liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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氷の魔女

 

予選、二日目――

 

 

俺は、無理やり起こされた。

 

「……」

「おはよう、ヴァンガード」

「……えっと、なんでここにいるんだ?」

目の前にはセレネ。

昨日と似た黒のシスター服に身を包み、可憐な容姿をしている。が、その外見に騙されてはいけない。その攻撃力の高さは、自身で証明済みだ。

昨日、帰ったはずのシスターの姿をした凶暴少女が、いた。

「寝たい……」

「寝るな」

俺の代償は睡眠とか眠りとかなんだが。

すごく、眠くて……その……。ぐぅ。

「……」

「ふむ。では、貴方が眠った後、ゆっくりその腕輪を壊させてもらおう」

「なにをすればいいんですか」

よし、目が覚めた気がする。

少女が舌打ちするのを片目に、嘆息した。

「最初に、貴方の実力を見ようかと」

「……」

チームを組むって話、本気なのかこのシスター。

 

 

 

町中は、どこか殺伐としていた。それとともに、熱気と期待でうかれている。

殺気だっている者や、正々堂々と戦いをする者。

隠れ、隙を見ながら待機する、濡れ手で粟を狙う者。

もう、予選は始まっている。

そして、それに町に居る人々、一般人は此れから始まるであろう戦いを楽しみにしていた。

「……」

ため息をつきたい。

ものすごくつきたい。

後ろをちらりと見ればセレネ。

こんな事になるなら、助けなければよかったな……。

「さてと、ヴァンガードはどれほどの腕前だ?」

「さあな」

俺の反応速度を超えるような攻撃や、広範囲殲滅系なんかの攻撃うけたらまず負ける。

それ以外なら、どうにかなる。いや、どうにかして見せる。

これまで、ラウドが無くても戦えるようにと必死に努力してきた。

そのせいで師匠に何度殺された事か……。

まぁ、ともかくこれまでこの大会のために強くなろうとしてきた。

いや、強くなったつもりだ。……まだ、師匠に勝てたためしが無いが。

 

それにしても、本当にこのシスターはなにを考えているんだ?

見知らずの俺とチームを組むとか。

昨日、俺の腕輪を壊そうと思えば壊せたのに、なんで――。

「見つけたぞっ、少年!」

「……うわっ、……頭痛いんだが」

外出した途端にヴィクトールと再会とか。

厄日か。厄日なのか。

セレネに続き、ヴィクトールとか……頭痛いというか、もう考えたくない。

「昨日は逃げられたが……今日こそはっ!」

「って、お前、町中で昨日みたいなのやらないよな……?」

「町を守る騎士として、町を壊すなどするはずが無かろうっ!!」

昨日の光の一撃。町中で使ったりなんかしたら、どれ程の被害受けるかわかったもんじゃない。

そう思っていると、横のセレネが小声で話しかけて来た。

「……ヴァンガード、この暑苦しい奴は誰だ」

暑苦しいにどこか強調しながら聞いて来るセレネの顔は、どこか嫌がっていた。

もしかして、熱血系が苦手なのだろうか?

冷たい視線は、刃のように鋭かった。

「昨日の攻撃をやったやつだよ。ほら、あの時の光ってたやつ」

「私の邪魔をした愚者その二か」

「……ちなみに、その一って誰ですか」

「貴方に決まっている」

愚者認定されてたのか、俺。

「おや、隣のシスターは君のチームのメンバーか!」

「ちが――」

「そうだ。愚者その二」

「セレネさーん……俺、チームとか組むつもりは……」

「仕方ない。寝込みを襲うか……」

「すみませんでしたっ」

ちょっとシスター……。

腰には短剣を二本もつけてるし、セスタスを装備してるし、なんだか強いし……この人、本当にシスター?

何度目か分からない疑問に、頭痛が酷くなる。

「セレネ……? まさか、シスター・セレネ……?」

ヴィクトールの様子が、変わった。

さっきまでの暑苦しさは影を潜め、鮮烈な殺気を放つ。

最初からこんな感じだったら、俺の騎士像崩壊は無かったんだが。

しかし、なぜセレネを知っているのだろうか。

俺が知らないだけで、セレネは有名人なのか?

「『教会』のテロリスト……っ!!」

テロ、リスト? このシスターが?

