不意に、めまいがした。
視界がかすみ、平衡感覚が失われていく。
代償が、現れ始めたのだ。
「まだ、いけるか」
しかし、これだけならまだ戦える。これくらいで立ち止まってなどいられないのだから。
そう自らを叱咤して、セレネは平然とした態度でエクレアを睨みつけた。
セレネが立っているのは木々の無い広場のような開けた場所だった。
エクレアの影からの奇襲から逃れるため、日のあたる場所へと移動したのだ。
小さな影はあるが、それでは移動はできない。
「あらぁ? どうしたの、セレネ」
一瞬、気がそれた隙をすかさず突かれる。
影を移動しなくとも、身軽な彼女の攻撃は素早い。さらに、剣と拳のリーチの差がセレネを不利にしていた。
だが、エクレアの息は切れ始めている。
彼女の代償はスタミナ。影で移動を行えば行うほど、普通に移動するよりも疲労がたまって行く。
「くっ」
だが、彼女の振るう剣を避けられない。こちらも代償のせいで少々視界が悪く、疲労も濃い。
ならば、攻撃を受けるまで。
とっさに左手を出して剣を受ける。刃が手のひらに食い込み血が地面をぬらす。
こんな怪我ぐらいで動きは止めない。手が切れたくらいでなんだ。
セレネは自らが傷ついたにもかかわらずに笑みを浮かべた。
剣を掴んだその手をさらにしっかり握り、剣を引っ張る。
まさか、素手で受け止めるとは思っていなかったのであろう。エクレアの体勢が崩れる。こちらに転んでくる。
それに対して、拳を握って待ち受け――一撃をお見舞いした。
「きゃあっ!!」
倒れたエクレアはそれでも剣を放さない。が、その剣を握り締めた手を踏みつけた。
「勝負あり、だな」
もう、彼女は動けない。
だというのに、エクレアは微笑んでいた。まるで、策があるように。
いや、事実あったのだ。
「うふふ、それはどぉかしら?」
その言葉が終わる前に――変化は訪れた。
なぜ?
セレネがその答えを見つける前に、エクレアの姿がかき消える。
一瞬の出来事。
目を放していた訳ではない。確かに此処にいたはずのエクレアは、消え失せていた。
いや、移動していた。己のラウドで、セレネの目の前から消えたのだ。
しかし、それには影が必要で、ここには影が無いはずだった。
が――
「なぜ……」
セレネとエクレアがいた場所に、影が出来ていた。
いつの間にか、周囲の木々が、私たちから太陽の日を隠すように成長していたのだ。
眼の前には、エクレアの剣が残っているだけ。
地面には影ができ、落ちた血が赤黒くまだらに変色させていた。
あたりは暗い。影が広がっている。
これでは、どこからでも襲撃することが出来る。
一旦、ここから離脱をしなければとセレネは周囲を見渡した。
幸い、エクレアの方はまだダメージから回復していないのか、攻撃を仕掛けて来る気配はない。
なら、今のうちに。
手の怪我を止血しながらなるべく日のあたっている場所を探して、慎重にエクレアの襲撃に警戒しての移動をする。
日のあたる場所を進まなければ危険だ。このまま不意打ちを受けたら、どうなるか分からない。
先ほどの事を思い出しながら慎重に、それでも早さは損なうことなく走り続ける。
どこかでヴァンガードが戦っている姿を見た。
姿の見えない敵と戦っているところを見た。
そして、樹の幹に刻まれた言葉を見た。
「まったく、あいつらはなにをやっている」
その怒りはエスターに。
『ロディウス君がリーンベルちゃんにやられてやばいみたいだから、加勢してくれない? あと、オレ捕まっちまった! 救出頼む!』
エスターのラウドはなんだった?
