とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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今回の話で第一章は終了。副題もつけてみました!


020 謝肉祭―カーニバル―

 学園都市に存在するカエル顔の医者が運営する病院。そこに、今は真っ白になった少年が入院していた。

 

「とうま……覚えてない………?」

 

「………『とうま』って誰の名前?」

 

「とうま……ほ・ん・と・う・に、覚えてない………?」

 

「すいません間違えましたごめんなさい! わたくし上条当麻は天地神明に誓って、此度の事件を一切合財覚えておりません! だから中学生の裸とか記憶に一切残しておりませんからガジガジと空中で何かを噛む準備をしないでああああああああっ!?」

 

 インデックスが真っ白になった少年に噛み付いているところ、彼の入院する病室の片隅では真っ赤な顔で地面に蹲っている花のヘアピンを付けた少女がいた。

 

「…………見られるなんて見られるなんて……」

「……えぇっと、佐天さん?」

「まあ、ショックですよね。年頃の乙女としては」

「犬に噛まれたと思って、忘れるのが一番ですわ」

 

 周囲で何とか慰めようとしている友人たちの呼びかけも、あまり意味がなかった。

 

 こうなった原因として、インデックスを乗っ取った自動書記(ヨハネのペン)と、暴走したバンダースナッチを鎮圧したすぐ後まで話は遡る。あの時、どちらも大きな怪我人もなく、抑え込めたのは良かったが、バンダースナッチに変化していた佐天の方に問題があった。

 

 彼女の着ていたのは、学園都市で一般に販売されている街着……特別な機能も無ければ、魔術もかかっていない正真正銘の衣料品だったのである。そんなものを着て、全長2~3mのバンダースナッチへ変化などすればどうなるか。

 

 当然、『全部』脱げた。

 

 そして、次の瞬間にはパニックになったのだ。何せその場には、上条当麻とステイル・マグヌスというれっきとした『男』が存在したのだから。幸い二人が一瞬その姿を網膜に焼き付けただけで、次の瞬間には白井が部屋に落ちていた毛布を瞬間移動(テレポート)。不埒者二名には、アイアンクローからの零距離電撃(ビリビリ)と、七天七刀の鞘を使い意識と記憶を失うまで聖人の膂力(チカラ)で殴るという制裁を加えることで事なきを得た。

 

 現在、上条当麻は零距離電撃により、真っ白な灰になりかけたところで病院へと運ばれ、精密検査中。ちなみに翌日一応は見舞いに来たステイルの顔は、ボコボコに腫れ上がっていた。その腫れ上がった顔で、病院だということを斟酌せずに煙草を指で弄びながら、ステイルは言う。

 

「じゃれ合っているところを悪いが、インデックスのこれからの処遇について、話がある」

 

 ステイル曰く、インデックスは記憶を消去される必要こそ無くなったものの、その記憶に保有する10万3000冊の魔道書により、魔術サイドの人間からは常に狙われる心配がある。そのため、魔術サイドからは敬遠される学園都市にこのまま預けたいというのだ。

 

「問題は、預ける先なんだが」

 

 今ここにいるメンバー以外に、魔術の存在が拡散するのも防ぎたい。そのため何とか誰かの家で預かって欲しい、と申し出たのだ。

 

「……って、言われてもね」

「私とお姉様は、常盤台の女子寮ですわ。寮監も厳しい方ですし、外部の人間を泊めるのを認めないでしょう」

「私の所は、二人部屋の女子寮で、今度新しい人が入って来るらしいんですよ」

「初春さんはともかく、その新しい同居人まで巻き込めないか……」

 

 この時点で御坂、白井、初春の所は消えた。残るのは、二名。

 

「なんだ、インデックスの預け先探してるのか? だったら、俺のところでいいじゃねえか」

「こんな時に、冗談はやめてください」

「そうだね。君みたいな飢えた狼のところに彼女を預けるなんて、そんなことが出来るわけないだろう?」

 

 上条の提案は、聖人と神父のコンビに却下された。しかもその言葉を受け、インデックスが余計なことまで言う。

 

