本戦開始。司会のその合図で戦いが始まった――訳ではない。
チームを組んでいる者もいるとはいえ、六百人もの人々が戦うのだ。
一人から三人のチーム戦。この闘技場が大きいとはいえ、さすがに無理がある。
その為、順番と戦う相手があらじかめ決められる事になっていた。
そして、
「一日目からか」
「まぁ、こちらの情報を下手に知られる前に戦えるんだから、有利だと思おうぜ」
本戦一日目の第一試合になるとは、運が良いのか悪いのか。
俺の場合はネームレスからの傷が癒えていないから運が悪いと思う。
そんな事を知ってか知らずか、エスターは能天気に口笛を吹きながら笑った。
『一日目』の『第一試合』と言う事で、相手はこちらの情報を知らない。それは、戦闘を有利に運ぶことが出来る。
どれほど純粋な戦力差が在ろうと、ラウドによって形勢は逆転させることが出来る。
どんなに小さな力でも、ラウドの使いどころによっては致命傷になる。
だから、相手のラウドを『知っている』ことと『知らない』では大きな差になる。
もちろん、こちらも相手の情報を知らないから、あまり意味はないが。
それでも、ラウドの常時発動型であるセレネの能力を知られていないのは暁光だ。
彼女の能力は、ばれれば即対応されてしまうような能力だから。
セレネのラウドは接触した者の熱を奪うモノ。肌と肌を直接接触しなければならないそれは、布の上などでは意味を為さないと後々聞いた。
なら、それを知られていないだけ、まし。
あちらも常時発動型や厄介なラウド持ちなどが居ないことを願うだけだ。
「それより、オレら即席チームの初戦闘だぜ。張り切って行こうぜッ!」
「……あ、はい」
「……」
感想はただ一つ。無駄に張り切っているな、エスターさん。
生温かい目で見守っていると、そう言えばエスターの方が年上なんだよな、なんて考え込んでしまう。
セレネに至っては哀しいかな、完全無視。
試合前の待合室の隅で、一人眼を閉じて瞑想をしている。
先ほどまで腰元に吊るされた二本のナイフを磨いていたのだが、いつの間にか終わっていたらしい。
他にも待機している数人は、こちらをちらりちらりと警戒している。
ここに一回戦の対戦者はいない。違う場所で待機しているらしい。
でもって、いつの間にかエスターは哀しそうに足を抱え、隅でいじけていた。
「……いいんだ。どーせ、オレっちはただの情報屋さー。リーダーという名の雑用係なのさ……」
「あの、えっと……すみません……?」
歓声が闘技場に響く。
「うわ……」
開会式の闘技場サヴェルオン、ではない。少々歩いた所にある、闘技場の一つだ。
そこまで大きい闘技場じゃないのだが、かなりの人数が集まっていた。
さすがに六百人もの人数を一つの闘技場で戦っていたのでは、らちが明かない。
そこで、町の各所に点在する闘技場でも試合は行われている。
他の場所でも、戦いは始まっているはずだ。
「さっさと行け」
「っと、すまん」
こんな場所で戦うのは初めてだ。
人に見られているという緊張が足を鈍らせていると、セレネは馴れているようで、どこまでも堂々と戦いの場へ赴いていた。
自分とそこまで年は変わらないだろう彼女が、どうしてそこまで戦う事になれているのだろう。
それに、なんでテロリストなんかに……。
「なにか?」
「い、いや」
考え事をしながら見ていると、セレネは顔を逸らして怒る様に聞いて来た。
少々、機嫌を損ねてしまったようだ。
さらに、興味深そうに見てくるエスターをセレネはひっぱたいている。
なんとも、変なチームだ。
まだ、出会って一週間も経ってないのに、いきなり一緒に戦うことになるなんて。
そうこうしている内に対戦者が現れる。
それを見て、少しだけだが驚いた。たまたまだろうが、知っている顔を見つけて。
「あらぁ、あの時の」
「えっと、エクレアさんでしたっけ?」
本戦の始まった昨日、その日ちょうど出会った女性だ。
その後ろには、自分と同じくらいの青年と少女がいる。
っと、あの人は……。
青年の顔もまた、どこかで見た気がする。
どこだったか……たしか、新聞かなにか?
