「それにしても、初春達って何の合同会議なんですかね?」
引っ越し作業を手伝った後、会議があると言う初春・白井と別れ、佐天・御坂・インデックスの三人は、新たな初春のルームメートとなった春上衿衣を連れてクレープ屋さんに来ていた。ちなみにインデックスは既に一個を消化し、二個目に入っている。
「何でも最近頻繁に起きてる地震についてだって言ってたわよ? でもなんで事件でもないのに、合同会議なんてするんだろ?」
「あ。ひょっとすると……」
御坂の疑問に、佐天は一つ気になることがあった。最近学園都市のサイトで話題となっている一つのホットな噂が。
◇ ◇ ◇
「今回の会議の議題は、最近学園都市のあちこちで頻発している地震についてじゃん。――最初に言っておく。これは、『地震』ではない」
初春・白井が出向いた
「原因は、『RSPK症候群の同時多発』じゃん。詳細について、『先進状況救助隊』のテレスティーナ氏から説明してもらうじゃん」
壇上へと上がって来た女性。長い茶髪を背中にふわりと流した彼女は、見た目からしてやり手のキャリアウーマンと言った印象だった。
「ただいまご紹介に預かりました『先進状況救助隊』のテレスティーナです。――皆さんは今回の地震について、既に一部のネットで根も葉もない『噂』が流れているのはご存知でしょうか?」
◇ ◇ ◇
「『
佐天が語ったホットな噂。それは、現在学園都市の各地で頻発する地震が、『
「そうなんですよ! 今起きてるのはただの地震なんかじゃなくて、別次元からの波動だとか、はたまた統括理事会が地下施設で行っている秘密実験だとか! ネット上では、いくつもの有力な説が浮かんでるんです!」
「いや、有力って、そこまで有力なら統括理事会から正式に発表があるんじゃ――」
「ですからそこは、学園都市上層部の陰謀が関わって発表されてないらしいです!」
「ああ、そう…………」
佐天の主張を一通り聞いた御坂が、辟易した表情を浮かべる。直ぐに悪ノリする黒子や、引っ込み思案な初春と違い、話しやすくノリもいい
「そういえば、春上さんのいた十九学区って、『
「うーん……」
「ホラ、そういうことを面白半分に騒いじゃダメでしょ? でもまあ、別次元がどうだとか、霊的現象だとかのオカルトなら、インデックスの方が専門分野か。どうなの、インデックス?
そう言って振り返ると、インデックスの手元には既に二個目のクレープは無く、代わりに御坂の手元のクレープへと視線がぴたりと固定されていた。その様子に苦笑しながら、残りを少し千切って渡すと、目をキラキラさせながらかぶりついた。
「う~~ん……風水の系統なら可能かもしれないんだよ。けど街一つに頻繁に地震を起こすってなると、周囲の山を削ったり、川の流れを変えたり、とんでもなく大規模にしかもお金をかけないと出来ないんだよ」
「うわあ……」
「……ちなみに、どのくらいの予算があればいい?」
「学園都市にだけ地震を頻発させて、他に被害を出さない精度を持たせるとなると……ちょっとした国の国家予算くらいあると足りるんだよ。近代以前の風水は、そもそも国家事業だからね」
「「…………」」
どう考えても、コストパフォーマンスが合わなかった。国家予算規模のお金でやったとしても、今まで学園都市には人的被害は大して出ていないのだ。これが戦争とか国家間の紛争ならまだ分かるが、その場合でも多分ICBM(大陸間弾道ミサイル)を撃った方がはるかに安上がりだろう。
しかし、ここでインデックスの事情を知らない春上が首を傾げる。
「なんでオカルトだと、インデックスさんが専門分野なの?」
この言葉に、佐天も御坂も慌てた。実はこの二人、ステイル達と別れる時に言われたことがあるのだ。
『本来ならキミらのような一般人に魔術の存在を知られたら、良くて『記憶封印』か悪くて『始末』しないといけないんだが、まあインデックスの件もあるし、今はその生命預けておくよ』
