とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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いよいよインデックス戦。さて、題名の少女とは……?


018 少女―ガール―

 

 『自動書記(ヨハネのペン)』。インデックスの持つ魔導書を脅かす敵対勢力を、自動で排除する防御機構。それこそが彼女に『首輪』とともに仕掛けられた魔術であり、彼女を縛る鎖だった。

 

 それが発動した彼女にはもはや意思と呼べるものは存在しない。ただただ敵対勢力を排除するための機能だけが働いていた。その無機質な瞳に、彼女と食事を共にした三者と上条は、驚愕と戸惑いを浮かべていた。

 

「これより特定魔術――『聖ジョージの聖域』を発動、侵入者を破壊します」

 

 瞳から魔方陣が浮かび上がり、世界を浸食していく。空間が歪み、この世ならざる『なにか』が顕現する。その場にいたすべての人間が、その存在を感じとり、背筋を凍らせた。

 

「ド、『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』だと……なぜ魔力のない彼女が、そんなふざけた魔術を!」

「いけません! あれは、人の身で防ぐのを考えることすら馬鹿らしい、伝説にある聖ジョージのドラゴンの一撃と同義です! 逃げて下さい!」

 

 その存在をよく知るがゆえに動けないでいる魔術師二人に対し、咄嗟に前に出る存在はいた。上条当麻。神の奇跡すら打ち消せる少年。その光線状の必殺の一撃に対し、彼はただ『いつものように』その右手を突き出した。

 

「く…………おぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 突き出した右手から、バキバキととんでもない音が伝わってくる。衝撃に膝を屈しそうになる。

 

「やめろ、退がれ!」

「そうです! 聖ジョージのドラゴンの一撃を人の身で凌ごうなど――!」

 

 その攻撃の恐ろしさを知るがゆえ、魔術師はその少年を退がらせようとする。だけど、退かない。退くわけにはいかない。

 

「ゴチャゴチャ言ってんじゃねェ! テメェら、ずっと待ってたんだろ? 誰もが望む幸福な結末(ハッピーエンド)ってヤツを!」

 

 きっと誰もが望んでいた。インデックスの記憶を奪わなくてもすむ方法を。誰もが笑える幸福な結末を。皆が主人公(ヒーロー)になりたかった。皆が絵本みたいに映画みたいに、たった一人の女の子を守る魔術師になりたかった。

 

 ――それは、終わっても、始まってもいなかった。長い長い序章(プロローグ)に過ぎなかった。

 

「――手を伸ばせば届くんだ。いい加減に始めようぜ、魔術師!!」

 

 後少し。ほんの少し。手を伸ばせば届くから。どうしようもないと思っていた、インデックスの運命に、後少しで届くから。ギシギシと腕を軋ませ、それでも押し切ろうとしたが、圧力に耐え切れず、突き出す指がバキリと鳴った。

 

「Salvare000!」

 

 神裂の鞘から何本ものワイヤーが伸び、インデックスの足場を見事に斬り飛ばし、光線を上空へと逸らす。砕けた屋根の破片が幾片もの光の羽根へと変わった。

 

「あの羽根は『竜王の殺息』と同種のものです。当たればただでは――」

「任せなさい!」

 

 数え切れないほどの羽根に対し、御坂が前へと進み出て、無数の電撃で全て薙ぎ払う。その間に再びインデックスは体勢を整えようとし、真上から降ってきた『畳』にわずかに身体が傾いだ。

 

「……まったく、あくまで武装解除しか出来ないラスボスとは……難解さ、ここに極まれり、ですわね」

 

 畳を送ったのは白井。直接攻撃が憚られたため、あくまで牽制目的の攻撃だった。もっともわずかに時間を稼いだだけで、インデックスは再び光線の照準をこちらへと向けた。

 

「Fortis931!」

 

 その必殺の光線を受け止めたのは、≪魔女狩りの王≫イノケンティウス。ステイルが作り上げた、彼女(インデックス)を守るための魔術だった。

 

「行け、能力者!」

 

 ステイルの叫びに、上条は走った。そして、その横に同じように走る存在がいた。

 

「行ってください、上条さん!」

 

 佐天がその右腕のARMSを発動し、液体窒素の斬撃を叩き込む。空間が歪んでいるせいか直撃はしなかったが、周りに冷たい煙が立ち込め、インデックスの視界を覆い尽くす。

 

(これで――――!)

