――かつて、二人の天才がいた。二人は遥か昔、地球より分かたれた『兄弟』と出会い、コンタクトを試みた。だが試みは失敗し、二人は新たに『地球の兄弟』と融合出来る新人類を産み出そうとした。産まれてきた『娘』を前に、一人はその『才能』を愛し、もう一人はその『心』を愛した。だが、『娘』の死をきっかけに道は別たれ、『心』を愛した一人の天才は迷走し、やがて『娘』の『子供』をその身に宿した4人の少年少女へ希望を託した。
そして、『才能』を愛したもう一人の天才は――――数え切れぬ悲劇、哀しい子供を産み出した。
『ははははははは!!』
「……ッ、一体どうやったのよ、アレ?! まさか能力のカタマリみたいだった、あの胎児を乗っ取ったの!?」
「恐らく、そうだ! 手段は分からんが、
「そんなこと出来んの?」
「出来ないから、私はここにいるんだ!」
砂塵の騒音に負けないように、互いに声を張り上げながらの会話。そんな中別のところから、ほんのわずかな声が上がった。
『――――ス』
風に紛れ、聞こえてきた、それ。それは本当にわずかな声。
『――――――ィス』
けれども、ソレは――――――
『キィィィィィィィス!!!』
――――――ありとあらゆる感情をぶつけるかのようだった。凄まじい速さで両腕が振るわれ、たちまちキース・グレイが空中で細切れとなる。
『ははは! 再会の快哉にしては、激しいじゃないか!』
しかし、目の前の存在はそんな攻撃、何の痛痒も感じないかのように、ただひたすら笑みを浮かべ、元通りとなる。
『我が前に現れるとは、いい度胸だ――二度と
『熱烈だね。だけど――――出来るのかい?』
言葉とともに、空中に巨大な氷柱がいくつも浮かぶ。そして、弾丸の速さで以て射出された。
『我に、こんなトロい攻撃が通用するか!!』
バンダースナッチがとった行動は、腕の一振り。ただそれだけですべての氷柱は砕け、辺りを氷の欠片が舞った。
『ヒュ――――オオオオオオッ!』
『はは、ははははははははは!!』
雪片が舞い、空気が凍てつく中、二体の異形の戦いは幕を開けた。
「うあ!」
「く……!」
その闘いを間近で見ていた二人は、これ以上巻き込まれないよう、初春を連れてその場を離れた。
「アイツら……! パワーといい、規模といい、
「これが、ナノマシンというただの人工物で行われるとは……つくづく規格外だな」
原子力施設のフェンスの陰でようやく人心地ついたが、覗き見る二体の戦いは苛烈で、いつ何時施設が消し飛んでもおかしくなかった。
「…ん………」
そんなとき、ようやく気絶していた初春が目を覚ました。
「あ、あれ? 御坂さん……ここは…………」
「初春さん、大丈夫!? 本調子じゃないなら、無理に起き上がらなくても、いいわよ!」
寝起きでぼーっとしていた初春だが、やがて意識がはっきりするとともに、辺りの惨状に気が付いた。
「御坂さん……これは……」
「……」
初春の疑問に、御坂も木山も答えない。その代り、二人の遥か後ろに、巨大な顔と、それに対峙する『白い腕』の異形が見えた。
「………………佐天さん?」
それは、理屈ではなく直感。初春には何故か、その白い異形が自身の親友と重なって見え――――――苦しんでいるように見えた。
「御坂さん、木山先生! どうすればあの『二人』を止められますか!」
起きてそうそう、血相を変えて迫る初春に二人は呆気にとられ、次に状況を鑑みて、言葉を濁した。
「すまん……正直、今の私たちにあの二体を止める術はない……」
「あの『キース』ってやつは、佐天さんを止めるためにさっきの胎児を乗っ取ったみたいだけど……それもどこまで本当か……」
そもそも『キース』が確実に止めてくれる保証などない。それでも二人は、為すすべなくここで見ていることしか出来ず、歯がゆかった。
「木山先生。あの巨大な顔の方は、もともと先生の身体から出てきた『胎児』なんですよね?」