なお、その後ろで神裂が「そんなことはありませんよ。まあ、余り公言してほしくないので、やたらと触れ回らないように、と注意しておきますが」と説明していたのだが、その言葉は冷静に聞いていた白井以外には届いていなかった。
ともかくそういう訳で、この二人は魔術の存在を知られると口封じされるかも、と恐れていた。
「え、え~っと……あ、アレなのよ! インデックスって、神学校に通ってるから!!」
「そ、そうなのよ! インデックスは英国出身の本職シスターさんで、オカルト関係っていうと、宗教系でしょ?!」
二人ともあまりに慌て過ぎて逆に怪しかったが、その話を聞いた春上は一応納得してくれたようだった。
しかし、そこで話は予想外の方向へと流れ始めた。
「そうなの……だったら、インデックスさんって、『占い』とかも出来るの?」
春上が続けたその言葉に、二人とも首を傾げる。彼女の様子が、日常のちょっとした出来事を占ってもらおうとするものではなく、どこか必死さを滲ませた色になったからだ。
インデックスもそれを感じ取り、申し訳なさそうに答える。
「えっと……私は卜占の専門家じゃないから、難しいんだよ。えりいは何か、心配事があるの?」
インデックスの質問に、春上が少しだけ俯く。そして握り締めたその右手は、胸元のペンダントを握っていた。
「人を、ね……探してるの……。ずっとずっと前に別れちゃった、大事な大事な友達なの……」
◇ ◇ ◇
「――現在、今回の地震については『RSPK症候群の同時多発』ではなく、霊的現象や陰謀などと言うまことしやかな噂が流れています。今回
その言葉と共に会議は終わり、
会議場から出てきた初春・白井・固法の三人は、長時間席に着いたことで固まった身体をほぐしつつ、首を傾げていた。
固法が口元に手を当てながら、難しい顔をして呟く。
「それにしても、RSPK症候群の同時多発だなんて……今まで聞いたこともない現象よ?」
RSPK症候群は、一般的な能力者が能力の制御を誤り、不安定に発現させた時に発生する。つまりそれが同時多発するとなると、極めて近い場所で同時期に、何人もの能力者が能力の制御を手放さない限り発生したりしないのだ。
(もし、あのテレスティーナさんの言う通りだとしたら……何者かが、多数の能力者を一つ所で同時に『暴走』させてでもいる? でも、一体何のために? ――それに、今回の対応)
思考に没入していた彼女だが、すぐそこで友人に連絡を取った後輩二人の呼びかけで顔を上げた。
「あ、あの固法先輩。私たちこれから、御坂さん達と合流しようかと……」
「ん? ああ、いいから行ってあげなさい。私は少し、支部でやることあるから。今回の件についても、近隣の学校への注意喚起、計画草案立てておくわ」
「申し訳ありません、固法先輩。私もお姉様がお待ちでなければ、お手伝いするのですが……」
「これくらい大した手間じゃないから、気にしなくてもいいわよ。その代り、ネットの火消しと各学校への注意文の配布では働いてもらうわよ?」
「「は、はい!」」
ニヤリと笑いながら言った言葉に縮こまりながら返事をし、去っていく二人の後輩の背中を見送った固法は、ふと先程頭の中に抱いた疑問がなんであったか悟り、思わずそれを口にした。
「そういえば、今回の対応もそうだけど…………なんであのテレスティーナさんは、最初から『RSPK症候群の同時多発』が原因だって、決めつけてたのかしら?」
それは、本当に小さな違和感。しかしそれこそが核心なのだと、この時固法は知る由も無かった。
会議と噂話、終了です。風水云々は、完全にオリジナル。新約に出てきた、地球レベルの工事で行う魔術発動についてになります。まあ、平安時代に作られた京都(平安京)の陰陽道ありきの都市構造とか、江戸城の風水的意味を考えれば、あながち出鱈目でもないんですよね。
詳細に書くと話が進まず、さわりだけですっ飛ばすと意味不明になる……難しいですね。