対魔忍 マイ   作:我楽娯兵

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アクション対魔忍が想像以上の出来になりつつありびっくり。


ピース・オブ・ライフ

 舞い散る汗。

 吹き荒れる土煙、火花。

 激しく唸る剣戟の軌跡、空を切り裂き影を凪ぐ。

 チリチリと背を焼く気配と共に自身の影が突如として這い上がり鋭利な刃物となる。

 虚残剣を担ぎ、背後を守るように地面に振り影を弾く。

 甲高い金属のぶつかり合う高音、僅かに遅れて唸る暴風が強烈な衝撃を伴い地面を半円に抉り飛ばした。

 立ち込める土埃、日光を遮り薄暗い帳を地面に掛けた。それはもはや『影』ではなく闇の部類。

 地面に掛かっていた『影』より人が飛び出してきた。それは軽々と頭の上へ跳ね上がっていった。

 すべて啓二が想定していた戦闘の推移だった。地面を抉り飛ばした刀を頭の上に振り上げ、頭の上へ逃げた者を追うために地面を蹴り上げた。

 余りにも強く蹴りすぎたために地面は激しい音と共に割れてしまう。

 有り余った身体機能をほどほどに使い。相手が壊れない用にて一撃を放つ。

 視界に捉えられたのは若さ溢れる女性。

 活発な雰囲気が溢れているが、どこか焦りのある表情であった。

 その表情を見れば今の状況がどれだけ逼迫しているのかをすぐに読み取る事が出来た。

 優位はこちらにある──この一撃で取る。

 脇を絞めて、両手に抱え担ぎ上げた刀を握る両腕の肘を出来うる限り標的に向ける。腕に加わるエネルギー伝達点を肩だけではなく、肘を第二の伝達点に変容させるのだ。

 そして手首を第三点──最大威力を敵が絶対に逃げられない位置から撃ち込む。

 

「袈ァッッ!!」

 

 振り下ろした刀は暴風雨となり、空気は歪み、裂かれ、なるで爆発のような音を伴い振り下ろした。

 

「甘いよッ! 啓二ちゃんッ!」

 

 刀に触れるものは何もなく、刀にも防がれた感触も返ってこない。

 土煙を抜けた啓二はその理由を捕らえた。幾つも宙を舞っていた土塊、日光によって作り出された底辺部のまさに『影』と呼べる面がそれが一切を理解させた。

 宙を舞う無数の土塊の影一つ一つに、それが潜んでいる。

 教官──井河さくらが。

 刀を振り、自由落下で舞い落ちる土塊から伸びる刃を何とか弾く。

 だが自身に加わった飛翔のエネルギーは消えることなく、漆影の棘の森に突っ込んでいく。

 体が動く限り、頭が働く限り、全霊を絞り刀を振るが凌ぎきれない。

 身を裂く影、体に刺さる漆黒の棘。

 啓二は受身もろくにとれず頭より落下した。

 

「フンッッ!」

 

 クソをヒルように下腹に力を込め頭上に剣を突き上げる。

 ガッ、と重苦しい音と衝撃が骨を伝いくる。思わず肘を折りそうになるが折れば柄頭に脳天を割られるのが目に見えている。

 衝撃を全身へと伝えるように足を振り回し、回転力を利用し鞠の跳ねるその姿を真似るように体を躍らせ土煙の中より飛び出た。

 見誤った──悟り後悔が先行するよりも先に次の一手を巡らせる。

 井河さくらの忍法「影遁」の精度を甘く見ていた。

 影とは何も地面に落ちるものだけが『影』とは言わない。遮蔽物が日光を遮り光度が落ちている個所が影なのだとこの時啓二は初めて理解した。

 新たな知己を得たようだ、目から鱗だ。

 

「いや待て……じゃあ……」

 

 背筋に這い登る悪寒とその主の放つ闘気に充てられ、油の差しが悪い螺子のようにぎこちない首の動きでそれを見た。

 フスーフスーと荒い鼻息を鳴らす漆黒の熊が直立しており、二メートルを優に超す巨体がこちらを見下ろしていた。

 

「ご、御機嫌よう……」

 

『GAAAAAAAAAッ‼』

 

 雄叫びとともに横なぎにそのモフモフの、いや、鉄の棒のような筋肉質な前腕が啓二を殴り飛ばしていた。

 猛烈な勢いで視界が、意識が、脳味噌が揺れた。

 

(あんなのアリかよ……ま、一杯食わせてやった)

 

 土嚢の壁に激突し、背骨の軋みを体感しながら啓二は意識を飛ばした。

 

 

 

 

 

「あんなのアリかよ。普通全力でぶっぱするか?」

 

