とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

16 / 91
気が付いたら一か月経過……北海道在住者には、ドカ雪で体力を削り取られる季節がw昨日まで疲労で寝込んでいましたが、回復したので投稿します!



015 息子―サン―

 

 ――かつて、二人の天才がいた。二人は遥か昔、地球より分かたれた『兄弟』と出会い、コンタクトを試みた。だが試みは失敗し、二人は新たに『地球の兄弟』と融合出来る新人類を産み出そうとした。産まれてきた『娘』を前に、一人はその『才能』を愛し、もう一人はその『心』を愛した。だが、『娘』の死をきっかけに道は別たれ、『心』を愛した一人の天才は迷走し、やがて『娘』の『子供』をその身に宿した4人の少年少女へ希望を託した。

 

 そして、『才能』を愛したもう一人の天才は――――数え切れぬ悲劇、哀しい子供を産み出した。

 

『ははははははは!!』

 

 幻想猛獣(AIMバースト)に浮かび上がった顔が、笑い声を上げる。それだけで風が巻き、砂塵が舞った。たまらずそばで見ていた御坂達が腕で顔を守る。

 

「……ッ、一体どうやったのよ、アレ?! まさか能力のカタマリみたいだった、あの胎児を乗っ取ったの!?」

 

「恐らく、そうだ! 手段は分からんが、幻想御手(レベルアッパー)のネットワークそのものにアクセスし、中枢をハッキングしたんだ!」

 

「そんなこと出来んの?」

 

「出来ないから、私はここにいるんだ!」

 

 砂塵の騒音に負けないように、互いに声を張り上げながらの会話。そんな中別のところから、ほんのわずかな声が上がった。

 

『――――ス』

 

 風に紛れ、聞こえてきた、それ。それは本当にわずかな声。

 

『――――――ィス』

 

 けれども、ソレは――――――

 

『キィィィィィィィス!!!』

 

 ――――――ありとあらゆる感情をぶつけるかのようだった。凄まじい速さで両腕が振るわれ、たちまちキース・グレイが空中で細切れとなる。

 

『ははは! 再会の快哉にしては、激しいじゃないか!』

 

 しかし、目の前の存在はそんな攻撃、何の痛痒も感じないかのように、ただひたすら笑みを浮かべ、元通りとなる。

 

『我が前に現れるとは、いい度胸だ――二度とキース共(キサマら)が蘇れぬよう、完全に滅ぼしてくれる!』

 

『熱烈だね。だけど――――出来るのかい?』

 

 言葉とともに、空中に巨大な氷柱がいくつも浮かぶ。そして、弾丸の速さで以て射出された。

 

『我に、こんなトロい攻撃が通用するか!!』

 

 バンダースナッチがとった行動は、腕の一振り。ただそれだけですべての氷柱は砕け、辺りを氷の欠片が舞った。

 

『ヒュ――――オオオオオオッ!』

 

『はは、ははははははははは!!』

 

 雪片が舞い、空気が凍てつく中、二体の異形の戦いは幕を開けた。

 

「うあ!」

 

「く……!」

 

 その闘いを間近で見ていた二人は、これ以上巻き込まれないよう、初春を連れてその場を離れた。

 

「アイツら……! パワーといい、規模といい、超能力者(レベル5)クラスはあるわよ!」

 

「これが、ナノマシンというただの人工物で行われるとは……つくづく規格外だな」

 

 原子力施設のフェンスの陰でようやく人心地ついたが、覗き見る二体の戦いは苛烈で、いつ何時施設が消し飛んでもおかしくなかった。

 

「…ん………」

 

 そんなとき、ようやく気絶していた初春が目を覚ました。

 

「あ、あれ? 御坂さん……ここは…………」

 

「初春さん、大丈夫!? 本調子じゃないなら、無理に起き上がらなくても、いいわよ!」

 

 寝起きでぼーっとしていた初春だが、やがて意識がはっきりするとともに、辺りの惨状に気が付いた。

 

「御坂さん……これは……」

 

「……」

 

 初春の疑問に、御坂も木山も答えない。その代り、二人の遥か後ろに、巨大な顔と、それに対峙する『白い腕』の異形が見えた。

 

「………………佐天さん?」

 

 それは、理屈ではなく直感。初春には何故か、その白い異形が自身の親友と重なって見え――――――苦しんでいるように見えた。

 

「御坂さん、木山先生! どうすればあの『二人』を止められますか!」

 

 起きてそうそう、血相を変えて迫る初春に二人は呆気にとられ、次に状況を鑑みて、言葉を濁した。

 

「すまん……正直、今の私たちにあの二体を止める術はない……」

 

「あの『キース』ってやつは、佐天さんを止めるためにさっきの胎児を乗っ取ったみたいだけど……それもどこまで本当か……」

 

 そもそも『キース』が確実に止めてくれる保証などない。それでも二人は、為すすべなくここで見ていることしか出来ず、歯がゆかった。

 

「木山先生。あの巨大な顔の方は、もともと先生の身体から出てきた『胎児』なんですよね?」

 

「あ、ああ……その通りだが?」

 

