とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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スキルアウト編入ります!



023 不良―スキルアウト―

 

「なーんで、こんなことになったかな……」

 

 うらぶれた広場で佐天が呟く。その周りには夥しい量の瓦礫と、腹や顔を押さえ蹲る者たちが多くいた。

 

「なんなんだ、コイツは!?」

「何で効かねえんだ!」

 

 周囲を取り囲む武装無能力者集団(スキルアウト)は、完全に殺気立ってしまって、話が出来そうもない。平和的な解決は望めそうもなかった。

 

 こうなった原因は数日前に遡る。

 

「婚后さんが襲われた!?」

 

 とある喫茶店でいつものメンバーでお茶をしていると、白井が出した話に御坂が喰い付いた。何でも先日能力者を狙った暴行事件があり、その被害者が彼女らと同じ常盤台の生徒だったというのだ。

 

「大の男が大勢で女の子一人を囲むなんて最低じゃない!」

「モグモグムシャムシャ」

「ええ、幸い大事には至りませんでしたが」

「ガツガツゴクゴク」

「実は似たような事件がここ最近増えてきてまして――」

「ズルズルムグムグ」

「「「…………」」」

 

 そこまで話したところで全員が黙った。視線が自然に一人に向く。その人物は頼んだ大量のスパゲッティやらピザやらの皿に埋もれていた。

 

「あー……あのさ、インデックス? 私たち今、真面目な話しててさ……」

「えっと、少しの間、食べる音を小さくするとか、手を休めるとか……」

「少し食べるのを、やめていただけませんか?」

 

 御坂、初春の言葉には反応も見せなかったが、白井の言葉にインデックスがギヌロと剣呑な視線を上げた。

 

「食べるのをやめる?! 迷える子羊にとって、食事は主に与えられた祝福なんだよ!? 冷めないうちに、残さず美味しく頂かないと失礼にあたるんだよ!! 『いただきます』はこの国の美徳じゃなかったの!?」

「え、いや、あの、はい。すいませんですの……」

 

 インデックスの余りの剣幕に、白井がタジタジとなる実に珍しい光景が展開された。結局全員、インデックスの食事は努めて意識の外に置くようにして会話を続ける。

 

「それで続きなんですけど、最近そういう事件が増えてるんです。武装無能力者集団(スキルアウト)が徒党を組んで能力者を襲う事件が相次いでいて、風紀委員(ジャッジメント)でも対応に追われているんです」

 

 無能力者による能力者狩り。能力の高低だけで評価されるこの学園都市ならではの事件と言えた。

 

「それにしても、ムカつく奴らだわ……!」

「御坂さん、テンション高いですね」

「ん? いや、私はただ、自分の出来ることをやろうともしないで、現実から逃げてるだけの奴が許せないって言うか――――」

 

 その御坂の答えに、佐天の手がピクリと止まった。

 

「違うと、思います」

 

 手元を見ながら、言葉を選びながら、それでも佐天はつぶやいていた。

 

「多分、スキルアウトの人達も、出来る限り頑張ったんだと思います。でも、現実にはどんなに頑張っても出来ないことって言うのは、やっぱりあって……頑張って頑張って、その結果として『出来ない』って現実があって。だから頑張った分、反動も大きかったんだと思います」

「……佐天、さん…………」

「私もARMS以外は、無能力者ですから。なんか分かるんですよ、その人たちの気持ち」

 

 でも、関係ない人たちを傷つけるのはダメですよね、と佐天は締めくくる。その言葉にばつが悪そうに、御坂は俯いた。頑張って頑張って超能力者(レベル5)に至った人間と、頑張っても無能力者(レベル0)だった人間。そこには確かに考えの隔たりがあった。

 

「――ともかく、根底にある原因が無能力者(レベル0)に鬱積した無力感だったとしても、それで能力者を傷つけてもいい理由にはなりませんわ。早急にやめさせないといけません」

「実行犯も少しずつ捕まってはいますし、じきに事件の全貌が明らかになりますよ」

 

 そんな白井と初春のやり取りを余所に、御坂はどこか決意したような瞳をしていた。その瞳の輝きを見て、佐天は近い未来に何が起きるのか、手に取るようにわかった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 喫茶店で御坂たちと話した翌日、佐天は外出の準備を進めていた。

 

「それじゃあインデックス、ご飯は冷蔵庫に入れてあるから出して食べてね」

「……るいこー、ちなみにメニューは」

「冷や麦」

「……地獄のそうめん週間が終わったと思ったら、また同じ麺類なんだよ」

「文句言わない! そいじゃねー」

 

 インデックスの文句を封殺し、佐天は外へと出た。衣服は丈夫なジーンズと、肩から先が出る安物の上着と言う組み合わせだ。

 

 なにせ彼女は、これから戦いに行くのだから。

 

