そして、ついに……
「――――友達を、見捨てない、か。まあ、人間としては、その理由に好感も持てるけどね」
そう言って、赤髪の少年は煙草を投げ捨てる。火の粉が、宙を舞う。
「だが、『魔術師』の前に立つには、甘すぎる」
次の瞬間、ゴウッ!という音とともに、舞った火の粉が燃え上がる。それは一気に集約し、赤髪の少年の頭上に火球を発生させた。
「……ステイル=マグヌス。だが、この場においては『Fortis931』と名乗っておこうか」
「……?」
その言葉に、佐天と上条の二人は首を傾げる。出てきた言葉の意味が分からないためだ。
「だから、名前だよ、名前。初対面で名を名乗るのは基本だろう? ちなみに、後の方は、僕達魔術師が用いる『魔法名』で、その通称は――」
言葉とともに、少年、ステイルは嗤う。炎に照らされたその顔は、正しく『凶相』だった。
「――――『殺し名』だよ」
そうして、世界は炎に包まれた。
「『巨人に苦痛の贈り物を』!!」
詠唱とともに、贈られたソレ。それは地球生誕の再現か、はたまた地獄か。その場にいた三人にはどちらでも碌なことには感じなかった。
「……妙だな」
そんな地獄で声を上げたのは、地獄の体現者である、ステイル。その顔には先の炎をいぶかしむ色が浮かんでいた。
(…………何故、『爆風』が来ない? いや、そもそも『爆発』のひとつも起こさないのは、どういうわけだ?)
彼にとって、先の攻撃は相手を炎熱で焼き殺すためのものではなかった。いや、正しくはツンツン頭の少年と、佐天という名の少女は焼け死んでもいいとは考えてはいたが、彼女は禁書目録を背負っていた。だからまずは爆炎の衝撃で二人を引き離し、確実に彼女を確保した後、彼らはゆっくりと処理すれば良いと考えていた。
だが、目の前に起こった炎は、確かに燃え上がってはいるものの、当初予定した爆発が起きていない。それを内心不審に思うも、とにかく優先である
「――大丈夫か?」
「……ッ?!」
声が聞こえたのは、ステイルの前方。未だ炎が渦巻く中からだった。
「わ、私もインデックスも大丈夫です! でも、まさか、こんな……!」
「驚くのは後だ。とにかく今は炎を消そうぜ」
悪夢の、ようだった。その言葉とともに、目の前の炎は二つに割れた。後に残ったのは、まるで虫でも払った後のように、右手を振り下ろした姿の少年と、異形の右腕を前に出し、炎から禁書目録を守っていた少女。
「……! 『
ステイルの両手に種火が生まれる。それは、亡者を灼き尽くす断罪の剣。
「『吸血殺しの――――――紅十字』!!」
十字に交差する炎が、罪ある全て灰に帰す。それが彼にとっての予定調和。だがその未来は、簡単に覆された。
「おおおおおっ!」
「なッ!?」
雄叫びとともに突っ込んできた少年が、素手で炎剣を受け止めた。大きく開かれた手の平は、まるで絶対不可侵の障壁でもあるかのように炎の侵攻を食い止める。そうしてそのまま少年は、徐々に徐々にその手を握り込む。
バキン!という、ガラスか何かが砕ける音とともに、ついにステイルは悟った。禁書目録の不可侵の防御結界『歩く教会』を破壊したのが誰だったのか。コイツラは………………正しく自分の『敵』だと。
「……『世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ』」
全てが切り替わる。『死んでも構わない』程度から、『確実に焼き殺す』ものへと。
「『それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり――それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり――その名は炎! その役は剣! 顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ!』」
轟ッ!と空気を焼き尽くし、ソレは現れた。ドロドロとした重油が、ヒト型を取ったかのようなその姿。存在するだけで空気を灼熱地獄へと変える存在。摂氏3000度の炎の魔人が顕現した。
「≪魔女狩りの王≫イノケンティウス。その名の通り――――『必ず殺せ』」
魔人は、待っていたかのように、その命令の通り突き進む。間にある物はその侵攻を阻むことは出来ず、すべてが溶けた。それに対し、上条当麻はただいつものようにその右手を突き出す。
「……邪魔だ」
ただそれだけで魔人は空に解ける。異能である限り無力だと言わんばかりの行動。その一連の行動を見ても、ステイルの顔には焦燥はなく、ただ笑みだけがあった。
「――甘いよ、能力者」
「…? っ、なッ……!?」
振り向きざまに攻撃を防げたのは、運が良かった。突き出した右手に受け止めたのは、先程の魔人。砕け散ったのがウソのように、今度は拮抗した。
(コイツ……! 消したそばから、炎が再生してんのか……?!)