……そこまで驚かないな。うん。

彼女ならこの国最強の『王』にも刃向いそうだ。

「お前、テロリストなんだ」

「……有名だと思っていたが?」

『教会』というと、このノースヴェルド帝国の裏で暗躍しているテロ集団だ。

前王、つまりアーフェリオンの父であるラインヴェルドの時代、その圧政を糾弾しレジスタンスのような活動をしていた。さらに、ラインヴェルドの崩御後は無駄に多かった王位継承権を持つ王子たちを裏で煽り兄弟同士での殺し合いをさせたと言われている。

その中でも有名などころは『教師』とか『オラトリオ』とか名乗るテロリストだ。

彼等は王位争いに介入し、裏で様々な工作をしたらしい。

つい先日も、このノースヴェルド一と呼び声高い騎士団を襲った『教会』の者がいたとか。確か、名前は知らないけど――『氷の魔女』と二つ名で呼ばれていたはずだ。

そんな事を思い出していると、すぐにその二つ名を聞くこととなった。

 

「まあ、隠す事でもないからな。私はセレネ・ファラーディア。他者からは『氷の魔女』と呼ばれている。先日は、世話になったな、熱血騎士」

 

ニヤリと嗤った少女は、氷よりも冷たい瞳だった。

「……貴様っ、……まあいい。この大会に参加していたのなら好都合だ。……同胞の仇は討たせてもらう」

おいおい……このシスター、犯罪者かよ。

しかも、つい最近騎士団に喧嘩を売った……。

 

この大会の特徴の一つに、参加者が犯罪者なら、大会参加中は逮捕されることが無いといものがある。

たとえ指名手配犯でも、殺人鬼でも、戦闘狂でも、だ。

だから、セレネは自分が犯罪者であることを告発したのだろう。

ヴィクトールの標的が、俺からセレネに変わる。

好都合。こっちはさっさと逃げて違う隠れ家に行こう。

あの隠れ家を失うのは手痛いが、このまま彼女のチームに入れられたらどんな事になるか分からない。

テロリストの仲間なんて思われたくもないし。

それに、この二人が潰し合ってくれるのなら好都合だ。

「仇、か。討てるのならばな」

不敵な笑みを浮かべているセレネは、ヴィクトールに注意を向けている。

こちらに注意を向けられるほどの余裕が無いのだ。

それだけ、ヴィクトールが強いということ。

しかし、セレネも負けてはいない。

二人の相対す姿は、見ているだけで総毛立つ。

 

よし、逃げよう。

 

「さらばっ!」

一瞬のすきを突いて路地裏に駆け込み、姿を晦まさせていただこう。

テロリストや熱血騎士にかまっていられない。

こっちには、いろいろ負けられない理由があるんだ。

「むっ、なっ、待て! ロディウス・ヴァンガードっ!!」

待てと言われて待つやつがどこにいるかっ!

昨日と引き続き、全力疾走をして俺は逃亡した。

 

 

 

///

 

 

 

逃げられた。

 

ヴィクトールと相対すセレネが思ったのは、まずそれだった。

「――待てっ! ロディウス・ヴァンガード!!」

逃げるその背に手を伸ばしかけて、とっさに後ろに下がる。

「っち、運が良い」

ヴィクトールが、いつの間にかすぐ横まで来て剣を振るっていた。

もしも手を伸ばしたままなら、間違いなく切り落とされていた。

このままではロディウス・ヴァンガードを追えない。

体勢を立て直さないと。

「テロリストめっ!!」

さらに剣を向けて来るヴィクトールから離れようとする。が、こちらの動きを追って来る。

その顔には憎悪。仲間を傷つけられた憎しみと共に、テロリストへの純粋な憎しみ。

熱血漢は、どこまでも熱血らしい。

悪を倒すため、正義の剣を振るっているのだ、この男は。

「ふざけるなっ」

ならば、なぜ私達のような存在が現れたのか、考えろっ。

どうせ言っても仕方が無い事を心の中で叫びながら、どうするかを模索していた。

こんなやからに負けるほど、私は弱くない。

しかし、勝ったとしても無傷とまではいかないだろう。

近衛騎士になるだけあって、ヴィクトールの腕前はかなりの物だ。

これからの事を考えると、怪我などはしたくない。

そもそも、私の代償は……いや、今は考えるな。

なら一発で仕留めるか?

