とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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ARMSファンには余りにも印象的な色の副題、『青―ブルー―』始まります!


019 青―ブルー―

 

 それは、さながら神話の戦いのようでした。

 

『うぉおおおおおおおおお!』

『――――――――!』

 

 獣の咆哮を上げるバンダースナッチと、それを受け止めるイノケンティウス。冷気と熱気を纏う両者は激しくぶつかり合い、たちまち広くはない部屋は砂のように崩れ去った。

 

「うわぁあ!?」

 

 その部屋の瓦礫によって押しつぶされそうになった上条が目を瞑った瞬間、瓦礫は空中で破片となって斬り裂かれ、日本刀を手にした神裂が目の前に降り立った。

 

「一度、離れます! 皆さん、私の後に!」

「っ、待ちなさい! あの状態のインデックスと佐天さんを置いていくの!?」

 

 神裂の言葉に、御坂が噛み付く。彼女にとってはインデックスもほうっておけないが、佐天だって大事な友人だ。その両方を放置するなど出来ない。

 

「気持ちはわかりますが、あの状態の両者の間に入るなど自殺行為です! こうなっては戦況を見守ることしか出来ません」

「僕も、神裂に賛成だ。ここまで来て、インデックス(あのこ)から離れるなんて歯がゆくはあるがね」

 

 二人の言葉に、御坂も上条も俯く。確かにあんな激しい戦闘に介入すれば確実に命は無い。二人とも絶え間なく続く戦闘音からそれは分かっていた。

 

「あ、あの……」

 

 不意に新たに聞こえてきた声に振り向く。そこには震える足で立ち上がろうとする初春と、それに肩を貸す白井。そして、その目の前に青い服を着た一人の少女がいた。

 

『――――皆さん、力を貸してください』

 

 近くからのような、遠くからのような不思議な少女の声が全員の頭に響いた。耳ではなく、直接頭に響く声に驚いたのは魔術師二名。対して、自身に備わる『電撃使い(エレクトロマスター)』の能力との干渉を感じ取り、不快な顔をする御坂と、全く何も聞こえないため、怪訝な顔をする上条がいた。

 

「お、おいどうしたんだ、お前ら? 急に黙って?」

「ハア!? 今目の前のコが話しかけてきてるじゃない! 少し静かに――」

『いえ、恐らく彼の持つ力と私の『声』が干渉しているのでしょう。そうですね――』

 

 少女が見つめると、上条の頭で光の粉がわずかに瞬いた。

 

『これでいかがですか? 頭の中でVTRのように流れるはずです。頭を触らないで下さいね』

「お、おう。って、これは……」

 

 そのまま上条が黙り込む。それを確認し、改めて少女はその場にいる全員に語り掛けた。

 

『皆さん、インデックスと呼ばれる少女と、『佐天涙子』を助けるために、私の作戦に協力して下さい!』

 

 ◇ ◇ ◇

 

 彼女らが少女と邂逅している間、バンダースナッチとイノケンティウスの攻防は激しさを増していた。

 

『ぐぉぉぉぉぉ!』

 

 バンダースナッチは爪から液体窒素の斬撃をいくつも生み出し周囲を斬り刻むが、そのすべてがイノケンティウスの持つ燃え盛る十字架によって防がれていた。そしてその隙をつき、インデックスが『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』を放ち、バンダースナッチが避ける。さっきからその繰り返しとなっていた。

 

『――フン、こちらの攻撃を防ぎ、脅威に対して反撃するしか能のないプログラムか……』

 

 そんな単調な状態を、バンダースナッチが嘲笑する。そして、圧縮空気を噴出し、一気に空中へと舞い踊った。

 

『見縊るな! 我は滅びの神獣、バンダースナッチ! そのような人形で、我は倒せん!!』

 

 空中から急襲したバンダースナッチが爪に光を灯し、一気にイノケンティウスを引き裂いた。

 

『くくっ……がぁああああ!』

 

 そしてインデックスの眼前に着地すると、その口から冷気を吐き出し、インデックスへと吐きかけた。その脅威を感じ取ったのか、インデックスは『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』ではなく、周囲に結界状の力場を発生させる。

 

『クククッ、無駄だ。そんな薄皮、すぐにこの爪で引き裂いて――――』

 

 爪をギチリと鳴らした時、横から割入ってくる者がいた。

 

「吸血殺しの紅十字!!」

「七閃!!」

 

 炎と鋼線が周囲を引き裂き、バンダースナッチに襲い掛かった。それをもろに喰らいながらも、バンダースナッチが攻撃してきた者たちを睥睨する。

 

『脆弱な力で、一体何の真似――』

「こういう、真似です!」

 

 火炎に紛れて数本のワイヤーがバンダースナッチの手足に巻き付き、壁に向かって引っ張った。

 

『ぐ……ぉおおおおおお!』

 

 さすがに不意を突かれたのか、壁にぶつかり瓦礫の下敷きになり、バンダースナッチの姿が見えなくなる。

 

「今です!」

 

 神裂の呼びかけに、後ろから御坂が飛び出し、テレビや時計、アパートのドアなど様々な金属製品をインデックスへと殺到させた。そのほとんどがインデックスの結界に弾かれ、唯一アパートのドアだけは、見当違いの上空高くに飛んでいった。

 

「ステイル!」

「分かってる!」

 

 ステイルが炎をばら撒き、インデックスの視界が真っ赤に染まった。

 

「――警告、第五章第一節。侵入者に――――」

「悪いが、終わりだよ」

 

 ステイルのその言葉とともに、インデックスの上に影が差す。それは、上空のアパートのドアの影から、飛び降りた者の影。

 