それが答え。再生スピードの方が速く、炎を消しきれないのだ。完全に足の止まった上条に対し、その横をすり抜ける影があった。
「はああああッ!!」
それは、インデックスを地面に横たえ、身軽になった佐天。その右腕を力任せにステイルへとたたきつけた。
「ふん……」
「きゃっ!?」
だがその攻撃は届かなかった。周囲に燃え広がった炎が、まるで生き物のように蠢き、分厚い壁へと変貌したのだ。あまりの高熱に、たまらず灼けた右腕を引き戻す。
「……彼の、正体不明の能力には少し驚いたけど。君にはまるで脅威を感じないな。文字通り力任せに殴りつけるだけか。『化け物』らしいと言えばらしいけどね」
「私は――――『化け物』なんかじゃない!!」
もう一度右腕を振るう。しかしそれは届かない。炎は変幻自在の壁であり、敵対者を滅する剣。火の粉が僅かに舞い散るだけで、赤髪の少年は飽いたように、煙草をふかした。
「…………そんなに、『化け物』が嫌なら、少し手伝ってあげようじゃないか」
次の瞬間、佐天は背筋を走る悪寒に、全力で右腕を盾にした。それが功を奏したのか、瞬間的に巻き起こった炎剣の津波は、右腕で防ぐことが出来た。……代わりに。
「きゃあああああああああああッ!?」
盾にした右腕は焼け焦げ、硬質の表面は溶け出し、見るも無残な状態になった。力を込めようにも全く動かない。
「……決着のようだね。その右腕はもうダメだ。後で病院にでも言って、切断してもらうといい。何、化け物の腕を持つよりも、余程真っ当な人生が送れるだろうさ」
そう言ってステイル=マグヌスは佐天に背を向けた。その手には再び炎剣。彼の靴の立てる一歩一歩の足音が、佐天にとって、インデックスに迫る死神のようにも思えた。
(このままじゃ、インデックスが……!)
焦燥は、彼女の四肢に力を与えた。たった今喰らったばかりの炎の津波の恐ろしさも忘れて、ガクガクと震える足も無視して、既に数メートル先を歩くステイルを追うために、ゆっくり、本当にゆっくり、その場から『一歩を』踏み出した。
――力が、欲しいか?
その時再び聞こえてきたのはそんな声。それが聞こえた瞬間、右腕がまるでサナギを破るように、ベキベキと音を立てて、その形を変えていった。
――力が、欲しいのなら……
変化が落ち着いたとき、そこにあったのは、今までとは比べ物にならないほど逞しい右腕。外側は分厚く肥大化し、五本の爪も以前よりはるかに鋭い。
それは正しく異常にして、異形である、異能。だけど、そんなことじゃない。
一番驚いたのは、恐ろしいのは――――その右腕が、まるで底なしのように、『
「みんな――――、逃げてェェェェェェッ!!」
彼女が叫ぶのと、ステイルと名乗る彼が、自分の前に
音は、無かった。
「な…………なにいッ!?」
一瞬後、そこにはすでに炎の巨人はいなかった。いや、そこには、
「≪
彼女は、彼の叫びを呆けた頭で聞いていた…………いや、ほとんど聞いていなかった。
――力が、欲しいか!?力が欲しいなら、くれてやろう!
以前から聞こえるその声が、今はずっと近くに、それこそ耳元で話すかのように大きく聞こえてきていたから。
「私は、なんなの……? 一体、
耳に聞こえる声。以前より強いソレは、破滅への足音のように聞こえた。
バンダースナッチ、メ・ガ・進・化!(違)
原作とは違って、第一形態からだったので、この第二形態は色々能力を考えました。最終的に落ち着いたのが、作中でもあった、『離れたところから、対象を引き裂く』能力!やっぱARMSはあの爪痕が印象的なのでw詳しい能力説明は次回です。実はこの能力、正しく完全体の『劣化』能力なのでww
今回は完全三人称。他の話も直す予定でしたが、もうこの際続き書くの優先しようかな?