画像転送。自分の見た映像を他者に見せる能力。
木の幹に伝えたい事を書いて、こちらによこしたのだ。
「地味に使い勝手が良さそうで悪いな……」
画像しか送れないため仕方ないだろうが、なんともめんどくさい方法だ。
書ける場所が無い場合や、暗かった時はどうするのだろうか。
それに、こちらが了解したことを伝えられない。
「まぁ、いいか」
進路を変える。なるべく日の光のあたる場所を探していたが、もう関係ない。
エスターはどうやら少々高い場所にいたらしい。そのおかげで、ヴァンガードの戦っている場所やこの辺の地理を見ることが出来た。
大体のルートを頭の中に作り、動きだす。
「ヴァンガードを援護しなければな」
最後にそう呟き、加速した。
目的地はすぐそこ。
ヴァンガードとフォルテの妹の戦場へ。
「はぁ、はぁ……くそ……」
逃げ続けて、どれ程経ったのだろうか。
もう、時間の感覚が無い。
仕掛けられた罠。何度も危機に陥り、どうにか根性で逃げているが、もう限界が近かった。
ラウドを使いすぎたせいで寝不足の様に頭がくらくらする。
俺のラウド、ばれてんじゃねーだろーな。
これまで、自分のラウドを他人にばれないようにと立ちまわって来た。が、これだけ自分と相性の悪い敵と当たるなんて、偶然だとしても出来過ぎている。
「あ、やべ……」
先ほど爆発に巻き込まれて怪我を負った足に、感覚が既に無かった。
代償――『睡眠』のせいで思考も朧。
そして、足に何かがひっかかった。
「こりゃ、やば――」
なにが来るかと予知をして。
「――くないか」
横から、上から、前から、短剣が雨霰と降り注ぎ、全てが落された。
「ふむ。危機一髪だったな」
黒のシスターが前に。
まるで、こちらを守るように前に立っている。いや、事実さっきの攻撃からこちらを守ったのはセレネだ。
恥ずかしいったらありゃしない。
普通、男が女の子を守るんじゃないのか?
自分の実力不足に泣きたくなる。
「すまん、助かった」
なんで来たのだろうか。もしかして、もうすでに一人倒したのだろうか。
……なんだか落ち込んできた。
「ふん。一旦、エスターの元へ行くぞ」
「え? でも、あいつどこに……?」
「来い」
セレネが一旦躊躇して、俺の手を掴んだ。
グイッと引っ張られ、気づくと……黒い背中に背負われていた。
恥ずかしいどころじゃない。顔から火が噴きそうだ。
「なっ、なっ、セ、セレ、ネ」
「なんだ、黙っていろ。このトラップ地獄から抜け出すぞ」
女の子に……しかもシスター服の見た目可憐な少女に背負われるとか、なんだか大切な物が壊れていくような、メッタメタに切り刻まれて崩壊していくような、思考を放棄したい感情の波に襲われる。
走り出したセレネの前に、何本もの短剣が投擲される。きっと、相手がセレネの参戦に慌てて投げた物だろう。
「セレネ、左に避けろ!」
「むっ。ヴァンガード、この先の罠と攻撃をこちらに教えろっ」
「お、おう」
セレネに背負われたまま、奇妙な逃亡劇は始まった。
「そのまま前進すると罠があるから、でも右には爆発のトラップ。そこの木の左には右斜め五十度の方角から短剣が二本っ」
「了解だ」
馴れてきた連携で罠を避けていく。
先ほどから逃げ、しかも俺を背負っているはずのセレネに息を切らした様子はない。
どれだけ体力があるんだ、このシスター……怖ろしいぞ。
いろいろと自尊心とかが木っ端みじんに破壊されていく。
なんで周りの女性ってこんな奴らばっかりなんだろう。
「ヴァンガード? おい、ヴァンガード、どうした」
いきなり黙りこんでしまったことで、セレネは足を止めていた。
「あ、すまん」
このまま行って良いものか、こちらに問う彼女は困惑している。
意外といえば意外だった。
こう言うのには慣れていないのだろうか。
ちょっと新鮮だが、言ったら怒られそうだ。
「この先……何も無いみたいだ……」
いつの間にか、罠の大量地帯から抜けていたようだ。
「そうか、ではエスターの元へ行くか」
「……こ、このまま、か?」
「エスターの元まで歩けるのか?」
「すみません。お願いします」
……なんと言うか、恥ずかしい。ぜったいにエスターに笑われる。
まぁ、いいか。
それよりも……師匠に知られたらどんな事になるか。
凶暴だろうがテロリストだろうが、女の子に助けられるなんて。ましてや背負われて逃亡するなんて、絶対に知られたら殺される。
絶対にこのことは言わないことを心に決めていた。
「おー、ロディウス君、無事だった?」
「エ、エスター、さん……なに捕まってるんですか」
「いやぁ、捕まっちまった!」
ウィンクして言うことじゃないだろ。
思わずつっこみたくなった、が、俺なんか女の子に背負われている身。何も言えない。
セレネに連れられて来たのはエスターの捕まった檻の前。
目立った外傷もなく、どこかくつろいでさえ居るエスターはお気楽そうだ。
「なにをやっている……」
そう不機嫌そうにセレネは素手で檻を触った。すると、そのまま檻の役目をしていた木が……枯れていく?
