深夜。エスターは、ため息をついた。
「はぁ……やっぱり、行かないとダメだよな……」
あの人から教わった、一部の者たちしか知らない裏口を通り、彼の元へと行く。
その足取りは重い。当然だ。
予告も無くにエスターのラウド、画像伝達をした相手に逢いに行くのだ。
送ったのは戦闘中の風景。とにかく無我夢中だったので何を送ったのかよく覚えていない。
今さらながら変な物を送らなかったかとひやひやモノだ。
「こんばんは……」
一応、誰かがいないか気配を探ってから、その部屋へと忍び込んだ。
そこには、大きなベッドが置かれていた。無駄に部屋は大きく、無駄に装飾されていて豪華だ。
まるで、貴族の屋敷……いや、実際そうなのだ。いや、むしろ貴族の屋敷よりも豪華なのだ。
なぜならここは、王がいる城。その城の主の部屋。
そう、エスターが逢いにやってきたのは……。
「アーフェリオン、起きてるか?」
この国の王、アーフェリオン・L・ノースヴェルド、その人なのだから。
「ああ、起きている」
さっとカーテンが開かれて、ベランダから青年が現れる。どうやら、夜風にあたっていたらしい。
寝る手前だったのか、寝間着姿で彼は少し楽しそうに笑っていた。
「昼間のあれのことだろう?」
「そう……えっと」
怒っているかと思っていたのだが、どうやら機嫌がいいらしい。
一国の王にラウドを使うなど、本来なら死刑モノだが、エスターとアーフェリオンは以前からの友人。時折いたずらや国の様子を見せたりと交流があった。
「なぁ、時々お前たちの戦っている姿を今回の様に送ってくれないか?」
「えっ」
「ダメか」
声だけしょんぼりとしている。
「いや、いいけどさ」
エスターのラウドの代償は自身の幸福。別に、戦闘中にどれだけ使おうとも自分が戦いに有利になるだけだから別にかまわない。ただ、あまりやりすぎると同じチームのメンバーに迷惑をかけてしまうだろうから使っていないだけだ。
「怒ってると思ったんだが」
「お前の悪戯は何時もたちが悪いからだ」
「へいへい。すんませんねっと、ところで、こっから本題に入ってもいいか?」
いつもの友人との会話から、がらりと空気を変えて、エスターは真剣な顔をした。
その様子に、アーフェリオンも気を引き締める。
彼とは、今回ある契約をしていた。
「そろそろ教えてもらえませんか、アーフェリオン様」
「……なにをだ?」
「なぜ、テロリストを放っておくのか。なぜ、異端分子の調査としてオレをこの大会に紛れこませたのか。どうして……ロディウス・ヴァンガードの情報をオレに渡したのか」
アーフェリオンは笑う。
「……お前を信頼しているからだよ」
エスターは、ロディウス達にウソをついた。
全部が嘘だった訳ではない。
エスターは大金が必要だった。どうしても、なるべく早急に。
そんなときだった、昔馴染みの悪友であるアーフェリオンは声をかけてきたのは。
大会に参加して異端分子を探って欲しいと話を持ちかけてきたのは。大会に参加するだけで莫大な前金を渡すと言う破格の契約だった。
どうしても、エスターは大金が必要だったのだ。
だから、彼はアーフェリオンの契約に乗った。そして、仲間を探そうとした時に――大会参加者の名簿を渡されたのだ。
それは、大会の中でも今だチームを組まずにいる者の中でも実力者を集めたものだった。そして、そのなかにロディウスの名前は乗っていた。
中の情報を吟味したうえで、さらに自分でも調べ……自分の目的に反せず、ある程度の常識を持っていて利用できそうな人物を探した。その頃には、幾人か候補が上がった中で、チームを作っていないのはロディウスだけだった。
それだけならたまたまだと思っただろう。だが。
「ロディウス・ヴァンガード、詳しく調べさせてもらいました。本人は知らないようですが……彼は、アルギリエ家の血をひいているようですね。調べるのに苦労しましたよ」
本当に、苦労したのだ。アルギリエ家はほとんど表舞台にも裏舞台にも姿を見せない。
その情報はあまりにも少なく、誰でも知っている様なものではない。
国による保護を受け、情報を規制されている謎の一族なのだ。だから、ロディウスのある一定の時期からの過去を調べるのに苦労をした。
「彼の妹は、あまりにも強い預言のラウドを持っていたために城に
それ以前の情報はまったく存在していなかった。見つからなかった。
「……」
アーフェリオンはなにも応えない。
「だが、可笑しなことにロディウスはそれを知らない。しかも、この城のどこを探しても、彼の妹は影も形も無い」
「エスター」
「なにかがおかしい。ロディウスがウソを言っている様子はなかった。なら……貴方は何を隠しているのですか」
「エスター、これ以上は契約外だ。君はこの大会に参戦して異端分子を探るだけでいい。それ以上の関与はいらない」
「……そうですか」
明らかに、アーフェリオンはなにかを隠している。だが、それ以上エスターは問い詰めることはしなかった。
これ以上は契約違反なのだと言う。ならば、彼の知らない場所で調べるだけだ。
「分かりました。では、また……」
そう言うと、エスターは来た道を戻っていこうとする。
「ちょっと待て」
そう言うと、アーフェリオンは数枚の用紙をばさりとテーブルに広げた。
「持って行け」
それ以上は話す事が無いとばかりにまたベランダに出る。
エスターは警戒しながらも紙を見た。そこには、二回戦目の相手の名前が書かれていた。
「……不正だぞ」
「名前だけだ。どうせ、他の参加者はもっと不正なことをしている」
ぼそりとアーフェリオンは言う。エスターは、その名前をよく記憶すると、礼を言って元来た道を戻っていった。
「オレは、卑怯者なんだ」
夜の風に吹かれて、アーフェリオンの呟きは消えていく。
眼下に広がるのは美しい見なれた首都。
このどこかに敵はいる。
「エスター……お前を信頼しているから、頼んだんだよ」
大切な……を。
お久しぶりになりました。時間の都合で書けなくなっていたのですが、いろいろと追いつめられていたら、書いていました。できれば、なるべく早く次話を投稿したいです……。もう、二年も過ぎていたのですね……。