liegen -半端者等の祝祭-   作:Lune-Moca

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戦いの前に

 

 

 

 

「さーて、はじまりました、ノースヴェルド武道大会本戦っ! その前に、皆さんに対戦相手を発表します」

 

ざわめく会場に、司会は声を張り上げた。

かなりの騒音だというのに、その声は会場中に響く。

拡大のラウドを持っている彼は、自分の声を拡大させてあたりに響かせているらしい。

「おー、始まったなっ、本戦」

横のエスターは、持っていたカメラで周囲を撮影しながら話しかけて来た。

「目立つからやめてくださいよ」

ただでさえ、まっくろくろすけなセレネで目立っているのだ。

しかも、包帯巻いた俺の姿は微妙に浮いている。

本当はまだ出歩くのはつらいのだが、これに参加しないと本戦の出場が認められない。

ベッドから離れられないような重症でもないからまだ良かったが。

一部じゃ、本選出場の資格を手に入れても、この会場にこれなくて失格になった人がいるらしい。

 

そんな中、司会の人や説明係らしい人が出てきてこれからについて話し始める。

でも、エスターの会話は止まらない。

一応、詳細が表に張りだされるらしいから聞き洩らしても大丈夫だが、それでいいのか情報屋。

「だって、十四年に一度なんだぜ? 十四年後に生きてるとも限らないし。なっ! セレネちゃんっ!」

むしろ、熱く語り始めていた。

「五月蝿い」

「ひどいっ」

一刀両断のセレネ。聞いているこっちがすがすがしくなって来るほどだ。

それと、エスター。俺はまだまだ死ぬ気は無いぞ。

 

 

俺たちは、結局チームを組むことになった。

いろいろとセレネとエスターがもめたりしていたが、やっぱり女子は強かったとだけ言いたい。それ以上言うと、トラウマが蘇りそうだ。

俺は叶えたい願いがある。セレネはとりあえず優勝。そんでもってエスターは賞金が目的。ちょうど、ばらばらの目的だったから、それに関してもめることはなかったのが幸いだった。

「はぁ……なんでこうなったんだか……」

「あら、男の子がため息なんてついちゃぁダメよ。そんなんじゃぁ女の尻に敷かれちゃうわ」

「……もう、敷かれている気がしますよ」

誰だか知らないが、後ろにいたのは黒髪の女性。普通に話してしまったが、大会出場者の一人の様だ。

肌を晒しまいとしているセレネとは正反対の服装に、思わず目をそらしてしまう。

彼女はそれに笑いながら、でも真剣な顔で話しかけてきた。

「アナタ、エルディータの子に目をつけられちゃった子でしょう?」

「エルディータ……? あ、あぁ、ヴィクトールの事ですか?」

目につけられたというか、勝手にライバル認定されたというか……。そういえば、あいつはどこに居るのだろう。

面倒なんで、なるべく会いたくないのだが。

「それに、あの子にも」

「え?」

あの騎士以外に、別に目をつけられた覚えは……ネームレスか?

いや、それは無い。

あの時、目をつけられるような戦いじゃなかった。

どういう意味か、視線を向けても黒髪の女性は意味深な様子で明後日の方向を向いていた。

そもそも、この人は誰だ?

何が目的で俺に話しかけてきたんだ?