一秒でも早く、戦いを終わらす。

逃げることは考えない。逃げたとしても、この様子ではどこまでも追ってくるはず。

なら、倒すだけ。

と思ったが、もうひとつ選択肢はある。

「何時まで逃げているつもりだっ!」

ヴィクトールの剣の速さが上がる。

こちらが何もしないことに、しびれを切らしたのだろう。

「……まったく、五月蝿い騎士だな」

これからの動きは決まった。

さっさと倒して、ロディウス・ヴァンガードを捕まえに行こう。

 

正直、なぜロディウスをチームに入れようと思ったのか解らなかった。

なんとなく、気づいたら誘っていた。

独りで勝ち進めることができないと、心のどこかで考えていたのもあるだろう。

でも、なぜ彼なのか。

 

息継ぎする暇もなく振るわれる剣。それを避けようと後ろに下がろうとし、何かが背に当たった。

壁だ。

ヴィクトールの剣が空を斬る。そして、壁を抉った。

破片が飛び散る。それが、頬を傷つける。

そして、私は――

「降参だ、うっとうしい騎士サマ」

――手を上げた。

「な……に……?」

「降参、降参。言葉の通りだ。ほら、どうぞ、捕まえろ」

セスタスを手から外し、腰にぶら下げた短剣を二つとも地に落す。

呆然とするヴィクトール。

これほどまでに虚をつけるとは思っていなかったが、それが楽しくて仕方ない。

まさか、さっさと降参されるとは思っていなかったようで、ヴィクトールはどうすればいいのかと困惑している。本当に、愉快すぎる。

 

これ見よがしに、両手に何も持ってないことを見せびらかして――氷の魔女(セレネ)は嗤った。

 

嗚呼、煩わしい騎士だ。

私のラウドを――魅せてあげようか。

 

 

 

 

 

///

 

 

 

暗い路地に、足音が響く。

その出どころは、カメラを首にかけた青年。

言動は軽く、楽観的な彼は前方に、同い年か、年下ほどの少年が走って来るのを見る。

どうやら、急いでいるらしく全力疾走中のよう。

腰には奇妙な剣……いや、この辺では珍しい刀。腕にはノースヴェルド武道大会の参加者の証。

それを見た青年は、カメラを構えた。

「おっと、獲物発見っ! オレっちついてる~っ」

同じく、参加者である青年は、一人考え事にふけりながら自身のラウドを発動させた――。

 

 

 

 

ロディウスは誰も居ない路地を走っていた。

時折、どこかで誰かの戦う音が聞こえる。それはきっと、大会参加者による戦闘だろう。

そんな事をぼんやりと考えながら、周囲に気を配り、いくつか用意してあった隠れ家のうちの一つへ向かっていた。

 

が――

 

なんだ……誰かに、見られてる?

おかしい。

何かがおかしい。

とてつもない違和感がある。

思わず走りを止めると、あたりを見回す。

誰も居ない。それなのに、視線を感じる。

まさか、遠くから狙われている?

遮蔽物のある場所に隠れたい。しかし、どこから見ているのかが解らない。

それではどこに隠れても意味が無い。

……仕方ない、か。

あまりラウドを使いたくない。が、そうも言っていられない。

 

――発動

 

ほんの数瞬先を見るのではない。

数十秒先を見るのではない。

これから先、なにがあるのか。

誰が、どこでこちらを見ているのか。

攻撃方法は? 防御するには? その後は?

 

これから起こる全てを知るために、未来を視る。

 

ロディウスがラウドの力で知ることのできる未来。

それは、ある程度操り視ることが出来る。

数秒先、数十秒先、数分先、数時間先。

今は、『現在』から攻撃を受ける『未来』、その『後』を視るために集中する。

体感時間が引き延ばされるような、停滞するような。

自分を廻る時間が狂って行く言葉にできない感覚。

 

「は?」

 

なんで、だ?

思わず、そんな間抜けな声を出してしまった。

案の定、敵に襲われ、斬られる未来を視た。でも、おかしい。

 

その未来は、すぐに起こるはずの未来。

それなのに、前方には誰も居ない。

それなのに、時は過ぎていく。

未来で見たのは、剣を構えた青年が俺に向かって襲いかかってくる所。

でも、前には誰も居ない。

視た未来通りなら、絶対に前にいるはずなのに、だ。

どうして?