「おぉおおおおおおおおおおお!!」

 

 幻想殺し(イマジンブレイカー)、上条当麻。

 

 魔術の炎も、結界も何もかも突き破って、彼は進む。

 

――神様。この物語が神様(アンタ)の作った奇蹟(システム)の通りに動いてるってんなら。

 

「まずは、その幻想をぶち殺す――――!!」

 

 交錯。後に残ったのは、地面へと転がり、打ち付けた背中に呼吸を詰まらせる少年と、まるで硝子(ガラス)のように砕け散った、瞳から生じていた魔法陣を呆然と見つめる少女だけだった。

 

「――けい、こく……『首輪』……の、致命的な、破壊……再生、不、可……」

 

 その最後の言葉とともに、彼女は糸が切れたように地面へと横たわった。息を詰まらせながらも少女へと這いずり、その穏やかな呼吸に上条も安堵する。

 

『――――キサマらぁぁああああっ!!』

 

 そんな情景をかき消すように、瓦礫を跳ね除け、再びバンダースナッチが飛び上がる。標的は先程まで戦っていたインデックスだった。

 

「させん!!」

「いい加減目を覚ましなさいよ!」

 

 ステイルが再びイノケンティウスの制御を取り戻し、バンダースナッチの迎撃に乗り出す。御坂が周囲へ電撃を降らす。対して、バンダースナッチは――――ただ、その『爪』を輝かせた。

 

『馬鹿め!!』

 

 その声とともに、縦に振り下ろされた『爪』。その『爪』は、空中へと『爪痕』を残し、周囲に散らばっていた電撃も、魔人の姿を取り戻していた炎も、何もかも根こそぎ消滅(・・)させた。

 

「え…………?」

「!?」

 

 その事実に呆然とする御坂の横で、ステイルは魔術師としての感覚で、周囲の大きすぎる異変に気づき、驚愕とともに今の攻撃の正体を看破した。

 

「周辺の魔力も、能力も………………『爪』が触れたすべてを(・・・・)引き裂いた(・・・・・)!!?」

 

 それが、今の攻撃の正体。そして、幻想猛獣(AIMバースト)に『爪痕』を刻み込んだ『力』の正体。『異能滅し(アンチイマジン)』。それが『バンダースナッチの爪』に、新たに宿った能力だった。

 

『我を何者だと思っていた! 我は滅びの神獣、バンダースナッチ! 我に歯向かう愚者よ! その愚かさ、その身をもって思い知れ!!』

 

 そして、まさにその爪でその場にいる全てを引き裂こうとした時、目の前に少女が降り立った。

 

『――いけません!!』

『?!』

 

 その少女の姿に驚愕し、バンダースナッチの動きが止まる。その一瞬を、神裂は見逃さなかった。

 

「はぁあああああ!!」

 

 空中に浮かぶバンダースナッチの脚を捕まえ、ただ純粋な『膂力』で引きずり倒す。あまりにも単純な拘束に、動きが止まっていたバンダースナッチは一溜まりも無かった。

 

『が…………あぁああああああ!!』

 

 能力でも何でもない、ただの『膂力(パワー)』。それでわずかに上回っていた神裂は、何とか地面にバンダースナッチを縛り付けることに成功していた。

 

『ぐぅっ……! キサマ、何のつもりだ!』

 

 バンダースナッチは、自分を拘束する神裂ではなく、あくまで先程自分を制止した少女を憎憎しげに睨みつける。今にも呪詛をあげんばかりに。

 

その姿は(・・・・)一体何のつもりだ(・・・・・・・・)!』

『――――貴方を、止めるためです』

『フザけるな! 来るな! キサマなどに――――』

 

 少女がなおも暴れるバンダースナッチに近づき、その手をかざした途端、獣の姿、メタモルフォーゼが溶け崩れていった。

 

『――――ふう。これで大丈夫です。意識を取り戻せば、元の彼女が戻ってきますよ』

 

 完全に元の姿に戻った佐天に微笑み、再び少女が向き直った。その少女を見つめる全員が、詳しい事情を聞きたい、と目で語っていた。

 

「助かったが、詳しい話を――」

『残念ですが、時間切れです』

 

 機先を制し、情報を得ようとするステイルの言葉を少女が遮る。見ると、彼女の身体は足元から少しずつ薄れていた。

 

「待ちなさいよ!」

『ごめんなさい。私は、元々彼女と共に有ったもの。長く”外”に出ていることは出来ないんです』

「……っ、ああ、もう! それなら、名前くらい教えていきなさいよ! 今度会ったら、必ずお礼するから!」

 

 そんな御坂の言葉に、一瞬少女は驚いたような表情をすると、再び微笑み、その名前を告げた。

 

 

『――――――私は、”青”のアリス』

 

 

 空中に溶けるように消えた、少女が残した名前。それは、ARMSにとって余りにも深い因縁の名前。かつて、ARMSを産み落とした宿縁の名前は、今こうして異世界の地へと降り立った。

 




いつから、彼女が、『黒いアリス』だと錯覚していた……?

まあ、分かるわけないんですけどねw彼女は『白いアリス』でも『黒いアリス』でも無い、『第三』のアリスです。もっともちゃんと正体があり、実は色々正体のヒントもちりばめてありますが……分かっても、黙ってて下さい!一方通行編辺りで、正体出ますので!

『彼女』は普段、佐天、というよりもバンダースナッチの中にいます。彼女を備えてしまった時点で、実は完全覚醒した佐天は、レベル5の七人全員と戦っても勝てる計算に……

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