悲しみの向こうへ、バンドリ   作:娥乱 瞳

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お久しぶりです。

ブランクがありすぎて文章がどうしても上手く書けないのですが、徐々に頑張ります。


8.彼女達と彼と

 未だに、観客の笑顔と熱気が瞼の裏に焼き付いているように思う。

 

 今日は待ちに待った、『ハロハピ』ライブの日だった。最初はこころが客席に飛び込もうとするハプニングがあったものの、演奏中の観客たちの顔を見ていれば、結果は大成功と言って間違いない。正直、あの短い期間でここまでバンドとしてライブを行うことができるとは、終わった今でも信じがたいものがある。しかし、それを出来るのが、ハロハピというバンドなんだろう。

 

「想像以上だわ! やっぱり、音楽で世界は笑顔になるのよ! もう間違いないわ!」

 

「こころ、うるさい。ライブ終わってみんな疲れてるから……」

 

「すっごいね、魔法みたい! みんな笑顔になっちゃった!」

 

「劇とライブ……ステージは違っても、観客に喜ばれるのはいい……」

 

「私も、緊張したけど……みんな笑顔になってくれて、嬉しかった……それに、楽しかった……!」

 

 それでもやはり、初めてのライブということで体力を消耗したのか、ライブが終わりスタジオの楽屋に戻ってきた皆の顔には、疲れが見える。だがそれ以上に、やり遂げた、という達成感がメンバーの顔を輝いたものにしていた。青春とは、こういうことを言うに違いない。

 

 帰ってきた皆に、心からの労いと賞賛の言葉をかける。

 

「皆、お疲れ様。思わず俺も笑顔になるような、良いライブだった!」

 

「それは良かったわ! きっとミッシェルと観月と、みんなのおかげね!」

 

 返ってきたこころの言葉に、ふと、複雑な心境が生まれる。俺は特に何かしたわけでもないのに、このメンバーの中に加わっていてもいいのだろうか。他のメンバーの同列に"おかげ"と言われる資格はあるのだろうか。ライブが終わったら何事もなかったかのように、スタジオを立ち去るべきだったのではないか……

 

「氷川さん」

 

 気づけばこころは、ネガティブな考えに没頭していたこちらを離れていて、他の3人と何やら騒いでいる。そして代わりばんこのように、傍に奥沢さんが来ていた。

 

「……どうした?」

 

「いや……私のおせっかいかもしれませんけど……考えすぎっていうのも、よくないと思うんですよ。特にこころ達を見ていると、尚更……あはは」

 

 奥沢さんは、奥の方で謎の踊りを繰り広げているこころ達を呆れたように眺めながら、そんなことを言った。

 

 ……この子は、読心術でも習得しているのだろうか?

 

 一瞬そんな馬鹿げた事を思ったが、予想以上に表情が暗くなっていたのかもしれない。奥沢さんはその普段のやれやれ系な態度とは裏腹に、他人をよく見ていて、思いやることの出来る、心優しい性格をしている。そんな彼女にとっては、活動補佐の男がこころの言葉を受けて、陰鬱な顔で何を考えているのかなんていうことは、簡単に予想がついたのだろう。

 

「……ここだけの話なんですけど、こころ、学校だと氷川さんの話ばっかりしてるんですよ……多分、それくらい氷川さんの事気に入ってるんだと思うんです……だから、これからもこころをよろしくお願いします、なんて」

 

 奥沢さんは、目をそらして、少し照れたように言った。一体どういう話をしているのか気になるところではあるが、そうまで言われてしまったら、自分の悩んでいたことが、ちんけな悩みに思えてくる。何を心配していたというのか。

 

 こころは俺のことを必要としてくれた。松原さんは、力になるとまで言ってくれた。他のメンバーも、受け入れてくれているように思う。ここでクヨクヨしていたら、きっと俺は何も出来ないまま腐ってしまうような気がする。

 

「……それは、是非よろしくされるしかないね。ありがとう、奥沢さん」

 

 自然な笑顔で、感謝を口にする。奥沢さんは何かを言いかけたが、「美咲ー! こっちよ!」というこころの呼びかけに反応するやいなや、微かにこちらを一瞥して、メンバーのいる方へ向かっていった。

 

 なんだか、最近周りの女の子に助けられてばかりな気がしてきた。軟弱者な自分に嫌気が差してくる……いや、ここでこういう負の思考に陥ってしまうから、ダメなのかもしれない。下向きな感情は、また別の悪い考えを呼び込む負のスパイラルを巻き起こすだけ、みたいな事がテレビだか本で紹介されていたのを思い出す。

 

 もう少し前向きに捉えることが必要なのかもしれない。それは、きっと姉さんの事だって――

 

「観月ー! 何してるの!」

 

 呼ばれてこころの声がする方を向くと、いつのまにやら黒服の人達が高そうなカメラをもってスタンバイをしていた。記念の集合写真でも撮るんだろう。自撮り棒を使って女子高生らしい写真の撮り方をしないのが、ハロハピらしいと思った。

 

 既に皆は準備完了のようで、残るは俺待ちだった。急いで向かう。

 

