とある姉妹との日常   作:陽夜

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天災と世界最強との日常

 

 

 

 

 

 五月も終わりに差し掛かり、じわじわと暑さが出てきた今日この頃。

 

 生徒達も中間テストの前ということもあって少しピリピリしているように感じる人もいれば、そんな事を全く感じさせない布仏さんの様な人もちらほら。

 いや、別に彼女を貶しているわけではない。彼女はああ見えて授業態度や小テストの成績は優秀だ。生徒会副会長の姉を持つだけあるし、それに人を見る力に優れている。

 彼女が持つほんわかとした雰囲気のおかげで、1組は皆仲が良いと箒ちゃんが言っていた。

 あまり人を素直に褒めることのない箒ちゃんが、だ。さすがの僕も驚いた。

 

 

 

 そんな訳で、今僕は中間テストの答案を作成している。

 教師生活初の答案作りということもあり、時間をかけてじっくりと問題を選別する。

 授業で扱った問題の応用を入れよう、とかレベルが高い場所だから難易度も上げるべきか、とか。

 試行錯誤を繰り返して答案が完成していく様は、パズルのピースをはめていくような爽快感を感じる。

 

 

 ‥‥‥まぁ、職員室で隣の席の千冬はそんな僕を『何してんだこいつ』みたいな目で見てたけどね。テスト作ってるんだよテスト!それだけだって!

 

 千冬曰く、僕は束に似つく部分があるらしい。言わゆる『変人』な部分が。

 

 

 

 

 でも千冬にだけは言われたくない。

 昔から身体能力お化けだろ、君は。

 

 

 同年代の中で群を抜いて足が速く、力も強い。剣道になるとまさに修羅の如く。

 体育の授業で千冬のペアになる人は本当に可哀想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、千冬に対する文句も心の内に止めた所で、我らが天使《エンジェル》山田 麻耶先生が話しかけてきた。

 

 

「ーーあ、あの、◯◯先生?今お時間よろしいですか?」

 

 

 ええもちろんですとも。貴女の為なら雪山で遭難中でも駆けつけますよ。

 

 

「あはは‥‥えっと、体育倉庫の鍵を閉めてきて貰ってもいいですか?

 私、今日はアリーナの担当で‥‥今は他の先生方もいないですし、お願い出来ませんかね?」

 

 

 おっと、もうこんな時間か。何かに夢中になると時間を忘れるのは昔からの悪い癖だ。

 

 

 それはともかく、引き受けよう。

 今職員室には僕と山田先生しかいない。山田先生もテストの答案を作っていたらしく、気がつけばこの時間とのこと。

 似た者同士かもしれない。

 

 

「じゃあお願いしますね、また何処かでお礼をさせてください」

 

 

 それでは、と先に職員室を出る山田先生。

 どうしてあの人はあんなにも保護欲をそそられるのだろう。不思議でしょうがない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、今日は何時から飲むのー?ちーちゃんもう部屋にいるよー?」

 

 

 ーーーまたお前か。

 

 

 体育倉庫へ向かおうと廊下を歩いてる所に突如現れるこの兎、神出鬼没である。

 

 

「はーやーくー倉庫なんて別に閉めなくても誰も困りゃしないよー」

 

 

 黙らっしゃい。これもちゃんとした仕事なんだよ。

 

 

 

 ちなみに、先ほど束が言っていた『飲み』と言うのは、僕がIS学園に配属されてから週一回で定期的に僕の部屋で行われている集まりのことだ。

 お酒を飲むのが好きな千冬が僕の部屋につまみを持ち寄り、缶を開ける。最初は2人だけだったのだが気付けば束も居座っていた。

 

 

 

 

 先に部屋で待ってて、と言うと束は

 

 

「え〜面白そうだから束さんも行こうかな」

 

 

 君ィ、さっき倉庫なんてほっとけって言っただろ‥‥まぁいいか。

 

 

 じゃあさっさと行くよ。

 

 

「は〜い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで体育倉庫前。

 鍵を閉める前には、中に人がいないかを確認しなければならない。

 万が一にも誰か取り残されてしまったら、朝までずっと暗い倉庫の中で一晩過ごすことになってしまう。年頃の女の子には厳しいだろう。

 

 

 

 さて、中にはーー誰もいないな?

 

 

「お、グローブなんてあるよ。懐かしいねぇ」

 

 

 あんまり漁るんじゃないよ、関係者じゃないんだからね一応。

 

 

 

 千冬は、超インドア派の束と違って外で身体を動かすのを好む。

 僕並みにお節介な千冬は束と僕を連れ出し近くの公園でキャッチボールをするぞとよく言われたものだ。懐かしい。

 

 

 

「ふふ、今やちーちゃんが教師だよ。あんな暴力教師、体罰で訴えられちゃえばいいのにね」

 

 

 

 やめなさい、貴女の親友でしょうが。

 

 

 

 

 と、懐かしさを含む話をしていると、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひゃっ!?な、なに!?」

 

 

 

 突然体育倉庫のドアが閉まった。

 

 

 

