liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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第一試合終了

 

ノースヴェルドの武道大会。

その初戦が終わった。

 

「ふむ。一番の負傷者はヴァンガードのようだな」

「か、顔を覗きこまないでくれ……うぐ」

初戦の終わった次の日。

隠れ家に、なぜかセレネとエスターがいる。この前と状況が同じだ。

昨日の怪我のせいで寝込んでいたのだが、今日もまた騒がしくなりそうだ。

なぜかこちらの顔を覗き込んで来るセレネに思わず赤面しながら身体を動かして、傷の痛みに呻き声を上げる。

耐性がないというか、女性が近づいて来た時は大抵が酷い目にあうためだ。

それを、エスターがにやにやと笑って観て来る。

はっきり言おう。ムカつく……。

「それで、ドクターに見せたか」

「いや、まだ……」

戦いの後、備え付けの治療所でちょっとした手当てをしてすぐにここに帰って来た。だから、まだ医者に行ってない。

一応、顔見知りの医者がこの後に来ることになって入る。

「なら、セレネちゃんに連れてってもらえばいいんじゃないか、青少年」

「……」

また、セレネにおぶってもらえと言ってんのか。

思わず半眼になると、エスターは声を立てながら笑っていた。

絶対に解っていて言っているよな、この人。

その横で、セレネは真面目な顔で言ってきた。

「肩なら貸すぞ。ただし、右だけだ」

「えっと、ありが、とう?」

なぜに右だけ。

「左の肩凝りが最近酷くてな」

止まる時間。

何を言えばいいのか分からないが、とりあえず。

「……お、お大事に」

「冗談だ」

さらに、崩壊するなにか。

間髪いれずに言われた単語に、思わず思考が停止する。

すべってる。おもいっきりすべっている。

「――……っ?!」

一瞬夢の世界に飛びかけた意識を無理やり現実に戻し、考える。

危険な黒服シスターの冗談とは、こうも怖ろしいモノなのかっ。

どこからどこまでが冗談なのか、まったく見当がつかない。

助けを求めようと、エスターの方へ向くと――先ほどまでいた所に居なかった。

「ちょっ、エスターさんっ?!」

すでに帰り支度を整え、帰る気満々。出口に向かっているところだった。

「オレっち、ちょっと迷惑かけた奴がいてな。そいつに謝ってこないとやばいんだわ。じゃーな!」

「エスターさーんっ!」

止める声など聞きやしない。

み、見捨てられた。

何やら楽しそうに隠れ家を出ていく後ろ姿が恨めしい。

そして、なんだかもう、ここはすでに隠れ家として機能していない気がする。

「で、どうするのだ、ヴァンガード。肩は貸すぞ? 借りは高くつくが」

「……俺の精神が異常をきたすから止めてくれ」

主に、セレネ流冗談に。

「了解した。しかし、ドクターには見てもらった方がいいのではないのか?」

「それなら、昨日頼んだからそろそろ来るころだと思う」

「そうか」

そこで沈黙。

何を話していいのか解らないから、当然だ。

そもそも、同い年くらいの女の子と普通に話したことが無いから、どうすればいいのか解らない。

セレネの方も、そわそわと――していない。普通に自分用に紅茶を入れている。

なんだか、バカバカしくなってきた。

「そういえば、エクレアさんってセレネの知り合い……なんだよな?」

「……うぬ」

「……」

「……」

聞いてみたが、それ以上の話に発展しない。

どうしようか。

ほんと、早くあいつに来て欲しい。

今日来る医者は、前からお世話になっている顔見知りだ。

彼女なら女の子同士だし、話のきっかけにも……。

「エクレアは、同じ『教会』から来た者だ」

「へ?」

いきなりの事に、なにがなんだかわからず変な声を上げてしまう。

「同じ、テロリストということだ」

エクレア……先ほどの会話の続きだったようだ。

それにしても、彼女もテロリストの一味?

じゃあ、セレネが最初、彼女と会った時に睨んでいたのは……?

