liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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予選

 

 

 

はたして、結果は予想通りになった。

腰の得物を抜くこともなく、体術のみで組み伏せて男の腕輪を壊す。

簡単に壊れた腕輪。

別に何か変化が起こるわけでは無いらしく、なにも起こらない。

なんだか、拍子抜けだ。

その間にも、未だに会場に残っていた参加者からは、警戒と殺気が贈られる。

さっさとここから退避したほうがいいな。

こちらのラウドはばれていないだろう。が、顔は覚えられたかもしれない。

そろそろ代償の影響が出て来るしここから離脱して体制を立て直した方が良い。

 

ラウドの代償。それは人それぞれだ。

ラウドを使う事によって何かを失う者や、常に代償を支払い続けなければならない者もいる。

共通していることは、能力を使いすぎれば身を滅ぼす。死すらも招くということ。

今の戦闘でかなりラウドを使った。

俺の代償は即現れるものじゃないが、これ以上の戦闘は危険だ。

しかし。

「ほう……そこの少年、私と勝負をしろ!!」

「……ままならないか」

やっぱり、さっさとこの場から去っていればよかった。

見れば、自分と変わらないような年の血気盛んな少年が剣を構えていた。

騎士気取りなのか知らないが、城の警護を行う近衛騎士の制服を着ている。

「私の名は、ヴィクトール・フォン・エルディータ。いざ、尋常に勝負っ!!」

「ヴィクトール……?」

聞き覚えのある名前だ。

たしか、去年、最年少で騎士となった有名人だったはず。

ちょっとまて、本物の騎士なんかが大会に出ているのか?

「おいおい。金も名誉も十分あるだろうに……」

エルディータ家は貴族、そして王の近衛騎士はめったに拝命されない名誉職。そんなやつが、一体何のために。

「金? 名誉? そんな者などいらぬ。私はただ、自らの鍛錬のためにこの大会に参加したのだっ!」

「……あー、そうなんですか」

なんだかしらんが、熱血漢らしい。

鼻息荒く宣言する姿は、どこか近寄りがたい。

こんなやつがあの王の近衛をやっているのか。

思わず考え込みかけて、いやいやと頭を振る。

今は、この状況をどうにかしなければならない。

「では、いざ参る!」

「なっ、ちょっと待てよっ!?」

まったく、ままならないものだ。

こちらの心情をかんがみず、ヴィクトールは剣をゆっくりと振り上げる。

ただし、どう見ても振り上げた剣が俺に届かない位置で。

なにを考えている?

慌ててラウドを発動する。

 

未来予知。

いや、未来視と言った方が良いかもしれないそれでわかった未来は――。

 

「おいおい……」

 

剣に集約される光。振り下ろされたその先一帯を吹き飛ばす光の一撃。

それに回避できず直撃をする自分。

 

「……本気かよ」

 

武器に力をためて周りに影響を及ぼしたのか、攻撃力を付与してあたりを吹き飛ばしたのか、判断するのは難しいがそれよりも回避行動に移らざるを得ない。

さっきの坊主頭の攻撃は避けられた。避ける猶予があり、攻撃の範囲が狭かったから。

でも、この攻撃は間違いなく――避けられない。

自分は、周囲を巻き込んだ広範囲攻撃にはとことん弱いのだ。

すでに剣には光が集まってきている。すぐにでも放たれるだろうソレの威力は計り知れない。

まだ猶予はあるが、範囲が広すぎる。

それでも、攻撃を直撃するのはまずい。

逃げるしかない。

「我が一撃、受けてみろ!」

「受けられるか、ぼけっ!」

逃げるに決まってんだろ!

さっさと逃亡する俺に贈られるのは、ヴィクトールの叫び。

騎士としての誇りがどうのと叫んでくるが、そんな事にかまっていられない。攻撃に特化したラウドの直撃なんて、考えたくもない。

こっちは未来を視るだけなのだ。

しかし、そのおかげなのか、光の集約率は未来予知であらじかめ見たそれよりも遅い。少しは時間が稼げているらしい。もっと叫べと言いたくなるが、そんな暇はない。

そんな思いも空しく、時は刻一刻迫る。

これまでの間、ほんの数秒。とはいえ、ほんの数秒の地に状況は変化していく。

とにかく回避をしようと逃げる。

が、逃げて行こうとした先に人が戦っていた。

彼らには悪いが、こちらも必死。巻き込むことなんて気にしちゃいられない。

ただ、注意を促すために叫ぶだけ叫んだ。

 

 

 

///

 

 

 

 

参加者の集められた舞台。そこに黒の少女もまた、いた。

屈強な戦士の中で、異様に目立つ黒のシスター服の少女。

開始早々に目をつけられるのは、当たり前かもしれない。

 