 

 上条が佐天の生み出した煙の中へ突き進む姿に、その場にいた人々はわずかに勝利を確信した。だがその確信は、最悪の形で覆されることになる。

 

 上条がインデックスの元にたどり着くわずかに前、『竜王の殺息』が突如として姿を消した。

 

「――敵対勢力の、増大を確認」

 

 その声が届いたのは、僅かに前に出ていた佐天と上条だけだった。

 

「――右を()向き()なさい()

 

 その言葉が発せられた瞬間、つい先ほどまで『竜王の殺息』を受け止めていた≪魔女狩りの王≫が、突如として向きを変えた。

 

「は――――」

「な――――」

 

 その行動は、その場の全員にとって完全な予想外だった。イノケンティウスが守ってくれると思った上条にとっても、それを先程まで制御していたステイルにとっても。イノケンティウスがその右腕を上条へと振りかぶっても、誰一人対処することが出来なかった。

 

「駄目ぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 すぐ近くにいた、佐天以外は。隣にいた上条を押しのけ、ARMSで炎の魔人の右腕を受け止める。その瞬間、佐天の身体も炎に包まれた。

 

「きゃぁぁぁぁああ゛あ゛あああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 髪も衣服も、そのすべてが魔人が発する業火に焼かれ、呼吸も妨げられて、佐天は激しく咳き込んだ。

 

「佐天さん!? いやあッ!」

「『強制詠唱(スペルインターセプト)』で、僕のイノケンティウスを乗っ取っただと?! そんなバカなことが……!」

 

 炎に包まれる佐天を見ながら、その場にいる誰も動くことが出来ない。それほどに炎の魔人の熱は圧倒的で、それが敵に回ったのは、確かに絶望的な出来事だった。

 

 

 ――――しかし、本当の絶望は――

 

――力が欲しいか?

 

 ――――これからだった。

 

 

『グゥッ……』

 

 火炎の中から声が響いた。今も炎に包まれる少女とは全く似つかない声。その事実に事情を知らない魔術師二人と上条が、怪訝な顔になるが、彼女の友人三人は別だった。

 

『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッ!!』

 

 炎は、内部から顕現した極寒の竜巻に吹き消された。そして、中から純白の獣が、その姿を現した。

 

『我は滅びの獣、バンダースナッチ――――』

 

 姿を現したその異形に、誰も声を出せない。その姿を知る三人の少女も、その獣を初めて見る魔術師二名と上条も。誰もが息を飲む中、獣の咆哮だけが響き渡った。

 

『――我を覚醒(めざ)めさせた愚か者よ。その存在、欠片も残さず滅ぼしてくれる!』

 

 獣の標的は、攻撃を加えたインデックス。その正面に、吹雪で形状を崩されたイノケンティウスが、再び生じる。

 

「――敵対勢力の最大戦力を確認。これより排除に移ります」

 

 滅びの神獣と、炎の魔人。そのあまりにも規格外の光景に、初春は地面にへたり込んでいた。その内心には、どうしようもない絶望が渦巻く。

 

(こんな状態で、どうやってインデックスを救うって言うんですか……?)

 

 自分たちは、インデックスを救いたいのだ。だけど、佐天が姿を変えた純白の獣は、そう言った事情を斟酌してくれるとは到底思えない。例え今のインデックスを止められたとしても、その代償は、インデックスの命かもしれなかった。

 

(もう……)

 

 初春はついに、この先の惨劇を見たくなくて、両手で顔を覆った。もう、止められない。もう、救えない。

 

(もう…………ダメ………………)

 

 絶望と、”諦観(あきらめ)”という名の闇が立ち込めた。

 

 

――諦めないで!!

 

 

 闇の中を、一つの(こえ)が斬り裂いた。

 

――どんなに絶望的でも……

 

 その(こえ)は、聞いたことも無い少女のものであり――

 

――”意志”を捨てちゃいけない!!

 

 青いドレスを纏った、見たことも無い少女の姿で、初春の前へと降り立った。

 




インデックス戦の最中に、バンダースナッチ覚醒♪
数日前に完全覚醒したところだったので、瀕死になったせいで強制覚醒しましたwモンハンでいえば、リオ○イア狩りに行ったら、古龍キ○ンが出た、みたいな……狩猟条件は、目標二体の『武力解除』です。もちろん殺傷禁止w

そして、ここで今後のストーリーに大きく関わる『彼女』が登場。名前とかは次回以降……

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