バリン・ザ・グレート   作:ふーじん

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原典におけるベイラン卿最期の章になります。
今作ではまだ終わりではありませんけどね。
それではどうぞ御覧ください。


双剣、最早並び立たず

 

 

 

 

 数年の放浪を経て、やがてアーサー王への郷愁を振り切った頃。

 ベイリンはとある沿岸の村へ立ち寄った。

 

 戦場を渡り歩く内に抱えてきた戦利品の精算と、それと引き換えに旅糧を得ようと当て所無く彷徨った末に辿り着いたのがたまたまそこであっただけの話である。

 ベイリンは村で商いに長けた者を呼び付けると、大量の戦利品を置いて物々交換を申し出た。村人は異様な気配を発する黒騎士を遠巻きに囲むも、ベイリンがそれを気にする風はない。

 

 元より取引に応じてもらえるだけ、この村は寛容であるとさえ言えた。

 立ち寄る村の多くは故知れぬ騎士を恐れ、迂遠な拒絶を示すばかり。さしものベイリンも剣持たぬ無辜の民を殺めるわけにもいかず、そう出られれば黙して立ち去るのみ。

 その上で此処はベイリンにとって幸運と言えた。村人はおっかなびっくりながらも手早く検分し、相応の代価を差し出した。

 

「…………」

「ああ騎士様、いったいどちらへお出でで?」

「…………?」

 

 取引を済ませ、早々に立ち去ろうとする彼女の背を民が呼び止めた。

 妙なことを訊くものだと振り返れば、彼はベイリンの視線におどつきながらも、事情を察せぬ彼女の様子に得心が行った様子で口を開いた。

 

「この村を通りなさるなら、亡霊騎士殿にお気をつけなされ。あの御方は騎士なる者の前に立ちはだかり、逃れ得ぬ決闘を仕掛けるのです。これまで多くの騎士様が、あの御方の餌食となりました……」

「……その騎士は魔物か。或いはそれに脅されているのか」

 

 似て非なるものです、と村人は語り始めた。

 

 かつてこの村は、とある騎士の領地であった。

 彼はさる王から村を領土の絶対守護を任じられ、その命を実直に守り続けた。

 守り続けて、命じた王が死しても、その国が滅びても、尚頑なに守り続け――既に人の一生など終えて余りある今も尚亡霊となって通り掛かる騎士を屠るのだ……と。

 

「我々はかつての国の民、あの御方の庇護にあった者どもの末裔です……最早亡霊と化したあの御方を見捨てるには偲びなく、しかしあの御方を解放することもできず、幾度とない決闘を見守り続けて参りました……」

 

 我らは皆、犠牲となった騎士たちを弔う墓守なのです――そう言った彼が指し示した先には、無数の十字が突き立っていた。それらは皆、騎士との決闘で散っていった流浪の騎士の墓標であるという。

 しかしその土の下に骸は眠っていない。いずれの騎士も亡霊に挑んだきり帰ってこなかったからだ。

 挑む騎士を見送り、しかし亡霊が健在であることを知る度に墓標の十字架を突き立ててきた。

 

「悪いことは申しません、今のうちにお引き返しなされ。今ならまだ、あの御方の目に留まることなく逃れましょう。道なき道を往くことにはなりましょうが、あの御方に殺されるよりはずっと――」

「その亡霊とやらはどこに居る」

 

 引き留める手を振り払い、ベイリンは問うた。

 そんな彼女に村人は、より一層焦った様子で考え直すよう宥める。

 

「おやめなされ……今ならまだ間に合います! 少し前に捨て置けぬと仰られた騎士様も、やはりお帰りにはなられませんでした……ですからどうか――」

「その騎士どもと私には大きな違いがある」

 

 ベイリンは旅糧を預け、彼に背を向けて言い放った。

 

「私は強い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 村を離れて暫くすると、俄に霧が立ち込めベイリンの行く手を阻んだ。