少女の痩せた体に男の拳が襲う。その男とチームを組んでいた女戦士の剣が掠める。宙を舞う雷が少年の指示によって少女に向かう。

三対一の理不尽な戦い。

襲撃を受けたのは、始まりの合図が出た瞬間。であるにもかかわらず、少女はことごとくそれを逃げ切って魅せる。

 

ロディウスの様な未来予知の能力を持っている訳ではない。

襲撃者である三人組が弱い訳ではない。

ただ、実力と経験だけで避けているのだ。

それは、見る者が見れば判る洗練された動き。

それに思わず見とれる者もいる。

この少女、どれ程の修羅場をくぐり抜けてきたのか。そんな感想を抱かされる姿だった。

 

そして、避け続け襲撃者をあしらうのに疲れたのか足を止めた。

その手には、うら若き乙女が握るにはいささか物騒なセスタス。

鈍い光を放つそれは、洗っても消えぬ染みを幾つも残している。

少女との実力差には気づかない三人組は、これ幸いとばかりに少女に襲いかかり、逆襲を受けた。

 

男の拳が割られる。

女戦士の剣が弾かれた。

雷を操る少年は簡単に伸されて動かない。

まるで、舞うかのように麗しく、踊るかのように可憐に。

いとも簡単に、三人をひねりつぶすように蹂躙した少女は、汗一つ書いた様子もなく勝者となった。

後は腕輪を壊すだけ。

そう、近くにいた男の腕輪を思いっきり蹴り飛ばして壊す。

男が痛みにうめいたが、わざわざ優しくやってやる必要も感じず、さっさと壊す事を優先している少女の耳には届かない。

続いて、女剣士の腕輪を壊そうと移動しようとした。

が――。

 

「逃げろっ!!」

 

「……?」

少女が見た先には、見た事のある少年。

その後ろには騎士姿の少年が光を纏う剣を振り下ろそうとしている所。

 

あれは、なんなのか。

必死の形相の少年から、なにかしらこちらに不利な物であることは解る。

しかし、まだ腕輪を壊していない。それにこちらには関係ないことだ。

そう思うと、少女は少年を気にせずに腕輪を壊そうとした。

「なにやってんだ、ばかっ!」

「なっ――」

突然の衝撃。

少年が、少女に体当たりをするようにその手を掴んで引っ張ったのだ。

少女の数少ない素肌を晒す左手を躊躇いもなく掴んだまま、少年は走り出す。

無論、少女の停止の声も聞かない。

 

「な、なぜ……」

少女は掴まれた左手を凝視する。

「なぜ、お前は――」

 

その言葉は、ロディウスに聞こえることはなかった。

それどころか、全てを言いきることも出来なかった。

ヴィクトールによる攻撃、剣から放たれた光の奔流。破壊音が全てをかき消し、少女と少年――ロディウスを吹き飛ばしてしまった為に。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだあれは、他者に迷惑かけるなと教わらなかったのか? 死ねっ、キサマ。ふざけるなっトウヘンボクっ!」

「本当にすみませんでしたっ!」

夜の町に、そんな絶叫じみた叫び声の会話が響く。

声の出どころ、場所は裏通りの隅にある小さな借家の一室。

息も絶え絶えに罵詈雑言を絶え間なく吐き出すのはシスター姿の美少女だった。

 

「馬に蹴られて死んでしまえっ」

えーっと、助けてあげたはずの少女に罵倒された場合、どうすればいいのだろうか。

ロディウスは、困惑していた。そして、眠い。

大会の予選早々、ヴィクトールの容赦ない攻撃から直撃を免れて、どうにかこうにかボロボロになりつつ隠れ家に静観することが出来た。

そこまではいい。

たまたまヴィクトールの攻撃範囲にいたシスターを思わず助けた。

俺ってばお人よしだなー。まあ、倒れてた人はさすがに余裕無かったから見捨てたけど。

それで、攻撃受けて吹き飛ばされて酷いありさまになりながらも逃げることに成功した。

そしたら、シスターに思いっきり背負い投げされて羽交い絞めされた。怒涛の勢いで攻め立てられた。

道のど真ん中でやることでは無いので隠れ家の一つに案内して話をすることになった。

そして今に至る。

「……なんか、理不尽だ。つか、ねむいし」

「なにがっ理不尽だっ、眠いだっ。こちらは貴方のせいで二人分損したのだぞっ! しかも、新調した服はぼろぼろ、持ち金も全て失った!!」

「す、すみませんでしたっ」

あまりの迫力に、思わず土下座をしてしまう。

このシスター、いったい何者なんだ。男相手に、羽交い絞めする凶暴シスターなんて聞いたことないぞ。

あと眠いのはラウドの代償のためだ。しょうがないだろ。

そう思っても、さすがに口に出さない。

こちらの戦いの余波で起こってしまったことだから、攻められても仕方ない。

まぁ、ヴィクトールが一方的に襲ってきたのだからいささか理不尽だと思っているが。

「それに、なぜ……なぜ私に触ったっ!」

「なぜって言われても……」

たまたま前にいて、ヴィクトールの攻撃に気づいても逃げようとしてなかったから、思わず手を掴んで逃げただけなんだが。俺、何かしたのだろうか?