 学業という苦行を終え、帰路に就く啓二。

 いつもの忍法研のメンツと言えばいいのか、仲良しグループの数人と寄り道の楽しみを満喫していた。

 夏も終わり、そろそろ秋かと思う今日この頃であるが残暑もひどく、未だに体に絡みつくような暑さは健在であった。

 五車町にある学生の憩い場である稲毛屋の軒先で啓二は座り込み、アイス『ドロドロくんクロクマ味』をガッツつく。実戦演習の愚痴を溢している啓二の姿に笑いながら鹿之助は餡蜜をパクついていた。

 

「あの状況でお前を制圧するんだったら、影熊の一撃が最適解だ」

 

「それでもこの打ち身を与えることってあるか? ぜってー明日まで痛むぞこれ」

 

「啓二ちゃんの回復能力は異常だから、それを見越してのさくら先生の判断だと、私は思うなー」

 

 鹿之助の隣に座る女子、蛇子の言い分も確かだった。

 二人ともベンチに座り稲毛屋二大名物の一つ餡蜜を食べていた。

 顔だけ見れば二人とも華やかな見た目であるが、如何せん片方は凶暴であり、もう片方は付いている。そう言った趣味趣向を持っていない啓二にとって二人は友にしかならない存在だ。

 何よりも大切な友という存在だ。

 

「にしても、あそこまでよく動けるね。啓二は」

 

 木にもたれ掛かった達郎が、感心したように言う。

 ドロドロくんの練乳ベースのスムージークリームを口に頬張り、棒に書かれた『ハズレ』の文字に残念そうな顔をチラつかせた啓二は、ゴミ箱に向けハズレ棒を投げた。

 

「俺は頑丈にできてんだ。ガテン系だからな」

 

「啓二の忍法はなんだっけか? 異能系だったけ?」

 

 鹿之助は餡蜜のサクランボを口の中で転がしながら言う。

 

「多分な」

 

 対魔忍と忍者を区別するのに明確な線引きは数年前まで確立していなかった。

 魔と対する事だけならば、銃を持った一般人と俺たちは大差はない。銃を持てば魔と『対』することは誰にでもできる。

 しかしそれではいけない。明確な区別が必要だ。

 そしてその区別の方法が、忍法だ。

 忍法(しのぶほう)、厳格な法りに従い世を遠ざける。即ち忍法(にんぽう)だ。

 だた俺たちの忍法は撒菱(まきびし)を撒き手裏剣を投げるだけではない。

 対魔の一族には人間ならざる人外の(わざ)を持っている。

 殆ど超能力の類だが、超能力と命名しては響きがよくない。そのために『遁』、隠れ忍ぶ技に準え、隠れない人外を退けると命名した。

 対魔の家系の人間ならば誰しもがその力を潜在的に宿し決定づけられている。

 鹿之助の『上原家』は代々電気を操る力『電遁』を持っている。

 蛇子はその肉体を獣と転身させる『獣遁』を、達郎は風を操る『風遁』を持っている。

 誰もがその(ごう)を第一次成長期終了時に背負うことになる。

 しかしながら俺は、()()啓二は特質すべき忍法を未だにこの体に背負うことがなかった。

 確かに他者よりも運動能力は秀で、最強の対魔忍『井河あさぎ』と肩を並べ。回復能力は次代の対魔忍総隊長『八津紫』も少し劣るぐらいと言う位だ。

 しかしながらそれは忍法による才覚ではなく、ただ単に肉体が他者よりも頑丈に出来ているというだけの違いだった。

『異能系』と呼ばれる身体機能強化、精神作用系と区別すれば早いのだが、もっと科学的な側面から見れば忍法発動時に肉体から発せられる『対魔粒子』と呼ばれる素粒子が確認されていないのだ。

 それ故に魔界医学の権威である『桐生佐馬斗(きりゅうさばと)』ですら匙を投げる始末だ。

 この事は五車学園、延いては五車町に措いて限られた家系の人間しか知らない。

 この場で知っている人間は俺だけだ。

 

「そう言えば、そろそろ雨天祭じゃないの?」

 

「おお! そうか、そうだった! ってまだ一か月ほど先じゃね?」

 

「今朝、琉子衆(りゅうこしゅう)が五車に入っていたよ」

 

「マジか……」

 

 啓二は面倒くさそうに頭を掻いた。

 五車町が出来て、『ある一族』が合流して以降、この町では夏の終わりにある祭りが毎年行われている。

 ──雨天祭。

 合流した『ある一族』の次期当主を決める一族会議だったのだが、如何せんその一族の規模が他の一族よりも規模が大きく、当主が襲名した際に分家の人間たちが馬鹿騒ぎをし始めた事から五車町民もそれに肖り騒ぎ出したことから祭りとなった。

 イベントごとには滅法弱い日本人の息抜きの場だ。

 

「……サボるか」

 

「逃がさないよ。啓二」

 

 啓二の腕を掴んで離さない達郎の目はマジだった。

 致し方ない事だった。雨天祭は経済の滞りやすい山村の五車にとってまたとない機会だ。

 日本各地に散り、国内の魔族の情報を収集する『琉子衆(りゅうこしゅう)』が集結するのだ。

 貧困にあえぐ対魔学生にはいい鴨だ。部活連は出店を立てることで躍起になっている。

 啓二や達郎他が所属している忍法研も出店をしようとしている。

 残念ながら俺は参加できるほど余裕がなかった。

 