「だったら、そっちを止める方法を教えてください! 佐天さんが止まった後、あの人がさらに手出しとかしないように!!」

 

 初春にとって、キースは全く知らない人物でしかない。そんな人物に親友の命運を託せるはずもなく、むしろその後、佐天に危害を加える可能性の方が恐ろしかった。彼女の心配は、まず第一に、親友なのだ。

 

 それを理解したからこそ、目の前の二人もまた、ここでやるべきことに気付けた。

 

「……わかった。鍵となるのは、君の持つ≪幻想御手(レベルアッパー)≫のワクチンプログラムだ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

『があああああ!』

 

 戦場では、一進一退の攻防が繰り広げられていた。キースはレベルアッパー被害者が保有していた能力を駆使し、炎を、氷を、雷を産み出し、バンダースナッチを攻め立てた。対するバンダースナッチは、その両手の爪から斬撃を繰り出し、周囲に氷雪の竜巻を産み出した。だが、そのすべてがキースには通用せず、ただ時間だけが過ぎていった。

 

『――――つまらないな』

 

 そんな攻防の中、遂にキースが動いた。

 

『僕が見たいのは、そんな単純な能力じゃない。君が持つ、絶対的な”滅びの力”なんだよ』

 

 視界の中、バンダースナッチは返答しない。その光景は、かつての姿を知る者には、余りにも予想外の光景で。

 

『移植者の意識がまだ残っていて、ブレーキをかけているのか? ……いや、これは』

 

 キースにとっては、結論を出すのに、充分な証明だった。

 

『≪アリス≫の禁則、か』

 

『! 黙れぇっ!』

 

 その言葉に激昂し、バンダースナッチが宙へと浮かび上がる。その動作はあまりに無防備。

 突如、ガクン、と空中でバンダースナッチの動きが止まった。

 

『何の変哲もない、ただの『念動能力(テレキネシス)』だよ――君が力を見せないなら、無理にでも引き出してあげようじゃないか』

 

 そうして、髪の毛のように広がる触手を輝かせたかと思うと、触手の周囲からキラキラと光る薄片が戦場に目がけて降り注いだ。

 

『『空間移動(テレポート)』の派生能力の一つ、『物体移動(アポート)』だよ。能力自体はそれほどランクも高くない……ただし』

 

 不意に、周囲に散らばった薄片に、力が溜まっていく。メキメキと、空間そのものが収束する。

 

『例えば――――アルミ片を呼び出して、『量子変速(シンクロトロン)』と組み合わせたらどうなるかな?』

 

 次の瞬間、戦場全てが弾け飛んだ。

 

「佐天さん?!」

 

 巻き込まれないよう、近くで見ていた御坂が絶叫を上げる。それほどに凄まじい爆発だった。――だが。

 

『――――いいだろう』

 

 爆炎が晴れた時、そこには変わらず白い異形の姿があった。

 

『そんなに、その身に刻みたければ見せてやろう!!』

 

 叫びとともに、バンダースナッチが肉薄する。キースはそれに対し、触手を伸ばすことで応戦する。それを見て、バンダースナッチの爪が、白く光り輝いた。

 

『邪魔、だああああっ!!』

 

 輝きを増した爪によって、触手は全て細切れとなった。周囲に飛び散る肉片。その一つをバンダースナッチが右腕で掴んだ。

 

『…………聞こえる』

 

 肉片は、バキバキと形を変える右腕の中へと取り込まれ、塵と化す。その中に内包された様々なものが、新たな力を産み出していく。

 

『”憎悪”の声……”絶望”の声……この血肉となった者たちの声が、我の中へと流れ込む!』

 

 その右腕には新たなトゲが、爪が生み出され、すべての爪が向かい合うかのように並んでいく。

 

『我に”力”を……我に”力”を!!』

 

 爪はやがて、その間に光を灯す。それは、かつて絶望の中、一人の少女が産み出した”力”。

 

『その”力”が我に命じる――――』

 

 絶対の――――”滅びの力”。

 

 

『”全てを滅ぼせ”と!!』

 

 

 右腕に内包した”力”は、時間とともに輝きを増し、まるで太陽をその手に掴んでいるかのようだった。

 

『はは、ははは! やればできるじゃないか!』

 

『キィィィィス!!』

 

『だけど――』

 

 発射の瞬間、キースは意識を集中させる。ただそれだけで、バンダースナッチの身体は『念動能力(テレキネシス)』で反転した。

 

『学園都市を消し飛ばされるのは、困るんだよ?』

 

 そう嘯くキースをかすめ、バンダースナッチの放った光球が空へと昇っていく。――そして。

 

 

 空が(・・)爆ぜた(・・・)

 

 

「キャアアアアアアア!?」

 

「く…………!!」

 

 戦場から離れ、地面にいたはずの二人にも伝わるほどの衝撃。轟音と衝撃は、この時学園都市中を揺るがした。

 

「……? なに、これ……」

 

「これは……ダイヤモンドダスト、だと……?」

 

 空を凍てつかせる爆発は、上空の雲を吹き飛ばし、ありとあらゆる水分を凍結させた。

 

