――どうして――
――どうして僕は――
――この世界に、生まれて来たんだろう?――
『キラ・ヤマト』
彼の心はもうボロボロだった。ジェネシスの余波によって彼は一度死に、別の世界で転生した。最初こそは何がなんだか解らなかったが、至大に慣れていき平和に暮らしていた。
しかし6歳になった次の日、一発のミサイルが彼の平和を壊した。
『キラ・・・強く生きて。そして何時までも優しい子でいて』
キラの両親は、そう言って彼を庇って死んだ。キラは二人が庇ってくれたおかげで軽症で済んだが、また心に大きな傷が刻まれた。
だが悲劇はこれだけではなかった。
インフィニット・ストラトス
篠ノ之束が作り出した、現存するあらゆる兵器を凌駕する存在。
だが、この兵器には欠点があった。
それは、女にしか反応できないこと。
その影響もあり世界は女尊男卑の風潮に染まっていったのだ。
キラもまた、その被害にあった。
政府はキラの両親のことを世間から抹消しててしまい、キラの両親を殺した白騎士事件の犯人である篠ノ之束と織斑千冬は世間から崇められる。
キラは学校に行けば、女子生徒や女教師達にいじめられた。
「屑の分際で生きているんじゃないわよ!」
「あんたなんか死んじゃえば良いのよ!」
罵倒されて、殴られて、蹴られ、果てにはバットで殴られ銃で撃たれたりすることもあった。
それでもキラは憎むことも、恨むこともしない。
前世での戦争と両親との約束もあり、そんなことをしてもなんの意味もないと自分に言い聞かせていた。
だからこそ、キラの心のダメージは増え続けたのだ。
そんなことが半年も続き、キラはどこかの森を彷徨っていた。家は女尊男卑の女たちが売り払ってしまい、キラは無一文になってしまったのだ。
「どうして・・・」
キラはどうして自分が転生したのかがわからなかった。大切な人達が目の前で殺されて、それなのに自分が生きているのはどうしてなのか解らないのだ。
「みんな・・・」
思い出して来るのは、前世で共に戦った仲間たちと愛する者達だった。
「僕・・・もう解らなくなっちゃった。何のために生きてきたのか、もう・・・」
涙を流しながらキラは呟く。もうどうすれば良いのか解らない。今までなんの為に生きてきたのかさえも・・・。
そんなことをしながら歩いていると、目の前に洞窟が見えてきた。
「洞窟?なんでこんなところに?」
洞窟を見つけたキラは、その中に入ることにした。なぜだか解らないが、此処に入ってくれと呼んでいるようだったのだ。
洞窟を抜けると、そこには遺跡の様な場所と、スマートフォンの様な物が浮いていたのだ。
「これは・・・」
カッ!
「うわぁ!?」
キラがスマホ?に手を触れた瞬間、突如スマホ?が光りだしキラを包み込んだ。
そして光が収まると、その場にキラは居なかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・?」
キラは頭に柔らかい感触があることで意識を覚醒する。
(あれ?僕、枕なんて持ってたっけ?)
そう思いキラは、ゆっくりと目を開けた。
最初に映ったのは、二つの大きな山だった。
「あら?お目覚めですの?」
「ふぇ?」
次に目にしたのは、銀にも白にも見える髪と翠色の瞳だった。そしてキラは次第に違和感に気付いた。
今自分が膝枕されていることに・・・。
「貴方は・・・?」
キラは身体を起こし、自分を膝枕していた彼女を見る。その姿は、まさに女神の様であった。
「はじめまして、私はガイアと申しますわ」
「ガイア?」
その名前はキラ自身も知っていた。ギリシャ神話においてあらゆる神を産み、創造の女神と呼ばれた存在である。
「もしかして、六つの神と合体したり、地球を爆発させる爆弾を背負い込んだ・・・」
「その御歳でよく○ーズを知っておりますわね?」
チョイスが古いことにガイアと呼ばれた女性は苦笑いする。
「その神様が、どうして僕に膝枕を?それに此処は?」
「それにはまず、順を追ってお話いたしますわ」
そう言ってガイアはキラに説明する。
「まず此処は、貴方が居た世界とはまた別の世界。貴方は、その手に持っておられるデバイスを使い、私達『神姫』を集める旅に出てもらいますわ」
「神姫?」
「神姫とは、私の様な神、あるいは神の力を持った者のことですわ。貴方様はそのデバイスを手にしたことで、神姫達と共に行く継承者になられたのですわ」
「僕が・・・」
ガイアに言われたキラは、あまり実感が湧かなかった。それはそうだ、急に神様が現れ継承者になったと言われても理解できないのだ。