「あ、ああ……その通りだが?」
「だったら、そっちを止める方法を教えてください! 佐天さんが止まった後、あの人がさらに手出しとかしないように!!」
初春にとって、キースは全く知らない人物でしかない。そんな人物に親友の命運を託せるはずもなく、むしろその後、佐天に危害を加える可能性の方が恐ろしかった。彼女の心配は、まず第一に、親友なのだ。
それを理解したからこそ、目の前の二人もまた、ここでやるべきことに気付けた。
「……わかった。鍵となるのは、君の持つ≪
◇ ◇ ◇
『があああああ!』
戦場では、一進一退の攻防が繰り広げられていた。キースはレベルアッパー被害者が保有していた能力を駆使し、炎を、氷を、雷を産み出し、バンダースナッチを攻め立てた。対するバンダースナッチは、その両手の爪から斬撃を繰り出し、周囲に氷雪の竜巻を産み出した。だが、そのすべてがキースには通用せず、ただ時間だけが過ぎていった。
『――――つまらないな』
そんな攻防の中、遂にキースが動いた。
『僕が見たいのは、そんな単純な能力じゃない。君が持つ、絶対的な”滅びの力”なんだよ』
視界の中、バンダースナッチは返答しない。その光景は、かつての姿を知る者には、余りにも予想外の光景で。
『移植者の意識がまだ残っていて、ブレーキをかけているのか? ……いや、これは』
キースにとっては、結論を出すのに、充分な証明だった。
『≪アリス≫の禁則、か』
『! 黙れぇっ!』
その言葉に激昂し、バンダースナッチが宙へと浮かび上がる。その動作はあまりに無防備。
突如、ガクン、と空中でバンダースナッチの動きが止まった。
『何の変哲もない、ただの『
そうして、髪の毛のように広がる触手を輝かせたかと思うと、触手の周囲からキラキラと光る薄片が戦場に目がけて降り注いだ。
『『
不意に、周囲に散らばった薄片に、力が溜まっていく。メキメキと、空間そのものが収束する。
『例えば――――アルミ片を呼び出して、『
次の瞬間、戦場全てが弾け飛んだ。
「佐天さん?!」
巻き込まれないよう、近くで見ていた御坂が絶叫を上げる。それほどに凄まじい爆発だった。――だが。
『――――いいだろう』
爆炎が晴れた時、そこには変わらず白い異形の姿があった。
『そんなに、その身に刻みたければ見せてやろう!!』
叫びとともに、バンダースナッチが肉薄する。キースはそれに対し、触手を伸ばすことで応戦する。それを見て、バンダースナッチの爪が、白く光り輝いた。
『邪魔、だああああっ!!』
輝きを増した爪によって、触手は全て細切れとなった。周囲に飛び散る肉片。その一つをバンダースナッチが右腕で掴んだ。
『…………聞こえる』
肉片は、バキバキと形を変える右腕の中へと取り込まれ、塵と化す。その中に内包された様々なものが、新たな力を産み出していく。
『”憎悪”の声……”絶望”の声……この血肉となった者たちの声が、我の中へと流れ込む!』
その右腕には新たなトゲが、爪が生み出され、すべての爪が向かい合うかのように並んでいく。
『我に”力”を……我に”力”を!!』
爪はやがて、その間に光を灯す。それは、かつて絶望の中、一人の少女が産み出した”力”。
『その”力”が我に命じる――――』
絶対の――――”滅びの力”。
『”全てを滅ぼせ”と!!』
右腕に内包した”力”は、時間とともに輝きを増し、まるで太陽をその手に掴んでいるかのようだった。
『はは、ははは! やればできるじゃないか!』
『キィィィィス!!』
『だけど――』
発射の瞬間、キースは意識を集中させる。ただそれだけで、バンダースナッチの身体は『
『学園都市を消し飛ばされるのは、困るんだよ?』
そう嘯くキースをかすめ、バンダースナッチの放った光球が空へと昇っていく。――そして。
「キャアアアアアアア!?」
「く…………!!」
戦場から離れ、地面にいたはずの二人にも伝わるほどの衝撃。轟音と衝撃は、この時学園都市中を揺るがした。