(あの様子じゃあ、御坂さんは絶対能力者狩りの奴らに喧嘩売りそうなんだよねー……)

 

 仮にも学園都市七人のレベル5の一人だから万に一つも問題は無いとは思うが、それでも一点だけ気になることがあったのだ。

 

「常盤台に入れる人は、最低でもレベル3以上の能力者のはず。それを倒せる武器があるんだとしたら、御坂さんでも危ないもんね」

 

 理由は婚后という常盤台の生徒が襲われ、倒されたこと。御坂は確かに能力の規模が大きく、余程のことでもなければ負けたりしないが、彼女はその力が大きすぎて人間相手では本気になれないところもある。それを心配しての行動だった。

 

「さて、行こっか!」

 

 それから彼女は、様々な調査を行った。学園都市の様々な情報掲示板を確認し、怪しい場所にも自ら赴いた。そして、先日の特別講習で知り合った無能力者(レベル0)の人達に、少しでもいいから噂を聞いたことがないか確認していった。

 

 その甲斐あってか、ある一つの有力な情報を得ることが出来た。

 

(第十学区、『ストレンジ』かー……)

 

 第十学区は全体的に寂れた学区で、スキルアウトがよくたまり場にしているところでもある。いわばスラムのような場所だ。そのスラムの一角に『ビッグスパイダー』の根城があると言うのだ。

 

「さて、『ビッグスパイダー』はどこに……」

「おいおい、お嬢ちゃん。ここは普通の学生には、少しばかり危険すぎるぜ?」

「ん?」

 

 きょろきょろと周りを探っていたところ、後ろから声を掛けられ振り返る。そこにいたのは黒の革ジャンを着たガタイのいい一人の男。顔は目つきが鋭く、髪にウェーブがかかっていて、ちょい悪系と言うやつだろうか。

 ……ただ、その手に『ムサシノ牛乳』と書かれた牛乳をパックで持っているのが意味不明だった。

 

「あー、大丈夫ですよ。私少し強いので」

「そうかい? まあ、何にしてもここは今、どいつもこいつも殺気立っててな。悪いことは言わねえから、引き返したほうがいい」

「だったら、余計に引き返せないですね。もしかしたら友達が先に来てるかもしれないので」

「ん、どういうこった?」

 

 後ろからわざわざ話しかけて、親切にも帰宅を薦めてくれた相手なら大丈夫だろうと経緯を話す。白井が風紀委員(ジャッジメント)であることは隠して、『ビッグスパイダー』の根城に来ているかもしれないことだけを告げた。

 

「……そいつは心配だな。わかった、その根城までは俺が案内してやる。その代わり、影から確認して、友達連中が来ていないことが分かったら大人しく帰れよ」

「はーい」

 

 かくして奇妙な革ジャン男の案内で『ビッグスパイダー』のアジトへと赴くことになった。

 

「そういえば、革ジャンのお兄さんはこの辺り詳しいんですか?」

「いや、俺は色々あって、この学区から二年間離れててな。結構変わっちまって驚いたもんさ。人も街も、な……」

 

 その言葉に含まれたどこか寂し気な雰囲気が気になったが、追及せずに歩を進める。すると目的地まで後少しと言ったところで、耳に響く甲高い音が聞こえてきた。

 

「っ、な、なにこれ? 頭と耳が痛ッ!」

「そうか? 確かに耳には響くが」

 

 隣の革ジャン男は何も感じていないようだったが、音が聞こえてきたのは目的地の方だったため、物陰から様子をうかがう。するとこの音を聞かされて、頭を押さえて蹲る常盤台の制服の二人が見えた。

 

「御坂さん、白井さん!」

 

 物陰から慌てて飛び出す。どう見ても二人は本調子ではなく、多人数の男相手に対抗出来るとは思えない。

 

「こんのーッ!」

 

 右腕のARMSが起動し、大きさが数倍に跳ね上がる。そのまま右腕を横に向かって薙ぎ払い、二人の周りのスキルアウトをなぎ倒した。

 

「ああ、もう、ホント、なんでこんなことになったかな!」

 

 ARMSを構え、佐天は戦闘態勢に入った。

 

 そして、そんな佐天を、さらに真っ暗な影から見張る男がいた。

 

標的(ターゲット)超電磁砲(レールガン)と接触、周囲のスキルアウトと交戦に入りました。引き続き監視を続けます」

『おーう、しっかり見張っとけ。第十学区は、こっちにも色々都合がいいからな。隙があれば『確保』に移るぞ』

 

 『暗部』は都市の暗闇で、静かに獲物を狙っていた。

 




スキルアウト編……のはずが、少しでも隙あらば再びのボス戦に入ると言う状況。まあ、スラム街で壊してもいいからという理由で、第二位が出てこなかっただけマシですが。

インデックスはいつも通り、科学側シリアス展開の清涼剤。科学知識ないから話題については来れず、多分今後もこんな扱いw

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