「実感が湧かないのも無理はありませんわね。余りにも唐突ですから」
「はい・・・」
「ですが、これは事実なのですわ」
ガイアの真剣な目を見て、キラは彼女が嘘を付いていないということは理解できた。なによりも彼女から溢れ出る神秘的なオーラが、人間ではないと訴えているのだから。
「・・・貴方が嘘を付いていないのは解りました。だけど、その神姫を集めてどうするんですか?まさか・・・大きな戦いでも?」
「いえ。確かに昔、ラグナロクを阻止する為に神姫たちで戦いましたが、今はもうラグナロクはありません」
「じゃあ、どうして?」
「それは・・・」
『それは貴方のためです、継承者キラ・ヤマト』
「え?」
突如持っていたデバイスから、女性の声が聞こえて来た。
『優しき貴方は今まで、常人では耐えられない地獄の様な生活をしてきました。大切な人を何度も失い、罵倒され痛めつけられても尚、憎むことも恨むこともしなかった貴方には、継承者になる資格があります』
「そんな・・・」
そんな資格なんてない。キラはそう言おうとした。
『貴方にはあります。貴方だからこそ、私は貴方を継承者にしました』
「っ・・・・・・」
『幸せになってください、キラ・ヤマト。神姫達を集め、貴方だけのハーレムを作り、今まで以上に幸せになってください』
「えぇ!?」///
最後の言葉にキラは顔を赤くする。
「ということですわ、ご主人様」
「ふえ!?」///
突如女神からご主人様と呼ばれ、キラはさらに顔を赤くする。
「貴方は今日から、私達のご主人様ですわ」
「そ、そんな!?神様からご主人様呼ばわりなんて、恐れ多いですよ!?」///
「あらあら、お顔が赤いですわよ♪」
「・・・それに、僕みたいな人殺しが、幸せになる権利なんて・・・」
「え?」
キラの一言に、ガイアは一瞬理解できなかった。
「僕は・・・転生者なんです」
それからキラはガイアに、自分のことを話した。
自分が遺伝子操作されて生まれたこと。
ガンダムと呼ばれる機動兵器に乗って戦ったこと。
沢山の命を奪い、幼馴染と殺し合い、目の前で大切な人を沢山失ったこと。
転生して、両親が殺されたこと。
女尊男卑によって女たちから酷い苦痛を受けてきたこと。
その全てを、涙を流しながら彼女に話したのだ。
「・・・以上です」
「・・・・・・」
キラの話を聞いてガイアは、言葉が出なかった。目の前の小さな少年は、デバイスの言うとおり常人では耐えられない程の地獄を見てきたのだ。いくら神様といえど悲しくならないわけが無い。
「僕は、沢山の人を殺した大罪人なんです。こんな、最低な屑が幸せになる資格なんてないんです!」
「・・・・・・」
「だから・・・だから・・・」
「・・・そうですの」
ギュッ
「!?」
今だ涙を流し震えているキラを、ガイアは優しく抱きしめた。
「・・・よく・・・よく頑張りましたわね、ご主人様」
「・・・ぇ?」
「痛かったですわね?苦しかったですわね?誰も味方をしてくれず、ずっと一人で抱えていたのですわね」
「ガイア・・さん?」
何が起きているのか理解できないキラをよそに、ガイアはまるで聖母の如くキラの頭を撫でる。
「ご主人様、貴方は屑ではありませんわ。貴方は人の死を見るたび嘆き悲しみ、大きな罪を今まで背負って来ました。そのようなお優しい方が、最低な屑な訳がありませんわ」
キラの泣いている姿が見ていられなかったのか、ガイアは抱きしめる力を少し強くする。
「それに貴方の平和への思いと願い、そして祈りは決して間違っておりません。神である私が保障いたしますわ」
「っ!?」
「周りに味方がいないのでしたら、今日からはずっと私が貴方の味方でおりますわご主人様。ですから・・・」
ニコ
「もう、我慢しなくても大丈夫ですわ。私の胸で、沢山泣いてくださいまし」
彼女の笑顔は、まさに女神のようであり、キラは我慢していた何かが決壊した。
「・・・ぅぅ・・・ウゥアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!」
そしてキラは、女神の胸の中で泣き叫んだ。自分の味方になると言ってくれたこと、自分のことを優しくしてくれたこと、いろんなことに感謝しながら。
(あぁ、なんて悲しい方なのでしょう・・・。平和に暮らしたいだけですのに、まるで拷問の様なことをされ続けてきたなんて・・・)
ガイアもまた、自分の胸の中で泣き叫ぶキラを見て涙を流す。
(・・・この方は絶対に、幸せにさせなくてはいけませんわ!)