思い出せそうで思い出せない。なんとも気持ち悪いのだが、どうしても思い出せないからしかたない。
そんな、首をかしげて考え込むロディウスの横で、セレネは小さく舌打ちをしていた。
誰にも気づかれないように、エクレアと名乗った彼女を睨みながら。
それを、ロディウスは気づかない。気づかれないようにとしていたから当然だが、とにかく気づくことはなかった。
「さぁ、注目の第一試合。勝負するのはこの六名――」
司会者がこちらの名前とあちらの名前を次々と紹介していく。
相手はこの前会ったエクレアと青年――フィンラ・フォルテにリーンベル・フォルテの兄妹。青年の方はどこか見たと思っていたら、ちょっとした有名人だ。
フィンラ・フォルテ。『緑の操り手』と呼ばれる、ノースヴェルドの冒険者ギルドでは有名人だったはずだ。こっちは冒険者ではないし、ギルドにも接点はないので会ったことはなかったが、ちょっとした似顔絵や写真などで見た事があった。
歓声と野次が飛ぶ中、開始の合図が闘技場内で響く。
エクレアとフォルテ兄妹は何やら相談をするように話しこんでいたが、その合図で一斉に動き出していた。
「で、俺らはどうするんですか、リーダー」
「えっ? オレっち、やっぱりリーダーなの? 雑用係じゃないのっ?」
見るからにわざとらしく言いながら、ちらちらとエクレア達を見ている。
「んー、とりあえず、三対三だから普通に一対一になればいいんじゃね?」
エスターの作戦なんてものじゃないその言葉に、ほかにしようもないので頷いておく。
隣のセレネはその言葉を聞いているのか聞いていないのか、すでに動き出していた。
連携も協力も無い。
まぁ、そうだろう。
こっちはつい先日に出会って作った即席チーム。で、お互いの事なんか持っているラウドと戦い方を少しぐらいしか知らない。
そもそも、それがどこまで本当かまったく分からないし、共闘もなにも今日が初めてのぶっつけ本番だ。
「って、来るぞ!」
エスターがセレネと俺に注意を呼び掛ける。
先行するセレネは止まらない。こっちはなにが来るのか身構える。エスターは後ろに下がったのが見えた。
そして
「遅いですよ」
緑の操り手の二つ名を持つフィンラがラウドを発動した。
地が隆起する。
ありえない急成長を見せながら、植物が舞台を蹂躙するが如く広がっていく。
広がりつつも、その植物たちがこちらを分断させるように動き、さらに攻撃するようにつっこんで来る。
先ほどまで闘技場の舞台だった其処は、数分もしないうちに木々の繁茂する森になっていた。
視界を遮る枝葉。奇妙な花を咲かす木々。その木に巻きつく蔦は気持ち悪い動きをしている。
相手にとってきっと得意なフィールドなのだろう。
それを指揮したのは、フィンラ。
まさしく、『緑の操り手』の二つ名にふさわしいその能力に、舌打ちをする。
当の本人は、すでに植物の影に隠れて見えなくなっている。
「ロディウス君、セレネちゃん、ぶじー?」
「ああ、俺の方は」
少し離れた場所。横たわった、人間の体の倍はありそうな木の幹の上でエスターは平然と聞いて来た。
画像転送なんて、よく解らないしどうも戦闘には使いづらい、援護ぐらいにしか向いていなそうなラウドを持っている割には、意外だ。
「セレネちゃん? おーい?」
一方、セレネの応えはない。
専攻していたせいかあたりにその姿はない。黒いシスター服は人ごみの中では目立つ、がところせましと葉の生い茂る森のような場所になったこの舞台では見つけるのも一苦労だ。
それにしても、おかしい。返事が無いのは、まさか……。
その思考を遮ったのは、何かがぶつかる戦闘音だった。
「まさかっ」
分断された隙に、襲われたのかっ。
セレネを援護するためにその場所へ向かおうと足を踏み出し――光る物を視界に発見して後ろに跳び退いた。
「――っ!」