 次いで鉄と鉄の擦れ合う音、鎧を鳴らして迫り来る影が霧に映る。

 

「――――ォォオ」

 

 唸る声は人語を成さず、獣の息遣いの如く語気を荒らげるのみ。

 顕になった全身は丁度ベイリンの鏡写しのように同等の長躯を示し、彼女の直線上で相対する。

 魔影は人型から更に闇を怒髪天を衝くように発し、ただならぬ狂気を纏って遂に駆けた。

 

「■■■■――――ッ!!」

「……成程、狂獣か」

 

 亡霊の獲物は身の丈以上の大剣だった。それを枯れ枝でも振り回すように片手で構え、もう一方の手で大盾を携え肉薄する。

 その勢い、魔猪の突撃にも匹敵しよう。それが確かな足捌きを以てベイリンを捕捉し、逃げ道の一切を許さぬとばかりに目前に迫る。

 

 が、ベイリンにとって逃げ道など元より無用。彼女の五体を砕かんとする猛追に対して右の双剣を合わせると、振り下ろされる大剣に滑らせて亡霊の懐に踏み入った。

 しかし彼もまたさるもの、即座に大盾を突き出し彼女を打ち据えると、尋常ならざる膂力で懐から引き剥がす。

 それは単なるパリングでは最早無く、さながら鳥の勢いを得た城壁のよう。並の騎士ではそれだけで五体が拉げ命を落とすだろうことは想像に難くなく、ベイリンは亡霊がこれまでで一番の難敵であることを初太刀で認識した。

 

 それは亡霊にとっても同様だったのだろう。獣の如き振る舞いは最初の突撃で鳴りを潜め、初めて明確な構えを見せる。

 腰を深く落とし、上半と下半を大きく捻らせて側面を前方に向け、前面に大盾を、背面に大剣を置いて一直線に並べる。

 足運びもまた同様に。相対するベイリンから見れば重装備が奇妙な程細く絞られ、急所を穿つに難い構えであった。

 

 しかしそれは、尋常の騎士からすれば。の話である。

 己の身体能力のみで並み居る騎士を踏み躙り、最強を恣にした彼女にとって、敵が如何なる構え、如何なる戦術、如何なる策を弄そうとも、ただ真正面から打ち砕くのみ。

 

 堅牢にして不抜を具える亡霊の構え。或いは弩よりも尚勢いづく一撃を放つだろう構えを、ベイリンは意に介することなく真正面から攻め、それを迎え撃つ剣と盾の同時攻撃。

 だが、遅い。ベイリンは首を傾げて切っ先を避け、盾を掬い上げて踏み付け捕らえ、轟音と共に大地へ突き立った剣を足場に駆け上がり、躍り出た上空から亡霊の背後へ回り出る間際に双剣でその首を穿った。

 

 鎧の防護もベイリンの膂力の前には鉄も紙も変わりはしない。

 容易く食い破り、地肉を掻き分け捻り抉ればたちまち致命。亡霊は凄惨な傷口から闇を血飛沫のように噴き出したたらを踏む。

 或いはそれは泥のように地へ降り注ぎ、にちゃりと踏み付ける感触を悍ましく染め上げる。

 

(――死なない、か)

 

 しかし瞬時に奔流の堰き止め、ぐるりと向き直る亡霊を目にベイリンは彼の不死を察した。

 確かに刻んだ傷は、時が巻き戻るようにして瞬く間に修復される。その現象にベイリンは過去に数度屠った死徒なるものの生態を思い起こし、目庇の奥で目を細める。

 

 復元呪詛と呼ばれるその現象は、その名の通り呪いが齎す事象である。

 それを破るには奇跡の類か、呪いを上回る高度な魔術、或いは浄化を得意とする武装を用いる他に無いが、生憎ベイリンはそのいずれも持ち合わせてはいない。

 故にこのままでは千日手を避けられず、ベイリンに打つ手はないと思われたが……。

 