 

「まさか……」

――相手のラウド?

こっちが未来予知(ラウド)を使っているのに、向こうが使わない理由が無い。

十中八九、相手のラウドが使われているはずだ。

姿が見えないという事は、姿を隠すラウドか何かか?

透過、擬態、いや、瞬間移動という事もあるかもしれない。

しかし、こちらはどこに彼が来るのかわかっている。

相手が遠くから見ているかもしれない。

こちらが未来予知で全てを知っていることを悟られないように行動しながら――相手を待つ。

片膝を立てて座ると、腰を浮かし刀に手を掛けて警戒。するふりをしながら彼が来るはずの場所へ集中をする。

 

そして――至る。

 

「はっ!」

 

一閃

 

素早く抜き去り、斬りつける。

つまりは――居合斬り。

 

「っ、た、ぶねっ?!」

 

突如、未来予知で見た青年が目の前に現れた。

こちらの攻撃をすんでの所でかわしたらしい。

腹のあたりの布が切れていた。

舌打ちをしながら、刀を構え直す。

「大会参加者ですか」

「まあなー」

俺よりも年は上だろう。

……そして、背が高い。

まあそれはともかく、変な奴だった。

なぜなら――

「なあ、あんさん、ロディウスだろ? まあ、合格か……。オレはエスター。情報屋をやったり万屋をやったりしてる。とりあえず、これからよろしくな」

そう、エスターと名乗った青年は、笑いながら手を差し伸べて来ていた。

「よろしく……? なんのつもりですか……」

「端的に言うとな……少年、オレとチーム組もうぜ!」

「……は?」

 

いったい、なんだってんだ。

ロディウスは頭を抱えながら青年を見る。

自分より年上な彼は、笑みを浮かべて手を差し伸べてくる。

明らかに、怪しい。

それにしても、なんでこんな短い期間に二度もチームに入れと誘われるんだ。

やっぱり、今日は厄日のようだ。

「なんで俺なんですか。俺以外にも、もっと強い奴とかいるでしょう?」

昨日の開会式もどきのあの場所で、多くの戦士がいた。

その中でも、俺でも顔を知っている有名な戦士や傭兵が多くいたはずだ。

不信感をあらわにして睨むと、彼はくっくっと笑い始める。

「まぁまぁ、そういいなさんな。お前はこの戦い、彼等と戦って勝ち続ける自信があるのか? あと、お前だって、曲がりなりにもそのうちの一人だってことを認識してねぇだろ」

確かに、彼の言うとおりだ。

あんな奴らと戦って勝ち続けることなんて出来るとは思えない。

しかし、初耳が一つある。

「俺がそのうちの一人?」

「そうだよ。……って、まさか知らなかったのか?」

「……」

普段、俺は傭兵として戦場を廻っていたために同業者や情報屋からなるべく情報交換をするようにしていた。

しかし、そんな話まったく聞かなかった……気がする。

いや、最近は師匠と二人っきりで修業ばっかりだったからごく最近の話はしらないが。

「まあいいか。オレはさ、どうしても金が必要なんだ。それで、なるべく強い奴と組みたい訳。もうほとんどの奴がチームを組んでる。フリーな奴の中で誘えそうな奴って言ったら、お前さんくらいしかいなかったんだよ」

「はー、なるほどね」

今回の大会、チームを組む奴等が多いのか。

その年によって一人が多い時やチームを組む奴等が多い年とかあるとからしいが、今年はそうなったようだ。

確かに一人のままでは不利だ。

「……だからと言って、あなたのことを信用できない」

「まぁ、そうだろうなー。予選が終わる前に返答してくれたらうれしい」

まるで、こちらがYESと応えることを前提にしているような声色で、彼はそう言うと後ろを向いて歩き去って行った。

 

エスター、か。

知らないし、聞いたことの無い名前だ。

セレネの正体には驚いたが、あいつは一体何者だ?

とりあえず、姿を消す事の出来るラウドを持っているようだったけど、どんな効果で姿を消しているのかよく解らなかった。

予選は今日を入れてあと三日。

気を引き締めていく必要があるようだ――。

 

 

 

 

 

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