とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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遅くなって申し訳ありませんでした!!



009 魔術―ウィザード―

 

「『魔術師』……?」

 

 それは、初めて聞く単語。ここ学園都市では、確かに世間一般でいうところの『超能力者』はいるが、それはあくまで科学で証明できる存在。魔術なんていうオカルトそのものな存在は、聞いたこともなかった。

 

「……? 『人払い』を破って侵入してきたようですから、当然知っているものと思いましたが……その反応は、一般人のようですね。『人払い』が効かない『なにか』があるのかも知れませんが、まあそれはいいです。もう一度言います。彼女から、離れなさい」

 

 そう言ってその女性は、持っていた長刀を持ち替え、柄に手を添える。ただそれだけで、緊張感が増し、冷や汗が出てくる。内心に焦りが出る。うわっ、これがもしかして、マンガとかでよくある『殺気』ってヤツ……?マズイ、怖い、死にたくない、ここから逃げたい。そう思って、佐天はほんの一歩後退った。

 

「……そう、そのまま離れなさい。彼女はこちらで『保護』します。貴女は、ここから離れ、すべてを忘れなさい。それが貴女のためです」

 

「『保護』……?」

 

 その単語に、頭が冷えた。今のインデックスは、重傷だ。普通に考えれば、すぐにでも病院に送り届けないと、命が危ない。だから『保護』するというのは、おかしいことじゃない。だけど……

 

 

 インデックスの背中の、『刃物のようなキズ』は誰がやったんだ?

 

 

「…………一つ、答えて」

 

「……貴女の疑問を満たしてあげる理由が、こちらにはありません。何も聞かずに日常を――」

 

「答えて!」

 

 腰を、ほんのわずかに落とす。体重と衝撃を地面でしっかりと支えるように。

 

「インデックスの背中の傷は――――誰がやったの?」

 

「………………」

 

 その質問に目の前の女性は沈黙し、そして。

 

「………………私です」

 

「――――――ッ!!」

 

 激情とともに、純白の腕が女性を吹っ飛ばした。

 

「なッ…………!!」

 

 神裂と名乗った女性はとっさに刀の鞘を間に差し込んだが、衝撃までは殺せない。両足が空中に浮いた彼女は、そのまま路地の先まで吹き飛んでいった。

 

「インデックス! しっかりして! すぐ病院に連れて行ってあげるから!」

 

 佐天は吹っ飛ばした相手に、もう目もくれずにインデックスに駆け寄った。背中をかなり深く広く斬られてる……!

 

「……だ、だいじょうぶ、だよ? それより、私、行かなくちゃ……」

 

「だ、ダメよ、動いちゃ! 今救急車呼んであげるから!」

 

「……今、ここには、誰も入ってこれないの。あいつ等が張った『人払い』が効いてる、から…」

 

「『人払い』?」

 

 そこで気が付く。今この場には、佐天とインデックス、そしてさっきの女性の三人しか人がいない。もしかして、これが『人払い』?そんなオカルトみたいなこと、本当に――――

 

 

「彼女から、離れなさい」

 

 

 戸惑いは一瞬の爆風で斬り裂かれた。とっさに右腕を掲げたが、その右腕の表面にいくつもの斬撃が刻まれる。だというのに、路地の先にいた女性は鞘から刀を抜いてすらいない。これが、インデックスの背中を斬り裂いた攻撃……!

 

 これが、『魔術』!!

 

「インデックス、背中におぶさって! ここから逃げるわよ!!」

 

「え……? い、いいよ……私はいいから、るいこだけでも………」

 

「こんな大怪我した娘、一人で放っておけるわけないでしょ! いいからおぶさる!」

 

 ゴチャゴチャ言うインデックスを、強引に背中に乗せ、左腕でしっかりとつかむ。振り落とされないように(・・・・・・・・・・・)

 

「彼女を、置いていきなさい。彼女は重傷を負っています。こちらで『保護』しないと、手遅れに――」

 

「この娘の背中斬り裂いた張本人を、信用できるわけないでしょ!」

 

「――――っ」

 

 怒鳴りつけてやったら、一瞬動きが止まった。それに少し戸惑うも、佐天にとって今一番優先することは、背中の彼女だった。

 

「――ですが、どうやって逃げる気ですか? 貴女では私に敵うはずがない。それくらいは分かるでしょう?」

 

「……確かに、『戦ったら』、ね。じゃあここで、問題。私の右腕の()は、どこを掴んでいるでしょうか(・・・・・・・・・・・・・)?」

 

 彼女が視線を移した先。そう、今、佐天は………………十数メートル離れた、ビルの側面を掴んでいる!

 

「しまった!?」

 

「一気に、縮めぇぇぇぇぇっ!!!」

 

 ARMSを戻し、その反動で一瞬で移動する。高速で長距離を移動する方法のない彼女にとって、これが最善の脱出法だった。

 

「もう、一回ぃぃぃぃっ!」

 

 壁に激突する前に壁を離し、他のビルへと突き刺して、また縮める。それを何度も繰り返し、ジグザグに空中を移動する。時折掴んで崩れたビルの破片を目くらましにして。時にはそのまま屋上に上り、時には飛び降り、走って走って……ようやく後ろから追ってくる感じが無くなった。

 

「はあ、はあ……ここまで来れば……よーし、インデックス、待っててね。このまま病院に連れて行ってあげるから」

 

 今いる場所は第七学区。先生のところに運び込めば、死んでなければ治してくれる。そう思い再び走り出した彼女を、呼び止める声がした。

 

「だ、だめ、なんだよ、るいこ? 私、行かなきゃいけないところがあるから……」

 

 そう言って背中のインデックスが、もがいて下に降りようとした。

 

「ちょ、ダメよ、インデックス! そんな大怪我で動いちゃ! 今、病院に連れてってあげるから!」

 

「でも、私、行かないと……そうじゃないと、あのひとが、しんじゃう…………」

 

 その言葉と一緒に、背中に暖かい水滴の感触。……涙?

