

 (うなず)きながら聞いていたエルミーさんは、大人たちに新しく指示を出してる。海中に飛び込まれないように、水面にも新たに魔法が敷かれていった。

 

 そんなこんなで、囲い込んで押しまくったおかげで、無事、ドラゴンが撤退していった。美しい(さえず)り声が細く後を引いて遠ざかっていく。悲し気だ、って表現したいけど、私には、おぼえてろよこんちくしょうぅ~って感じに聞こえて、思わず笑った。顔文字なら( ̄▽ ̄)ニヤリだね。

 

 火を噴く(炎のブレス)種類だったけど、噴かずに行ってくれたので、ヤレヤレ良かった良かった。と、大人たちも嬉しそうだ。

 

 乾杯とばかりに手に手にコーディアルを持って、緊張に乾いた喉を潤している。学生組から子供組まで配られた。大人たちの手にしているコーディアルからはぷんっとアルコールが匂ったけど、もちろん未成年者たちの分は水で割られている。

 エルミーさんとラシェルが杖をくるくる回して子供たちの手にするグラスを冷たくしてくれた。大人たちのグラスにはラシェルの彼氏のオーブリーが杖を当てて氷を浮かべている。学生時代のアルバイトで(つちか)った業みたい。

 

 アメリカは禁酒法の時代で、週末ごとにカナダの国境の町という町の酒場という酒場はアメリカ人が押し寄せてくるんだって。夏季休暇期間ともなれば食い倒れならぬ飲み倒れも出てくる始末。従業員は常に募集中で、とてもいい稼ぎになるそうだ。

 

 

 あの魔法の光は、関知したての幼子が一番よく見える、とエルミーさんは云う。成長に従って慣れてしまうらしく、大人になれば、もうほとんど見えなくなってしまうそうだ。へぇ~。

 

 今回、私が居て、目視出来てなおかつ説明も聞けたので、とても助かった、と珍しくエルミーさんが褒めてくれた。確かに赤ちゃんもチラチラと視線を動かして魔法の光を見てたっぽいけど、説明できないよね。「マーム」とか、「ダーダ」とか言うレベルだし。

 ちなみに、赤ちゃんと云ってもヨチヨチな感じで一歳と三か月だって。迷子用リードのハーネス背負ってます。

 

 エルミーさんは基本、出来て当たり前ってスタンスの喋り方をするから、褒めるのは珍しいのだ。

 大人たちも助かったよ、すごいね、と褒めてくれる。でゅっふっふっ。

 

 私は上機嫌に笑っていたから気づかなかったけど、赤ちゃんのお父さん―― 合流してきた一家の旦那さんが、ドラゴンの行方が気になるから追跡する、って追って行った。赤ちゃんのお母さんは大人たちと連絡先を交わしたり、談笑中。

 

 連絡先って云っても、ラインとかメアドとかではもちろんなく、さらには電話番号でもない。全部ないからね、不思議なことが出来ちゃう系の人たちの世界には。魔法の使えない人たちの世界でも、辛うじて電話がぼちぼち普及してるくらいだ。

 

 では何を交換するかというと、当たり前だけど住所だよ。まあ、土地名と屋敷名と個人名でフクロウは飛んでくれるから、それをね。

 不思議なことが出来ちゃう人たちのフクロウ便は、今の世の中だと最先端でちょう便利なのだ。住所と名前で個人宛てに便りを届けられる。郵便が100%届くとは限らない時代だから、ほぼ配達されるフクロウ便は重宝されてるのだ。

 

 父さんも云ってたけど、実家(日本)に便りを書くと船便だからどんなに早くても1ヶ月半くらい余裕でかかるそうだ。それがフクロウに頼めば、半月くらいで届くんだって。すごいよね。

 季節や天候状況などで左右されるし、フクロウの健康状況もあるので連続は厳しいみたいだけど、行きのフクロウと帰りのフクロウが違うのならば、往復で1ヶ月くらいで届けられるらしい。

 

 もっとも、これは電話が普及してくれば、すっかり様相を変えちゃうんだろうけど。海外に電話は掛かるところもあるけれど、繋がってる国かどうか、まだまだ事前チェックは欠かせないみたいだし。

 

 

 興が削がれたから帰りましょうか、と相成った。

 

 ええ~、(もう)一回海の中に行きたい~。珍しく駄々をこねてみた。

 私が駄々をこねるのは珍しいけど、姉兄たちや従姉兄たちが、毎日誰かしらブーブー文句を言ったり、足を踏み鳴らしたり、床に転がってジタバタしたりするので、すっかり慣れてる大人たちに、私は軽くあしらわれた。はいはい、また今度ね~。誰に云っても同じ返事だ。

 今度っていつさ!