「おまっ、そんな事出来たのかよ」
「……言っていなかったか?」
「言って無かった」
「ふむ。それだけ元気なら、まだ戦えそうだな」
檻が朽ちていく。
セレネのラウドだろう。けど、こんなの聞かされていない。
植物を枯らすなんて、どういう能力なんだかよく解らなくなってきた。
エスターは礼を言いながら自由の身になると、俺たちの様子に笑っていた。
まったく、笑い事じゃないって言うのに。
まだ一回戦目だっていうのに、ぼろぼろなこの状況。笑う要素が一切ない。
「っと、お二人さん、作戦会議しようぜ?」
「作戦?」
「まぁ、それと一緒に情報交換しようぜ」
リーンベル・フォルテ。
冒険者ギルドでの有名人フィンラ・フォルテの妹である彼女は、『植物との会話』をすることのできるラウドの持ち主だった。
兄のフィンラは植物を操るラウド。その相性は完ぺき。
フィンラが自分たちに有利になるフィールドを作り、リーンベルが植物との会話で敵を窺い撃破する。
妙な剣を持った少年――ロディウスを姿を見せずに襲撃したのは植物たちにロディウスの行動を聞いていたからだ。
そして、ロディウスは追い詰められ、仲間の少女によって助けられた。
今は三人そろい何やら作戦会議をしているらしい。
そこへ襲撃するべく、リーンベルは移動していた。
兄のフィンラはラウドの代償で未だ動けない。
二人だけでは不安だと雇った傭兵のエクレアと共にあの三人を倒す。
そう、意気込んでいた。
が――
「きゃあっ?!」
前を見ていたはずなのに、なぜか木に激突。たしかに焦っていた、が目の前に生えていた木に気づかないはずが無い。
なのに、なぜ?
「って、あ、れ?」
「動かないでくれよ? オレ、かわいい女の子を傷つける趣味ないから」
ナイフが背に、突きつけられていた。
さっきの妙に感のいい少年じゃない。兄に捕まっていたはずの青年だ。
「……動くなって言われて、動かない奴がいる訳ないじゃない!」
「うおっ?」
一歩前に、そしてくるりと青年に向き直ると、足を振り上げて青年の腕を打った。
ナイフが落ち――ない?!
それどころか、確かに蹴ったはずなのに、その感触が無い。
「な、なん、で?!」
青年の姿がぶれて最終的には消えてしまった。
まさか、幻を使うラウドの持ち主?