『ははははは! そうでなくては足りないよ、バンダースナッチ! これで僕の計画も――――ん?』

 

 キースの意識を逸らしたのは、戦場に不意に流れ出した音楽。どこか感情そのものに訴えかけてくるような不思議な音楽。

 

「成功したか!」

 

「レベルアッパーのワクチンプログラム――悪いけど、アンタは信用できないのよね!」

 

『へえ……まあいいさ。制限時間内に神獣(バンダースナッチ)を抑えるくらい――』

 

 言葉は、途中で途切れた。

 

『グ……ウウウウ……』

 

 空中で静止していたバンダースナッチの爪が光を増し、徐々に、徐々にその身を縛る念動力が軋みを上げ始めた。

 

『ガ――――――アアアアアアアッ!!』

 

 爪が奔り、拘束がはじけ飛んだ。

 

『その爪――』

 

 バンダースナッチの爪が、白く、眩しいほどに輝いていた。その爪に注目し、次の瞬間、キースは哄笑を響かせた。

 

『あはははは! そうか、そういう方向に進化したか! やはり、君たちオリジナルは興味深いよ! さあ、おいで、バンダースナッチ! その爪を、僕に突き立ててみたまえ!』

 

『キィィィィィィィス!!』

 

 炎が、雷が、氷が、降り注ぎ、驟雨となって襲い掛かる。対して、そのすべてを爪で引き裂き、迫る触手を引き千切りながら、神獣が奔る。

 

『があああああっ!!』

 

 

 そして、遂にキースにたどり着き――――その左目に、五本の爪痕を刻み込んだ。

 

 

『――――見事だよ』

 

 何の能力によってか、千切れた触手が殺到し、次の瞬間、神獣は大爆発に巻き込まれた。爆煙の中、急速に元の姿に戻り、裸となった佐天涙子は――――地面へと落ちた。

 

『これで、僕の計画も大幅に進む……さて、そろそろ閉幕といこうか?』

 

 そう呟くと、額の辺りから何かの結晶体がせり出した。

 

『これは、≪幻想御手(レベルアッパー)≫被害者の力を束ねる、≪幻想猛獣(AIMバースト)≫のコアだ。これを砕けば被害者は全て元に戻る。その役は――君にお願いしようじゃないか』

 

 視線の先、御坂美琴は悔しそうに唇を噛みしめ、親指の先に一枚のメダルを備えていた。彼女にも分かっていた。全て目の前の存在の掌の上で動いていたことに。

 

「………………次は、負けない」

 

『――期待しているよ? 人間』

 

 こうして、≪幻想御手(レベルアッパー)≫事件は幕を下ろした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――あれで、良かったのか?」

 

 轟音と衝撃の収まった原子力施設の中。土御門は、先程まで虚空へと意識を集中していた少年に話しかけた。

 

「……ああ。これで対外的には≪幻想御手(レベルアッパー)≫事件の解決者は『超電磁砲(レールガン)』になるし、また一方で学園都市の『暗部』にはARMSの脅威が伝わることになる。後は、僕が何もしなくても彼女は進化していくだろう」

 

 笑みを浮かべる少年の顔には、しかし深い傷があった。その傷痕は『五本』。ちょうど左目の上を走るように、血が滴っていた。

 

「……しかしこんなお膳立てのために、何故か消えない傷(・・・・・・・・)まで負ったのか? メリットが少なすぎやしないか」

 

「ふふ……そんなこともないよ。ホラ」

 

 そう言って上げた、少年の指先。そこにはライター程のわずかな『炎』が灯っていた。

 

「お前……」

 

「まあ、慣れるまでは時間がかかるだろうけど、他の能力も全ていただいたよ。僕にも、多大なメリットがあったということさ」

 

 そう言って少年は、まるで舞台に上がった俳優のようにクルクルと回り、両手を大きく広げ、愛おしむように呟いた。

 

「さあ、バンダースナッチ……もっともっと力を強めておくれ。その時こそ――――≪プログラム・アナザーアリス≫の幕開けだよ。ク、クク、はは、はははははははははは――――!!」

 

 笑う、嗤う、哂う。哄笑は響き渡り、産声となる。それは、別たれた運命の歯車同士の再会。世界を巻き込む、壮大なる闘争の始まりだった。

 




レベルアッパー編、終了!どう見ても、敗北エンドです!実際マッチポンプが得意な相手って、試合に勝てても勝負に負けてる場合がほとんどですから……

途中に出てきた『物体移動(アポート)』からの『量子変速(シンクロトロン)』コンボは、複数能力ありなら考えていた空間爆撃技です。しかしこのコンボ、実はもう一段階発展形が……!書くかどうかわかりませんがww

さて、今回のリザルト。佐天は『完全覚醒』、『窒素液体化』砲弾の会得、さらに『謎の爪』の覚醒でした。対して、キースは『レベルアッパー被害者一万人の能力ラーニング』……元々のARMSの能力と合わさってとんでもないことになりましたwwやっぱりボスキャラはこうでなきゃ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。