liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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開会

 

歓声、怒声、喚声、罵声、喊声……数多の声が入り混じったその場所。観客で溢れるそこは、ノースヴェルド帝国でも随一の大きさを誇る円形闘技場(コロッセオ)サヴェルオン。

中央の舞台には何千もの武者たちが雑多にあつまり、観客席には城下町、遠くの農村、隣国等様々な場所からの観客で溢れかえっていた。

 

『さあ、始まりました、ノースヴェルド武道大会。今年は、実に三千もの猛者どもが全国より集まりました!!』

 

突如響いた解説の声にさらなる高揚を見せる会場。

が、大会参加者の中に眠たそうに隅で佇む少年がいた。

 

 

 

「暇だ……眠い……」

思わずそう呟いてしまう。

開会式は盛り上がっている。が、眠い。ひたすら眠かった。

最近、いろいろやらかしたせいで休む暇が無かったのだ。昨日も夜遅くまで寝ることが出来なかった。まぁ、他にも理由はあるが。

話しの進行と共に横にも後ろにも、前にも集まるやる気十分な戦士たちが各々の得物を片手に時の声を上げる。

中には会うこともままならない有名な傭兵や戦士、騎士たちが混じっていた。

彼等が集まることなんてこれまでもこれからも無いだろう。

十四年に一度のノースヴェルドの武道大会。その開会式と言う、ある意味歴史的瞬間に立ち会っているのだ。が、……眠い。

そんなことどうでもいいと思ってしまうほど、眠い。

さっさと開会式でもなんでも終わらせてくれ。

周りの熱気とは正反対に冷め切った願い。それがそろそろ耐えきれなくなり、うつらうつらとし始めたころだった。

 

空気が変わった。

 

あれほどざわめいていた会場が、沈黙する。

いきなりの変化。それにロディウスは反応した。

「……来たか」

 

あいつが……『王』が来た。

 

眠いなんて言ってられない。

そう、背筋を伸ばす。

まわりも、ただならぬ面持ちでそれを見た。

 

闘技場の中に集まる参加者たちから一段離れた場所。そこに現れたのは、『王』だった。

ノースヴェルド帝国の帝王、アーフェリオン・L・ノースヴェルド。

一歩、一歩。進む姿はそれだけで周囲を威圧する。

その眼光は鮮烈にして苛烈。未だ三十路に満たぬ王とは思えない風格。

まさに、『王』。

この国『最強』と呼ばれるその存在が現れた瞬間あたりの空気が変わる。それほどの、存在感。

 

彼が口を開く。

 

「……これより、ノースヴェルド武道大会を開幕す。一攫千金を望む者、望みを叶えるために足掻く者、地位と名誉を欲する欲深き者ども、自らの法を振りかざし――存分に死合え」

 

耳が、聞こえなくなったのかと思った。

歓声よりも絶叫に近い歓声。

参加者から、観戦者から、四方八方から上がる声。

耳を塞いでも聴こえて来るそれは、終わることを知らない。

そんな中で――興奮を抑えられない自分がいることに気づく。

 

ようやくだ。

ようやく助けに行ける。

 

この大会、必ず勝ちぬかないといけない。

自分の為では無く、彼女のために。

 

 

 

 

開会式が終わると参加者に小さな腕輪が配られ、予選についての簡単な説明がされた。

この大会は、始めに予選がおこなわれ半分以上の参加者が落される。その、説明だ。

予選を突破すれば、本戦に。もし本選で負けても予選通過者は敗者復活戦も行う事が出来る。

その前に、予選に勝ち残らなければならないが。

 

そのうちに、三千人越えの参加者には五日間の猶予の中で五人の参加者を倒し、倒した相手の参加者全員に渡された腕輪を壊すことが予選通過の条件と説明がされる。

場所はどこでも構わない。町の中。町の外の森。街道。

寝起きを襲うのもよし、正々堂々正面切って殺し合うもよし。

ただし、町の中での戦闘では周囲への配慮を少々すること。

それだけ。

たったそれだけだが、それだけの事にため息をつく。どれほど大変なのかと考えて、ため息をつく。

 

