liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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理由

予選五日目

 

 

 

「ヴァンガードがここまでコテンパンに敗れるとは」

遅い朝食を取りながら、セレネは言う。

現在、予選五日目。最終日。

ちなみに、食べているのはヴァンガードの隠れ家に置いてあった食料をかってに頂いていたりする。

意外と自分で調理をするのか野菜やら調味料やらが豊富で、調理器具も揃っていた。

が、調理なんぞ面倒。

そのまま食べれる物を拝借していた。無論、返すつもりはない。

「そうだなー……」

応えるエスターの返事はどこか心あらず。

それにムッとしながら、何をする訳でもなくただ朝食を食べ続ける。

昨日、予選突破に必要な人数を倒して来た。そして、なんとなくここを覗いてみたら丁度エスターと鉢合わせ。

聞いたところによると、ボロボロになっていたヴァンガードをエスターが回収して来たらしい。

 

情報屋エスター。

この男は得体が知れない。

情報屋といっているが名を聞いたことが無い。そのくせして、自分の事を知っている様子。

そんな彼が、なぜヴァンガードの元に来たのか。

ロディウスに言わせれば、セレネも十分不審で得体が知れないのだが、自分の事は棚に置いてセレネは考えていた。

ヴァンガードは傭兵であり、最近はどこかの有名な剣士に弟子入りして逃げて来たらしいが、会った時は何も知らなかった。しかも、この話の大半も、エスターから聞かされたものだ。

今でも彼のラウドもこの大会に出る理由も知らない。

それでも……ともかく、自身はどうしても知りたい事があったためにチームを組もうと言った。

では、エスターは?

エスターはなぜヴァンガードとチームを組みたいと思ったのか。

知りたい。

が、そんな事を聞いてどうするのかという思いもある。

「でも、まぁしょうがないんじゃないか? まさかネームレスがいるなんて思ってなかったし……」

「本当に、ネームレスとやらに?」

「あぁ。なんだか知らないけど、止めをさす前に逃げちゃったけどね。ロディウス君は運が良かったみたいだよ」

「……強いのか、そのネームレスとやらは」

ネームレス……。名前だけは聞いたことは在る。

傭兵でも騎士でもない彼の事はまったく調べてこなかった。情報が無い。どうせ、この大会に出ないと思っていたから。

ヴァンガードはまあ実力はある方だと思う。傭兵として幾つもの戦場を歩いて来た実績。そして、昨日の戦いを見て来た。

その彼があそこまで一方的にやられるとは。

「んー、有名どころな話だと、死神って言われるだけあって、歩いた後には死体しかないとか」

「……」

エスターは自身を情報屋と名乗っていたが、そんな噂話程度の情報しかないのか。

それくらいしか情報を持っていないのか。

そう思いつつも、ヴァンガードが負けた理由を考える。

 

ヴァンガードは普通の人間達の間なら強いだろう。

しかし、ラウドなしでも天才、鬼才、天災なんて言われる外れた者たちとは?

彼等とでは埋めようの無い差がある。無論、自身も。

ネームレスは常識はずれの者の一人、ということ、か。

「……ただ、彼はもしかしたら複数人いるんじゃないかって話だぜ?」

「複数人? チームでも組んでいるのか」

と、考えていた理由の根底を覆す話を聞かされる。

数の暴力はどうしようもないものがある。

が、それならそれでヴァンガードなら対処のしようはあったのではと思うのだが。

「いや……毎回、違うラウドを使うとか、複数のラウドを操るとか、そんな噂に事欠かないのさ」

「ありえないな」

ラウドを複数持つ? ありえない。

少なくとも、これまでの歴史の中で、そんな輩は存在しなかった。

それに、能力が多いなんて代償が酷くなるだけだろう。悪くすれば寿命を削るだけ。

手数が増えるメリットより、デメリットが多い。

「なんでもいいから、頭上で話さないでくれるか?」

その噂のネームレスにぼこぼこにされたヴァンガードが眼を覚ました。

 

 

 

 