(いや、纏う闇が僅かに晴れている……成程、命か)

 

 ベイリンの目は余さず亡霊の全身を捉え、僅かな変化を読み取った。

 亡霊を覆う黒霧、それがほんの僅かに量を減じ、それと共に穿たれた傷が再生されたのを。

 即ちあの黒霧こそが亡霊の力の源。おそらくは無念の妄執か、或いは犠牲となった騎士の命の残滓か。はたまた責め苦に喘ぐ魂の欠片か。

 その闇の全てを払えば奴は滅びる。そのためには絶えず亡霊を殺し続ける必要がある――そうベイリンは判断した。

 

 そしてその見立ては間違ってはいない。

 あの闇こそが亡霊の真体であり、騎士の似姿はその傀儡に過ぎない。

 亡霊騎士とはどこへやら、その実態は哀れな操り人形でしかない。

 

 ベイリンは駆け、再生から立ち直る暇も与えず更なる殺傷を繰り出した。

 片や命は総量を知れず、片や命は一つきり。およそ論ずるに値しない絶望的なまでの差であったが、しかし最強を冠するベイリンの技量はその差を埋めて立ち回るに余りある。

 そしてベイリンはまた、戦いの中でこそ成長を遂げる怪物でもあった。それは戦いが長引けば長引く程に顕著となり、剣戟を重ねるごとに有利と不利の天秤は傾いていく。

 無論、その有利はベイリンの方へと。彼女は戦いの中で亡霊の動きに散らばる諸々の癖を見抜き、絶対即応を以て遂には圧倒するに至る。

 遠からず殺し切る――そうベイリンが考えた束の間、嘲笑うように亡霊の動きが切り替わった。

 

(…………誰だ、これは)

 

 確かに敵の筋合いは覚えたはずだ。こと戦いにおいてベイリンの五感から逃れ得る者は無く、つい先程まではベイリンは確かに亡霊の全てを圧倒していた。

 間合い、呼吸、癖――その他諸々、敵の動きを構成する要素全てを見抜き最早優勢は揺るがぬと確信を得た間際の変化である。

 簡潔に言おう。目の前の魔物は、姿をそのままに全くの別物へと変貌していた。

 

 ベイリンは刹那思考し、即座にその理由を察した。

 文字通り別物だ。おそらくは亡霊がこれまでに喰らったいずこかの騎士、その優れたる部分を模し、再現しているのだろう。

 其は一個にして無数の軍勢。さながら聖書に語られるレギオンそのものと言えた。

 

「――――手間が掛かる」

 

 それから幾つかの昼と夜を経てベイリンは殺し、殺し、殺し尽くした。

 剣の騎士を殺した。弓の騎士を殺した。槍の騎士を殺した。

 ありとあらゆる形の騎士を殺し、一体どれだけの()()を屠ったか知れない。

 亡霊が幾千幾万の死を重ねる度に闇はその居場所を失い、霧は緩やかに晴れ、亡霊の正体を一つまた一つと露わにしていく。

 

 そして今、亡霊は騎兵を象りベイリンと相対していた。

 騎馬すら再現し、得物は巨大な馬上槍。荒ぶる駆け足にしかし嘶きは無く、霧の結界を猛然と駆け抜けて馬上からベイリンを貫かんと攻め立てる。

 

 流石のベイリンも無傷を貫けずに、無数の傷を負った。

 最早甲冑は防護の意義を為さぬ程に砕け、双剣の片割れは毀れて喪われ、かつて奪った選定の剣を唯一の武器として振るう有様。

 用いぬと決めて大地に投げ出していた聖槍は両者の戦いを見守り、それを嘆くように穂先から血を止め処無く流し続ける。

 

 そして亡霊と違い、まがりなりにも生者であるベイリンはまた、常は感じぬ疲労を徐々に積み重ねていた。

 なにせ既に幾日も飲まず食わずで戦い続け、彼女でさえなければとうに朽ち果てているであろう激戦を休む間もなく繰り返している。

 如何な生粋の超人とはいえ全くの無補給で活動し得る道理は無く、ベイリンは己の足取りが重みを増していくのを認識した。

 