この大会は普通の大会じゃない。

普通、大会の予選を町中でやるなんておかしい。だが、これは十四年に一度の祝祭でもあるのだ。

収穫祭が終わった後に始まり、その後三カ月。年をまたぎ行われる国を挙げての祝祭。

祝祭で在り、伝統であるがゆえに、このようなことがまかり通ってしまっている。

 

「まったく、簡単に言わないでくれよ……」

三千人の参加者たちは、誰も彼もつわものばかりだ。まぁ、中には物見遊山で参加してしまった憐れな人もいるだろうが。

そして、開始の鐘が――鳴り響いた。

 

「なーんだ、それだけでいいのか」

 

今の声は……。

酷く冷たい声。それと共に殺気が辺りにまき散らされる。

奇しくも自分の考えていたことと同じことだったが、ニュアンスが違った。

本当に、『それだけ』の事で在ることにため息をつく、そんな声だった。

それとともに、至る所から戦いが開始される。

「ちょっ……今から?!」

予選は、あまりにもあっけなく、簡単に始まっていた。

どうする、逃げるか? 一度逃げて、体勢を立て直す……こんな場所でわざわざ戦って自分の情報を渡したくない。

それに、この大会はチームで参加している奴らもいる。

案の定、三人組によって袋叩きになっている一匹狼や逆に返り討ちにあう者たちの戦いが展開されていた。

他にも、戦いながら仲間を増やそうとする慎重な者、いったん逃げることを最善とする者……。

こちらも、さっさと逃げるか。いや、それよりもこのまま漁夫の利を狙うべきか――。

考えをまとめる前に、事態は急速に進んでいく。

「……っ?!」

周囲から殺気を感じた。

慌てて回避をする前に姿を確認しようと振り返って……ソレを見た。

 

物言わぬ屍があった。

 

いや、屍なんて呼べない。

元が人間とすら判断できないスプラッタ。

切り刻まれ、粉々にされた人間だった物。

吐き気がする。

だれが、こんな事をやりやがったんだ。

……俺以外にも、気づいた奴らは各々口元を押さえ、そして自分で無かったことに安堵していた。

開始早々、知らぬうちにこんな姿になるなんて、誰が思うだろう。

青くなった参加者たちは、どれ程の覚悟を持ってこの場に立っているのだろうか。

この大会で、どれだけの死者が出ているのかを知っていて参加しているのか。

考えても詮無い事だ。

それよりも、目の前の惨状に意識を向けなければ。

他人の事で油断して、目の前のスプラッタのようにされたのではかなわない。

「五人……か」

改めて見ていると、形状が判断できないそれの中にあった五つの丸い者に気づいた。

それは、頭。

人間のそれは、赤い水たまりの中に沈んでいる。

この時点で予選を抜けた奴がいる、と言うことだろうか。

ふざけた奴だ。

こんな胸糞悪い事を平気でしでかして、本人は既に居ない。

どんな事をしたらこんな惨状を生み出せるのか。見た所で解らない。

もしも戦う事になった時のために少しでも情報が欲しかったが、意味はなかった。ただ気分が悪くなっていく一方だ。

大会の審判役達もこのありさまに慌てている。

「……こんなやつらばっかりなのか?」

 

ノースヴェルド武道大会。

内容がトーナメントの時もあれば、バトルロイヤルの時もある。異端な大会。

三人までのチームを組むことが許されているこの大会では、三対三での戦いや、三対一理不尽な戦いも展開される。

が、だれが優勝するのかまったく分からない。

事実、過去の優勝者の多くは独りで勝ち残ったつわものだと言う話をよく聞く。

そして、一番重要な事。優勝者には、莫大な賞金、比類なき名誉、そして、王に一つだけ願いを言う権利が与えられる。

 

だからこそ、ある者は賞金のため、ある者は名誉のため、ある者は願いの為、優勝を目指す。

 

自分もまた、その一人。

どうしても、助けたい人がいるのだ。

そのためにも……優勝して、あの王の前に立たなければならない。

 