「……聞いた話では、どうも数名がこの大会に参加しているらしい」

「そう、なのか……」

まだ他にもテロリストが参加しているのか。

十四年に一度の大会なだけあって……頭痛がする。

「なんでテロリストが」

「そりゃ、テロをするためじゃないのか?」

「……ごもっともで」

それ、やばいんじゃないのか。

……今さらだが、俺はなんでテロリストと一緒に戦っているのだろうか。

 

と、扉が無造作にノックされた。

外から聞こえて来るのは、快活そうな少女の声。

『ろでぃうすくん、いるー?』

もう、ここ隠れ家じゃ無いな。

大きな声で俺の名前を言わないでくれと頼んでいるはずなのに、彼女はまったく覚えていないようだ。

「開いてるぞー」

半分以上諦めて、そう声をかけて来ると騒々しい音を立てながら少女がやって来た。

「やっほー。ばっかだねー、ろでぃうすくん。こんなにボロボロになっちゃって、ふぃーちゃんに怒られちゃうぞ!」

入ってきたのはセレネとは正反対の真っ白な少女だった。

といっても、服装が真っ白なだけ。ワンピースもボレロも、挙句の果てに腰まで伸びた金髪をまとめるリボンも白。

本人、仕事をしているときは絶対にこの姿らしい。真実、この前たまたま会ったら、私服は普通だった。

少し鈍い金髪にそれと同色の瞳が白の中に映えて綺麗なのだが、ちょっとやり過ぎな気もする。

ちなみに、ふぃーちゃんとは師匠の事だ。

人が怪我をしているのに興奮しながら走り込んできた彼女は、問答無用でおでこを片手でチョップして来た。

意外と痛い。

「ひ、久しぶり、アルマ……」

「おうよ! 今回も派手にやったみたいだね」

「前よりはましだと、おもう」

「まーねぇ」

笑いながら仕方ないなぁと笑うアルマ。

彼女には以前から世話になっている。

 

アルマリーズ・アルフィルラーゼ。

外見は可愛らしい十六歳。本当の年齢は不明。本人は永遠の十六歳と言ってる。

師匠の昔からの友人らしいから、十中八九嘘だろう。師匠は普通に三十超えてるし。

彼女のラウドは『巻き戻し』。

傷を負ったことを、巻き戻して無かったことに出来る。

聞いた話じゃ、傷以外にも使えるとか。死者は生き返らないらしいがかなりふざけた能力だ。

だが、本人はそのラウドを本当に緊急事態の時以外は使わない。

それだけ医者としての腕が確かという事でもある。

本人いわく、片手に数えるくらいしか治療でラウドを使ったことはないらしい。

実は、その緊急事態になって昔運びこまれたことがあるのだが、その縁で今もよく治療してもらうようになった。

あと……彼女の見た目が幼いのは、このラウドのせいだと言われている。

 

「ふむふむ。これくらいなら数日寝て起きたら治ってるでしょ」

簡単に傷を見た後、さぞ簡単そうに言って治療を始める。

それを、興味津々とばかりに覗き込んで来るセレネ。

見るなよ……頼むから、恥ずかしいから、つか、かっこつかないから止めてくれよ……。

と、言いたいのだが、口を開こうとするたびにアルマにしゃべるなと言われ、結局治療が終わるまでそのままにされた。

なんだか、最近自分の扱いが酷い気がする。

「ふむ。一週間後に試合があるのだが、大丈夫だろうか?」

「一週間後? だいじょうぶだいじょうぶ! ふっふっふ。なんなら、一日で治るようなアブナイ治療でもしてあげようか? 大丈夫、成功例は一例もないけど、きっとろでぃうすくんならイケル!」

「頼むから実験台にしないでくれっ」

少々、いや、かなり危ない笑みを浮かべるアルマに、思わず身を引く。

いける、というが、どういう意味のいけるのか考えたくない。

こんな調子で何度怖ろしい実験に巻き込まれかけた事か……思い出しただけで頬がひきつる。

「えー。あー、うん、わかった。りょうかーい」

「……」

棒読みだ。

「ところで、ろでぃうすくん。お二人さんはどのような関係で?」

「へ?」

おふたり?

「あぁ、セレネか?」

「うんうん」

……ん? 今、すごくなんというか、すごく……やばい状態じゃないか?