 最早一刻の猶予もない。しかしそれは亡霊もまた同様であるとベイリンは見抜いていた。

 亡霊を覆い隠す闇はそれほどに散逸し、明らかな騎士の五体を白日にさらけ出すまでに至っている。

 今また一つ死に、亡霊の闇が祓われる。残るは目庇の奥に蔓延る僅かな影のみ。それすらもあと一度死ねば失われ、亡霊は力の源の一切を喪うことだろう。

 

 ベイリンは戦いの終着を見据え、彼方から槍を手に駆けてくる亡霊を迎え撃つ。

 そして剣を両手に握り、肉薄する騎兵の首を獲らんと跳躍し、吐息の交わる至近でその目庇の奥を見据え――

 

 

「――――――――え?」

 

 

 その最奥に覗いた光に、戦いを忘れ呆然と声を漏らした。

 迎え撃つ剣筋は違わず首を半ばまで断ち、しかし防御に至らず亡霊騎士の槍を胴に受け止める。

 ――決定的な転機となったのはその時であろう。如何なる偶然か、騎士の穂先はベイリンの急所を僅かに逸れ、致命には至らず重傷を刻むのみに終わる。

 

 亡霊はその一撃を最期として騎馬から投げ出され、受け身も取れず地を転がり五体を投げ出す。

 ベイリンは勝利した。亡霊は潰え、彼女の命は失うには遥か遠い。

 しかし彼女は勝利の味の一切をかなぐり捨て、地に伏した亡霊の躯を抱き起こし、その兜を剥いだ。

 

 ――果たしてそこに居たのは、見間違えるはずもない。

 同じ血肉を分けた魂の片割れ、心優しきベイラン――ベイリンの弟だった。

 

 

「さす、がは……姉上……やはり、私では――」

 

 

 首の血肉を半ばまで断たれ、血溜まりに溺れる彼がか細い声で呟く。

 亡霊としての狂気は最早無い。真実ベイランの気風をそのままに、彼は姉の腕の中で必死に眼を動かし、彼女の顔を見ようとする。

 ベイリンは、状況の一切を理解できずにいた。なぜベイランが死に瀕しているのか……そもそもなぜ、彼が亡霊などに身を窶していたのか。

 ましてやそうと知らず殺し続けたなどと――ベイリンの心は、理解を拒絶した。

 

「あの日、あなたと別れてから……ハァ、私は遂に王の赦しを得、あなたを迎えに行こうとした……」

 

 ベイランは今わの際に全てを語る。失われゆく命を懸命に繋ぎ止め、言葉の限りを姉に尽くさんと。

 

 彼は王の赦免を取り付け、それを以てベイリンを迎えんと再び宮廷を発った。

 しかし如何なる妙理か、いくら各地を巡っても姉には辿り着けず、いつまでもすれ違うばかり。

 まるで運命にそう定められているかの如く姉弟の縁は絶たれ、それでも尚諦めず、必ずや姉を王の下へ連れ戻すのだとそれだけを誓い、幾年もの放浪を続けた。

 

 やがて彼は、今日(こんにち)ベイリンが村へ至ったように、ベイランもまた亡霊騎士の脅かす村へと辿り着き、その由縁を知って正義感から討伐に臨んだ。

 村人たちが知り得なかったのは、彼は亡霊に打ち勝っていたという事実だった。否、彼だけではない。これまで亡霊に挑んだ騎士たちの多くは亡霊に打ち勝ち続けていたのだ。

 ならばなぜ、未だ亡霊が出没していたのか。誰も騎士たちの勝鬨を知り得なかったのか。

 ――騎士たちこそが、次なる亡霊へと変じていたからだ。

 