――っと、来たか。

 

思考を中断させて、回避行動に移った。

殺気を感じた訳ではない。襲ってくる奴がいた訳ではない。

しかし、一時遅れてさっきまでいた所に何かが着弾する。

破裂した音。散らばる破片。小さなクレーターの中央には、岩が転がっていた。

当たれば簡単に命を奪うであろう凶弾は、離れた場所にいた坊主頭の男から放たれた物。

ったく、危なかった。

思わず、心の中で安堵する。

こんな物があたっていたら気絶か良くてもこの後の戦闘に不利になっていただろう。

「ほう、よく気がついたな、ガキ」

「……この大会に参加するだけの実力はあると思っているので」

見れば、声の主は坊主頭の男だった。

見覚えのある顔。以前、傭兵として活動していた中で擦れ違ったことがある気がする。

あちらは覚えているか知らないが。

「そうか……」

ニヤリと嗤う坊主頭。

そう言っている間にも、クレーターの中にあった岩が空高く打ち上げられた。

どうして? どんな原理で?

そんな事を考える者はここにいない。

「なら、どこまで逃げ切れるか、試してやるぜ!!」

「……っ」

空から、凶弾が降り注ぐ。

さっきの一つだけじゃない?!

堕ちて来た岩を飛び退いて逃げようとするも、逃げようとした場所をめがけて違う岩や石が降ってくる。

「ほらほら、さっさとお前のラウドを見せろ!!」

ただ逃げるだけの俺を坊主頭が笑ってくる。

 

ラウド――それは、一人につき一つ持っている能力だ。

 

相応の代償を払う代わりに発現する異常な力。

この大陸の住人は、誰であろうと持っている。持っていて当たり前のものだ。

他の大陸にはないものだとか聞いたことがあるがなぜなのか、詳しくは知らない。ラウドの研究者ではないし、知ってどうなることでもないから興味がないから。

 

それにしても、こっちはすでに見せている(・・・・・)のに。

そんなことを知らない男は、さらに放つ岩を増やして来る。

この男のラウドは、物を飛ばして落す物なのか。今は考えている余裕はないようだ。

「ったく、眠い……」

これ以上やっても仕方ない。

坊主頭の能力が、ただ空から岩を落とす能力と判断して行動を起こす事にする。

たしかに、空から高速で落ちてくる岩は当たれば容易に意識を刈り取り、時には死をもたらすだろう。

しかし、それは当たればの話だ。

「まったく、さっさと終わらせて帰るか」

帰って、これからのことを考えよう。

予選突破の条件は、参加者五人を倒す。この男を倒せばあと四人。

こっちは攻撃性の強いラウドを持っている訳じゃない。

一人ずつ、確実に戦って勝つことが一番だろう。

まあ、とりあえずは……目の前の奴を倒さなくては。

そう、坊主頭を改めて見ると、さっきっからまったく攻撃が当たらないことにいら立ちを見せていた。

「くそっ、なんで、どうして当たらねぇんだっ!」

「こんな単調な攻撃、当たる方がおかしいとおもいますよ」

まあ、嘘だけど。

 

左斜め上からこっちめがけて来る岩。数秒後に目の前に落ちて来る石。数十秒後に避けたオレに狙いを定めて追うように落される岩。

それを視て――全てを避けきり男に接近できるルートを探す。

 

「俺のラウドは――未来予知なもんでね」

相手のラウドを知るという事は、対策を取られることや弱点を知られることにもなる。

だから、誰にも聞こえないよう、小声で呟いた。

 

未来予知

 

つまりは、先の未来を知ることが出来る。

未来を知り、その未来を回避することが出来る。

だからこそ最初の攻撃に気づく前に回避行動に移ることが出来た。

そして、今も避け続けることが出来るのだ。

 

この坊主頭には悪いが、俺は運がいい。

俺のラウドにとって、避けようと思えば避けられるこの坊主頭のラウドは相性が良いからだ。

へまをしない限りは――常に先手を取れる俺の勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

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