とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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皆さんお待ちかね、処刑タイムw



036 雪光―スノーライト―

 

 戦場に突如として現れたバンダースナッチ。その口から響いた些か以上に軽い声に、半ば呆然としていたテレスティーナだったが、やがて気を取り直し、激昂したように喚き散らした。

 

「なんで、テメエが生きてやがる! テメエはヴェノムを喰らって、くたばったはずだろぉがよ!」

「いや、まずかったのは本当だけど、何とか持ち直して力を合わせて体内のウイルスをまとめて除去したのよ。流石にもう駄目かと思ったけどね」

 

 テレスティーナはその言葉に歯噛みし、あの弾頭を渡してきた人物について訝しい思いを抱いた。

 

(アイツは確かにARMSを殺せる兵器だと言っていたし、実証データはこっちでも確認した! それでも蘇ることが出来るとすれば、そもそもの前提だったARMSの自己保存能力がこっちの予測値をはるかに超えている場合くらい……!)

 

 その場合に限り、実証データなど役に立たないものに成り下がる。もしそうだとしたら、あの弾頭の提供者であるキース・グレイが、そんな甘い予測値を出すとは考えにくい。

 

 ――だとしたら。

 

「…………体のいい当て馬にされたってことか? あンのクソ野郎ォォォォ!」

 

 木原の一族として生まれ持った頭脳で、キース・グレイの意図を感じ取り、天に吼える。その間も、周囲の部下はいきなり激昂した上司の狂態に戸惑うばかりだ。

 

「今じゃん、全員斉射!!」

 

 敵方の混乱に乗じて黄泉川の指示の元、警備員(アンチスキル)が一気に攻勢に出た。制圧用のゴム弾や爆発の衝撃を受けて、駆動鎧(パワードスーツ)がたたらを踏む。

 

「私たちも行くわよ!」

「はい、お姉様!」

「何故御坂さんが仕切りますの!?」

 

 常盤台三人組も、この機に攻撃に転じる。空中を奔る紫電が、転移した金属針が、暴風で吹き飛ぶ瓦礫が、たちまちテレスティーナの配下を打ち据え、戦闘不能にしていく。

 

 うろたえていた部下たちもここに来てようやく対処のために反撃に移るが、それでも攻撃に対して逃げ腰で反撃しても効果は上がらない。そんな部下たちへと後ろから檄が飛んだ。

 

「この、役っ立たずのクソどもがあああああっ! 調子乗ってやがるガキどもなんざ、とっとと撃ち殺しやがれええええええッ!!」

 

 その怒鳴り声に押されて、駆動鎧(パワードスーツ)の銃口が一斉に御坂達を向いた。はっとして周囲の鉄筋入りの瓦礫でバリケードを作ろうとする御坂に向け、引き金に指がかけられた瞬間だった。

 

 駆動鎧(パワードスーツ)全員の手足と銃器が、1m四方の氷塊にいきなり閉じ込められた。

 

「う――――――うああああああッ?!」

「手、手が、手があ!?」

「あ、有り得ねえ!!」

 

 テレスティーナの部下たちのうめき声が響き渡る中、警備員(アンチスキル)や御坂達の視線が突き刺さるのは、それを行った張本人。

 

「てめえ……………………なんだよ、その周囲に舞ってる(・・・・・・・)のはよ?」

 

 テレスティーナの視線の先には、水晶(クリスタル)の神獣、バンダースナッチ。その周りには、乳白色の暖かな光を灯す、綿毛のような『雪』が舞っていた。

 

「いや、私も詳しくは知らないんだけど……バンダースナッチ、これって何?」

『――佐天涙子よ。これこそが、我と汝の『絆』が生み出した新たな力だ』

 

 バンダースナッチが語る間も、光り輝く雪は絶えず降り続ける。それは本当に綿毛か何かであるかのように、ふわりと軽やかに周囲を舞い踊った。

 

『かつて、(アリス)はすべてを滅ぼしたいと望んだ。その結果が、かつて我に宿った『滅び』の力だったのだ』

「うん……」

『だが、我は変わった。変わることが、出来た! かつてのようにすべてを滅ぼすのではなく、滅ぶべき『絶望』を見極め、それだけを滅ぼす力を求めたのだ。その結果、我の力はかつてとは異なる進化を遂げた』

「……えっと、具体的には?」

『かつての我は、空気中の窒素を液体化することによって、冷気を生み出していたが、今の我にそんな制限は無い。宙を舞う我の分身(ナノマシン)である『雪』が、周囲に存在する物質の三態を自由に変化させることが出来る――――この『雪』が降る範囲(セカイ)において、我に敵う者など存在しない! 我は無敵だ!』

 