頭を掻きながら少女を見る。

むしろ、助けてあげたはずなんだが……。

そういや、シスターって、異性に触っちゃダメだとか規則あったっけ?

それだったら、ここまで怒られても……しょうがないのか?

いやいや、ここまでなんで怒られるんだ。

戦いがあるのは分かっていたんだから、新調した服を着てボロボロになっても、金銭を失っても自己責任ではないのだろうか。それに、触っただけでいったいなにがお気に召さなかったんだ?

本物のシスターなのか疑わしい凶暴さに辟易し、さっきっから隙あれば跳んでくる殺意のこもったセスタス付きグーパンチをかわしながら、そんな感想を抱いた。

それより、眠いのだが。

「……何ともないのか」

「へ? いや、なにが?」

急にしおらしくなって、上目づかいにそう聞いて来る。

今さらなことだが、シスター少女は結構な美少女だ。

もしも、初見でこんな感じにいろいろ迫られたら、一発で落ちたんだろうな。

ま、凶暴すぎる本性知った後じゃあ、恐ろしいだけだけど。

「そう……何ともないのか……」

良く解らないが、こちらの反応が無い事を自己完結すると、しゅんと気を落とすように目を落とす。

「ならば、貴方のラウドはなんだ」

「言うと思うか?」そう、答えようとして止める。

ぶっ飛ばされる未来が見えたからだ。

ちなみに、ラウドは使って無い。

「なら、そっちのラウドはなんだ?」

「……言う訳が無いだろう」

「そう言うことだよ」

いったい、どうしたのだか。

怒ったかと思えば、しおらしくラウドはなんだとか聞いて来て……。

ま、まさか、ギャップ差でこちらを油断させて予選通過を狙っていたりするのか?

少しずつ情報を奪って俺を倒すつもりなのかっ?!

な、なんて凶悪なシスターなんだ……。

お、俺、騙されないぞっ。いまさら可愛らしい姿を見せても、騙されないからなっ。

「な、なぜ離れる……?」

「……いや、なんとなく」

「もう一つ聞きたいのだが」

「えっと、なにか?」

一体、今度は何を聞いて来るのだろうか。

どきどきというか、なんと言うか。嫌な意味でドキドキだ。

「貴方のラウドは、相手のラウドの弱体化や消滅か?」

「いや、違う」

そんな能力だったら、そもそもヴィクトールから逃げていない。

そういう能力があったらなぁ……。

俺の未来予知(ラウド)に別に不満は感じない。けど、それでもそんな能力だったらよかったのにと思ってしまうこともある。

未来予知で、先の未来を知ってしまうといろいろ辛いものがあるし……。

そんな事を考えると、戦いの中で重要になって来るラウドの弱体化とか消滅なんかの方が使い勝手がよさそうでいい。

圧倒的な力でねじ伏せるような攻撃力の高いラウドでも良かったかもしれない。

まぁ、そんな事、考えても仕方が無い。

「……」

俺の答えに、シスターは沈黙した。

この少女はなにを考えているのだか。

怒ったと思ったら、ラウドについて聞いてくるなんて。

ぼんやり黙りこんでしまった少女を観察している内に気づく。

そういや、この子の名前をまだ聞いてなかった。

「俺はロディウス。君は?」

「知ってる。……私はセレネだ。セレネ・ファラーディア。先ほどは助けてくれたというのに申し訳ない。一応は礼を言っておく」

なんだ、俺の方は知られていたのか。

ちょっと驚く。

「……いや、こっちこそ他所の戦いの邪魔をしてすまなかった」

「戦いは終わっていたからな、その事についてはあまり気にするな」

「はぁ……えっと、倒したのに腕輪を壊せなかったのは三人か?」

「いや、二人」

一応、責任は感じている。

彼女にも願いがあってこの武道大会に参加したはず。

予選の中で、五つの腕輪を壊さなければならないのに、それを俺は妨害した。

さっき、腕輪を壊されなかったのは、彼女の恩情か頭に血が上って手忘れてしまっていただけだろう。

そう考えている内にも話題は変わる。

「貴方はチームを組んでいるのか?」

「いや、組んでないけど」

最初は組もうかと考えた。けど、大会の目的や戦い方が合わないやつらが多くて、チームを組むのは諦めた。

場合によっては誰かと組みたいとは思ってはいるが、どうだろう。

俺と組んでくれるような人がいるのかどうだか。

「そうか……」

セレネは何かを考え始める。

こちらを、ちらちら見ながら腕を組む。

えっと、この流れって、まさか……。

「ならば、お詫びとして私とチームを組め」

「丁重に断りたいっ」

 

こんな凶暴シスターと一緒のチームなんて、ごめんこうむる。

 

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