「……なんでもいいから、頭上で話さないでくれるか?」

頭上でかわされる会話に目が覚める。と、すでにあたりは昼だろうか。

明るい部屋の中には、セレネとエスター。

最悪の目覚めだ。

体中包帯を巻かれ、状態は最悪、気分も最悪。

いつの間にか、この二人に助けられてしまったようだ。礼を言わなければ。

身体の調子を確かめるが、どこもかしこも傷だらけ。今襲われたらひとたまりもないだろう。

刺された傷はそこまでひどくない。大丈夫そうだ。

今日一日耐えれば予選突破できる。それだけが唯一の救いだ。

しかし、考えなければならないことはたくさんある。

 

……ネームレスに完敗した。

頭上で話していた会話。彼もこの大会に参加しているということは、優勝を目指すのなら、かなりの確率で絶対に相対することとなる。

しなかったとしても、彼と同等もしくはさらに格上の者たちと戦う事になる。

このままでは、いけない。

この大会で気をつけなければならないのはネームレスだけじゃない。

開幕時、集まった時のあの場所には多くの有名な戦士たちがいた。

 

「……セレネ、エスター、さん」

「なにか?」

「どうしたー、少年」

声をかけると、二人は普通に接して来る。

いや、ついこの前会ったばかりの彼等の普通なんて、俺にはまだ解らないが。

「なんで、オレと組もうなんて思ったんですか?」

「そりゃ、この前言った通りだが?」

すぐに、エスターは返して来る。

それに対して、セレネは無言だった。

何かを、考えているようだ。

「セレネ……?」

「……知りたいからだ」

「え?」

知りたいって……な、なにをだ?

首をかしげる俺と何やら無表情のエスター。対するセレネの顔は暗い。

そして、いつもの冷徹な笑みを浮かべることもなく、たんたんと口を開いた。

「私のラウドは、強奪。常時発動型のため、私には操作することはできない。私に触れた者の意識を奪う。他にも体温を奪ったり、命を奪う事すら可能だ。だから……私に触れることが出来るのは、ラウドを無効化する力を持つ者だけだ」

「……」

「へー、そりゃ面白い。でも、いいのか? オレらになんか教えちゃって」

エスターが、愉しそうにセレネに問う。

その横で、俺は何も言えなかった。

 

俺は、彼女に触れた。

四日前。そう、開会式の終わった後、あの時。それなのに無事だった。

そして納得もする。

だからあの時、彼女は驚いていたのか。

触れば発動してしまうはずのラウドは発動した形跡が無いから。

俺のラウドについて聞いてきたのも、そのため。

欠けていた物がようやく合わさる。

……罵倒する方が多かった気がするが。

 

それはともかくひとまず置いておこう。

それよりも、気になる言葉を聞いた。

常時発動型のラウド。

それを者は総じて寿命が短いという。

どんな時でも代償を払い続けなければならないからだ。もちろん、その人によって代償は変わるから一概に言えないが。

なら、セレネも?

彼女の代償は知らない。

きっと、彼女も言わない。

「情報屋、ちゃちゃを入れるな……ヴァンガード、お前のラウドは一体何なのだ」

彼女に言うべきなのだろうか。

……セレネは自分のラウドをバラした。それがどれだけの弊害を招くことになるのか、彼女なら解っているはずだ。

能力を教えるという事は、弱点をばらす事。

反則的な能力(ラウド)でも、条件があったり代償を払わなければならない半端な能力(ラウド)だ。どれだけ便利なラウドでも、大抵は弱点がある。

代償が即効性もしくは酷く体力を消耗したりそれに準じる物、発動に条件が必要、効果が出るのに時間がかかる……。それに対して、対策を練られては、たまったものじゃない。

俺の場合、未来予知する暇もないような高速攻撃や予知しても避けられない広範囲攻撃をされれば弱い。それを知られては、勝率が下がることは確実だろう。

彼女のラウドなら、なるべく接触しないようにと動かれれば実力の半分も出せないだろう。

「無効化やそれに該当するラウドじゃない。……予知系の能力だ」

我ながら、甘いと思う。

これから裏切られないと分かりやしないのに。

それでも、そのリスクを承知で言われたら、応えない訳には行けないなんて思ってしまう自分がいた。

それに、そこから導き出される結果も、彼女は知っておくべきだと思ったのだ。

「ならっ、なぜあの時は平気だったんだ!!」

予想通り、彼女は掴みかかる勢いで聞いて来る。

わざと触るようなことはしない。

「こっちも分からない。むしろ、そっちの問題だったりはしないのか? 一部の人間には聞かないとか、常時発動型でも時々発動を停止するとか……常時発動型だとしても、本当に『常時』なのか?」

