ご理解頂けると嬉しいです!
時刻は午後一時すぎ。土曜日だということもあって、町中は程よい賑わいを見せていた。
今日は土曜日といえど午前中のみ学校があった。俺の通っている学校はそこまで頭の良い学校とは言えないものの、悪いとは言えないような、そんな微妙な学校なので、土曜日は授業があったりなかったりする。まあ、学校の授業内容についていくのには問題ない。……ただし日菜に教わっている限りという条件が付くが。
急いで目的のカフェを探す――弦巻さんと昨日約束したからだ。指定された時間には余裕があるものの、もし待たせていたら悪いので、なるべく早くに向かっておきたかった。
町の喧騒をそこそこの早歩きで縫って歩き、目的地に辿り着いた。中に入ると、向かってきた店員の方に「待ち合わせです」と告げて、店内をぐるりと見渡した。目印は目立つ金髪である。
いた。輝くような金髪に、元気の塊のような瞳。弦巻こころ、その人に間違いはない。こちらが発見すると同時に、向こうもこちらに気がついたようで、目を合わせると笑顔で手を振ってきた。がしかし、予想していた光景とは違いかなり戸惑いを覚える絵面がそこには広がっていた。
まず、カフェの席にいるのは一人ではなかった。目測で5人ほどいるだろうか。弦巻さんには何も言われていなかったので、完全に一人だけだと勘違いしていた。おそらくだが、一緒ににいる内の一人は、近隣でも有名な『薫サマ』だろう。オーラが違う……ような気がする。
そして、何故かバイト仲間の松原さんも一緒にいる。いつの間に弦巻さんと知り合いになっていたのだろうか。松原さんはこちらに気づくと、驚いたように目を丸くして、弦巻さんと俺を交互に見ていた。
インパクトのせいで立ち止まっていたが、店内で立ち尽くしていても仕方がない。弦巻さん達が座っている席へと移動する。ソファ席が三人で埋まっているので、松原さんと薫サマが座っている向かいの席になるだろう。遠くから見ると、メンバーのせいでカフェ全体でもかなり異様な空気感を醸し出している一角である。
「遅かったじゃない! 観月!」
弦巻さんはそう言っているものの、言われて時間よりはかなり余裕が有ると思う。まあ、弦巻さんも別段怒っているような素振りではなく、この輪にはいってきた俺へ話を振る名目での指摘だろう。短く謝罪の言葉を口にして、席につく。
改めて、メンバーの様子を窺う。ソファ席の真ん中には弦巻さん。その両サイドには、面倒事に巻き込まれた感を丸出しにしている黒髪の女の子と、オレンジ色のショートカットの、弦巻さんに負けないくらい元気そうな女の子がいた。端の席にいる俺の隣には松原さんがいて、そのさらに隣りには、明らかに違うオーラを醸し出している麗人がいる。
とりあえず、残りの三人とは初対面になるので、名前だけは伝えておくことにした。
「氷川観月です。どうも」
一番最初に反応したのは、あの人だった。
「やあ、こころの気高きナイトくん……私は瀬田薫だ……薫でいい。突然の出会い……ああ、儚い……」
「うん、よろしく……薫」
予想通り、薫様だった。彼女は女子生徒にも関わらず近隣の女子生徒に人気である。言わずもがな、その美貌と劇口調な喋りのせいだろう。とにかく、与えるインパクトの大きい人だ。彼女の発言はほとんどマトモに受け取らないほうがいいというのは、今この会話のみで確信した。いきなり名前で呼ぶのはどうかと思ったが、この人に関してはそうした方がいい気がした。
続いて、弦巻さんの隣りにいた元気そうな女の子が口を開く。
「はいはーい! 私は北沢はぐみ! よろしくね!」
ハツラツとした挨拶からもうわかったが、この子は弦巻さんと同タイプだろう。元気があればなんでもできるタイプだ。そのスタンス、嫌いじゃない。
「あー、自分は奥沢美咲です。一応、どうも」
北沢さんに続いて、ついでに済ませてしまおうといった風に自己紹介をしてきたのは奥沢さんだった。この子は北沢さんや弦巻さんとは反対のタイプだろう。今も。やれやれ系ラノベ主人公のような雰囲気を身にまとっていて、一歩退いた感じがする。どちらかと言うと、俺はこの子と同波長だと思う。