短剣だ。それも、もしも気づかずに前進していたら、間違いなく直撃していたであろうその場所に三本。さらに、飛び退いた先に二本。
ぎりぎり避けたが一本は腕をかする。
少し動いたせいか、ネームレスにやられた傷が少し痛んだ。
「おっと、敵さんが来た見てーだな」
エスターの方はというと、周囲に木々がエスターを捕まえようとするかのように動きはじめていた。それを軽く回避しているが、少しずつこちらと距離を放されているように見えるのはきっと錯覚では無い。
「分断させる気か」
……もともと連携も何も無いこのチームにそこまで意味はあるとは思えないけど。
とりあえず、俺は俺でこの短剣の主を倒すか。
エスターに気を取られた隙に投擲されていた短剣を未来予知で避けながら、どこに主が居るのかを探す。
予選で最初に戦った坊主頭と同じように対応すれば勝てる。そう思っていた。
が、それは甘かったことを痛感することとなる。
だいたい、彼等は予選を勝ち残ったのだ実力者なのだ。
そして、最初に戦ったあの時、ロディウスの戦い方は他の者達に見られていた。つまり、対策を取ろうと思えば、とられてしまうハンデを抱えていた。
「――っ?!」
おかしい。
戦い始めて数分たった。はっきり言って、これは戦いなんてものじゃない。
どこからともなく放たれる短剣はこちらに当たらない。しかし、こっちはこっちで投擲した相手を見つけられない。
短剣な放たれた方向から死角になる物影へ隠れても、移動しても、対する相手はこちらを見つけて来るのだ。
今は避けられているし攻撃力の低い短剣は脅威にはならない。が、一方的すぎる。
こっちの反撃が出来ないのだ。
相手のラウドは、姿を隠すモノなのだろうか。
対戦相手が見えない。分からない。捕まらない。
これは、未来予知と言う未来を見ることしか出来ないラウドを持つ自分ではどうにもできないことだ。
何本目か分からない短剣を避ける。が、ほんの少し手足を斬った。
それに舌打ちをしながらも場所を移動する。
何度目だ?
幾度となく繰り返されるそれに、苛立ちが募っていく。
姿の見えない敵と戦う事が、どれだけつらいか。今、ようやく知った。
苛立ちが募るに従い、少しずつ集中力が切れていく。
このままでは拙いと分かっていても何もできない。未来予知は未来予知でしかないから。
――そして、致命的失敗をする。
なにが起こったのか、すぐには分からなかった。
眼の前からやってくる短剣に注意をしていて地面には気を向けて居なかったからだ。
が、それは仕方なかったことかもしれない。
そもそも、先ほどから短剣の投擲しかなかったのだ。相手がそれ以外にも行動を起こすかもしれないと思っていたが、まさか、それが道具によるものだとは思っていなかったし、考えても居なかった。
なにが起こったのか。
それは――短剣を避けた先、その足元で何かが爆発したのだ。
「なっ?!」
虚をつかれ、体制が崩れる。
小さな爆発だ。しかし、ちょうど爆発に巻き込まれた右足からの痛みに舌打ちをしたい衝動にかられる。
危険だ。
慌てて回避。そして逃亡。
簡単にでも止血をしたいが、止まればまたなにかしらが襲ってくるはずだ。
出血が止まらない。このまま逃げ続ける? ……無理だろう。
すぐに動けなくなる。
逃げ続けなければいけないこの状況で足をけがするなんて、最悪だ。
自身の持つラウドは自分の危機に勝手に発動する。が、それは生死にかかわる時などだけだ。
つまり、死に遠い攻撃、例えば先ほどの小さな爆発には発動しない。自分の意志で未来を予知したときのみ、気づく事が出来る。だから、気づけなかった。
短剣にばかり気を取られていた結果だ。
考え事をしていたせいか、体勢を崩す。その隙をついて飛んでくる短剣。それを抜いた刀でどうにか弾き飛ばしながら、これからを考える。
対戦相手をどう眼の前に出させる?