動けない俺とセレネ、二人だけ……。

それは、その、なんというか、そういう関係に見えるというか。

「ただ単に、一緒のチームの者だ。セレネという」

セレネはまったくそう言う事を考えてないようだ。俺も、さっきまではぜんぜん気づいていなかったから人の事は言えないが。

「ふーん。せれねちゃんねー。ただのチームメンバーね……っふ」

「アルマさん、その意味深な微笑みは……」

「ろでぃうすくん、明日を強く生きなさい」

だから、どういう意味ですかっ。

思わず敬語になりながら、心の中でつっこんでいた。

「やっぱり、じょなんのそうが……」

「えっ?」

「イヤ、ナンデモナイヨ?」

「なぜ疑問形なんだよ」

「はい、これで治療は終了! ほか、なんか具合悪い所とかある?」

「無理やりすぎるだろっ! 別にないけどさっ」

まぁ、気かなった事にしようと思った。

このまま聞いても、あまり楽しくない未来が見えそうだから。

「うん。よしっ、これで終わりだね。代金は後で請求するから」

「了解」

最近、疲れることが多い気がする。

きっとそれは気のせいじゃない。

ともかく、やっとアルマが帰るのかと安堵していた。 が。

「と、いうことで。せれねちゃん。僕とちょっと女の子同士のお話をしようか」

突然の出来事。がしっと恐いもの知らずにセレネの腕を掴む。

反射的にびくりと逃げようとするセレネだが、アルマの方が早かった。

「にげちゃだめだぞ」

「……ふむ。なぜだ」

睨みつけるような視線で黒いシスター服のテロリストはアルマを見る。

対するアルマはそれはもう愉しそうに、危ない笑みを浮かべている。

まったく、なんで俺の周りには危ない女の子しかいないんだ?

いや、アルマに関しては女の子という年ではないが。

「そりゃぁ、ろでぃうすくんの仲間になった女の子だよ? 今まで、おんなっけのまったくなかったろでぃうすくんの仲間だよ? 気になるに決まってるじゃないですか!」

「ふむ。そこまでなのか、このへたれは」

「へたれっ?! なんで? でもって俺、初めてヘタレって言われた気がするんだがっ?!」

「ってことで、せれねちゃんをおもちかえりー」

治療には感謝するが、さっさとお引き取り願いたい……。

 

 

 

 

ヴァンガードいわく、隠れ家の外に出ると、アルマは背伸びをしながらくるくる辺りを回り始めた。

「やっぱり、外はいいなぁ」

真っ白な服に天真爛漫な笑顔。誰かを助ける、救う医者。

自分とは……何かを壊すくらいしか出来ないテロリストの自分とは、まさに正反対な女性だ。

思わず眺めていたが、ふと思い出す。

「……それで、私になんの用だ」

「ふんふんふーん。ん? なに? ごめんごめん、聞いてなかった。えっと?」

鼻歌を唄いながら楽しそうに笑っている。

なにがそこまで楽しいのだかわからないが、とにかく機嫌が良いみたいだ。

先ほど知り合った彼女の機嫌が良いからと言っても別にどうとも思わないが。

「私になんの用だ」

大きめな声で言うと、アルマは首をこてんと横にした。

その数秒後、ぽんと手を叩く。

「あぁ、ちょっとろでぃうすくんの話なんだ! けど、その前にちょっと来てほしいところがあるのっ」

腕を持っていかれ、歩いて少々。

気づくと、こぢんまりとした診療所に連れてかれていた。

中には誰も居ない。ドクターが往診中のようだ。

そこにアルマは勝手に入って行く。

「……」

「あれ? どうしたの、せれねちゃん?」

「もしや、ここは……」

「あっ、ここうちの診療所だよっ。とにかく入ってはいって!」

目にもとまらぬ速さで後ろに回ったアルマは、逃がさないようにと服の端を掴みながら器用に背中を押して無理やり診療所の中に入れられる事となった。

 

 

「はい、ここに寝てー」

「ちょっとまて、どういうことだっ」

「はいはい。……ちょっと確かめたい事があってね」

「だから、確かめたい事とは――」

ベッドの前で押し問答。

なぜこうなったのか、まったく分からない。

「せれねちゃん、僕さ、鼻だけは良いんだ。特に、血の匂いとか」

無理やり、いつもと違い両手にしていた手袋を取られた。

「待て、触るなっ」

「ん?」

自身のラウドは触った者に誰へだてなく発動する。

慌てて止めても遅かった。

素肌に、アルマの手が触れて……別に何も無かった。

「……どうかしたの?」

「な……なっ」

どういうことだ?