「そんなわけ……ない……」

言葉が頼りなく揺れる。

彼女も、それを考えていたのだろう。

俺は、未来を予知する能力しかない。今まで、それで戦ってきた。

セレネは視線を落として、考え込み始める。

当然だ。今まで普通に使っていたラウドに自分の知らない弱点や欠点があったとしたら命取りになる。戦いの中で分かるなんて考えたくもない。下手をしたら対戦者にばれて不利になるかもしれない。

「で、エスターさんはどんなラウドを使ってたんですか」

「え? この流れって、オレっちも言えって事?」

なんでもいいから体をくねらさないで欲しい。気持ち悪い。

「これから、本当にチームを組むとするなら、メンバーのラウドを把握しておかないといけないと思います」

「おっそれなら、ロディウス君こそさっきみたいに曖昧にぼかした説明じゃ無くて、しっかり説明しないと」

正論だ。つっこまれては仕方ない。

「……未来予知。自分と周囲にかかわる未来を一日までなら見ることが出来ます」

「なるほどねー。だから、ほとんどの戦いを先制することが出来たのか。俺と最初に会った時も、オレが襲って来るってわかってたのか……あっ、オレは、画像転送ね」

「画像、転送?」

軽く言うエスターは、自分のラウドをばらす事に別段思う事は無いようだ。

それにしても、画像をどこに転送するって言うんだ。と思うが、少しだけ思い当たることがあった。

エスターと初めての遭遇時。そう、姿が見えなかったあの時だ。

「まさか、自分が居ない景色の画像を俺に見せて姿を消していた……?」

「おっ、その通りっ! 姿を隠していたんじゃなくて、相手に別の風景を見せて見えない様にしていただけなんだよね」

からから笑うエスターに、思わずあきれかける。

誰かに画像……周囲の風景を見せる能力なんて、はじめて聞いた。

しかも、それを実用して戦闘に使うなんて。エスターを、もう少し注意したほうがよさそうだ。

そもそも、それが本当の能力なのか分からない。此処まで簡単に教えられると、逆に疑いたくなる。

本当だったとして、隠していることもあるだろう。

「それにしてもさ、セレネちゃん。よく考えなくても、けっこうバランスのいいチームじゃないの、オレら」

「そう……?」

『未来予知』で先制をする俺と『強奪』で共に襲撃するセレネ。そして、『画像転送』で敵を撹乱するエスター。と言ったところか。

バランスが良いのかどうか、はっきり言って他二人の実力を見た事が無いこちらとしてはよく解らない。

「とにかく、これからよろしくなっ。三人で、どうにか優勝目指そうぜ!」

「貴方も暑苦しい人か。まぁ、優勝はしなければならないからな、よろしく」

エスターとセレネは普通にこれからの事を話していた。

 

優勝……出来るのだろうか。

俺は自分を弱くはないとは思っていた。

でも、強い訳でもない。

ネームレスと遭遇して、それを痛感した。

相手にならなかった。赤子をひねるように簡単に、こちらを圧倒した化物のような人間。

それを見かねたのか、エスターが口を開く。

「ロディウス・ヴァンガード。……オレも、悩んだことはある。やらなくてはならない使命がある。それにもかかわらず、オレは弱かった。だから仲間を作ろうと思ったんだよ。お前(じぶん)一人じゃ勝てないかもしれない。でも――」

言葉を切る。

「一人じゃなければ、どうにかできるんじゃないのかって」

恥ずかしがらずに言いきったエスターは、どこかの物語の主人公のようだった。

俺じゃ言えない。

今まで、そう言う事を考えてこなかったから。

自分一人で勝ち残ろうとしていたから。

 

そして、思う。

 

「……エスターさん、リーダーにするか」

「同意」

「ちょ、ちょっと待て! なんでだっ!!」

チームにはリーダーが必要だ。

その役にはエスターになってもらおう。

「エスター、これがチーム用の書類だ。書いて提出しておいてくれ」

「リーダーと言いつつ、さっそく雑用っ?!」

セレネの同意は面倒事を押しつけたかったからのようだが。

とにもかくにも、明日から三カ月に及ぶ本戦が始まる。

だから、よく解らないうちに会って、よく解らないうちに仲間になってしまった正体不明の二人に言っておこう。

 

「とりあえず、これからよろしく」

 

 

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