「あっ、エクレアさん!!」

その向こうから、少年が人込みをかき分けてこちらに手を振りながら走って来た。

どうやら、エクレアというのが彼女の名前らしい。

「あら、ジーク。貴方も大会に出場してたのね」

「ジーク?」

どこかで聞いた名前だ。

どこで聞いたのか、思い出す前に話はどんどん進んでいく。

「お久しぶりですっ。まさかエクレアさんもこの大会に出場していたなんてっ」

どうやら、二人は既知の間柄のようだ。こっちは完全に蚊帳の外。

別に、知り合いじゃないから話す事もないし。

それにしても、ジークと呼ばれた彼は俺よりも年下。それなのに危険な大会に参加するなんて。……いや、予選を越えたのだから、それ相応の実力が在るのだろう。

「それじゃぁ、アタシはもうちょっと散策しようかしら。じゃあねー」

突然やってきて、そこまで話す事もなく去って行くエクレア。

ジークにしても、こちらに軽く会釈をするとどこかに戻って行った。

「なんだったんだ……」

「なぁなぁ、さっきのべっぴんさん、知り合いか?」

静かになったと思ったら、早速エスターが話しかけて来る。

いや、確かに綺麗な人だったけど。

「初めて会った人ですけど」

「……セレネちゃんがすごく睨んでいたんだが」

「え?」

セレネの方を見ると、確かにエクレアが消えた方を見ている。

だからと言って、睨んでいる訳ではない。

「……気のせいじゃ?」

「いやいやいや、めっちゃくちゃ怖かったんですけどっ……セレネちゃんって、時々謎っ」

自称情報屋の正体不明なエスターには言われたくはないだろう。

こちらからすれば、どっちも謎すぎる。

「あっ、それとさ、さっきっからロディウス君のこと見てる奴等がいるんだけど?」

「え?」

あたりを見回すと、冒険者や傭兵、俺でも知っているような奴等が辺りにいる。

その中で、こっちを見ているのは……探して行くうちに、会いたくない知り合いの顔を見つけた。

「げっ」

いそいそと隠れようとしても、遅い。

さっきっから気づかれてたのなら、意味が無い。

「よぉ、ロディ」

俺をロディと呼ぶ人は限られている。

俺の同年代で、一緒に戦っていた数名の……仲間。

「げってなんだよ、げって。久方ぶりだってーのによ」

紅髪碧眼、一度見たら忘れない容姿。

何度か共に戦った戦友と言うか、悪友と言うか……とりあえず友人、フラムだった。

俺よりも先に傭兵として様々な国へ行っていたらしく、先輩でもあり、最初の頃はよく世話になった。だから、あまり強く出られなかったり。

その後ろには、やっぱり何度か一緒に肩を並べて戦ったテネブエラと知らない奴がいる。

「おっ、ロディウス君の友人? へー、チームを組まない一匹狼だと思ったら、きちんと友人がいたんだね」

エスターがわざわざフラムの前に行って観察をするように見る。

それに対してフラムもエスターを凝視。

沈黙。

そしてなぜかその数秒後にがしっと手を結びあっている。

なんでだ……。

突然の固い握手に、頬がひきつる。

前々からよく解らない奴だと思っていたが、一体全体……。

「あんたとは、仲良くできそうな気がする」

「おっさん、ボクもだ」

「……おっさん、か」

ただし、エスターはおっさん呼ばわりされたことに衝撃を受けたようだ。

まぁ、おっさん呼ばわりするのは少し早い年齢かもしれない。

その後ろにいたテネブエラが声を押し殺して笑っていた。

「もしかして、僕がこのチームにはいることになった要因の人ですか?」

そう話しかけてきたのは知らない青年。

礼儀正しく見えるが、どこか胡散臭い。

「あぁ、そういや知らんかったんだよな。だちのロディウス。俺たちを裏切っておっさんのチームに行っちまった薄情者だ」

「いろいろあったんだよ、すまんって」

いろいろというか、師匠に脅されていたから断ったりいろいろあったのだが、それをフラムは知らない。

まぁ、教えるつもりもないけど。

「ん? ロディウス君、この、オレの心の友と一緒にチーム組む予定だったのか?」

「いや、誘われてたけど、それを断ったんです」

でもって、何時から心の友になったんだ。一瞬の邂逅と握手だけでそこまで進んだのか。

二人の共通点が見えない。

「あ、ボクの事はフラムでいいっすよ? フラム・ベイカーです、以後よろしく。でもって、こっちはテネブエラ。テネブ君。で、こっちはアルフ君」

テネブエラが会釈をして、アルフという青年はじろりとにらんで来る。

なんだか感じが悪い。というか、なんかこっちを嫌らっているような視線だ。

「フラム君か、オレはエスター。あっちはセレネ嬢」

「わかったよ、おっさん!」

「お兄さんって呼んでくれて構わないぜ!」

「了解だ、おっさん!」

なんだ、この会話は。仲が良いのか悪いのか、判らない。

いや、なんかいい笑顔で話しているから仲はいいようだが。

そんな中で、アルフはこちらをじっと睨んでいた。

エスターとこっちを交互に見て来る。

「なるほど……名前だけは聞いたことが在ります。まぁ、負ける気はありませんけどね」

「へー。こいついい性格してるな」

「だろだろ。面白いから仲間に誘ったんだ」

「ロディウス君の知り合いは面白い人ばかりだなぁ」

エスターの言葉に笑いながら、フラムは少し離れた場所にいたセレネに目を向けていた。

「おっさんも面白い人だな。ロディを誘うなんて。しかも、女の子もいるし。いいなー、女の子。紅一点。暑苦しい、むさい男の中の一輪の花! その香りは、きっとフローラル……っ!」

どんどん、話の途中からテンションが上がっていく。

「お前の少女像……すごく、美化されてるな」

羨ましいよ。

俺が素直に女の子に憧れていた時期は、すでに過ぎ去った過去のことさ。

「だって、美人さんだぞ?」

「外見で判断するなよ……。あの女は怖ろしいきょう……」

危機を察知して、言葉を止めるがわずかに遅かった。

小柄な影が、気配もなく……来る!