どこに居るのか分からない。これでは、先ほどと正反対だ。
植物たちに聞いても分からないの一点張り。
「いったい……」
ここに居るのは危険だ。
さっきの罠を仕掛けたあの地帯に戻って態勢を立て直さなければ――
こちらのラウドに気づき、元の道を戻って行く少女。
さっきロディウスが苦戦していたトラップ地帯に戻るつもりだろう。
それを止めることもなく、エスターは見送る。
周りの木には、誰もいない画像を見せている。正直、人間以外にもラウドが使えるのか疑問だったが、意外と出来たらしい。
追う者とかる者が逆転したこの状況。リーンベルはどんな気分で逃げているのだろうか。
「さて、追うか……でもなー。そこまでがんばりたくないし……あいつに画像転送しまくるか」
ゆっくりと歩みを進めながら、ラウドを発動させる。
自分のラウドは良く知っている奴と視界上に居る奴にしか画像を送ることができない。
無理をすれば出来るが、そんなことした次の日には怖ろしい事が待っている。
無駄に画像をある人物に送った後、リーンベルの元へと向かった。
追いついた時、少女は勝気な笑顔を見せていた。
画像転送を解いて姿を見せる。
驚いた顔をするが、さらに笑みを深めていた。
「ふふっ、ここまで来れる?」
たいした自信だ。
ロディウスの話によれば、怖ろしいほど大量の罠をこの辺にかけているらしいから、そのせいだろう。
そして、この彼女に一番適したフィールド。
ここで、自分の得意なこの場所で倒されるとは思っていないのだ。
「んじゃ、おまえさんの所に今から行くから逃げるなよ」
この先、どんな罠が待ち構えているのか――それにエスターは内心笑みを浮かべる。
情報屋として今までやってきた。そのなかで、何度も危ない橋を渡って来た。
その過程で、多くの事を学んできた。
エスターは罠に対してリーンベルと同等とは言わないが、ロディウスよりも良く知り、理解していた。
どうすれば罠を発動させずに動けるか、なにをすれば無効化できるのか、知っている。
そして……。
一歩、前に進む。
何も起こらない。
さらにもう一歩。
何も無いかのようにエスターは歩いていく。
それに、当初は笑っていたリーンベルだが、次第に焦燥の色を浮かべる。
「な、なぜっ」
なんで、あそこに仕掛けてあったはずの罠が発動しない?
なぜ、罠を知っているかのように動く事が出来る?
罠を無効化し、時には避け、時には不発し、エスターは歩を進める。
「ど、どうしてっ」
慌てて奥に逃げる。
まだ、罠は残っている。逃げ切ることも、その間に倒すことも可能だ。
しかし、いつの間にか、リーンベルは逃げ道を失っていた。
「女の子には乱暴なことしたくないんだ。降伏してくれるかな?」
自分が使っていた短剣を奪われ、その首もとに突きつけられる。
「……降参よ」
接近戦はからっきしのリーンベルは、お手上げとばかりに手を上げた。
「ねぇ、どうして罠が発動しなかったの? 貴方のラウドはなに?」
縄でぐるぐる巻きなんてことをされたリーンベルは、それを為したエスターに声をかける。
すでに自分の戦いは終わったとばかり休んでいるエスターは、どうも他の二人の援護に行く様子はない。
だから、リーンベルはちょうどよいとばかりに聞いた。
これまで、兄の為に強くなろうとして来た。しかし、自分には力がない。
だから、後方で兄を援護するために、もしくは襲撃された時に一人でも対応できるようにと腕を磨いてきた。
自分なりに罠に関して自負があったのに、あの結果。それが認めたくなかったのかもしれない。
「あれはラウドじゃないさ。……まぁ、副産物だけどな」
「副産物……?」
エスターは自分の能力を聞かれたのにも関わらず、笑って答えた。
普通なら、自分の能力は隠しているものだ。まぁ、例外として有名人、たとえばリーンベルの兄であるフィンラなどは周りに知られていることが多いが。
「代償の結果だよ」
「なんですって?」