 何故だ?誰かが閉めたのか?いや、僕達はまだ中にいる。閉じ込める気でもない限りそんなことはないだろう‥‥と思ったのだが隣には『天災』がいた。可能性がないわけじゃない。

 

 

 

 それにーー

 

 

 

 

「う、うう、ね、ねえ、ど、どうなってるのぉ‥‥?」

 

 

 

 

 束は、暗い所が苦手だ。

 光が一切入らない場所は不安になってしまうらしく、子供の頃は泣き出してしまうこともあった。

 

 

 

 まずいな、こんな状況じゃもし襲われたら太刀打ちもできない。僕は一夏君と違ってISに乗れないし戦えない。

 どうすれば、と考える。

 

 

 

 

 まずは暗いのを怖がる束をそばに引き寄せようと手を伸ばすとーー

 

 

 

 

 

 

 

 もにゅっ

 

 

 

 

 

「ーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 あ、あれ、なんだこの柔らかいの。

 確かめるように手でこねくり回してみると、よく弾むし不思議と惹かれる物がある。

 

 

 

 

 

「ん‥‥‥あ、っ‥‥‥‥ねえ、ちょ、っと‥‥んっ」

 

 

 

 

 

 どうした束?何か変‥‥

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーおい待て、僕は束の方に手を伸ばしたよな?そして、その方向から柔らかい物を触ったと。

 

 

 

 

 

 そして、束の息を荒さ、これは、

 

 

 

 

 

「‥‥そ、そんなに触られると束さんも困っちゃうよ‥‥‥こんな場所じゃなくて、もっと、ちゃんと明るい所で、ね?」

 

 

 

 

 

 や、やってしまった。

 あろうことか胸を鷲掴みにしてしまうとは。

 

 

 

 

 すぐに手を離し、束に謝る。

 

 

 

 

「‥‥むう、別に謝ってほしいわけじゃないんだけどなぁ」

 

 

 

 あ、あれ、何故だか束が拗ねてしまった。

 何を間違えたんだ僕は。

 

 

 

 とりあえずもう一度謝っておく。

 今度は理由はないが。

 

 

 

「‥‥もういいよ、謝らなくても。

 

 それより早くここから出よう?少しは慣れてきたけど、く、暗いのはちょっと‥‥」

 

 

 束の言う通りだ。体育倉庫に鍵をかけるのにどれだけ時間がかかっているんだという話でもある。

 

 

 よし、それじゃあ出るか‥‥‥って、あ、あれ?

 

 

「何してるの?早くーーって、嘘でしょ‥‥?」

 

 

『何故か』閉まってしまった入り口の扉を何度も横にスライドさせ開けようとするが、開かない。

 さっき閉まった時の勢いで扉がずれたな。

 

 

「ちょ、ちょっと!わざと開けないようにしてるんじゃないよね!?」

 

 

 そんなわけないだろ。大体そんなことして僕に何のメリットがある?

 

 

「それは‥‥‥束さんと長く一緒にいられる、とか?」

 

 

 そんなの今までの人生ずっと一緒にいたし今日だってこの後もまだ一緒じゃないか。

 

 

 と、ふざけている場合ではない。

 今僕は携帯電話を職員室に置いてきてしまっている。鍵をかけに来るだけだからすぐに戻るだろうと思っていた為だ。

 これでは千冬や他の先生に助けを求めることすらできない。どうすれば‥‥

 

 

 

 ーーーって、束がいれば何かしらの道具ですぐこのドアぶち破れるんじゃないか。

 

 おい束、仕方ないからこの扉壊してくれ。

 

 

「‥‥‥‥‥えーっと」

 

 

 冷や汗をかきはじめる束。

 何故だ?いつもの束ならこんなのお茶の子さいさ、い‥‥‥って、待て。お前まさか。

 

 

「あはは‥‥いや、ね?束さんも今日はキミの部屋に飲みに来ただけだからさぁ。ほんとに手ぶらの状態で来ちゃったんだよね‥‥」

 

 

 今日は嫌な予感が冴える日かもしれない。

 なんてこった、頼みの綱である束までダメとなると本格的にまずいなこれは。

 誰か来るまで待つしかないか。

 

 

「そ、そんなぁ‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからおよそ1時間くらい経っただろうか、誰もまだ助けには来てくれない。

 暗さに目は慣れたのだが下手に動いて汗をかいたりするわけにもいかず、僕達は何もせずただ座り込んでいるだけである。

 そろそろ千冬も異変に気づくだろう、もう少しの辛抱だ‥‥と僕が思っていると、

 

 

 

 

「ひっく、ぐすっ、ねえ、いつまで待ってればいいの‥‥‥?」

 

 

 

 

 ーーもしかして束、泣いてるのか?

 

 

 

 

 そこで僕は気づいた。

 この約1時間、暗い場所が苦手な束は無理をしてじっと黙っていたのだ。

 自分が逆の立場なら堪ったものではないだろう。

 心配をかけないために堪えていたのか?