逃げ続けることはできない。刀で短剣を弾くなんて初めてだ、そのうちぼろがでる。しかも、あたりは木々が生い茂っているせいで、刀を振り回す事に制限がかかる。
ちょうど、今立っている場所はすこし広いスペースがあるから刀を振り回せる。が、移動したあとどうなるかわかない。
さらに、一歩下がった途端、なにかの切れるおと共に上から短剣が落ちて来る。
どう見ても、罠にはまったしまったようだ。
それを避けるために跳び退けば、またもや其処には罠。
未来予知で避けた先に罠があることが分かっても、それ以外の逃げ場が無いようにと手が打たれている。
四方八方、罠だらけ。最初に短剣の投擲のみだったのは、この罠を仕掛けるためだったのかと納得しながら頭を抱える。
なんだ、これは。俺が戦っているのは罠を作るスペシャリストか?
悪意しか感じない配置のソレに、額に汗が流れた。
「まったく、やりづらい相手に当たったな……」
未来予知で先が分かろうと、どれだけ剣術に自身があろうと、敵が目の前に居なければ意味が無い。
「く――ぐぁっ!!」
背に、衝撃が走る。
吹き飛ばされ、いつの間にか生えていた巨木の幹に背をしたたか打ち付かせたセレネは、消えそうになった意識をどうにか引き止めた。
「……エクレア」
眼の前には自分を吹き飛ばした張本人。
先輩であり、師匠であり、同僚である……『教会』で共に任務をこなしてきた知人。
エクレア――いや、『影主』の二つ名で呼ばれる女性。
「なぜっ、貴女がこの大会にっ!!」
こんなこと、上から聞いていない。
ふらふらと立ちあがりながら問う。
先日会った時からずっと考えていた。なぜ、彼女がこの大会に参加しているのか。
と――
「あたりまえでしょう。あたしとあなたは目的が違うのだからね」
厳しい声でエクレアは応える。
自分の目的……殺す事。あいつを殺す事。
それは、自身だけの願い。だから、一人でこの大会に参加したのだ。
たしかに、当たり前のこと。
でも、なら彼女らはなんの目的で大会に参加したのだろうか。
……きっと、今のこちらには教えるつもりはこれっぽっちも無いのだろうが。
「それに、私だけじゃないわよ。『農民』、『オラトリオ』まで参加しているもの」
『農民』に『オラトリオ』、か。
農民についてはよく知らない。
が、オラトリオはよく知っていた。あの、私よりも『魔女』と言う名に相応しい女もこの大会に参加しているのかと眉をひそめる。
なぜ、あの女がわざわざ……。
「そんなことをこちらに教えて良いのか?」
「これくらいなら、別にかまわないでしょう。どうせばれちゃうのよ? それに、あなたの『聖女』サマもね、参加しているし」
「なっ……あの子、が?」
以前、騎士団に殴り込みに行った時、私は一人では無かった。
その時、共に行った相手が『聖女』と二つ名でよばれる友人だ。
『魔女』と『聖女』。正反対な二つ名を持ちながら、どちらも似たような能力を持っているという事で共に修行することが多かったからだ。
彼女が、この大会に……。
いや、今はエクレアをどうにかしなければ。
彼女がどんな理由でこの大会に参加しているのか、知らない。だが、自身にはやらなければならないことがある。
「そうそう。フォルテ兄妹と一緒にいるのはたまたまよ」
「別に、興味は無いな。今はお前を倒す、それだけだ」
「ふふっ、そんなことできるのかしら?」
たとえ、『教会』の『仲間』だとしても、この大会に勝ち残る。彼女らが何の目的でこの大会に参加したのかも知らないのだから、なにをしたところで上に文句は言わせない。
いつもつけている右手の手袋をはずす。
両の手には長年使って来た相棒とも言えるセスタス。
先ほど吹き飛ばされた衝撃はもう残っていない。
会話の時間が役に立った。情報も少しだが手に入れた。
「行く――」
腰を落としてエクレアの元へ弾丸のように飛び込む。
振り上げたこぶしはエクレアに――当たらなかった。
というよりも、姿が消えた。
彼女のラウドだ。