「とうまが、飢えた狼…………そうかも。はだか見られたし」

「ハァ!? アンタ、それどういう事よ!」

「痴漢の常習者でしたか、類人猿さん。初春、固法先輩に頼んで警備員(アンチスキル)へ連絡を」

「はい。大丈夫ですよ、上条さん。多分一日いっぱい反省文を書かされて、独房でしばらく過ごすだけですから」

「……やはり、記憶を消さなければならないようですね」

「いや、神裂。記憶だけと言わず、その存在も消し飛ばしてあげよう」

 

 病室内に電撃と火炎が舞い踊り始めた辺りで、上条がベッドの上で土下座をし、誠心誠意謝罪と説明をして、何とか命だけは助けてもらった。そこで再びインデックスの預け先の問題となったが、全員の目が今も蹲って動かない一人の少女へと向かう。

 

「佐天さん、佐天さん。ちょっと、戻ってきて下さい」

「……うう、初春~。事故だって思っても、やっぱりショックだよ」

「はいはい。後で上条さんを記憶が飛ぶまで殴っていいですから、とりあえず話に参加しましょう」

「は~い…………」

 

 確認したところ、佐天は一人部屋であり、今後同居人が来る予定もないため、預け先としてはベストと言えた。もっともこの選択には魔術サイドの二名が難色を示し、佐天に向かい改めて言う。

 

「……正直な話、君が変化したあの怪物は、僕らに危機感を抱かせるに充分な代物だった。出来ればそんなところに、彼女を預けたくはない」

「私は……ステイルほど、貴女を疑ってはいませんし、あの怪物になるのは瀕死の時か感情が爆発的に高まった時だけだと、貴女の主治医からも聞かされています。それでも、危険があるのではないか、と思ってしまうのです」

 

 その危惧は、当たり前だった。目の前の人物が突然怪物に変わって、見境なく人を襲う。それを知ってしまったら、誰も自分の大事な人をそんな人物と一緒にはいさせたくないだろう。佐天にもそれは分かっていた。彼女も今回の事を断ろうとしたが――。

 

「大丈夫だよ? もしるいこがまた変わっても、今度は私がなんとかして見せるんだよ!」

 

 なんの根拠も無い台詞だったが、当事者であるインデックスのこの一言が決め手となり、インデックスは佐天の自宅に匿われることになった。一応の偽装として、イギリス清教系列の神学校に通う留学生という扱いにし、月々の生活費も支給を受けられることとなった。これについて、魔術師二名に最後まで要求していたのは、インデックスの食べっぷりを知っている御坂、佐天、初春の三者であった。

 後、上条の右手は魔術サイドにとって極めて脅威であることから、一応上条はインデックスの学園都市内での後見人に任命された。

 

「――まあ、こんなところか。それじゃあ僕達は、もう街を出ることにするよ。上層部を問い詰める必要もあるからね」

「そうですね。皆さん、今回は本当にありがとうございました」

 

 そう言って病室を出ていく二人の背中に、最後に声がかかった。

 

 

「ステイル、かおり! ありがとうなんだよ!」

 

 

 その、いつかと変わらない無邪気なお礼に、二人は顔をほんの少しだけ緩ませると、静かにその場から去っていった。

 

「………………」

 

 そして、そんな二人の去った扉をしばらく見つめていた佐天は、ふとその視線を自身の右手へと落とした。

 

(アンタが、なんなのか分からないけど…………!)

 

 自分は彼ら二人から、大切なインデックスを託された。だったら、もう二度と暴走しちゃ駄目だ。もし暴走すれば、巻き込まれるのは彼女だけじゃなく、初春や御坂さんや白井さんだって巻き込んでしまうから。

 

 

人間(わたし)は、ARMS(アンタ)なんかに負けない!)

 

 

 決意を、新たにする佐天。だがその一方で、学園都市の『闇』は静かに動き出そうとしていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「博士から、面白い映像が来たとは聞いてたけど、本当にコレ機械?」

 

 ある機械とモニターに囲まれた部屋で、小太りの高校生は目の前に映し出される純白の獣と巨大な胎児が戦う映像を眺めていた。映像はどうやって撮ったのか非常に鮮明ではあったが、時折入る不規則なノイズに顔をしかめる。

 

「こっちの観測機器に影響を及ぼす、強力な電磁波か。対策を張らないと機械には致命的かもね」

 