ヴァンガードの時と同じだ。

触ったのに、何も起こらない。

自分のラウドに異変でも起こっているのだろうか。

「貴女のラウドは……」

「あぁ、僕のラウドはねっ、巻き戻し。その様子だと、せれねちゃんのラウドは触ると発動するタイプかな? なら、大丈夫だよ。大抵のモノなら、巻き戻して無かったことにしてるから」

「……そんな」

そんな事が、可能なのか?

自身に触れる者は、無効化のラウドを持っている者だけだと思っていたが、認識を改めなければならない。

ヴァンガードの事もある。……彼の場合は何かが違うようだが。

「で、この手の傷……まったく、酷いじゃないか。女の子なんだから、ちょっとは気にしないと!」

アルマは勝手に治療を始める。

手のひらには棘で出来た傷や剣の刃を手で握ったことでの傷……酷いありさまだった。

自分で手当てはしてある。が、正真正銘のドクターには見逃せなかったらしい。

「……ねぇ、僕の勘違いだったらごめんね」

「なんだ」

「せれねちゃんさ……今、痛い?」

「……」

わざと治療に集中するふりをして、手のひらを見続けるアルマ。

彼女は、それ以上聞かない。

たぶん、彼女は気づいているのだろう。

 

すでに、私は痛みを感じることが出来ない事に。

 

「昔さ、痛覚を無くしちゃったって人がいたんだ。その人ね、冒険者でいつも戦っていたんだ。それで、ある日怪我をして、僕が呼ばれたんだ」

突然の独白だった。

「呼ばれた時ね、もう、助からなかったんだよ、その人は。……痛覚が無いから、怪我をしても気づかなかったの。骨が折れても、内臓が傷ついても、気づけなかったの。怪我をする前からの怪我が原因で、その人はいなくなっちゃった」

「……」

「せれねちゃん、また戦いが終わったら、僕の所に来るんだよ」

「すまない」

痛覚がない。それは、もろ刃の剣。

痛みが無いから、飛び出せる。攻撃を恐れない。

でも、痛みが無いからわからない。どれだけ重傷を負っても。命の危機に立っても。

あぁ、彼女は、その恐ろしさを知っているのだろう。

「っと、暗い話はなしなし! ここまで! さて、次はちょっとしたろでぃうすくんのお話ですぞ!」

明るくふるまう彼女は、先ほどまでの暗い様子はない。

無理してふるまっている。それが、なんとなくわかって何も言えなかった。

「さーて、さて……気をつけてね」

「ふむ。なにをだ?」

「ふぃーちゃんだよ……んーっと、ろでぃうすくんの師匠に」

「?」

ヴァンガードの師匠……?

ふむ、聞いたことが無い。後で聞いておくか。

そう言えば、フラムだとかなんとかが師匠がどうのこうのと話していた、ような気がする。

「あの子、すっごく恐いし執念ぶかいし、弟子を変な方向に溺愛してるし……とにかく、すっごい危険な人だからっ、気をつけてね!」

「うぬ。了解した」

執念深いのは、怖ろしいものだ。それはよく知っている。

それにしても、変な方向に溺愛している、か。

あのヴァンガードの師匠とはどのような人物なのか、少々気になった。

あ奴自体はそこまで目立つような奴ではない。物語の登場人物でたとえるなら、主人公の横にいそうな影の薄い役。そんな彼の師匠は、どのような人なのだろう。

「あとっ、あとっ……ろでぃうすくん、あんまりいじめないでね?」

「……?」

なぜ、彼女がそんな事を言うのだろうか。

こんどは逆に私が首をかしげる。

すると、アルマは困ったような顔をする。

どうやら、困らせてしまったらしい。

「いろいろ心配なんだよ。なんというか、放っておけなくて」

「そうか。心配……か」

「自分の孫ぐらいの年の子だからね……やっぱり、気になっちゃうんだ」

「……うん?」

今、なにかおかしなことを聞いた気がする。まぁ、気のせいだろう。

うむ、気のせいだ。きっと気のせい。

「ろでぃうすくん、私に孫が居たらあんな感じなのかなーって。気になっちゃうというか、ちょっぴり心配なんだよ」

気のせいじゃ無かったようだ。

それにしても、孫、か。

眼の前の少女は自身とあまり変わらない十代に見えるのだが。

「貴女は、一体何歳なんだ……」

「ふっふっふっ。永遠の……ふっふっふっ」

「答えになっていないぞ」

 

 

 

 

 






月一くらいで更新しようと思っていたら、いつの間にか年が明けていました……。
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