悲しみの向こうへ、バンドリ   作:娥乱 瞳

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皆さん、不束者ですがどうぞ、よろしくお願いします。
 
それでは、どうぞ!


1.音のない世界

 夢を見ていた。

 

 姉と妹、そして自分。3人で、くだらない話をして笑いあっていた。

 

 熱心にじゃれつく妹。それに困る素振りを見せながらも、楽しさを隠しきれない自分。そんな2人を、暖かな眼差しで見守る姉。

 

 まだ幼い頃の夢だ。いや、今でもそれは夢足り得るかもしれない。

 

 いつからだろうか、姉に遠く離れた距離を感じるようになったのは。

 

 いつからだろうか、妹に隔絶した才能を感じるようになったのは。

 

 自分の存在は、姉と妹、両者の重荷になっているのは分かりきっている。けれど、そんな関係を切り崩すには、あまりにも自分は非力すぎる。

 

 何か自分は、変わることが出来るだろうか。

 

 もし変われたのなら、あの日の3人を取り戻す事が出来るだろうか。

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん……おはよう!」

 

 目を開けて、いの一番に飛び込んできたのは、視界いっぱいの少女の顔だった。スッと通った鼻筋、快活にパッチリと開いた瞳、浅葱色の短めに切り揃えた髪の毛――妹の、氷川(ひかわ)日菜(ひな)だった。

 何故、妹の顔がこんなにも近くにあるのか。答えは至極簡単である。俺――氷川(ひかわ)観月(みづき)――は、横を向いていた睡眠姿勢から、上体を起こし、起床の準備をする。

 

「……また俺のベッドに潜り込んで」

「だって、たまたま早く起きたんだもん。そしたらお兄ちゃんのところへいくのが、一番るんってくるよね!」

 

 理由は、妹が寝ている隙にベッドに入り込んでいたからだった。妹は、お互いにもう高校二年生だというのにも関わらず、こうしたことがそこそこある。俺より日菜が早く起きた時は、大抵そうだった。そして、ベッドに潜り込んでは、俺が起きるまでジーっと顔を見つめているのだ。

 

「俺の寝顔なんか見ても面白い?」

「面白いよー」

「……さいですか」

「うんっ!」

 

 妹の感性は、贔屓目に見ても一般的とは言い難い時が多々ある。これもその一部に違いない。

 

 そして、今日は平日だ。健全な学生にはある責務がある。そう、学校へ行くため、毛布にしがみつく妹を引剥して、朝の支度へと向かう。

 

 俺の家こと、氷川家のリビング。

 

 ベーコンエッグ、トマトサラダ、コーンスープ、そしてアイスティー。食卓に並べられていたのは、模範的な朝食だった。ベーコンエッグの微妙な出来具合の違いからして、今日は日菜が朝食を作ったのだろう。日菜に礼を言うと、「いつもはお兄ちゃんかお姉ちゃんが作ってるからたまにはねー」と返された。

 

 俺と日菜以外に物音はない。そこまで遅くまで寝ていた訳ではないが、今現在、俺と日菜以外にこの家に人はいない。

 

「日菜、姉さんは?」

 

 答えなど粗方分かっているが、会話の繋ぎというか、それでも確認はしておきたいというか、そんな気持ちで問い掛ける。

 

「お姉ちゃんなら、またバンドの練習ー」

 

 予想通りだ。俺の姉――氷川(ひかわ)紗夜(さよ)は、朝早くから家を出て、ギターの練習をしているのだ。ちなみに、父と母は仕事が忙しく、家に帰らない日の方が多い。よって、姉さんがいないとなると、日菜と俺の2人だけになる。……最後に姉さんと朝食を食べたのはいつだったか。

 

 朝早くからの練習。そう、姉はバンドに所属している。ガールズバンド、Roselia(ロゼリア)。姉はそこで、ギターを務めている。

 

「日菜は、そっちの活動の練習しなくてもいいの?」

 

「あたしは別にいいかなー。一回で覚えちゃうし」

 

「……そっか。今日も『パスパレ』の活動?」

 

「うんー。今日は放課後から夜までだけど!」

 

 方や妹も、アイドルグループに所属していた。Pastel*Palettes、略してパスパレ。妹も同じく、そこでギターに位置している。

 

 ロゼリアが、本気で演奏をする――無論、パスパレを本気ではないような、貶めるような意味ではないが――ガールズバンドなのに対して、パスパレは、事務所所属のアイドルによって結成されたアイドルグループのバンドだ。方向性は、犬と猿、タカ派とハト派くらいに違うものの、二人共ギターであるのは、弟であり兄でもある自分としては、何となく嬉しかった。

 

「今日は俺、バイトだから迎えに行けないな」

 

「えー! 今日のやる気スイッチがたったいま無くなっちゃったじゃん!」

 

「まあ、何か買ってくるから許してくれよ。社割り効くしな」

 

「うーん、まあ、及第点!」

 

「それはよかった」

 

「まあ、お兄ちゃんの買ってくるものならなんでもいいけどねー」

 

 そうこうしている内に、家を出る時間が近づいてきた。日菜は寄り道で遅刻しやすいから、早めに出なくてはならない。

 

「日菜、そろそろ行こうか」

 

「あ、うんー! ってお兄ちゃん今のスルー?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、バイト先へと急ぐため、いそいそと友達と別れてきた。丁度空を彩っている夕焼け空が、素直に綺麗だと思った。

 

 姉は花咲川女学園二年、妹は羽丘女子学園。勿論、俺は2人とは違う、地元の男子校に通っている。俺たちは三つ子だ。三つ子であるのに、いや、三つ子であるからか、三人共高校がバラバラである。俺は特に問題さえなければ、地元の共学の高校でも良かったのだが、妹の強い勧めにより、男子校に入ることとなった。

 

 俺の名前、『観月』という名前は、姉にならうように名付けられた。『紗夜』、夜空には美しい月がある。すくすくと育つ姉という月を見て自分もまた、健やかに成長してほしい。また、『紗』という字には繊細という意味があり、そんな姉を見守っていて欲しいという由来から、観月と命名したらしい。

 

 そして、妹の『日菜』という名前は、姉と俺にならって付けられた。太陽、即ち『日』とは、月を照らす存在だ。そんな風に、妹には俺と姉さんを明るく照らし出す太陽、暖かな菜の花のような存在になって欲しいと、命名したという。

 

 事実、妹は俺にとってかけがえのない存在だ。妹のいることで、何度救われたかは数え切れない。命名通りに明るく育った妹。親冥利に尽きるだろう。

 

 方や俺は、どうだろうか。

 

 健康に以上もないし、大病も大怪我もないから、そこは問題ない。

 

 しかし、もう一つの方は?

 

 俺が姉さんを、見守る――烏滸がましいにも程がある。

 

 小さい頃から姉さんを見て育ってきた、姉さんのすることは日菜と揃って真似をしたし、姉さんのような人間に成りたいと思っていた。

 

 ただそれは、憧れであるだけだ。見守るとは言わない。そして、今ではもっと醜い。

 

 今の俺は、姉さんを見ているだけだ。姉さんが、いつの日からか俺と距離を置くようになって、そこからは、ずっと一方的に見ているだけだった。

 

 それも、最低の理由でだ。

 

 いつからそうなったのかは、分からないが。

 

――俺は、姉さんに、姉という存在に、抱いてはいけない感情を抱いている。




三つ子の生まれる確率は、数十万分の一みたいですね。

 次回、彩ちゃん花音ちゃん登場です。
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