 佐天とバンダースナッチの会話を聞いていたテレスティーナは、絶句した。今現在も『雪』は降り続けており、半径500m程は絶えず『雪』が舞っているのだ。さっきの部下たちへの手並みを考えても、この範囲から出ない限り、反撃も逃走もままならない。――いや、反撃など考えられない。一刻も早くここから離れるべく、ありとあらゆる手段を模索していると、ある一つの方法が浮かんだ。

 

「……………………へっ。本当に無敵かしらねえ?」

 

 テレスティーナがあからさまな笑みを浮かべる。するとそれを合図にするかのように、地面を激震が走った。

 

「これって!」

乱雑開放(ポルターガイスト)?!」

 

 初春と木山が地面に蹲り震動に耐える中、テレスティーナの勝ち誇ったような哄笑が響き渡った。

 

「ぎゃはははは! 私の施設に近づいてたのが不運だったなあ! これだけ近けりゃここだって効果範囲だ! バケモンには効かないだろうが、このハイウェイを震動で崩せば周りの奴らは全滅だろぉ! 私はそのうちに逃げさせて――」

 

 そんなテレスティーナの極めて儚い希望を最後まで聞くことなく、バンダースナッチが前へと進み出てきた。そのまま一瞬沈黙すると、まるで呆れ返ったように肩を竦めた。

 

 

『――――――愚かな』

 

 

 たった、一言。その言葉と共に、彼らを襲っていた震度6以上の乱雑開放(ポルターガイスト)の震動は鳴りを潜め、周囲にはただ痛いほどの沈黙が流れた。

 

「……………………………………………………………………………………は?」

 

 呆然。驚愕。自失。そんな表現が当てはまるテレスティーナは、実に一分近く硬直したと思ったが、やがてわなわなと肩を震わせ出した。

 

「――なんで、なんで、なんでなんで消えんだよぉ! ガキどもはまだ暴走しかけてるはずじゃ……!」

『だから愚かだというのだ、女。振動を打ち消すには、全く同じ波長の振動を用いればいいにすぎん』

「…………なに?」

 

 言われ、施設を遠隔監視しているモニターを見る。そこには未だ子供たちは乱雑開放(ポルターガイスト)を起こしていると表示されている。つまり今も、震動そのものは起こっているのだ。それを感じないとすれば。

 

(――同じ規模の『地震』を起こして、無理矢理打ち消してやがるのか!? だが、そんなエネルギーどっから………………、……!?)

 

 そこまで考えて、ようやくテレスティーナは気付いた。物質の強制的な相転移。そして、地震への干渉。どちらも膨大なエネルギーが必要であり、『人類』が扱える規模のエネルギーではおよそ不可能。ならば、残るは一つしかない。

 

「――――――あ、あぁ、あぁぁああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

 自身が至った結論に戦慄し、自身が対峙する相手に恐怖し、テレスティーナは恥も外聞も投げ出し、全力で逃げ出した。やがて周囲を覆っていた氷の壁に突き当たると、まるでバンダースナッチを否定するかのように、本体の左腕に装着された超電磁砲(レールガン)の照準を合わせた。

 

「ヤバイ、逃げるわよ!」

 

 御坂達が一斉に避難する中引き金は引かれ、来るであろう衝撃に備え全員が地面に伏せる。

 

 ……超電磁砲(レールガン)は、間に割り込んだバンダースナッチの右手で完全に静止していた。焔は貪るように喰われ、神獣を形作る水晶は、青く輝く。

 

「……バンダースナッチ、お願い」

『――ああ。我は、神獣バンダースナッチ。佐天涙子との誓いのもと、立ちはだかる絶望を滅ぼさん!』

 

 輝きは加速度的に増していき、周囲の『雪』もまたその右手へと宿る。焔をかき消して現れたのは、掌に握られた巨大な光球だった。時間経過とともに膨張する『滅び』を前に、テレスティーナが自棄のように呟いた。

 

「ひ、ひひひ………………なによぉ、本物のバケモノじゃない……」

 

 それには答えず、神獣(バンダースナッチ)は乱杭歯の見える口元を不敵に歪ませた。

 

 

『終わりだ!』

 

 

 瞬きの後、放たれる光球。そして眼を焼く閃光の後、瞼を開いた御坂達の目の前にあったのは、胴体下半分を根こそぎ消滅させた巨大駆動鎧(パワードスーツ)と、30m級の氷塊に閉じ込められて恐怖の表情を浮かべるテレスティーナの姿だった。

 




さようなら、テレスティーナ……まあ、一応生きてますが(笑)

現実の話として、人間は細胞が壊死する前に一気に凍結したら、蘇生可能だそうです。凍傷とかは、低温の血液が末端まで回らずに組織が死ぬことで起こるそうですし。もちろん手足砕けたら終わりです。

新能力。窒素のみでなく、あらゆる物質の三態を操れると、かなり最悪ですwなんで下半分消滅したかも、このあたりが関係します

2015/12/5 17:45 ナノマシンやコンピューターウイルスと公言していた部分を修正。(近くに黄泉川や婚后がいますので)

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