代償の結果? 首をかしげるリーンベルに、エスターは困ったなぁと頭を掻く。
代償は人それぞれだが、罠を無効化する代償なんて聞いたことが無い。
そもそも、代償は代償である。なにかしらの不利な物のはずだ。
「オレのラウドの代償は……幸運なんだよ。あ、幸運が無くなる方じゃないぞ? むしろ、幸運になりすぎるっつぅ奴なんだ」
「……」
たまたま、罠が作動しなかっただけ。
幸いにも、罠が不発しただけ。
「そんな物が代償になっていいのかって顔だな。羨ましいか? 幸運になる代償なんてな。……最悪だぜ? 幸運になりすぎるって言うのはな、周りを不幸にするんだよ」
誰かが幸せになれば、その影で不幸になる者もいる。
代償がただ幸せになるだけなら、そんな物を『代償』なんて言わない。
代償はあくまで代償にすぎない。
この『幸運』という代償は、周りを不幸にして自分が『幸運』になるなんて卑怯な物だから。
「誰かが幸運になって、でもそのせいで不幸になる者がいる。……誰かが勝って、誰かが負けるのと同じことだ」
今回は罠を仕掛ける敵だったから、無駄にラウドを使って代償の『幸運』を利用したのだ。
不発だった罠以外は、自分で解除したり発動しないようにと動いたりしたのだが。
「こんな感じで、お嬢ちゃんの疑問は解けたかな?」
「あら、今度の相手はアナタなのね」
エクレアは目の前に現れた少年に笑いかけた。
暗がりの奥から現れたのは、ロディウス。
セレネとチームを組んだという傭兵。以前、絡んできたのは同僚とチームを組んだ少年だからという理由からだ。
セレネが一緒にチームを組んだほどなのだから強いのだろうとは思う。が、現在の状況――どうもリーンベルに散々攻撃されたらしい様相からはそこまでとは思えない。
「ちょっと、選手交代したんで」
そんなエクレアの心情など知らず、ロディウスは応えた。
ロディウスは、未だに暗がりに居る。
こちらのラウドは『影から影への移動』それを知らないのか。それとも、知っていてわざとなのか。
どうも、先ほどの戦いの始まりを見る限り、セレネ達のチームに連携は見られない。
即席チームにそれを求めるのは酷な話だが、どうも連携を取ろうという意志もないようだった。
ならば、前者かもしれないが、さきほどのセレネの撤退と交代という言葉が後者かもしれないという疑惑を抱かせる。
「実力のほど、見せてもらおうかしら?」
その瞬間、ラウドを発動させる。
影から影へ。
ロディウスの後ろ――では無くいったん距離を置く。
ロディウスは動かない。
まだ、影の中に居る。
「……何か考えがあるのか、それとも」
木々の幹を伝い、彼の死角へ。
そこから襲撃。するも呆気なく避けられる。
そしてロディウスの反撃。抜刀された刀がエクレアをかするが場所が影の中
一瞬にして移動をして刃から逃れる。
それに驚き、動きが一瞬固まるロディウスに、エクレアはすぐ後ろに移動。
「残念ね」
そう言いながら、一刀両断。
終わった。
今の攻撃に反応できるとは思えない。
勝利を確信したエクレアは、笑って――
「それはこちらのセリフです」
衝撃と共に意識は闇に墜ちた。
「よかった……終わった、か」
そう、一息つくロディウスはボロボロだった。
エクレアからの攻撃では無い。その前の、リーンベルとの戦闘での傷だ。
最後のエクレアからの攻撃。あれは何も知らなければ避けられなかっただろう。
が、未来を知ることが出来るというアドバンテージがあるロディウスには意味が無い。
剣が来る場所を事前に知り、エクレアが移動した瞬間に避ける。そして、刀の柄で腹を一撃。
結果、目の前には正体を無くしたエクレアがいる。
それを見て、ロディウスは崩れ落ちた。
もともと、傷だらけですでに戦闘を行える身では無かったのだ。
だからこそ、わざと影の中、エクレアの得意とする場所に陣取り、彼女から向かって来るように先導した。自分はエクレアを追えるほどの体力はもうないから。同時に、足にけがをしたこの身では無理だから。