『影主』なんて二つ名の通り影に関するラウドである。
はっきり言って、私にとって戦いづらい能力だ。
影から影への移動。
だが、いくつか縛りがある。影に自分が出てこられるだけの広さがあること。そして中途半端に右手だけを移動させることなどができない。
彼女のラウドはよく知っている。そして、戦い方も。それを考慮に入れて戦う。
が、有利な状況とは言えない。
なぜなら、彼女もまた私のラウドを知っている。
一時期、師弟関係になった仲だ。こちらの弱点もなにもかも知られている。
姿の消えたエクレア。
影の中を移動しているのだ。
どこから出て来るのか分からない。警戒をしながら少しずつあとずさる。
はるか後方で誰かが戦う音がする。ヴァンガードとエスターだろう。
あの二人は残り二人と戦っているはずだ。
「横が開いてるわよっ」
「わかっている――わざとだっ!!」
横の影から飛び出すエクレアに固めた拳の洗礼を。
不意を突いたつもりだろうが、こっちは何度も彼女と戦った経験があることを忘れてはならない。
が、同時に拳は軽くあしらわれる。
あちらもこちらの攻撃を見きっている。しかも、しっかりと素手を触らないようにと注意まで。
「……らちがあかないな」
このままでは負けないだろうが勝ちもしない。
それなら、こちらの奥の手を出すだけだ。が、ここで奥の手を出しては後々面倒だ。
ならばどちらが先に代償で倒れるか、か。
はっきり言おう。自分は、自分から動く事が嫌いだ。
本気を出す事は疲れるし、眼をつけられても厄介だ。
自分は影。主役たちを後ろで支える。そんな役回りが昔から好きだった。
エスターはいつの間にか檻に囚われていた。
鉄の檻では無い。木々で出来た歪な檻にだ。
追って来る植物から逃げ続け、高所に追い詰められていつの間にか。
「うわー、オレっち珍獣みたい」
そんなかる口をたたきながらも、己の状況、そしてここからどう出るかを考える。
はっきり言って、出ようと思えば出られる。しかし、自分だけではまた捕まるだけだ。
前衛ポジションであるはずのロディウスもセレネも居ないこの状況では、緑の操り手フィンラから逃げられない。
なにしろ、植物がある所全てが彼の庭のようなものだから。
そう、エスター相手はフィンラだった。こんな檻を作ることはできるのは、植物を操るラウドの持ち主のフィンラ以外いない。ロディウスとセレネはその他、エスターの知らない女性エクレアとフィンラの妹、リーンベルと戦っているところだろう。
エクレアのラウドは知らないが、リーンベルのラウドは知っている。だてに情報屋を名乗っている訳ではない。
彼女のラウドは、植物と意思疎通を図るラウド。もしもエスターがこの檻からだ脱出し、運よくフィンラを追い詰めたとしても、植物たちを通してリーンベルに伝わりフィンラに助けが向かうだろう。それもここから動けない理由の一つでもあった。
それを相手も分かっていて、エスターを捕まえた後はなにもしていない。
いや、戦いの場を森に変えるという大規模なラウドを使った後だ、代償によって動けないからエスターを捕まえるだけ捕まえて、放っておいているのかもしれない。
「どうするかな……」
この状況で動いて勝機はあるかと問われれば、あると答えるだろう。だが、いまはまだ動く時じゃない。
今動いても厄介なだけだから。
「……っと? あれ、は……」
暇になって森となってしまった舞台を見ていると、そのうちロディウスの姿を視認した。
どうやら、何かから逃げているらしい。でも、ここまで離れているとよく見えない。
周囲の木々が邪魔だ。
「うわー、なんかピンチ? でもオレも捕まってるし……あっ、セレネちゃんに助けてもらうかっ」
自身のラウドは画像転送。
見た映像を相手に送ることが出来る。
しかし、それでは助けを呼ぶことはできない。もちろん、一方的にやられている映像を送れば大変なことになっていると気づきはするだろう。が、どうすればいいのか、なにが起こっているのか分からないはずだ。
なら――。