 俺は一番身長が高いので、後ろに立つ。前列に薫と俺以外の4人という並びである。

 

「ねえ、観月?」

 

 ふと、こころが後ろを振り返って俺を呼ぶ。

 

「なに?」

 

「私は、世界を笑顔にしたいのよ!」

 

 世界を、笑顔に。ハロハピの活動指針であり、こころがバンド結成前から俺にも言っていた言葉。

 

「だから、私は観月にはもっと笑顔になってもらいたいわ! だって、観月は私達のかけがえのない仲間だもの!」

 

 こころは、花の咲くような満点の笑顔で、曇りなど微塵も知らないような表情で、そう言った。この子は、普通なら恥ずかしくなってしまうような言葉を、正面からぶつけることが出来るのだろうか。"かけがいのない仲間"、そう真正面から眩しい言葉をぶつけられた俺は、光から逃げるように思わず他のメンバーに顔を向ける。

 

 ――みんな、俺を見ていた。そこにあったのは暖かい眼差しだけで、不出来な子供を見守っているような、俺にとっては居心地の良さと悪さが同居していた。

 

 俺の隣りにいた薫が口を開く。

 

「観月、君はこころのナイトなんだ……君じゃないのなら、誰が騎士をやるんだい?」

 

 他の面々も、次々と。

 

「はぐみ、みっくんともっと喋りたい!」

 

「氷川さん、数少ない常識人枠だから、いなくなられたら困りますよ……」

 

「私……このバンドで何か変われる気がして……観月くんには、一番にそれを見てほしいから……えと、だから……えと」

 

「つまり、観月はここにいないとダメなのよ! この6人で、ハロハピなんだから!」

 

 みんなが真正面から俺を受け入れてくれた。

 

 何かを口に出すことも、心の中で言い訳することもできなかった。

 

 奥沢さんだけでなく、5人全員に見透かされていた。そして、初ライブを終えて心身共に疲れているはずの5人に、気を遣わせてしまった。いや、この5人にとっては、気遣いをしたとは思っていないのかもしれない。当たり前のことをしたまでだと。

 

 それほど俺は分かりやすく暗い顔をしていたのか。しかしそれ以上に今は、確かめたい言葉があった。

 

「みんな……俺は、ここにいても、いいのかな?」

 

 言葉はなかった。頷いた彼女たちの笑顔が、今の俺にとっては何よりも力強い肯定だった。

 

 そんな俺達を祝福するかのように、シャッター音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 思えば今まで俺は、自分の居場所を探し続けていたのかもしれない。それまで居場所だったはずの姉さんが離れていって、もう1人の妹に居場所を求め続けていた。でも、どこかで妹に執着する自分は、妹に姉の代わりをさせているだけの醜い自己愛の塊だとも、気づいていたのだ。とにかく、俺はずっと自分の心の拠り所を、姉妹以外に探していた。

 

 Cの付く黄色い炭酸飲料も飲みながら、ワイワイとはしゃぐこころ達を眺める。写真を取り終えた後、スタジオの方から楽屋を自由に使ってもいいとのお達しが出たので、いつの間にか黒服の人達が用意していた食べ物やジュースを楽しみながらの小規模な打ち上げと洒落込んでいた。

 

 なにやらまた新しい事を思いついたらしいこころ。

 

 一人の世界に酔いしれている薫。

 

 とりあえずはしゃいでいる北沢さん。

 

 こころに巻き込まれる松原さん。

 

 ため息をつきながらそれを見守っている奥沢さん。

 

 初ライブが終わるまで、そして終わってからも心の奥底で渦巻いていた居心地の悪さは完全に消え去っていた。

 

 俺はここにいてもいいんだと、この輪の中にいてもいいんだと、彼女たちは言葉で示してくれた。

 

 そうまでされて、くだらない自問自答を続けるほど自分は捻くれていない。無条件に全幅の信頼を置けるほど素直でもないけれど、少しずつ、一歩一歩自分から彼女たちへ、自分の新しい居場所へ、歩み寄って行きたい。

 

 ふと時計を見ると、そろそろ日菜を迎えに行く時間だった。いつもならどこかで感じていた妹への後ろめたさは無くなっていた。

 

「ごめん、皆……そろそろ俺は行かないと」

 

「あら、もうそんな時間なのね」

 

「あ、はぐみも帰らないとー!」

 

「ここらへんで解散にしますか……」

 

 水を差すような気分で罪悪感を感じていたが、そろそろ皆も帰るらしいので、丁度良かった。

 

 各々荷物をまとめて、帰る準備をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここのスタジオは、今日のようにライブに使われる日もあれば、それ以外では主にバンドの練習として貸し出されていることもある。だから、浮かれていた俺でなければ十分に予期できた。いや、そもそも考えないようにしていただけかもしれない。得意なのはいつでも先延ばしの現実逃避だった。

 

 そこにあったのは、見慣れていて見慣れない姿。

 

「どうして……どうして貴方がここにいるの? 観月」




 好きなバンドであるロゼリアが好きな曲である深愛をカバーしている、こんなに幸せなことがあろうか、いやない(反語)

 ホワイトアルバム好きです。
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