 そう愚痴りながらも、一度映像を止め、画面の中の獣を見定める。

 

「――ま、凡夫にも劣るバケモノなんて、この天才である僕にかかれば、簡単に捕まえられるけど」

 

 そうほくそ笑む少年。学園都市の『暗部』に身を置く少年の名は、馬場といった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「……オイオイ、何だよこりゃぁ」

 

 学園都市に存在するレンタル式の一室。広めのカラオケボックスのようなそこで、茶髪のホスト風の少年が映像の中のバンダースナッチに見入っていた。

 

「これがナノマシンで出来てるっていうの? 学園都市も随分なもの作るのね」

『今回の依頼は、コレを決められたタイミングで襲ってほしいというものだ』

「ちっ……メンドくせぇ」

 

 横で興味深げに映像を見る赤いドレスの少女と違い、あくまで面倒がる少年。少年こそ、学園都市に七人しかいない頂点。レベル5第二位の者、「未元物質(ダークマター)」垣根帝督。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ハッハーーーッ! おい、お前ら見てみろよ! どうなってんだ、コイツ! さっぱり原理が分からねーぞ!」

 

 また、同じ映像を見て、狂喜乱舞する者もいた。周りに控えるパワード・スーツを纏った部下たちは、上司の狂態に恐れ戸惑う。

 

「コイツを襲って捕まえりゃいいんだな?! 面白(おもしれ)ぇ、バラバラに解剖した後でもいいって条件もいい! いいぜ、引き受けてやる」

 

 顔の左半分に刺青のある男、木原一族の一人、木原数多は、久々の『未知』に心躍らせていた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ンだよ、コイツは」

「うわ、超すごいパワーですね。私と互角くらいでしょうか?」

「うひゃー、でも結局麦野に比べれば、大したことないってわけよ」

「…………北北東から信号が来てる」

 

 同じ映像を見ながら、些か姦しくなっているところもあった。溜息を吐きつつも、映像を送った女性は言う。

 

『今回の依頼は、コイツに関してで――』

「あ? コイツ、どこにいるかも分からないんでしょ? しかも滝壺の能力にも引っかからない可能性が、極めて高いとか。まず身元とか調べてから、仕事持ってきなさいよ」

『コイツときたら! それを調べるのもアンタ達の仕事でしょうが!』

「強制とかじゃない仕事で、ンなメンドイこと出来るか。却下」

 

 仕事を面倒だからと断った彼女たちは、『アイテム』。彼女たちもまた学園都市の『暗部』に息づく者たちだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、同じ映像は学園都市の強力な能力者にも送られていた。彼ら、彼女らもまた、その映像に違った反応を見せた。

 

「あらぁー……御坂さんも、まぁたトラブル(りょく)発生させてるわぁ☆」

 

 映像の中に僅かに映った同級生に、少しだけ興味を示す者。

 

「……………………」

 

 まったく、何の興味も抱かない者。

 

「スッゲェパワーと根性だ! 気合入れて、一回手合せしてみてーな!」

 

 闘争心に火をつける者。本当に様々だった。彼らの元に送られてきた映像は、映像の信憑性を引き上げ、映像の怪物の詳細を知ることのできる、様々なデータや資料とともに送られてきた。映像を見た全員がその出所を探ったが、どういうわけかその出所を突き止めることは出来なかった。唯一の手がかりとしては、差出人の欄に書かれた一言の単語のみ。

 

 

(gray)

 

 

 その単語のみが、その欄に書かれていた。

 




さあ、謝肉祭(カーニバル)の始まりです!暗部とレベル5がアップを開始しました。そして、インデックスはなんと佐天の家に来ることに。まあ候補に女性宅があれば、当然そっちでしょう。清純の象徴みたいなシスターなんだし……清純?

上条さんはアイアンクローからの零距離電撃、ステイルは純粋に腕力でボコボコにされました。上条さんの方は、下手したらソレで脳細胞が死んでたかもww

次章からは、新展開!「乱雑開放(ポルターガイスト)」編と「黄金練成(アルス=マグナ)」編……なんだけど、『爪』が強すぎて、アウレオルスと絡め辛い件wどうすっかな、姫神
―追記―(7/31)
田舎への帰省がありまして、8/1の更新は有りません。次回の更新は翌週となります。

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