 

 

 

 

 

 

 僕はそっと立ち上がり、束の隣へと腰を下ろす。

 そしてーー

 

 

 

「あっ‥‥‥‥」

 

 

 

 頭を撫でる。

 昔はよくハグしたり膝枕をしたりして慰めていたのだが、この歳になると気恥ずかしいものがある。

 

 

 それに、束も立派な女性の1人だ。僕だって緊張くらいする。

 

 

 

「‥‥‥‥やっぱり、キミは頭を撫でるのがうまいねぇ」

 

 

 

 まぁ、かれこれ10年以上は誰かさんの頭を撫でっぱなしだからね。

 箒ちゃんが産まれてからは既に僕のなでなで技術が上達していたのか、最初から好評だったけど。

 

 

 ちなみに、剣道の試合で勝利した千冬に束と同じ要領で頭を撫でてしまった時は、目に見えない速さでお腹に鋭い一撃がお見舞いされた。

 もう二度とやらないでおこうと思ったね、あれは。

 

 

 

「‥‥ねぇ、覚えてる?昔、家の物置小屋の中に私が閉じ込められちゃったときのこと」

 

 

 

 そんなこともあったなそういえば。

 僕と束と千冬の3人で、束の家でかくれんぼをしようという話になり、僕が鬼で始まったはずだ。

 

 

 

「子供の時からさ、暗いところ苦手なのに『見つからないようにしなきゃ!』って必死だったんだよ。ふふっ、バカだねぇ束さんは」

 

 

 

 束は頭脳は当時から天才なのだが、人間としては普通の子供であった。少なくとも僕の前では。

 

 

 

「それで、隠れたはいいものの、お父さんが外にある木の棒で小屋の扉を固定しちゃったんだよねぇ」

 

 

 

「‥‥‥怖かったよ、このまま誰にも見つけてもらえないんじゃないかって。

 また『孤独』に戻るんじゃないかって」

 

 

 

「当時はISも無かった。泣くことしかできなかった。

 

 

 

 でも、そんな時ーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『束、みーつけた!‥‥ってあれ!?泣いてるの!?だ、大丈夫?ごめんね、見つけるの遅くなって‥‥』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーキミが見つけてくれた。

 内側からじゃ開けられない扉を、君が開けてくれた。

 安心感からまた泣くことしかできなかったけど、嬉しかったんだよ、私は」

 

 

 

「昔からそう‥‥キミは、私の『希望』なんだから」

 

 

 

 

 希望だなんて大袈裟な。

 僕にとって束は、かけがえのない大切な友達なんだ。もちろん、千冬も。

 失いたくないものなら見つかるまで探すさ。

 

 

 

「‥‥ねぇ。もし、また私がいなくなっても、その時は、探してくれる?」

 

 

 

 ああ、絶対に探し出す。

 例えこの世界の反対側にいたって。

 束を1人になんかさせないよ。

 

 

 それに、勘違いしてるようだけど、勝手に1人でどっか行こうなんて許さないからね?

 行く時はーー僕と千冬も道連れだ。

 

 

 

「ふふっ、そっかぁ‥‥うん、それなら束さんは言うことないねぇ」

 

 

 

「‥‥‥なんか、少し泣き疲れちゃったかも。ちょっとだけ、寝させてよ」

 

 

 

 そう言って身体を僕に預ける束。

 束の体温を感じる。暖かくて、髪の毛からは女の子らしい匂いもする。

 少し変態っぽいかもしれないけど、落ち着く。

 

 

 

 ーーああ、ゆっくり寝てな。すぐに助けが来るさ。

 

 

 

「‥‥‥‥ありがと」

 

 

 

 ‥‥僕も、少しだけ眠らせてもらおうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥私を放ったらかしにしておいて、こいつらは何をしているんだ全く」

 

 

 

 千冬が、いつまでも帰ってこない2人を探しに出ること数十分。

 山田先生に話を聞くと体育倉庫の鍵をかけるのをお願いしたとの事だったので、まさかと思いきてみれば。

 

 

 

 体育倉庫の中で2人は寄り添い寝ている。

 互いに安心しきった顔をしており、安らかに眠っている。

 

 

 

「‥‥変わらないな、お前達は昔から。

 いつまで経っても進展はないくせに」

 

 

 

 ずっと2人を見てきた千冬からしてみれば、もどかしい部分もある。

 恋人のような甘い空気を出しながらも互いの立場は自分と同じ『親友』。

 それも主に、極度に鈍感であるこの男が悪いのだろうとは思うのだが。

 

 

 

「‥‥ふふっ」

 

 

 

 携帯で写真を撮る千冬。

 

 

 そこには、頭を寄せ合って眠る2人の姿が映っていた。

 

 

 

「さて‥‥そろそろ起こすか」

 

 

 

 ちなみに、優しく起こすなどという甘えた考えは一切ない。

 何も言わず自分を放ったらかしにしたのだ‥‥‥それなりに覚悟してもらわなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー結局2人は頭を凄まじい威力のげんこつで殴られ起こされた後、部屋でたっぷりと説教を受けるのだった。

 

 




今回は束さん回でした。
ちーちゃん要素は薄かったですが、あくまでメインヒロインは束なので悪しからず。
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