「……? なに、これ……」
「これは……ダイヤモンドダスト、だと……?」
空を凍てつかせる爆発は、上空の雲を吹き飛ばし、ありとあらゆる水分を凍結させた。
『ははははは! そうでなくては足りないよ、バンダースナッチ! これで僕の計画も――――ん?』
キースの意識を逸らしたのは、戦場に不意に流れ出した音楽。どこか感情そのものに訴えかけてくるような不思議な音楽。
「成功したか!」
「レベルアッパーのワクチンプログラム――悪いけど、アンタは信用できないのよね!」
『へえ……まあいいさ。制限時間内に
言葉は、途中で途切れた。
『グ……ウウウウ……』
空中で静止していたバンダースナッチの爪が光を増し、徐々に、徐々にその身を縛る念動力が軋みを上げ始めた。
『ガ――――――アアアアアアアッ!!』
爪が奔り、拘束がはじけ飛んだ。
『その爪――』
バンダースナッチの爪が、白く、眩しいほどに輝いていた。その爪に注目し、次の瞬間、キースは哄笑を響かせた。
『あはははは! そうか、そういう方向に進化したか! やはり、君たちオリジナルは興味深いよ! さあ、おいで、バンダースナッチ! その爪を、僕に突き立ててみたまえ!』
『キィィィィィィィス!!』
炎が、雷が、氷が、降り注ぎ、驟雨となって襲い掛かる。対して、そのすべてを爪で引き裂き、迫る触手を引き千切りながら、神獣が奔る。
『があああああっ!!』
そして、遂にキースにたどり着き――――その左目に、五本の爪痕を刻み込んだ。
『――――見事だよ』
何の能力によってか、千切れた触手が殺到し、次の瞬間、神獣は大爆発に巻き込まれた。爆煙の中、急速に元の姿に戻り、裸となった佐天涙子は――――地面へと落ちた。
『これで、僕の計画も大幅に進む……さて、そろそろ閉幕といこうか?』
そう呟くと、額の辺りから何かの結晶体がせり出した。
『これは、≪
視線の先、御坂美琴は悔しそうに唇を噛みしめ、親指の先に一枚のメダルを備えていた。彼女にも分かっていた。全て目の前の存在の掌の上で動いていたことに。
「………………次は、負けない」
『――期待しているよ? 人間』
こうして、≪
◇ ◇ ◇
「――あれで、良かったのか?」
轟音と衝撃の収まった原子力施設の中。土御門は、先程まで虚空へと意識を集中していた少年に話しかけた。
「……ああ。これで対外的には≪
笑みを浮かべる少年の顔には、しかし深い傷があった。その傷痕は『五本』。ちょうど左目の上を走るように、血が滴っていた。
「……しかしこんなお膳立てのために、
「ふふ……そんなこともないよ。ホラ」
そう言って上げた、少年の指先。そこにはライター程のわずかな『炎』が灯っていた。
「お前……」
「まあ、慣れるまでは時間がかかるだろうけど、他の能力も全ていただいたよ。僕にも、多大なメリットがあったということさ」
そう言って少年は、まるで舞台に上がった俳優のようにクルクルと回り、両手を大きく広げ、愛おしむように呟いた。
「さあ、バンダースナッチ……もっともっと力を強めておくれ。その時こそ――――≪プログラム・アナザーアリス≫の幕開けだよ。ク、クク、はは、はははははははははは――――!!」
笑う、嗤う、哂う。哄笑は響き渡り、産声となる。それは、別たれた運命の歯車同士の再会。世界を巻き込む、壮大なる闘争の始まりだった。
レベルアッパー編、終了!どう見ても、敗北エンドです!実際マッチポンプが得意な相手って、試合に勝てても勝負に負けてる場合がほとんどですから……
途中に出てきた『
さて、今回のリザルト。佐天は『完全覚醒』、『窒素液体化』砲弾の会得、さらに『謎の爪』の覚醒でした。対して、キースは『レベルアッパー被害者一万人の能力ラーニング』……元々のARMSの能力と合わさってとんでもないことになりましたwwやっぱりボスキャラはこうでなきゃ!