 亡霊の正体とは、呪いであった。

 その起源が何であったかは最早知れない。だが亡霊は騎士に討ち果たされる度に、その騎士を依代として蘇り、騎士を新たな亡霊として更なる騎士を待ち受けた。

 一度亡霊に成り果てたならば救う手立ては無く、ベイランがそれを知り得たのも亡霊を討ち果たし闇に呑まれたその時だった。

 魂を蝕む闇、精神を侵す狂気に呑まれた末に彼は己を見失い、亡者、亡霊と成り果て――如何なる奇縁かな、その次にベイリンが現れた。

 

「あれほど待ち望んだ再会が……今は恨めしくて仕方がない……。姉上、何故今になって私の前に現れたのですか……何故、宮廷に戻られなかったのですか……」

「そ、それは……っ」

 

 ベイリンの見せた狼狽に、ベイランは瞼を閉じた。

 察しのいい彼のことだ、姉の秘め事などとうに見抜いていたのだろう。しかし問い質さずにはおられぬほどに、今のベイランに時は許されていなかった。

 その代わりと言うように、ベイランは告解する。

 

「姉上、お許しください……私は狂気に呑まれて尚、一目見て……あなたがあなたであることを察していました……」

「え……?」

「あなたの命を奪わんとしたのは、決して狂気だけではなかった……振るう槍の殺意には、紛れもなく私のものがあったのです……」

 

 亡霊が――その最後の残滓として現れたベイランが彼女の命を狙ったのは、狂気に呑まれたからだけではない。

 彼女がこの戦場に参じた以上、その勝敗如何に依らず、最早二人が生を共にすることはあり得ないことを悟り……心中を図ったのだ。

 

 ベイランは、ベイリンが知り得ぬ程に、姉を愛していた。

 親愛、友愛、情愛、如何なる形を綯い交ぜに、最早同じ時を生きられぬと悟るや否や、そのまま殺意へ転じる程に――――。

 

 産まれた日を同じくし、過ごした日々も同じ。

 見目も瓜二つの双子。男と女。心優しき弟と心恐ろしき姉。宿した力の差は隔絶しながら、しかしその歪みすらも同じ断片として重なり合った二人。

 それはまるで、本来一つであったものを間違えて二つに分けてしまったような。歪にして不可分の存在。

 

「願わくば同じ日に死なんとして……はは、なんと女々しい。なんと滑稽な……無様、あまりにも無様……」

 

 ベイランは笑っていた。泣いていた。嘲笑(わら)っていた。慟哭()いていた。

 再会を待ち侘びながら恨み。姉を愛していながら憎み。生きると願いながら死の道連れにせんと、殺意を向けた罪深き所業。

 

「そして……そのように振る舞っておきながら、姉上を殺し切れぬと知った今……あなたの生を望むこの瞬間こそが、最も度し難い……」

 

 ベイランの身体から、急速に熱が失われていった。流れ出る血は止まらず、全身が蒼白に染まる。

 幾度となく触れてきた人の死。だが、それがこうも重く感じられるなど、ベイリンは知らなかった。

 溢れる涙が己のものであることを、ベイリンは漸く理解した。

 

「まて、ベイラン……まて、まって! 逝くな――――!」

「姉上……去り逝く不肖の弟最期の頼みです……どうか、あなたは私を追いませぬよう――」

 

 ベイランは、霞む視界の先に姉を見通し、精一杯の笑みを浮かべて。

 

 

「――――あなたを追うのは、私の役目であります故に……」

 

 

 言って、遂に命を手放した。

 骸は一層重みを増し、ベイリンの腕に伸し掛かる。その温もり、祖国ノーサンバランドの冬よりも尚冷たく。

 

 乙女の呪いは代償を求める。

 かつて乙女が宣告した通り、刃は最も愛する者の命を奪った。

 それこそが数多の蛮行の報いであると訴えるように――――。

 

 

 晴れゆく霧の中心で、ベイリンの慟哭は長く永く響き渡った。

 

 

 

 

 

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