「許せ達郎! 俺は用事があるんだ!」

 

「なんだよ用事って! どうせ琉子衆(りゅうこしゅう)の人をナンパでもする気なんだろう!」

 

「……ッ! ナンパなんてするわけないだろう! かわいい子を見て鼻を伸ばすんだよ!」

 

 ナンパなんてするつもりは心の底から毛頭ない。

 何せ俺にはできない理由があり、その理由は俺たちのような人種にとって最も弱みになりやすい。それ故に力強く反論した。

 

「七瀬に首っ引きの啓二がナンパするわけないだろ達郎」

 

 ジトっとした目でこちらを見た鹿之助が、爆弾発言を炸裂させ啓二の抱える弱点をさも当然のように言い放った。

 蛇子はポッと頬を赤く染め、妄想猛々しく黄色い声を上げながら体をくねらせた。

 

「啓二ちゃんは男前なのに奥手だからね」

 

「奥手とかそんな女々しい方やめろぅ! 硬派と言ぇ!」

 

「告白する勇気がないだけだろう?」

 

 遠慮も慎みもなく、深く心理を付く鹿之助に啓二の眉間は青筋が浮かぶようだった。

 図星の逆上めいた喚きを上げているのは理解しているが、喚かずにはいられない。

 小さな青年の小さなプライドだった。

 

「うるせぇうるせぇ! 大体鹿之助おめえも似たようなもんだろ! 愛しの神村にラブレターの一つも出したのか!」

 

「せ、先輩は今関係ないだろう!」

 

「愛おしい舞華先輩~、ぼくの彼女になって下さい~。とも言えねえ男の娘に俺をとやかく言えた筋じゃねえよなぁ?」

 

 ケケケケケ、と妖怪めいた薄ら笑いを上げマウントを取ろうとする啓二の姿に達郎は深いため息を付いた。それを見逃さないのがジェラシーに焦がれる青春男児たちだ。

 

「おンやー、達郎君はゆきかぜとの進展が合ったご様子。どう思われる鹿之助殿」

 

「いやいや達郎だぞ。奥手も奥手、現状維持の衰退を希望する」

 

 深いため息はさらに深く、達郎は話のズレを戻した。

 

「話をずらさないでよ啓二。忍法研の出店、出れるの?」

 

「…………」

 

 僅かな沈黙で答えた啓二は、瞬く間に座り込んだ体勢から猿の如く、両手両足で野を駆け逃げた。

 

「逃げたな! 啓二ちゃん!」

 

「悪いな蛇子! その日は外せねえ用事なんだよ!」

 

 さっさとずらかる事を即決した啓二。

 俺の身体能力に付いて来られる奴は幸い忍法研にはいない。

 

 今も、昔も……。

 

 蛇子たちから逃走し家路につく中、夕日に染まりつつある空を見上げ鞄から取り出した出店の計画書を見た。

 例年通りにタコ焼き屋をやる気でいるようだった。

 

「蛇子がタコ焼くんじゃあな……自分を焼いてるようでなんか変な気分で食わなきゃならんからな……」

 

 蛇子の忍法『獣遁』の転身した姿は何を隠そうdevilfish(デビルフィッシュ)、『(たこ)』だ。

 両足をタコの触手に変え墨袋を臓腑に加える忍法なのだが、蛸に姿を変える対魔忍がタコ焼きを売る姿は──少々中に入っている切身のタコが恐ろしく思える。

 と言っても啓二はこの行事は参加することはない。正確にいうのならば参加できない。

 五車の人間でも五十人もその理由を知る人間はいないだろう。

 それだけ俺の『家系』は秘匿主義なのだ。

 毎年だが雨天祭の日の夜は家の用事がある決まりだった。

 生まれてすぐ里親に出され、顔も朧気にしか覚えていない家族。

 家名を名乗るより、『篠原啓二』という名前が板に付き過ぎている。

 

「俺は、篠原啓二……じゃない、か」

 

 五車学園に入ってすぐ、中等部一年で知らされて五年目になるがその実感は未だにない。

 戸籍だって篠原だし、銀行口座も、パンツの名前だって篠原だ。

 俺がもっとも古くから覚えている記憶でも苗字は篠原だ。

 何より衝撃だったのは俺が親や、まり姉と血がつながっていない事だった。

 まり姉とケンカしてボコボコにされたし、小さかったが風呂も一緒に入った記憶もある。

 よく遊んで一緒に飯も食べた。ナニも見られ赤面したし、俺の好きな七瀬のことも知っている。

 深く考えるが、心に浮かぶ言葉はなく、モヤモヤとした感情だけだった。

 茜色に染まる空を見上げて、ため息を付いた。

 

「出店、一回やってみたいな……」




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