 

 むっすり頬を膨らまして突っ立ってても、片づけは滞りなく進む。さあ、帰りましょう、と、ぞろぞろ連れ立つ一団に手を引かれて加わった。

 赤ちゃんをヨチヨチ歩かせて、リードを持つお母さんは旦那さんが戻ってくるのを砂浜(ビーチ)で待つそうだ。ハティとまたね、と挨拶して見送ってくれる。

 

 うらぶれたパブにどやどやと入っていく。このパブの暖炉がゲート移動の出入り口なのだ。

 観光地のゲートらしく、暖炉の奥に少し余裕がある大きなタイプで、大人は腰をかがめるけど、私の身長だとそのまま中に入れるくらい大きい。

 

 個人で瞬間移動できる人たちは、次々にぐるぐる回ってシュワッと消えて行ってる。テリーさん(祖父)が店主(マスター)に暖炉を使用する旨申し出て、お金を支払っていた。厳密にいえば暖炉の使用料ではなく、ゲート移動の炎を立てる粉を使用分買ってるのだ。

 

 こういうパブみたいな客商売のお店や公共の駅とかのゲート移動用の暖炉には、傍に〈ご自由にどうぞ〉とばかりに煙突飛行粉(フルーパウダー)が置かれている。けれど、厚顔無恥にも無料で大っぴらに使用するのはイギリス紳士の風上にも置けないって感じだ。

 

 お店なら一声かけて何か商品を一つ二つ購入するのがマナーだし、公共の場所なら煤払いしてくれる人にチップを握らせるのがスマートなのだ。もちろん、自前の粉を持っているなら「暖炉を借りる」の一言で十分だろうけど。それでも暖炉を()()()()つけるような季節ならば、薪代石炭代は必要みたい。

 

 テリーさんは黒っぽい液体の入った瓶を2本、片手に持ってかすかにカチャカチャ云わせながら、交渉成立とばかりに一団に振り返りエルミーさんをエスコートしていた。

 瓶はベリー系のリキュールかコーディアルかな? 自家製のものを店で販売するのは今どき普通だからね。焼き立てパンの店だって、自家製のパンを売ってるわけだし。あ、自家製リキュールとかコーディアルは、日本で言えば梅酒に梅シロップって考えれば解りやすいかも。

 

 順次、暖炉に突入する。一番年下の私は言わずもがな、三つ子たちやサミーやフィルまでが、がっちり腕を掴まれて連行されている。ちょっと手と目を離したすきに、たーっとどこぞに走って行ってしまうと、大人たちは思っているのだ。そしてそれは真実だ。

 

 帰り道だからと気の緩んだ大人の手が離れた三つ子の内の兄たちの片方、多分アーニィが小走りで一団から離れていったからね。さっき。叱責の言葉の前に名前を呼ぼうにも区別がつかなかったらしく、「どっちだ?」って言葉が先に出ていたし。

 残っていたアーヴィが、「アーニィずるい!」って叫んだから、すかさず、「アーニィ! 戻りなさい!」ってやってたもの。

 私の左右で手を繋いでいるヨランダとダニーが、たーっと私にも走り出されてはたまらないとばかりに、ぎゅっと手を握ってきたし。

 

 うん、大丈夫。私は走り出さないとも。

 あ、面白い色の花が咲いてる。ほら、あれ、あれ、ちょっと、ダニー、あれなんて云う花? ヨランダ、あれだよ、あの赤紫色……両手を掴まえられてるので、言葉で注意を惹き、顎で指し示し、視線で対象を見つめた。

 はいはい、また今度ね~。二人とも、チラリとも視線を向けずに足並みを乱すこともなく、一団に着いていく。―― むう、今度っていつだよ!

 

 そしていつの間にやら、半ば引きずられる勢いでパブに入店していたのさ。

 暖炉の前まで連行される。緑色に変わった炎の前で、『楢の丘(オークヒル)!』って叫ぶ以外に、私に選択肢はなかった。

 

 




今回のストック放出はここまで。
皆様お付き合いありがとうございました。
以後、書き溜めたらまた更新します。
(この後書きは次回のストック放出時に削除します)
 

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