後の2人は今更紹介し合うまでも無い仲にある。
女子だらけの場にいきなり俺が入ってきた為かは分からないが、自己紹介を終えてしばらく沈黙が流れる。すると、松原さんがおずおずという様子で挙手した。なんで発言するだけなのに挙手したのかは謎だ。
「何かしら? 花音!」
今更になるが、弦巻さんは一年生であるのにも関わらず二年生にもフレンドリーな接し方をする。俺は気にしていないが、松原さんにもそうということは全員にそうなのだろう。彼女に関して常識に囚われてはいけない。
「えっと、観月くんとこころちゃんって知り合いだったの?」
「ええ! 観月とは、『皆を笑顔にする同盟』を組んでいるわ!」
「そ、そうなんだ……」
微妙な反応を返す松原さん。まあ、当たり前の反応だ。俺も心の中で、「え、なんだそれは」となってしまった。もちろん、いつ組んだのかは覚えていない。そもそも今始めて聞いた。ただ、弦巻さんがそう言ったということは、彼女の中でそう結論づける何らかの会話を俺が行ったに違いない。否定するのも空気を悪くするだけであるし、デメリットがあるわけでもないので、そういうことにしておいたほうが良さそうだ。
ふと視線に気づく。
奥沢さんが、俺のことをジト目で見ていた。なんだろう、その期待して損したみたいな目は。ただ、奥沢さんが何を思っているかは大体分かる。大方、濃いメンツに普通そうな奴が来たと思ったら、そいつも普通じゃない同盟に参加していた落胆だろう。そうに違いない。
とりあえず、心の中の燻っていた疑問を弦巻さんにぶつけるとしよう。
「ところで、これは何の集まり?」
一瞬、場が静寂を支配した。弦巻さんのサイドから「何も言ってなかったんだ……」と小声で聞こえてきた気がするが、勘違いだろう。すぐに弦巻さんが口を開く。
「よくぞ聞いてくれたわ!」
待ってました、とばかりに胸を張る弦巻さん。薫はウンウンと頷いているし、北沢さんもニコニコしているから、俺以外のメンバーは知っている事柄なのだろうか。弦巻さんは、こちらに目線を合わせると、宣言した。
「これは、私達のバンド『ハロー、ハッピーワールド!』の集まりよ!」
バンド、バンドか。そうか、そう来たか。真っ先に姉さんのロゼリアが頭に浮かんだが、今考えることではないので無理やり考えを振り切る。しかし、そうなると俺が集められた意味が分からなかった。音楽の教養はゼロと言っても等しいし、弦巻さんに楽器経験の有無を言った覚えもない。その疑問を口にする前に、弦巻さんが追加で口を開く。
「観月には、バンド活動の手伝いをしてほしいの!」
なるほど、バンドと言っても演奏だけが全てではなく、その他もろもろの準備が必要ではある。そのサポートをしてほしいという事か。一先ず、最悪のパターンを回避出来たみたいでよかった。演奏する側になれと言われていたら、真っ先に断っていただろう。俺にそんな才能はない。
それにしても、何故俺がお眼鏡にかなったのだろうか。見たところガールズバンドのようだし、支援という形とは言えど男一人だけなのは違和感がある。
「弦巻さん、何で俺なの?」
何気なく口にしたつもりだったが、そう聞かれた弦巻さんは、何を言われたのか分からないと言った風に目をパチクリとさせる。
「観月、参加してくれないのかしら?」
何故、そうなる。まあでも、弦巻さんのことだし、特に理由は無かったりするのかもしれない。
少しだけ考える。バンド活動の補佐。それをしている暇はある。学校では部活に所属していないし、特にこれといった趣味があるわけでもない。松原さんと同じで、バイトも頻繁に入れているわけじゃない。
ただ、バンドと言われるとどうしても姉さんと、妹の事が頭を過ぎってしまう。もし姉さんに、演者ではないにしろバンド活動に関わっていると言われたらどう思われるのか……
「私は、観月が参加してくれると、とっても嬉しいわ!」
弦巻さんの笑顔には、邪気が微塵も感じられない。
「これ、よろしくお願いします……でいいのかな?」
俺は推しに弱かった。