「ヴァンガード、彼等は誰だ?」

いつの間にか傍にいたセレネに頬がひきつった。

「ゆ、友人、知人、デス」

「ふむ、そうか」

よ、よかった。聞こえてなかったようだ。

いや、油断はいけない。なんせ、一夜で数十人の騎士を倒した『氷の魔女』なんて異名を持つテロリストなのだから。

「ほんと美人さんだな……ま、まさか、貴様俺たちを裏切ったのはそう言う事かっ?!」

その声に、テネブエラまで動く。

「な、なんだとっ? おれ達に秘密裏にっ?」

そのスピードは実戦並み。

これまで、二人は幾度も共に戦場を駆け巡って来た。そこで培ってきた絶妙なコンビネーションを駆使して俺に逃亡経路を封鎖する。

「ちがうっ!」

なんでそう言う話題に行こうとするんだお前たちは。

でもって、こんな所で本気になるなよっ。

……ちなみに俺ら三人とも女はいない。過去、現在、共にである。

「ロディウス君、酷い人っ。オレ、泣くよっ?!」

「って、なんでエスターさんまでっ」

そもそも、セレネを手伝って、俺んちまで来たのは貴方だろっ!

あと、男の泣き真似はちょっと。

「そうだよな、泣きたくなるよな。女の子とお話ししたい、すれ違った時に会釈だけでもしたい、落しものを届けてあげたい、けど遠くから眺めているだけで僕らはきっと満足している同盟を裏切りやがって」

「そうだ、そうだ!」

「なんだよ、その同盟っ。でもって、名前なげえよっ」

つーか、絶対に今即興で作っただろっ。

あまりにもつっこみどころが多すぎて、つっこみが間に合わない。

なぜかエスターまであいの手を入れて来てるし。

すると、何事か考え込んでいたテネブが、酷く真剣な様子で肩を叩いて来た。

そして一言。

「裏切り者には死ヲ。だとおれは思うんだよね。そこんとこどうだろう、友人R」

「そうだ、そうだ!」

「テネブっ、お前は明らかに煽ってるだろっ!」

「嗚呼、うん、そうだよ」

「ふつーに肯定するなよ……」

テネブは根は普通の人なのにっ。俺の近くでたぶん一番常識人のはずなのにっ。

なんでこう周りを煽ったり煽動したりノリでいろいろ言ったりするんだよっ。

 

 

不毛な会話はそのうち収拾がつくものだ。

数分後、どうにか場が収まると、いつの間にかセレネが遠くの方にいた。

なんだか、気力とか生気とか生きるために大切な物とかがごっそり無くなった気がする。

「まぁ、なにが言いたいかと言うとね、ロディウスよ。とりあえず、あの人はいるし、ロディウスは裏切って女の子といらっしゃるし……ボクたちは優勝諦めたよ」

「は?」

始まってもいないのに、最初から弱腰だ。こいつらしくない。

あと、女の子は関係ないだろ。

「あの人って?」

「……お前、知らないのか?」

「いや、だからなにが? あの、ネームレスが参戦していたことだったら知ってるけど……」

「げっ、ネームレスかよっ。あれ、噂の産物じゃなかったのか? それはそれでなんかもう絶望的なんだが……とにかくさ、お前の師匠サマが、来てたんだよ。ロディ、聞いてないのか?」

「え?」

師匠が?

 

あの、師匠が?

 

「うそ、だろ……」

本気か?

あのヒトが大会に出場なんて、冗談じゃない。

「へー、ロディウス君に師匠いたんだ。どんな人なんだ?」

何も知らないエスターは、興味津々で聞いて来る。

何も知らないがゆえに。

「最悪だよ」

「さいあく?」

乾いた笑いが口からこぼれる。

本当に、最悪だ。

この大会に出るため、修行中でありながら師を謀ってここまで逃げて来た。

きっと、あの師匠の事だから微笑みながらこちらを叩き潰して連れ戻すためにやってきたはずだ。

それにしても、わざわざ大会に出場するなんて。

冷や汗が……さっきっから止まらない。

いつ、かの師が人込みをかき分けて近づいてこないか。おもわずあたりを見回して探そうとしてしまう。

「エ、エスターさん、俺を、見えなくすることってできませんか?」

「ここまで人数が多いと、無理」

「っく……」

今、見つかるのはまずい。

そして、大会を勝ち進む中で相対すのは絶対に回避したい。

はっきり言って、絶対に会いたくない。本気で会いたくない。

あった途端にぶちのめされること確定だ。ぜったいにっ。

「そこまでやばいのか?」

こちらの様子にただならない物を感じたのだろう。エスターが、首をかしげる。

「……ヤバイ」

強いだけじゃない。ただ強いだけなら、自分に勝機はある。

弟子と師匠と言う事は、どちらも自分たちの手はばれている。師匠に対して、対抗策を用意することは容易だ。

もちろん、もろ刃の剣であり、自分の実力もばれているということだが。

それだけなら、まだいい。

「強いだけじゃない……俺にとって……天敵とも言えるラウドの持ち主だ」

 

 

 

 

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