「あとは、エスターさんとセレネか」
もう、二人を援護には行けない。
先ほど、フィンラの妹との一戦での代償がゆっくりとやってくる。
「眠いなー……」
ロディウスは気絶したエクレアの横で、この戦いが終わるのを待っていた。
セレネは森の中を走りまわっていた。
理由は簡単。姿の見えないフィンラを探すため。
しかし、いくら探しても見つからない。
「……面倒だな」
おもむろにセスタスを取る。と、セレネは木の幹に手を当てた。
何をするのか。と、数秒後に少しずつ木が枯れていく。
さらに、周囲の木々までも。
正確には枯れているのではない。水を、木々から奪っているのだ。
先ほど、三人で集まった時に知った話。
フィンラの生みだした木々は、根本で繋がっている。らしい。
そして、その中心にフィンラは居るはずという話だった。
主な情報源はエスター。一応情報屋ということでの情報だ。
木々を枯らしていくにしたがい、中心部らしきもの――木々が多く集まっている場所を見つける。
「ふむ……あそこか?」
見つけた後は簡単だ。
戦って勝つ。
あちらにはこっちが気づいたことがバレていることだろう。
あたりの木々は枯れて、丸裸の状態だ。これほどのことをしたのだから、気づかれたはず。
出来うる限り早く。ただ走る。
相手はまだ動けないはず。こちら今の行動でかなり代償を払うこととなっている。
早く、ただ早く相対す必要がある。
中心部に着くと、すぐに目的の人物は見つかった。
「お前がフィンラか」
「えぇ」
あたりの木々が、植物が彼を守るように生え茂る。
優男風の青年、フィンラに追い詰められたような様子はない。
むしろ、笑っている。
それに対して、セレネは問答無用で殴りかかった。
が、植物が邪魔をする。セレネのちょうど真下から生えた木。身体をひねって逃げようにも、それ以上の速さでセレネを捕まえた。
「くっ」
問答無用で腹を圧迫される。それに苦渋の色を見せるが、手を当てると数秒後に植物が枯れて拘束を解いた。
地面に足がついた途端、間髪いれずにフィンラの目の前に飛び出す。
一撃。殴りかかるが木の壁が出現。
それにかかわらず、さらに一撃。間を挟まず、殴る。殴る。殴る。
どんどん水が奪われて枯れていく木の壁は壊され、フィンラに一撃を与える。
逃げることを許さず、足を振り上げて蹴りを腹部に。
さらに回し蹴りお見舞いすると、彼は飛ばされる。
飛ばされた先の植物が葉を茂らしてクッションに。
どうも、セレネの攻撃をガードしたらしいフィンラは少々たたらを踏みながらも起き上る。
「なるほど、エクレアさんの言った通り、強いですね」
あまり効いていない。
しっかりと受け身を取られたらしい。
そして、言葉を続ける。
「これはどうですかね?」
「っ?!」
足に何かが絡みつく。
見れば、それは蔓だった。
ただの蔓では無い。薔薇の様な棘がいたる場所から姿を見せている。
何時の間に? 量の足が蔓に拘束されている。
さらに、右腕左腕。
四肢を拘束され、吊るしあげられる。
地味に棘が刺さって血がにじむ。
「なっ」
セレネのラウドは、素手で触らなければ発動しない。
今、素手になっているのは手のみ。
腕を拘束されたのでは拘束を解く事が出来ない。
フィンラはエクレアからセレネのラウドの事を聞いていたのだ。
そして、近づいて来る。
セレネの意識を刈り取るために。
この戦いの勝利条件は、どちらかが全滅すること。戦闘不能の状態にするか、気絶させるか、殺すかだから。
しかし、セレネは微笑む。氷のような冷たい笑みで。
次に驚愕したのはフィンラだった。
「私は、もう、おそれない」
拘束されているのにもかかわらず、棘が食い込むのにもかかわらず、蔓を引きちぎり、血をにじませながら、セレネが近づいてきたフィンラに一撃を与えた。
――こうして、一回戦は終了した。