創造神は、改めてキラと共に行くことを決意する。それは、キラが継承者だからではなく、キラだからこそであった。
―――――――――――――――――――――――――――――
「落ち着きましたか?」
「はい」
あれから数分後、キラはなんとか落ち着いた。
「ガイアさん。僕、幸せになっていいんですか?」
「えぇ」
「僕の、味方になってくれますか?」
「えぇ」
「・・・ずっと、一緒にいてくれますか?」
「勿論ですわ」
ガイアの微笑む姿を見て、キラはある決意をする。
「僕、その神姫を集める旅に出ます」
「ご主人様!」
「・・・今の僕に、何ができるか解りません。・・・・・・だから、それを確かめるためにも、色んな神姫に会ってみたいんです」
――やはり、マスターが彼でよかった――
デバイスの継承者は、決して一人ではない。中には神姫を道具のように扱う者もいれば、性的な奴隷にしようとする者もいるのだ。
しかし目の前の少年は違う。
それは彼のとの会話と目、そして流している涙で解る。
彼は優しい子なんだと。
だからこそガイアは、彼とずっといると決意したのだ。
彼の心の傷を、少しでも癒すために。
「そういえば、僕の名前を言ってませんでしたね?」
そう言ってキラは、目の前の女神に自分の名前を言う。
「僕の名前はキラ・ヤマト。前世の記憶を持った転生者です」
「はい、キラ様。これから先なにがあろうと、私は貴方と共におりますわ」
そう微笑むガイアにつられ、キラも微笑んだ。
「それでは、先ずは契約をいたしませんと」
「契約?」
初めて聞く言葉に、ガイアは説明する。
「はい、契約することにより、私の能力が上がりますの」
「そうなんですか。その契約は、どうすればいいんですか?」
キラがそう質問すると、ガイアは急に顔を赤くする。
「えっと・・・それは、ですね・・・」///
「?」
「わ、私と・・・・・・え・・・エッチを、して貰いますわ」///
「・・・・・・ふえ!?」///
彼女の言葉を理解すると、キラもトマトのように顔を赤くする。
「解っておりますわ。いきなりこのようなことを言われて、キラ様も驚きますわよね?」///
「・・・」///
ガイアの問いにキラは何も言わず、顔を上下に振る。
「ですが、契約としてエッチをするのは、理に適っているのですわ」///
「そ、それはどういう・・・?」
「男性の○液には、高濃度の魔力が凝縮されておりますの」
「・・・・・・」///
「それを私達女性の根源たる子宮に注ぎ込まれることによって、私とキラ様の間に『パス』が繋がり私は魔力を効率よく吸収できるようになりますの」
「そ・・・そんなことが」///
「他にも、キラ様の危険を察知できるようになりますし、良いことだらけでございます」
「・・・でも」///
良いことだらけなのは解った。しかしそれで彼女を傷つけてしまうのでは?
キラは内心そう思っていた。
「キラ様、私はキラ様に全てを捧げますわ。貴方とずっといるために・・・」
「・・・良いんですか?」
「先ほども申し上げましたわ。これから先なにがあろうと、私は貴方と共におりますと」
「・・・はい!」///
こうしてキラとガイアは、近くにあった宿で契約するのだった。
これから先に起こるのは、蒼き翼のガンダムで戦う一人の少年と、星を一つ二つ破壊することが出来る女神達との出会い。
天災の兎は思い知るだろう。
自分よりも上の存在がいることに。
表での最強は思い知るだろう。
自分の犯した過ちを。
その弟は思い知るだろう。
自分と少年との圧倒的な差に。
弟に恋をする者達は思い知るだろう。
自分達が敵に回してしまった者の恐ろしさに。
女神達は少年と共に歩む。
少年の心の傷を少しでも癒すために。
そして少年は飛ぶ。
自分を愛してくれる人達の為に・・・。
『OP:魂の慟哭』
『ED:季節は次々死んでいく』