 

「…………どういうこと……?」

 

「私……さっき私を助けてくれた人の家に、フードを残してきちゃったの…………私の服は、≪歩く教会≫っていう魔術がかかった服で……あいつ等はそれを頼りに追ってきてるから、だから……」

 

「取りに行かないと、その人が死んじゃうって言うの……? けど、今! 貴女自身が死にそうなんだよ、インデックス! フードは後で私が取りに行ってあげるから! それでいいじゃない!?」

 

 けれど、佐天のそんな言葉にも、インデックスはほのかに笑うだけ。

 

「あのひと……見ず知らずの私に、親切にしてくれたんだよ……ご飯も、食べさせて、くれたんだよ……? 私のせいで、あのひとがしんじゃうのは、とってもこわいんだよ……」

 

 インデックスのその言葉を聞きながら、インデックスの呼吸が荒くなってきているのに気が付いていた。……言い争ってる時間もない、か……。

 

「~~~~、あ~~、も~~!! わかった! すぐにフード回収して、病院行くわよインデックス!」

 

「ゴメンね、るいこ……るいこだって関係ないのに…………」

 

「もう言わない! 『友達』助けるのに、理由なんていらないんだから!!」

 

「ふえ……」

 

 絶対死なせないからね、インデックス!

 

 そう心に誓い、佐天は路地を出来る限り揺らさないよう走り抜けた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「この建物ね、インデックス!」

 

「うん……部屋はあそこ……」

 

 インデックスの指さした七階の部屋を見上げ、覚悟を決める。

 

「住居不法侵入に、器物損壊に……まあ、緊急事態だから仕方ない!」

 

 ARMSを伸ばして壁に突き刺す。ごめんなさい、インデックスに親切にしてくれた人!

 

「いっけえぇぇぇ!」

 

 ARMSで一気に上階に昇り、そのまま施錠も確認せずに、部屋のドアをぶち破った。

 

「よし! ――――――これね!?」

 

 部屋に押し入り、すぐにベッドの上に落ちていたフードを見つける。それを拾い上げて、左手にしっかりと持つ。

 

「それじゃあ、病院行くよ…………インデックス? インデックス! しっかりして!」

 

 後ろを振り向くと、インデックスは背中に伸し掛かるように脱力していた。マズイ、急がないと!

 

「くっ――――あ()ぁっ!?」

 

 部屋を出たところで、誰かにぶつかった。ぶつかった相手は、高校生位の男子で、ツンツン頭の少年。上条当麻だ。

 

「あたた……ん? 何で俺の家に、こないだのビリビリの友達が――――って、何でウチのドア壊れてんだ!?」

 

 ……その話から、佐天はインデックスに親切にしてくれたのが、目の前の少年だと気が付く。ならしょうがない。とにかく状況説明しないと!

 

「上条さん、今は全部後回しです! 実はインデックスが大怪我してるんです! 早く医者につれてかないと!」

 

「へ…………!? インデックス?! 何でお前が、ってその前にどうしたんだ、この怪我! 誰にやられた!!」

 

「だから、今は説明してる場合じゃ――――」

 

 

「――ん? 僕ら『魔術師』だけど?」

 

 

 瞬間、場が凍り付く。まるで油のさされていないブリキのように、ゆっくり、ゆっくりとそれを視界に収める。そこにいたのは、先程の神裂という女性と違い、神父のような丈の長い服を着た少年。外国人特有の背の高さも赤毛であることからも、もしかしたら本当に神父なのかもしれない。もっとも指や耳にいくつもくっ付けた銀の指輪やピアスだとか、目の下にバーコードの刺青(タトゥー)だとかが神父らしさを吹き飛ばしていたけど。後、明らかに未成年なのに煙草を吸ってるとこも。

 

「やれやれ、神裂が逃げられたというから、どんな達人なのかとも思ったが……明らかに素人じゃないか。全く、心が痛むね」

 

「アンタ……!」

 

 瞬間的に右腕のARMSを発動させる。コイツも、ヤバイ。さっきの女性とどっちが上かはともかく、佐天はその少年から物凄く危険な感じを感じ取っていた。

 

「お、おい、君!? その右腕……!」

 

「……フム、本当に風変りな能力だ。この街の能力者というのは精々火や氷を出したりが関の山だと思っていたが、ここまで人間離れした能力もあるんだね。文字通り、『化け物』じゃないか」

 

「黙りなさいよ……!」

 

 必死に否定する。私は、人間だ。決して化け物なんかにならない!

 

「まあ、それはいいか。さて君の後ろのソレ(・・)、僕の方で回収させてもらうから、出来れば無抵抗で引き渡してくれないか?」

 

「お断りよ……私は、絶対『友達』を見捨てない!」

 

 夕暮れの男子寮、魔術師との第二ラウンドが開始した。

 




遅くなって申し訳ありません。そして、週刊連載はもう少しお待ちください!今、色々思うところあって、全話の一人称を三人称よりに変えられないかと、四苦八苦しています!
ちなみに、この話から、微妙に一人称混じりの三人称という、禁書に近づけた語りに変えてみました。いかがでしょうか?

次の投稿は、他の話の修正が終了したころか、それとも先に次の話が完成したころになるかと……

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